第19話 グレンハルトの町
「わぁ~大きい!」
『でっかい!』
『おおきいねぇ!』
グレンハルトの町は、高い壁にぐるりと囲まれていて、正面の門には武装した門番たちが、行きかう人々の身分や積み荷を確認していた。
町に到着したのは午後の昼下がり、まだ夕方にはなっていないので、出入りの人々も少ない時間帯だった。
オーレリアたちが門に近づいていくと、武装した門番たちが次々と出てきた。なんだかザワザワしている。
「オーレリア殿はここで待っていてほしい。すぐに話を通してくる」
フリードリヒが駐屯地のときと同じく、説明に行ってくれた。こんな感じで町に入っても大丈夫なんだろうか。
オーレリアは外套のフードをしっかりと被り、えっちゃんに声をかける。
「ねぇえっちゃん、小さくなったほうがよさそう」
『なんで?』
「なんか怖がってるみたいだし……」
『そのほうが変な奴が近づいて来ないからいいと思うけど』
「でも、町にいる間ずっと見られるの嫌じゃない?」
『それは嫌だ。仕方ないなぁ』
オーレリアがえっちゃんから降りると、えっちゃんは家の中で過ごすときのように、大型犬ぐらいのサイズまで小さくなった。
「わぁ!エルディオール様こんなに小さくなれるんですね!」
「ビックリした!すごいなぁ!さすがはフェンリル様だ」
近くで一緒に待っててくれたソフィアとジーナが驚きの声をあげる。
「あれ?オーレリアちゃん、そのフードって?」
「あ、これ?町にいる間は被っていた方がいいかと思って」
「すごいわね!認識阻害の魔法かしら?」
「そうだよ!いいでしょ!でも寝心地がいいみたいでよくノルとネロに寝床にされちゃうんだよね」
そう話していたら、フリードリヒが戻ってきた。
「エルディオール様、大きさを変えられるのですね!流石です!」
フリードリヒは大型犬サイズになったえっちゃんを見て目を丸くしたが、気を取り直して、テキパキと指示を出していく。
「みんな、待たせたな。冒険者たちはここで解散だ。皆の協力に感謝する。ギルドに報告だけは忘れないでくれ。オーレリア殿たちは、私と一緒に来てくれ」
オーレリアたちは、フリードリヒに連れられて門の中にある小部屋に案内された。
「ところで、その外套にはどのような魔法が?」
「いろいろな魔法がついてるよ、特にフードには認識阻害かな」
「なるほど、それなら被っていた方がよいな。では、まずはここで町に入るための審査を受けてもらう」
「審査?」
「身分証が無い者は、ここで審査をするのだ。この魔道具の上に手をおいてくれ」
そう言って、丸い水晶玉のようなものを差し出してきた。オーレリアは言われた通りその水晶玉に手をおく。
すると水晶玉は青く光った。
「よし、犯罪歴は無しだな。この水晶玉は犯罪歴なんかを調べる魔道具なんだ。嘘をついても分かる。あとは、そこに手をおいたまま、いくつかの質問に答えてくれ」
「質問?」
「簡単なものだよ。まず、名前と出身地から」
「名前はオーレリア、出身地は蒼の森のハイエルフの里」
「ハイエルフだと!?オーレリア殿はハイエルフなのか?」
「うん」
「ハイエルフ……信じられん。しかし、水晶玉は反応なしだな……」
フリードリヒは考え込んでしまった。なにかまずいことでもあるのだろうか?
「なにかダメだった?」
「いや……大丈夫だ……。あー、次の質問だが、グレンハルトに来た目的は。これはいい。次は、滞在期間か」
「話したらすぐ帰るよ」
「いや、いろいろ報酬などもあるから、少し待ってほしいんだが」
「でもわたし、5日ぐらいしか家空けられないから、そんなにゆっくりはできないよ」
「そうなのか。わかった、出来るだけ急ごう。あと、一応通行料をもらっているのだが、今回は依頼で来てもらっているので免除する」
「そうなんだ、ありがとう」
「これが、この町の通行証だ。帰るときにまたここに返却してもらうから、なくさないようにしてくれ」
受け取った通行証は木でできていて、グレンハルト辺境伯家の紋章の焼き印が押されていた。なくさないように、空間収納に入れておく。
小部屋から出たフリードリヒとオーレリア一行は、ようやく町に入る。
「おぉ、人がたくさんいる」
『人間の町はずいぶんとごちゃごちゃしているんだな!』
『すごーい!』
『クンクン!いろんなにおいがする!』
キョロキョロとあたりを見渡して、完全におのぼりさんだ。
「悪いが、先に冒険者ギルドで従魔登録をして欲しい」
「従魔登録?」
「そうだ。エルディオール様とノル君とネロ君はただのペットではないからな、危険ではないことを証明するために登録が必要なのだ」
「へー、そうなんだ」
通りを歩いていたら、食べ物の屋台がたくさんある広場があった。食欲をそそる香りが風にのって流れてくる。
『おれ、おなかすいた!』
『あっちのほう、なんかいいにおいする!』
『肉の匂いもするな!あっちにいこう!』
「ちょっと待って!まずは登録しなきゃいけないみたいだし、もう少し我慢!」
『えー!おなかすいたのにー!』
『はやくいこうよ!』
『食べてからすればいいじゃん!』
「ダーメ!登録だけじゃなくてね、お金がないから買えないのっ!」
『『『えーーー!!!』』』
「それは、気が付かなくてすまない。もちろん滞在費用もこちらで持つ。少し待っていてくれないだろうか。騎士団本部に連絡してすぐに用意しよう」
「それは大丈夫!たしかどこかで、魔物の素材が売れるんだよね?」
「ああ、それも冒険者ギルドで出来る。あの正面の建物が冒険者ギルドだ」
フリードリヒが指さした建物は、町でもひときわ大きな建物だった。石造りの二階建てで、正面には大きな両開きの扉、剣と盾の紋章の看板が掲げられている。
中に入ると、思っていたよりも広い受付ホールが広がっていた。反対側の壁一面には依頼書らしき紙が何枚も貼り出されている。さらに奥は、食事スペースになっているようで、見知った冒険者が歓談していた。ジーナたち黄昏の獅子の面々だ。
フリードリヒとオーレリア達が受付に向かうと、奥にいたジーナとソフィアたちが気づいてやってきた。
「オーレリア!来ると思って待ってたよ」
ジーナが明るく声をかけてくる。
「あ、ジーナ。どうしたの?」
「今日の宿、まだ決めてないんじゃないかと思ってさ。よかったら、あたしらが常宿にしているところ紹介するよ」
「私たちの常宿は、一階の部屋は従魔も一緒に泊まれるのよ。さっき宿に確認したら空いてるって言っていたからどうかと思って」
「ほんと!ありがとう!」
「それは助かる!黄昏の獅子の常宿なら治安もいいし安心だな。宿代は騎士団本部に請求するよう伝えてくれ」
「えぇ、伝えておきます」
「じゃあ、さっさと従魔登録すませちゃおうよ!」
ジーナが率先して受付に向かう。
「アニー!この子の従魔登録をお願い!」
アニーと呼ばれたのは、栗色の髪に桃色の瞳の明るい雰囲気の女性だった。
オーレリアは、ジーナに言われフードを脱ぐ。アニーはオーレリアを見ると、目を見開いて驚いた。
「まぁ!エルフ!とっても可愛い子ですねー!ジーナさんのお知り合いですか?」
「フフッ、可愛いだろ?オーレリアって言うんだ。従魔登録頼むよ!」
「分かりました!オーレリアさんは冒険者登録はなさっていますか?」
「してないよ」
「では、先にオーレリアさんの冒険者登録ですね。登録料が銀貨1枚かかりますがよろしいですか?冒険者カードは身分証にもなるので、町の出入りが楽になりますよ。通行料も免除されます。こちらの用紙に記入をお願いします」
用紙には、名前・年齢・種族・出身地・得意分野を書く欄があった。町の入り口の審査と同じような感じだ。
「登録ってお金かかるんだ。わたし今お金持ってないんだけど、素材の買い取りしてもらえる?」
「ええ、大丈夫ですよ!オーレリアさんの登録料が銀貨1枚。従魔登録が一匹につき銅貨5枚なので、銀貨2枚と銅貨5枚になります。どのような素材をお持ちですか?」
「魔の森で狩った魔物の素材。お肉は食べちゃったけど、皮とか、角とか、牙とか、羽とか」
「魔の森の素材!?わ、分かりました。それでしたら、登録が終わり次第、買取カウンターにご案内させていただきますね」
「うん。よろしく!」
オーレリアは登録用紙に記入し、アニーに渡す。
「ありがとうございます!……えぇっ!?オーレリアさんはハイエルフなんですか!?」
「「「「えーーー!!!ハイエルフーーー!!!?」」」」
またか……。もしかしてハイエルフって、お化けかなんかだと思われてるのかな?
次回は金曜日に更新します。




