第2話 聖女伝説
話を聞いた後、さっさと帰ってきたオーレリアは、ハイエルフの里で唯一の食堂にやってきた。先ほど森で採取してきた香草を渡すためだ。
この時間の食堂はまだ空いているので、オーレリアは遠慮なくカウンターに座った。そして、女神様のお仕事について、食堂の店主に相談していた。
持っていくものを考えたとき、一番に浮かんだのが、この食堂の食べ物だったのだ。
オーレリアの家のすぐ隣にあるこの食堂は、アルシアという女性が一人で切り盛りしている。彼女はとても面倒見が良く、オーレリアも小さなころからずいぶんとお世話になっていた。
アルシアはピンクブロンドの長い髪を、邪魔にならないように、後ろで結んでいる。瞳もピンク色でやわらかい雰囲気の女性だ。
「それで、大きな鍋でアルシアのスープを持っていきたいんだけど」
キッチンに忍び込もうとしているノルを両手で掴み、ここぞとばかりにモフりながらアルシアにお願いしてみる。
ノルはジタバタと暴れるがオーレリアは気にしない。
「いいわよ!でも、自分でも作れるように、レシピ集をあげようか?」
「いいの?ありがとう!」
ふてくされたノルをネロの側に解放する。ネロはマイペースにくつろいでいる。
どれぐらいの期間になるかは分からないけれど、最低でも数年から数十年はかかるだろうし、レシピ集は助かる。
今までも、料理はアルシアに教えてもらっていたから、簡単なものは作れるけど、レパートリーはあまり多くなかった。
師匠のイゾルデの料理は壊滅的だったしね・・・・・・。
「そういえば、アルシアは女神様のお仕事ってしたことあるの?」
ふと気になって聞いてみる。
「もちろんあるわよ!ここの里の人たちはみんなやってるわよ。何しろハイエルフは『女神様の代行者』だからね」
「そういえばそれ、小さい頃に師匠に習った。そんなすごいものじゃないって言っていたけど」
「フフフッ、そうね。それでね、私が女神様のお仕事でミッドラント大陸に行ったときは、聖女として人族に変身した姿で行ったのよ」
「聖女!?」
「そうよ!ミッドラント大陸に魔素だまりができちゃってね。黒い靄になって魔物が発生しちゃうから、聖魔法で払う必要があったのよ。でもあちらの大陸には当時、聖魔法が使える人があまりいなかったのよね」
「んー?そういうお話、図書館とか本屋で見たことある!でもあれって、異世界から召喚されてくるんじゃないの?」
「昔はそうだったんだけどね。異世界召喚って、非人道的じゃない?残されたご家族だっているわけだし。女神様はそういうの、許せなかったのね。だから、人族が召喚をしようとする度に女神様が阻止して、代わりに私たちが派遣されるようになったのよ。要は、魔素だまりを消せばいいわけだし」
「じゃあ、図書館に並んでる聖女伝説って・・・・・・」
なんだか、いろんなパターンがあったような・・・・・・。
「あれは、報告書みたいなものよ。リアは知らなかった?私たちが女神さまのお仕事でやってきたことは、図書館司書のフェイブルが本にして図書館に収めているのよ?私は聖女を3回ぐらいやってるから、それも本になってるし、イゾルデが聖女をやったときの本もあるわよ?」
「ンええーーー!!!師匠が聖女?噓だっ!!!ケホッ」
びっくりしすぎて、むせた。ノルとネロがビクッとして尻尾が膨らんだ。
「本当よ!でもたしか、すぐに国外追放になっちゃったのよねぇ。それ以来、イゾルデには聖女の仕事はやらせないことになったの。その後は、魔王とか、悪役令嬢なんかはとても上手にやっていたわよ。本人もノリノリだったし」
「魔王に・・・・・・悪役令嬢!?ね、ねぇ!その本、図書館で借りられる?今すぐ借りてくるっ!!!」
そんな本、絶対面白じゃん!!!
「落ち着いて、リア。図書館の本は原本だから貸し出しはできないの。でも、その原本をもとに読みやすく、面白おかしく改変したものが本屋に置いてるわよ。それならミッドラント大陸にも持って行けるんじゃないかしら」
「あぁ、なんてこと・・・・・・。なんで私は今までその本の存在に気付かなかったんだろう。本屋なんてしょっちゅう行ってるのに。誰も教えてくれなかったよ。・・・・・・なんでぇ?」
悔しさに打ちひしがれていると、師匠が裏口のドアから入ってきた。
「なんだ、アルシア、教えちゃったのか」
「あら、いらっしゃ――」
「ししょー!!なんで今まで教えてくれなかったの?ひどいよっ!!」
アルシアののんびりした挨拶なんか無視して師匠に詰め寄る。
「私は魔法以外にも、いろんなものに興味を持たないとダメだと言っていたよ?それにリアはむかし、悪役令嬢のざまぁした話なんて興味ないって言ったぞ?」
ニヤリと笑いながらそんなことを言う師匠。
「・・・・・・言ったかも・・・・・・。でも!それが師匠の実話だったなんて言わなかったじゃん!そうと知っていれば読んだのにっ!」
くぅ、悔しいです。そんな面白そうな話を今まで知らずに生きていたなんて。なんか悲しくなってきた。
「まぁまぁ、今知れたんだからいいじゃない」
「それに補足だが、女神様が異世界召喚を阻止する理由は、非人道的ってだけじゃない。召喚元の神様に、女神様がこっ酷く怒られたんだそうだ。ある世界の小さな島国には、八百万もの神様がいるらしくてね。それはそれは大変だったらしいぞ」
「一つの国に八百万の神様?それはすごい・・・・・・」
ごくり・・・・・・。すごい国だ。八百万の神様に怒られた女神様、可哀そう。
「だから、聖女召喚は、絶対に阻止しなければいけない、最重要事項なんだよ」
「そんな大切なお仕事なのに、国外追放されたってどういう事なの?」
一応つっこんでみると、師匠はそっぽを向いた。
「だいたい、聖女召喚なんてやる国の人間どもは、ろくでもないやつばかりなんだよ。いっその事、滅ぼしてしまえばよかった」
「あの本は、最後までハラハラドキドキだったわ!」
アルシアが本の内容を思い出し、楽しそうに感想を述べる。ずるい!
「・・・・・・リア。わかったからそんなに睨まない!可愛い顔が台無しだよ。今日はもう店も終わりだろうから、明日本屋に行けばいいじゃないか」
「そうね!さぁ、そろそろ夜ご飯の準備を始めるわ。リアも手伝ってね!」
「むー。わかった・・・・・・」
『ごはんっ!』
『ごはんー!』
今まで大人しく寝ていたノルとネロが、ごはんに反応して飛び起きた。
師匠がニコニコしながら二匹をもふっている。師匠はこう見えて可愛いものが好きなのだ。
オーレリアは仕方なくアルシアの手伝いのために、キッチンへと向かうのだった。
今日のメニューは魔物肉の赤ワイン煮込みだ。これはオーレリアの大好物だが、自分で作ったことはない。
レシピをもらっても、この味が出せる自信がないなぁ。
「アルシア!この料理もたくさん持っていきたい!ぜったい!」
『おれも、このおにくだいすき!たくさん食べる!』
『ぼくも、たくさん食べるよー!』
ノルとネロも大好きだもんね。ノルの目がギラギラしてる。
「ハイハイ、じゃあ魔物のお肉、たくさん狩って来てね」
「私の分も頼む!」
師匠もちゃっかりと、自分の分も狩らせる気らしい。
『よし!リア!あしたは、かりにいこう!』
『かりだー!』
ノルとネロが握りこぶし(?)を突き上げる。
「ダメだよ!明日は本屋さんに行くんだからっ!これはもう決定なの!」
『えーなんでー!』
『かりはー?』
オーレリアはこの悔しさを忘れない。明日は絶対に朝イチで本屋に行くことを胸に誓っていたので、可愛い二匹のお願いもバッサリと切り捨てる。
翌朝、オーレリアは本屋の前で開店を待ち、目的の本を大量に仕入れたが、『魔の森』へ行く準備に追われたため、なかなかゆっくりと読む時間がとれないのだった。




