第20話 魔物素材を売る
Sランク冒険者パーティー黄昏の獅子の面々が一斉に叫んだ。急な大声にオーレリアは慌てて耳をふさぎ、ノルとネロはオーレリアの外套のフードに逃げ込んだ。
「え?マジ?ハイエルフって存在してるわけ?」
「おとぎ話ではよく聞くけど、本当にいるの?」
「マジかよ!信じられねー!」
「え?ホントに?普通のエルフじゃなくて?」
ジーナとソフィア、あとはオーレリアはすぐに名前を忘れてしまったけれど、タンク担当のデュークと斥候担当のロルフが、用紙とオーレリアを交互に見ている。ちなみに、リーダーのグレインはギルドマスターに報告にいっていて不在だった。
「町に入る審査で水晶の魔道具を使ったから間違いないぞ。彼女はハイエルフだ!」
フリードリヒがフォローしてくれるが、みんなでそんな化け物でも見るみたいな目で見ないでほしい。
「そんなに驚くことなの?普通のエルフと変わらないでしょ?」
オーレリアは耳を掴んだまま困ってしまう。あれ?言わない方が良かったのかな?でも嘘ついたら魔道具でばれちゃうし……。
「いやいや、見た目はそうかもしれないけどさ。ハイエルフと言ったら、全属性魔法が使えて、魔力量も半端なくて、何より、創世の女神ディオーネ様のお使いって言われてる伝説の種族だろ!?」
「伝説なの?」
「そうよ!ハイエルフによる逸話はいくつも残っているけれど、実際にハイエルフを見たものはいないから、想像上の種族だと言われているのよ!」
「たしかに、こっちの大陸にはいないかもしれないけど……あ!みんな人族の国に行くときは、変身魔法で人族の姿になってたからかな?」
「変身魔法?そんな魔法が使えるの?すごいわ!」
「スゲーな!」
「エルディオール様にも驚いたが、オーレリアもやっぱりただ者じゃなかったんだな!」
「え?わたしはただの――」
「おい、そろそろ話を戻そう。聞きたいことはまた後にして、今は冒険者登録と従魔登録だ」
フリードリヒは空気が読める。えっちゃんのため息を聞いて、話を修正してくれた。
ギルドの受付嬢のアニーが気を取り直して冒険者登録を続ける。
「分かりました。では、これで登録します」
そう言って、魔道具らしきものに用紙を入れて何か操作をすると、薄っぺらい銅色のカードが出てきた。
「こちらに血を一滴垂らしていただきます。ちょっとチクッとしますが、ここに指を入れてください」
オーレリアは言われた通り魔道具に指を入れ、これで冒険者登録が終わった。
「では次に、従魔登録です。こちらの用紙に、従魔のお名前と種類を記入してください」
オーレリアは、サラサラと記入する。ノルとネロ、えっちゃんのことは黄昏の獅子の面々はすでに知っているので、今さら驚かなかったが、受付嬢アニーは驚いていた。
「で、ではこれで、オーレリアさんの冒険者カードに従魔の登録も出来ました。無くしてしまうと、再発行に手数料がかかりますから気を付けてくださいね」
オーレリアは冒険者証を手に入れた。それは、銅色のカードで名前とランク、従魔の名前だけが書かれた地味なものだった。オーレリアは新人冒険者のEランクだ。
「うん。ありがとう!それで、素材の買い取りをしてもらいたいんだけど」
「素材の買い取りは、あちらの奥のカウンターになります。物が大きい場合は、裏口から出たところにある解体用の受付になります」
アニーが席を立ち、案内をしてくれる。
「解体はしてあるけど、たくさんあるんだよね」
「では、裏口へどうぞ」
オーレリアとえっちゃんはアニーについて裏口へと向かう。なぜか黄昏の獅子の面々とフリードリヒもついてくる。
「わたしひとりで大丈夫だよ?」
「いや、どんな素材か見てみたくて」
と興味津々な様子だった。
裏口をでると大きな倉庫のような建物があり、手前には受付のような場所があった。
「ローデリックさんいますか?」
アニーが声をかけると、頭にタオルを巻いたガタイのいい男が出てきた。
「なんだアニー。ん?黄昏の獅子じゃねーか。まだ獲物があるのか?」
調査隊で狩った魔物はすでに持ち込み済みだった。苦労して森に入った割に討伐数は少なく、複数のパーティーで山分けのため、支払いは後日になると言われていた。
「いや、あたしたちじゃなくてこの子がね」
「ん?なんだ、エルフの子供がどうかしたのか?」
ローデリックと呼ばれた男が、オーレリアをみて不思議そうな顔をする?
「オーレリアさん、このカウンターの上に素材出しちゃってください」
アニーにいわれて、オーレリアは空間収納から素材を出していく。
グリムバイソンの角・皮・腱
グリムベアの毛皮・爪・牙・熊脂
グリムディアの角・皮・血液
グリムサーペントの皮・毒袋・牙・眼球
グリムバードの羽、風袋、嘴
それらの素材を、カウンターの上に乗るだけ乗せた。えっちゃんがたくさん食べるからどんどん貯まっていっちゃうんだよね。
無造作に置かれていく素材を前に、そこにいた人々は固まる。
「まだあるけど、もう乗せられないから、とりあえずこれでいいか」
ローデリックがグリムサーペントの毒袋を見て、眉間に皺をよせる。
「……おい。これをどこで?」
「魔の森だよ。それは、グリムサーペントの毒袋だね」
「他の素材も、ほとんど無傷だ。小娘、お前……何者だ?」
怖い顔でオーレリアを見つめてくる。そこに、ズイっとえっちゃんが割り込んできた。
「うぉ!なんだ?」
『そんな顔でリアを睨むな。それに毒袋に傷をつけるなんてミス、するわけないだろ!肉が食えなくなる』
「えっと、毒袋に傷なんかつけたら、お肉が食べられなくなるって……」
オーレリアは、えっちゃんを撫でながら、通訳する。
「ローデリック、ここだけの話だが、この子は魔の森に住んでいるハイエルフのオーレリアだよ。そしてこちらは、フェンリルのエルディオール様。子猫ちゃんたちは……寝てるけど、ケット・シーらしい。三匹ともオーレリアの従魔だ」
「今回の調査隊は、この方たちに助けられたおかげで、町に戻ることが出来たのよ」
ジーナとソフィアが難しい顔のローデリックに説明する。
「なに!そうなのか!?……ハイエルフ?フェンリルだと!?」
「正式な説明は明日になるから、他言無用で頼むぞ」
フリードリヒが念のため注意しておく。
「それで、買い取ってもらえる?ダメなら商業ギルドってところに持って行って――」
「いや、待て!もちろん買い取らせてもらうぜ!……計算するからちょっと待っててくれ」
「ではしばらく、ギルドの食堂で待っていてください。査定が終わりましたら呼びに行きますね」
アニーがそう言ったので、みんなで食堂の椅子に座って待つことにした。
『ねー、りあ。まだー?おなかすいたよー!』
ノルがお腹を空かせて目を覚ました。
『俺もお腹空いたなー』
えっちゃんもお腹を空かせている。ネロはまだフードの中で寝ているようだ。
「もうすぐお金がもらえるから、ちょっと待ってね」
「ノルちゃんとエルディオール様はお腹がすいちゃたのかしら?」
「そうなの。さっき広場で屋台の匂いを嗅いでから、早く行きたくてしょうがないみたい。とりあえず、クッキーでも食べる?」
オーレリアは空間収納からクッキーを取り出し、みんなに配る。
ノルはすぐにパクパクと食べ始めた。えっちゃんは一瞬で食べ終わってお代わりを要求してくる。
「俺たちまで貰っちゃってよかったのかな?」
タンク役のデュークがおずおずと聞いてくる。
「大丈夫だよ、まだたくさんあるから」
「そうか、ありがとう!」
「そういえば、オーレリア殿は空間魔法を使っているが、いったいどれぐらいの量を収納できるのだ?」
フリードリヒの問いかけに、みんなの視線が一斉にオーレリアに向けられる。どうやらみんなも気になっていたらしい。
「どれくらい?……わからない」
「わからない?」
「うん、まだいっぱいになったことないし。どれくらい入るんだろう?」
「あ~、やっぱりオーレリアはハイエルフだわ……」
ジーナがあきれたように、ぽつりとつぶやいた。




