閑話 祝いの言葉は良いから休みをくれませんか
1/31過ぎるまでは正月だってじっちゃが言ってた(()
えぇ、閑話書いて出したつもりで居ました、めっちゃ忘れてて焦った…。
「……はぁ…」
デスクワークを熟しながら、意識せずとも漏れ出てしまう溜め息。
そしてついつい視線をやってしまうカレンダー。
日付を見れば、落ちていた気分がより落ちていくのが感じられる。
今日は新年が明けて一日目、つまり元日である。
世の働く人々は、新しい年を祝うべき者達と共に祝い、酒を飲み、楽しんでその日を迎えている事だろう。
だが残念ながら退魔師稼業にそんなものは存在しない。
人間の悪意、負の感情から生まれたとは言え、悪魔にとってそんな行事など知ったことではなく、被害報告などが事務職へと飛んでくるからだ。
全く、人間から生まれたのだから、少しはこういった目出度い時くらい空気を読んだりして行動を自重してほしいものである。
「〇〇県南東、▲市にて悪魔出現! 現場へ向かえる退魔師は直ちに急行!」
そんな思いも虚しく、飛んでくる報せを耳にして肩を落としながら立ち上がる。
今現時点で出れるのは残念ながら己くらいしかいない、軒並みは警邏や他に出現した悪魔を狩りに向かっている。
退魔師の総本山である『深川』と言っても、所属する全員が全員退魔師という訳ではない。
その実、五、六割は一般人だったりする。
人手不足極まれり、本陣ですらこの有り様だ、飛ばされることは無いだろうが…それでも他の支部の事など考えたくない。
現実逃避気味に討伐しに行く悪魔とは全然違うことを考えながら歩いていれば、唐突に背を叩かれる衝撃が走った。
「浮かない様子だねぇ、闇瀬君。目出度い日だってのに、新年早々に気落ちかい?」
「玲二さん…それもそうでしょう、その新年を祝う時間すら無いんですから。というか貴方が居るならば貴方が行けば良いのでは…」
自身の背を叩き、気さくな雰囲気で話し掛けてきた、スーツを身に纏う金髪ポニーテールの男性__『御堂玲二』を少しジトッとした視線を投げつけながら、心の内に抱えていた不満を漏らす。
この男はあの荒々しい運転をする装甲車の運転者であり、同時に一級の退魔師でもある。
因みに退魔師だというのは最近知った。
「そうしてあげたいのは山々だけど、如何せん出張れないものでね。すまないとは思ってるよ」
彼方此方に車を出してるのにですか…と言葉にして追求したかったが、そう拗ねないでと言うように頭に手を置かれて塞がれ、そのまま装甲車まで連行されてしまった。
それから何度目になるかも分からない、乗り心地の悪い車に揺られ続けて現場に到着し、気分が落ち着くまで一休みを挟んだ。
流石に体調が優れない状態で戦いたくは無かったので、ちょっと我を通させてもらった。
本来ならばこういった要求は通らないものだが、乗ってきた物がものである、旨を伝えれば渋々ながらも了承されたのだ。
さて、そんな関係のない話はその実どうでも良い。
そこ、うるさいぞ、文字稼ぎとか言わない。
休憩を終え、指定されたポイントへと移動し、道中何事もなく目的の場所へと着いた。
そこは廃車置き場らしく、そこそこの広さだけでなく積み上がる車などによって死角となる場所がかなり多く作られていた。
「はぁ…デスクワークを続けるほうが遥かにマシなのですがね…」
溜息をつきながら、身軽な動作でひょいひょいと車から車へと飛び移りながら目で悪魔を探してみる。
しかしどれだけ目で探してみても、少し高めの位置へ移動して辺りを見渡しても、姿形すら見られない。
上手く隠れているのだろうか…?
その考えが浮かべば、物陰が差し込んでいる地面を選び、そこに目掛けて飛び降りればトッ、と小さな音を立てて着地をする。
「……探し出すのは骨が折れますし、面倒です。苦しませないので、楽にお逝きなさい」
「__やっぱり恐ろしいものだな、彼の神威は」
指定したポイントから少し離れた位置、車を背にポイントとした場を見下ろせる所で、サングラス越しの目に映る光景に、玲二はポツリと呟いた。
そこは影から棘のような物が無数に飛び出しており、さながら剣山のような光景になっていた。
元の廃車置き場など見る影もない状態となっている。
所々、棘の先には廃車だけでなく悪魔が刺さっているのも見られ、どうやら指定されていた悪魔以外の潜んでいた奴等も狩り取ったらしい。
どれもこれも刺さりどころが悪く_剣山に刺さり所など関係無いだろうが_一撃で仕留めているのが分かる。
あまりにも圧倒的な光景に圧倒されると同時に、少しの畏怖も覚える。
確かに自身は一級だが、それは相方が居ての一級である。
自分一人だけとなると二級の上位が良いところだろうか。
勿論、単純な戦力のみで一級になれる訳では無いが、それでも純粋に火力のみで見るならば彼の適正となる階級は__。
「そりゃ、お上も黙ってはいない訳だ。教官殿の苦労も知れるね、これだと。……と? はいはい、こちら『阿形』、どうぞ」
彼の教官を勤めた一人の人物を思い浮かべれば、クスクスと小さく笑うが、車の中から聞こえてきたコール音に気付き、扉を開けて応じる。
そのまま無線でやり取りをし、話を終えればバタン、と扉を閉めた_ところで彼がこちらへ帰ってきた。
彼がこちらに来たから効力を失ったのか、無線でやり取りをしていた間に剣山は消え去っており、最初よりもバラバラではあるが元の廃車置き場に戻っていた。
あれだけの大技と思える事をしたというのに、出発したときと何ら変わりのない様子であり、彼の大物さ具合に、そしてこれから伝えなければならない事を考えて苦笑いが浮かんだ。
「お疲れ様、闇瀬くん。そしてホントに申し訳無いと思っているけど、また仕事だ。別のところに行くよ」
「今の世において一番のブラックな職業って間違い無く退魔師ですよね…人使いの荒さが凄いのですが…」
「うん、それに関しては僕も強く同意するかな」
あははー…なんて、自分をなのか、それとも彼をなのか分からない誤魔化し気味の乾いた笑いを零してから車に乗るように促す。
世の公務員も似たような状態なのだろうか、やれやれ…貧乏暇無しとはよく言うものである。
「じゃ、腹括って行くとしようか。あ、新年だし帰りにお雑煮とか甘酒とか飲み食いするかい?」
「車内が悲惨なことになりそうな気がするので遠慮しておきますよ…」
「そこまで酷い運転をした覚えはないんだけどな…」
うーん…なんて悩ましげな声を上げながらキーを挿し込み、グイと捻ればエンジンが掛かり、唸りを上げながら彼らを乗せて車は次の指定された目的地へと向かう。
闇瀬の心身が本当に休まる日はいつになるか、今はまだ分からない。




