鬼と水と火と動物
お久しぶり(?)です。この小説、結構難産なんですよね…あれこれ考えたりとか変更加えたりとかetc…。
正直、これ出すのも何週間掛かってんだと自分にツッコミ入れたいくらいでした。
やって来た着物の男を気にしながらも、次から次へと奥の方から溢れ出てくる落ち武者を無視することも出来ず、一体一体懇切丁寧に斬り伏せたり、ぶっ飛ばしたりと捌き切っていれば、しびれを切らしたのか男が動いた。
「……うっわァ、怖い悪魔っすね〜。僕、亭号の通りか弱いお姫様なんすけど、そこんとこどう考えてるっすか? ちょっとくらい手を抜いてくれたりしないっすかねぇ…?」
今すぐにでも耳を塞ぎたくなるような遠吠えとも言えよう怒号が辺りに響き渡り終えた後、少しの静寂が辺りを包むが、一人の男がそんな雰囲気にちょっと気の抜けた声を出して水を差し、ぶち壊す。
行動不能…とまでは行かずとも、制限を掛けるくらいには辺りの悪魔に影響を与えた今の咆哮には小さく感謝をしながらも、背を預ける相方に少なからず影響を与えてくれたのだ、礼をせねばなるまい。
横からまるで、冗談だろう…とでも言いたげな「か弱いお姫様だなんて…」と聞こえた気もしたが、きっと気のせいだろう。
だって優しい優しい雨月くんっすからね!
まぁ、仮に言っていたとしても気にせずにスルーを決め込むのだが。
ちょっと借りるっすよ〜、なんて溢しながら近くに転がる二体の落ち武者悪魔から刀を拝借すれば、クルクルと手の中で回して遊んでからサンッ、と床に突き刺す。
まるでこの境界からこちらへと踏み入れば即座に迎撃するという意志を見せ付けるように。
「さっすが、ノリが良いッスね、他の人はあんまりノッてくれないんで有り難いっすよ。しかし、あの天降りっぽいのとお知り合いだったんすねぇ、雨月くん。いやぁ、意外と隅に置けないっすねぇ〜?」
少しでも場、というよりも彼の内に走る緊張を解そうとしているのか、おー!とノってくれた彼に対し、冗談も織り交ぜて誂い気味に言葉を掛けつつ、ゆったりと彼と着物の男の間に割って入るようにして立った。
とても守られる側の姫様な立ち位置と行動ではないが…まぁ、時の節目にはお茶目でお転婆な姫だって居るだろう、きっと。
「はいはーい、了解っすよ。代わりに後ろとバックアップ、頼りにしてるっすよ〜」
前衛を任せる旨を相手から聞けば、言葉を返しつつ、何処から出したか板チョコを割って、一欠片を彼の口に押し込むとしよう。
オマケに自慢のにっこりスマイルも付けておく、これで元気にならない奴は居ないだろう。
ここで苦笑いを浮かべられていようと気にしないのがコツだ。
さて、相対している着物の男はといえば、顎に指を当てて考えるような…というより、何かを思い出そうとしているような素振りを見せていた。
「何じゃあ? お主、儂と逢った事があるのか? 生憎と、弱い奴をいちいち覚えとらんもんでなあ。それともご近所さんかいのう? それだったら、すまん。世間との付き合いは執事に任せとるもんでの」
どうやら後ろの彼との出会いでも思い出そうとしていたらしい。
しかし、後ろに居る彼の表情をチラリと覗き見れば、押し込んだチョコとスマイルパワーでだいぶ落ち着いたらしく、今は何とも微妙なものを浮かべており、見当違いな事をあの男が口にしているのは一目瞭然だった。
全く、多少なりとも人目を引くのは分かるっすけど、ナンパなら他を当たって欲しいもんっすね。
多少無理矢理ながらもチョコレートを押し込まれ、笑顔を見せられれば、勇気付けられたのか体の震えは消えており、緊張も解れていたので、もう大丈夫だと言う意味も兼ねてにっこりと笑みを返す。
「少し前、夜に世間話を少々。ご近所さんかどうかは生憎分かりませんが」
あんなとんでもな人がご近所だなんて御冗談、仮にそうだったとしても、良好なご近所付き合いは望めない事だろう。
結果として苦笑いに近い、困ったような笑みを浮かべての返しとなってしまった。
相手の基準で考えれば、確かに自身は取るに足らないほど弱いのだろう。
肉体面で考えたら天と地ほどの差がある。
だからきっと覚えられてないのだろう、それは仕方のない事だ、どれだけ望んでもこの体は脆いままなのだから。
そんな事を戦場では似つかわしくない程にぼんやりと思考しながら、辺りを見渡して状態を再認識する。
先程まで襲い掛かって来てた悪魔達は唐突な来訪者に警戒をしているのか、大きな動きがない限りは静観するつもりらしい。
簡単に言えば機を伺っている、というところか。
それならばそのままジッとしていて欲しいところだが、きっとそれは叶わないだろう…だって、ほら。
「世間話は此処等で終いに、で良いっすよね? それと…嫌っすねぇ、上物だなんて! 僕、か弱いお姫様なんすからお手柔らかに頼むっす、よ!」
そんな言葉を皮切りに、何を合図してか、それとも狙ってなのか、彼の足元には咆哮で気絶をした某ネズミ映画に出てきそうな黄緑色の一つ目ことマ○ク·ワゾ○スキ○っぽい悪魔が転がってきた。
まるで丁度良い、とでも言いたげに銀縁のメガネの奥で糸目が弧を描けば、見事なフォームで着物の男相手に向けて、言葉尻を強めると共に思い切り蹴り出したのだ。
軌道は見事なまでに真っ直ぐ顔面コース。
そんな行動を目の前でやられてはこちらもまた動かざるを得ない。
流石に退魔師対悪魔といった単純な構図はなるべく避けたいところではあるが、優先度の高さは紛れもなく天降りの彼だ。
最悪、辺りの悪魔は片手間にでもあしらえはする、だが着物の彼だけはそんな事をすれば、もれなくあの世へ直行は免れない。
一先ずとして牽制程度、良くて行動を多少でも制限出来れば良しとして彼の頭の後ろ辺りに、小さな小さな水球を生成して__。
「不意打ちにしては、中々馬鹿正直な攻撃だわいのう」
着物の男は何が面白いのか、愉快そうに笑いながら顔面目掛けて飛んできた悪魔を、裏拳で文字通り頭部を四散させ、相方である燈浬の方へ視線を向けていた。
哀れマ○ク·ワゾ○スキ○は爆発四散!ナムアミダブツ!!
…ホント、冗談も大概にしてほしい、ただの拳で頭部が四散だなんて。
掠ってもアウトなんじゃないだろうか、あの拳。
「姫という柄かいのぅ。不意打ち、文字通りの死体蹴り、追剥……傭兵ならば100点満点の仕事じゃがのう」
まるで教官の様な事を言ってくる相手に、何様だと声を大にして言いたいところだが、今は喉奥へと押し込んで生成した水球を一気に放つ__が、それを跳躍で簡単に避けられてしまった。
後頭部に目でも付いているのだろうか…?
「もう、みんなして僕のことそうやって言うなんてひどいっすよッ!」
味方だけでなく、敵からも亭号に関して物言いを貰えば、流石に拗ねたような様子で彼は口を尖らせながら抗議の声を上げていた。
だが、言葉はお巫山戯が入りながらも、しっかりと戦いには集中しているらしく、相手が避けたせいでこちらへと飛んでくる水球を、姿勢を低くして流れ弾を避けていた。
それだけでなく、姿勢を低くする瞬間に床へ突き刺していた刀を抜いたらしく、両の手にそれぞれ一本ずつ握り締めながら相手の懐へと入り込むために大きく踏み出し、ほんの数歩で飛び込んでいた。
「言っとくっすけど、僕より雨月くんの方が強いんすからね__ッ?! うわ、とと! 貞子ちゃん!?」
勿論、悪魔達もそのままジッとしている訳もなく、これを好機と見て取ったのだろうか、先程から焦れたようにじりじりと動いていた武者達…ではなく、別の角度から黒の線が退魔師側へと飛んでくるのが視界端で捉えれた。
踏み込みに成功し、二対の刃でその肉体を斬り裂こうとした瞬間に、そんなのを捉えれば少し無茶をしても避けるのが利口と即座に判断した彼は、既のところで地面に接地している足で思い切り踏み抜いて横へと飛び退る。
どうやら飛んできた黒い線の正体は髪の毛らしい。
出処を辿ればそこには貞子っぽい悪魔が居り、それを頭部から放っていた。
髪だけに間一髪で避けることに成功したが、髪の毛と言うには床や壁に突き刺さっている当たり、生易しい表現が出来る代物では無いのがよく分かる。
ひぇっ…なんて小さく漏らしながら冷や汗を垂らすも、一方的にしてやられる程こちらは優しくない。
「ショートカットの方が存外に似合うんじゃないっすか? ほら、散髪してあげるっすよ!」
あちこちに刺さったままだと確実に邪魔となる髪の毛を、手に持っている拝借した刀で斬り捨てて自身の周りだけでも動きやすいようにしていく。
「っ……!」
髪の毛は当然ながら雨月の方にも向かっていたが、彼は最初から落ち武者悪魔や貞子っぽい悪魔に対して警戒を巡らせていたので、振り向きざまに半円状の氷柱を瞬時に生成して難なく防いでいた。
針山のように敵に向けて棘も表面に生成しているので、盾にも攻撃にも使える優れものだ。
難点は動かせないので、用途以外となればただのオブジェでしかないというところだが…。
「やれやれ、油断も隙もあったものじゃないですね…そんな手、じゃなくて髪癖の悪いあなたはロングやショートカットより、坊主とかどうでしょう? 永久脱毛、いいと思いますが」
髪が貞子悪魔の呪術を発動させる媒体ならば、それ自体を燃やして無くしてしまおうか。
横から「永久脱毛とか美意識高いっすね〜、雨月くん」なんてからかう声が聞こえてきたが、出来るならば戦闘に集中してもらいたい。
巫山戯て勝てるほど相手が甘くないのは自分も、彼もよく分かっている筈だからだ。
さて、残念ながらもう一つの神威である火を発生させるこの力、氷よりも細かな制御が出来ない上に、氷を挟んで狙いをつけるというマルチタスク。
精密さなどかなぐり捨てた、技と凡そ呼べるか危うい技で貞子周辺──どちらかと言えば後ろの中心部辺りだろうか──に火を生成、全て纏めて焼き払おうという魂胆だ。
至近距離であれをやられては堪ったものではないのだから。
まぁ、そんな魂胆が通るのも"悪魔がジッとしている場合"のみに限るのだが…。
当然ながら貞子悪魔はそのまま黙ってやられる訳もなく、それどころか周囲に展開された炎など意に介さない動きを見せる。
気づくか気づかないか、天井やら壁やらと四方へ伸ばされ、刺さっている髪の毛。
それらからまるで、釣り竿から伸びるリールの如く巻き上げられるように、件の貞子は体を引っ張られ、炎の中から脱出を果たしていた。
「っ…!? そうだ、そうですよね。自分にも出来るんですもの、相手は出来ないと思い込むなんて…!」
流石に予想外だと言いたげに目を丸くして、驚愕の表情を浮かべてから、徐々に自身に対する苛立ちと現状への焦りで表情が歪む。
自分も操作系の特異な力を扱う者なのだ、とすれば相対する相手もそれが使えないだなんていつから思っていた。
余りにも浅慮、考えの足らなさに表には出さずとも自分に対して舌打ちを一つ零し、それに吊られて語調も多少荒くなる。
だが、幼いながら幾つもの戦闘を経験した彼は、今はそれどころではないと振り払う為に頭を横に振り、頬をぺちん、と軽く叩いて気持ちを切り替える。
反省や後悔など後で幾らでも出来るだろう、と己に強く言い聞かせれば、貞子の動きを止めるためにどうするべきかと考えを巡らせる。
閉所などに追い込めれば万々歳、その中に向けて大火力を放てば簡単に狩れるが、辺りを見回しても瓦礫だらけのこんな場所で、果たしてそう都合良くそんな場所があるだろうか?
せめてそんな場所が無くても壁際へとやれれば、まだ今よりかはやりようがあるのだが…。
取り敢えず今は行動の制限をされても困るので、まず辺りに刺さっている髪の毛を斬り払いつつ、火を発現させて貞子に向けて放つ。
マルチタスクは苦手なので、火の操作が大雑把となるが、追い立てるだけを目的とするので一先ずはそれで良しとする。
一方落武者達はといえば、流石に壁を登るなんて芸当を持ち合わせていないのか、地上でのろのろと蠢きながら人間達や餌となり得そうな悪魔の着地を待ち構え、今か今かと焦れながら狩らんとしていた。
……はてさて、まだこれだけ退魔師や悪魔たちが自由に動けているのは、一重に嵐の目と言える着物の男が双方__まぁ、大方こちら側なのだが__に対して動きを見せていないからだ。
ならばその者は今どこに…?と燈浬は視線を滑らせて辺りを軽く確認してみれば、カカカッと上から笑い声が聞こえてきた。
「あの童の方が強いのか。それは、良い事を聞いたのう…と、なると……ふうむ、カカカ。御馳走が2人に増えた気分じゃわい。して、どちらから食ろうてやろうかのう」
見れば相手もあの髪の毛の無差別攻撃から逃げた…というよりかは、こちらの攻撃に合わせ既に避けていたのだろう、再び跳躍していたらしく、そのまま上に居た。
比喩でも何でもなく、本当に上に、指を天井にめり込ませて張り付いているのだ。
なんてデタラメな…と、燈浬と雨月は唖然としつつ、潰すならばやはり速めが良いだろうと判断をした雨月は、燈浬に対して「燈浬さんは天井張り付きますか」なんて馬鹿らしい質問を投げ掛ける。
それに対して燈浬は「やー…出来なくはないっすけど、やるとなれば蜥蜴にならなきゃっすかねー、ぷちんと潰されたくないっすけど」なんて、いつもと違って少し真面目な声色と表情で返していた。
そんな二人の様子など知ったことではないと言うように品定めするかの如く、着物姿の彼は二人を見比べていた。
そして然程の間を空けずにどちらを相手にするか決めたらしく、ニタリと口を歪ませる。
「よしよし、決めたぞ。そこの童がお主より強いというのなら………まず前菜に貴様の方を食らうとするかのう。なに、依然、2人掛かりで掛かってきても儂は一向に構わぬがな?」
その言葉を合図とし、遂に着物の男が動きを見せる。
言葉通り、燈浬に狙いをつけて天井が砕けるのも構わないと言う勢いで蹴り抜き、突撃をかました。
「まずは小手調べじゃわい! ほれ、避けねば風穴が開くぞ!」
繰り出したのは普通の貫手に回転力を加え、通常よりも更に殺傷力が増した貫手、『螺旋貫手』だ。
まともに食らえば彼の言う風穴どころか肉体が残るかすら危うい、人間からすれば確実に一撃必殺、掠っても致命打と言えるほどの技だ。
「ひゃ〜、危ない危ない。ご馳走に対する執念みたいなのが、何か生きたピラニアって感じっすね」
果たして残念ながら掠る事もなく、あっさりと簡単に避けられて、地面に穴を空けるだけの結果と終わった。
「知らないなら僕が教えてあげるっすけど、必殺技っつーのは最大の弱点でもあるんす、よッ…!」
軽い様子と口調で男の攻撃を避けた燈浬は、お返しとして握っていた刀を言葉尻を強めて相手へと突き立て、追撃を警戒して手を離しつつ一歩後ろへと跳び退いた。
「カッカッカッ、刀か? いいぞいいぞ、面白くなってきたわいのう」
男は避けられた事にも気にせず、突き立てられた刀を見て、表情は仮面で隠されて見えはしないがさぞ愉快と言いたげな様子で笑っていた。
「して……そこの長髪のぉ、儂の獲物にちょっかいをかけるでないわ。…あまり邪魔をするようであれば、諸共にミンチにしてくれるぞ」
だが、ふとその笑みを潜ませてから白髪の少年と相対する悪魔を一瞥すれば、呟くようにして吠える。
己を高めるが為に強者、そして挑戦してくる相手との闘争を第一としている彼にとって、同じ悪魔と言えどそれを邪魔してくるならば、それは同じ種族の仲間では無く、総じて等しく敵の認識であった。
何とも、ややこしいことが嫌いで、分かりやすい事を好む彼らしいといえば彼らしい行動である。
さて、そんな煽られた貞子は、雨月の操る火には追われるものの、あっちの髪を自切すればそっちを伸ばし、そこに刺してはあちらへ移りと到底現実離れした縦横無尽な三次元軌道を見せて炎に氷をと避け続ける。
オマケによくよく貞子悪魔の体を見てみれば、存外にスリムな体つきをしており、大雑把かつ閉所なだけでは、残念ながら追い込める代物では無さそうである。
しかも髪の毛で戦っているようなだけあって、その武器は多いの域を越えている。一本一本が、自在に動き回って攻撃してくるのだ。
ある程度を移動に費やしていると言っても、お釣りなんて優に来る。移動として使っていない余した髪は、先程からこちらに向けて攻撃を行ってくる雨月や、着物の男と相対する燈浬に向けて放つ事だろう。
しかして、敵というのは何も退魔師連中だけとは決まっている訳ではない。
何やら退魔師と相対する、同じ種族である着物の男も己に対して喧嘩を売ってきたではないか。となれば、理性を持ち合わせぬこの悪魔が下した決断は「敵対するなら、奴も倒す」である。
雨月、燈浬、着物の男__名を「バーケライヒ」と言う__問わず髪を無差別に向けて伸ばし、その体に深く突き刺さんと攻撃を行う。
ちなみに落武者連中だが、特異な力を持つわけでもないので、そんな地獄のような空間であるから、傍から見ればそれはもう哀れなことになっていた。
具体的に言うならば、怪獣戦争に巻き込まれたそこらの雑兵悪魔A〜Zみたいな絵面である。
未だ戦いの熱が冷めやる気配を見せぬ第一ターミナル、三つの組がぶつかり合った先で最後まで立っているのは誰なのか。
それを予測するにはまだ早いくらいに、勢力が等しく拮抗していた。
難産が過ぎるが故に投稿頻度とか亀以上に鈍いですが、長い目で見てやってください。
今年もどうぞ、よろしくお願いします。




