閑話 フリードリヒからみたあの日の出来事
騎士団副団長フリードリヒ・ハーゲン視点
魔の森に入って2日目。
ここまでほとんど魔物と遭遇することなく、順調に進むことが出来た。出てきたとしても単独だったので、冒険者チームと連携して倒すことが出来た。
そして、ようやく火柱が立ったと思われる場所にたどり着いた。
そこはまるで、巨大な魔物が暴れ回ったかのようだった。木々は黒く焼け落ち、幹は炭と化し、地面は抉られたように深く裂けている。
「この場所だな。一体何があったんだ?」
「本当にドラゴンの仕業なのでは……?」
「みんな、警戒は怠るな!あまり離れない様に注意しながら調べてくれ!」
それからしばらく焼け跡を見て回ったが、原因だと思われる魔物の痕跡は見つけられなかった。
その日は念のため、そこから十分に離れた場所で野営をすることにした。野営地では魔除けの魔道具を稼働させ、交代で見張りをしながら体を休める。
どんな魔物が襲って来るかわからないので、火も使えず食事は携帯食のみ。
この調査隊に参加しているのは、騎士団の精鋭の他、経験豊富な高ランクの冒険者だが、流石にみんな疲れが溜まっていた。
明日、もう一度周辺を調べたら引き上げることにする。
翌日、ある程度の調査を終えて撤収の計画を立てていたところに、斥候に出ていた者が血相を変えて戻ってきた。
「グリムサーペントだ!デカいのが6匹こちらに向かって来てるぞ!」
「!!!」
グリムサーペントは巨大な魔物だ。全長は15メートルはあるだろうか。鎌首をもたげても5メートル以上、それが6匹も。
普段は単独で行動するグリムサーペントが、何故6匹も……。しかし、とにかく今は戦わなければ!
Sランク冒険者黄昏の獅子が、野営地から少し離れた開けた場所で応戦する。
はっきり言って、かなり絶望的な状況だ。散り散りにならない様に撤退したいところだが、うまく行くかどうか。
だが、辺境の地を守る騎士団として、この程度退けられなければ町は守れない。
フリードリヒは団員を引き連れ、戦線へと向かった。
最初は連携が取れていた冒険者たちも、魔物の圧に押され、しだいに足並みが乱れはじめる。
グリムサーペントの巨体が横薙ぎに暴れ、陣形が崩された。綻び始めた連携にさらなる一撃が叩き込まれ、負傷者が増えていく。
もう一撃きたら持たない。誰もがそう思ったその時。
ふわり、と白い影が戦線の前に降りたった。
次の瞬間、それが巨大な狼だとわかった。しかも、その背には少女を乗せていた。
「尖った耳。エルフか……?」
その少女はエルフの特徴である長く尖った耳と、輝くような銀髪で、その顔立ちはあまりにも整っていた。
そして、透き通る青い瞳で戦場を見渡し何かつぶやくと、狼の背から静かに降りたった。
そこからはあっという間だった。
エルフの少女は何もない空間から杖を取り出し、グリムサーペントに向けると魔法を放った。見たことのない魔法だった。
次の瞬間、2匹のグリムサーペントが地面に崩れ落ちる。
少女が残りの1匹に杖を向けたそのとき、羽織った外套のフードから黒い子猫が二匹飛び出してきた。子猫たちはグリムサーペントに駆け寄ると、土魔法と氷魔法でいとも簡単に屠ってしまった。
子猫たちは、再びエルフの少女の下に駆け戻り、少女は子猫たちを抱き上げ、何か会話をしているようだ。そこへ、先ほどの大きな狼がゆっくりと歩いて来て、少女に寄り添った。
残りのグリムサーペントも、すでに片づけられていた。
目の前の光景に理解が追い付かない。だが、立ち尽くしている場合ではない。
「し、失礼」
振り向いた少女と目が合った。透き通る青い瞳に射抜かれ、思わず息をのんだ。
「貴殿のおかげで命拾いした。まずは礼を言う。……それで、さっそくで悪いが、ポーションを持っていないか?もし持っていたら譲ってくれないだろうか!もちろん金は払う!」
疑問がとめどなく湧いてきてはいたが、今はとにかく藁にも縋る思いで、ポーションを持っていないかと尋ねた。
「よくここまで来れたね」
彼女がいうことももっともだ、実に情けない。
「まぁ、そうだな。君は回復魔法が使えるか?もし使えるなら……」
あれほどの魔法を使えるのだ、回復魔法も使えるのではないかと思ったのだ。
しかし少女は、
「えーっと、ポーションなら持ってるよ。これ使って」
と、何故か一瞬目を泳がせてから、また何もない空間からポーションをいくつも取り出した。そのポーションは見たこともない、透き通った青色をしていた。普通のポーションはもっと濁った緑色をしているはずなのだが……。
驚いたが、今は怪我人の手当てが先だ。礼を言って急いで怪我をした仲間の下に駆けつけた。動けるものにもポーションを渡し、次々と飲ませていく。
腕がちぎれかけていた部下に飲ませたら、あっという間にくっついて、すべての傷が治ってしまった。
「驚いたな。なんだこのポーションは……」
少女を見ると、他の怪我人たちにポーションを飲ませて歩いてくれていた。
怪我が治った者たちの中には涙を流し喜ぶものもいる。
感謝の言葉もない。
「団長、あの少女はいったい何者だ?死にかけていた奴が、息を吹き返したぞ!」
「わからん。とにかく、礼をせねば」
「そうだな」
Sランク冒険者黄昏の獅子のリーダーで、町の英雄でもあるグレインが一緒についてくる。彼は今回の調査に参加した冒険者チームの中のまとめ役でもある。信頼のできる男だ。
二人で少女の下へ向かい、改めてお礼と自己紹介をした。少女はオーレリアと名乗った。そして、黒猫と狼は彼女の従魔だと紹介されたが、狼とはなぜか少しもめていた。
「わかったよ。近い……エルディオールです」
自分たちには分からないが、少女は従魔と話ができるようだった。テイマーでも従魔とはっきりと話ができる者はめずらしいと聞くが、彼女はテイマーでもあるのだろうか?
それにしても……
「そ、そうか……その、エルディオール……様はもしかして、神獣フェンリルなのでは?」
「そうだけど……エルディオール様?」
それがどうしたという顔で少女はいうが……。
やはり、伝説の神獣フェンリルだった。伝承の中では度々登場するが、実際に見たのは初めてだ。冒険者たちも興奮を隠せない。まさか、こんなところで伝説の神獣と出会えるとは!
しかし、そうなるとますます不思議だ。この少女はいったい何者なのだろうか。聞いてもこの森に住んでいると言うだけだ。
そもそもこの魔の森は普通の森と違って危険な森だ。人が住めるような場所ではない。エルフだとしても、わざわざこんな森には住まないだろう。現にエルフはもっと南にある、比較的安全な森に住んでいるはずだ。
いろいろ納得できないが、グレインも言うように今は信じるしかないだろう。
それから、自分たち調査隊のこと、ここに来た理由などを話し、野営地への同行を願うと、渋々だが了承してくれた。
そのときも、従魔の黒猫、たしかノル君とネロ君、そしてエルディオール様となにか話されて、なぜだか観念したようにトボトボと歩き出した。
一体どのようなやり取りがされているのか……なんとも不思議な少女であった。
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次回より、水・金・土の19時頃に更新していきます。




