黒に染まる
前回の続きとなります。
正直切って投稿しなくても良かったんですけど、やっぱ、ね?こう、保険って欲しい…欲しくない…?
目の前に広がるのは大きな赤黒いもの、それがナニカの口であると認識したところで漸く頭が避けろ、逃げろと体に指示を出す。
もう遅いのは誰が見ても明らかなのに。
だからだろうか、一周回って冷静になって終わりを悟った。
あ、ここで終わりなんだな…と__。
「__下から唐突ですが、失礼しますよ」
一箇所に弾幕を張り続けていた私と、自身を喰らおうとした悪魔の間に突如として影が高く盛り上がり、壁が作られる。
そしてその影から声が聞こえたかと思えば、それはドロドロと液状になって溶けていくように、下へと落ちていき中から一人の男…?_きっと声色からして男だろう_が私の前に姿を現した。
突如として現れたその者は、深く被ったフードで表情が見えない顔だけをこちらへと向ければクスリ、と小さく笑い、目の前の大口を開けた悪魔をポンッと軽く押す。
するとどうだろうか、不思議なことにその悪魔は押された力に反発する訳でもなく、そのままごろりと転がってしまった。
どうやら事切れているらしく、転がったまま動く様子が見られない。
あまりにも唐突な出来事で理解が追い付いてないが、分かるのはこの者が悪魔を一撃で屠った事だ。
「っ〜〜…ったく、遅いじゃないか、待ち草臥れたよ」
どうやらこの者と彼女は面識があるらしい…溜め息を大きく吐き、頭をガシガシと掻きながら彼女はこの者に対して愚痴を溢す。
「やれやれ、これでも相当な無理と無茶をして来てるんですから労いの言葉くらいは欲しいものですよ」
フードの男は華懍の言葉に対し、言葉通りやれやれと言った様子を見せつつゆらりと体を揺らして惨憺たる周囲を一瞥し、簡潔に状況を確認した。
「…それで、状況は?」
「見ての通り、最悪さ。あんた、まだ戦えるんだろうね?」
フードの男_闇瀬は華懍の問い掛けに小さく笑みを浮かべれば少し気怠そうな様子を態とらしく見せながら普段使うナイフを構えた。
「倒れるのを覚悟で無茶をすれば、ですかね。なので出来れば支援に徹したいのですが…」
「却下だよ」
ですよね、なんて声がフード越しから聞こえてくる。
すらすらと進んでいく話に、あまりついて行けてない墨綴は置いてけぼりを食らいながら漠然と今の状況に思い馳せていた。
何故こんなにも二人は強敵を前にしながら余裕で居られるのだろうか…と。
「次から次へと……」
わらわらと際限無く湧いて出てくる退魔師に嫌気でも差したのか、それとも苛立ちを覚えたのか。
持っていた短刀を逆手持ちに変えれば、男はその場で印を結ぶように手を擦り合わせる。
そして、一言。
「来い」
小さく呟かれた言葉が引き金だったのか、空中にまるで巨大な化け物が大口を開けるかの如く裂け目が現れて大きく開け放たれる。
そこから化け物の口よろしくボトボトと涎の代わりに落とされるのは大量の悪魔であった。
そこで最初から男と対峙していた墨綴と華懍は悟る。
あれ程の激しい弾幕を食らった上で、何故アイツが無事に近い状態で居るのか。
恐らく神威…悪魔を使役するなんて聞いたことがないが、使役するのではなく、収納するものであれば、取り出して肉盾として使うことが可能だろう、と。
ハッとした頃にはもう遅く、男はスッと人差し指を闇瀬達へと向ければポツリとまた一つ呟いた。
「退魔師を、殺せ」
男の小さな号令、しかしそれを口から落ちてきた悪魔が耳にすれば一体、また一体と起き上がり、順々に襲い掛かり始めた。
「ッ…! 動けるやつは動きな、じゃないと死ぬよ! 応戦開始!!」
事態が更に悪化したことを察した華懍は、動ける者達に目線を流し、発破を掛けながら己の下へ降ってきた悪魔を刺し、斬り伏せる。
闇瀬は…大丈夫そうだ、危なかっかしく感じられるが、それでも遅れは取っておらず応戦出来ている。
「数が、多い…!」
墨綴も苦言は漏らしているが、崩れそうな様子は見られない。
墨を悪魔に向けて降り頻る雨の様な勢いで飛ばして攻撃している。
先程までの弾幕とまではいかないが、当たっている音を聞く限り生易しい威力ではないのだろう。
被弾した悪魔達も苦しげな様子で転がっていた。
「ごめんなさい、みなさん…ちょっと気を付けて下さい…ね!!」
そうして再び筆に墨を吸わせれば、敵となる呪術師と悪魔達を標的とし、【銃】【砲】を綴ってなるべく周囲の味方に被害が出ないように心掛けて銃撃を再開した。
それに合わせて後から到着を果たした増援の退魔師が、遠距離型の神威を持つ者は墨綴と同じように、近接型は道を作るために目の前の悪魔に斬り掛かっていた。
チラリと闇瀬がその団体に目をやれば、近接型の中に滑走路で話しかけてくれた大神の姿が見えた。
うん、大きな外傷も見られないしここに来たという事は向こうも一段落したのだろう。
それにしても戦い続きだというのに、ここまで元気な退魔師というのはホント__。
「出鱈目が過ぎますよね…体力どれだけ有り余ってるのやら…」
落ちてきた悪魔達はみな下級とは言え、数が多いので一つ油断でもすれば命取りとなる。
疲労も見えるはずなのに、目の前で展開されているのはほぼ一方的な虐殺に等しい制圧。
これでは最早どちらが悪役か分かったものではない。
呆れ気味に傍観をし、出番は無さそうだと考えていたが、幾つかの討ち漏らしが出たのか、それともやはり疲労が限界まで溜まっていたのか、何体かが自身を襲おうと向かってきていた。
他数名も悪魔に押され気味となって崩れそうになっているのが目に入る。
別に自身が襲われるのは構わない。この職に就き、果てに前線に駆り出されている時点で覚悟はするべき事柄だからだ。
だが、他数名が悪魔に押され、挙げ句に目の前で殺されそうになっているとなれば話は別だ。
ドクドクと心の臓が早鐘を打ち、脈動を刻むのが内から聞こえてくる。
あまりの大きさで耳に煩いくらいだ。
冷静だった思考は徐々に黒く蝕まれ、染まっていく様な感覚を覚える。
この感覚は何だろうか、何故か懐かしく感じてしまう…過去に自分はこの感覚を覚えている…?
…いや、どうでも良い。知ったことではない、些事として片隅にでもやっておこう。
今自身がすべき事とは 目 の 前 の ゴ ミ を 一 掃 す る 、ただそれだけだ。
「畏み畏み…いや、焦れったく面倒ですね。手短にいきましょうか__顕現せよ、我等を護り通せ…!!」
冷たく、底冷えする様な声を腹から出し、手に持っていたナイフをもう片手の平に滑らせ、着けていた手袋ごと切ってみせる。
鋭利なナイフは手袋の抵抗も無いものとするかの様に簡単に切り、その先の肉すら刃が届いて滑る。
切った部分がジクジクと熱を持って痛みを叫び散らしており、体を巡る血潮がダラダラと垂れ出てくるが、冷静さを失った闇瀬からすればそんなものは知ったことではない。些事以下の認識だ。
本来であれば神を呼び出すための常套句を述べるものだが、乱雑にすっ飛ばして一方的に要求を告げれば、血を流している手を思い切り自身の影目掛けて地面へと叩き付けた。
こうしている間も悪魔達は止まって、馬鹿みたいにその様子を見ているわけではない。
襲い掛かろうとしていた数体の悪魔は目前にまで迫っており、今まさに凶暴な爪で、強靭な脚で、鋭利な歯で、生み出した得物で闇瀬を亡き者にしようと__したが、その動きは途中で止まった。
何故止まったか?答えは一目瞭然であった。
悪魔達の足元、彼等の影から唐突に生えた漆黒の棘に貫かれていたのだ。
それは闇瀬を襲おうとした悪魔だけに留まらず、呪術師によってその場で出された悪魔全体がその被害を被っていた。
それによって響いていた喧騒は鳴りを潜め、串刺しになった悪魔と相対していた退魔師は、これを引き起こしたであろう人物の方を見やる。
あまりにも規格外と取れる神威を発動した闇瀬の背後には、ソレを言葉にするにはあまりにも難しい、形容し難い『ナニカ』が大柄の人の形を模して蠢いていた。
彼の体表を駆け巡る靄のような、霧のような集まって出来上がっているソレは、頭と思しき場所に赤い二つの光をギョロリと動かし、まるで周囲を確認する様な素振りを見せる。
そこからの惨劇は、最早悪魔に同情を覚えてしまうほどであるだろう。
未だに上から降ってくる悪魔は一体の漏らしすら無く、その尽くが認識や状況を知る前に刺し貫かれていったからだ。
名も聞かぬ、三級の退魔師でこんな芸当が出来る者が果たして今まで居ただろうか。
いや、きっと誰も知り得ないだろう、ただ一人を除いて。
「闇瀬の事だからとんでもない隠し玉を持ってるとは思ってたけど、まさかあんな『得体の知れないもん』が出てくるだなんてね…つくづく読めない男だよ、ホント…」
刺し貫かれながらも抗い、何とか一矢報いようと己の体を千切ってでも襲い掛かってきた悪魔を槍で殴り飛ばし、溜め息混じりに華懍は言葉を零す。
今まで影に溶け込むように潜んでいたアイツが、やっと表に出てきた。まあ、どうせこれが終わったらまた引っ込むんだろうけども…。
そんな後の事を考えながら闇瀬を見やる。
鋭い眼光が見え隠れする闇瀬が見据えているのは呪術師だが、攻撃を行っていないと言うことは影から出る棘を無制限で出せるという訳ではないのが伺える。
それに消耗もかなり大きそうだ、今にも前のめりにぶっ倒れそうだ。
気合で保っているようだが、それも果たしてどれだけ持つか分かったものではない…が、下手げにあちらへ回ることも出来ない。
今自身が出来ることは……。
「せめて一般人がこれ以上怪我しないように守るとしようかね…」
次で羽田"前編"が終わります。
えぇ、前編です。
…ヘヘッ、ヘヘヘッ……。




