閑話 バレンタイン
急ぎで書いたので何か変な部分とかあるかも。
まぁ、甘い目で見逃してくれ、チョコだけにな、ハハッ。……寒くなってきたな。
二月十四日、世はバレンタインで男女が共に浮き足立つ日である。
ある者は親愛に、ある者は感謝に、ある者はチョコと共に恋心を…。
まぁ、そんな甘いイベント、実は学生に限らず社会でも、ままありふれた行事であったりする。
大抵が前者で述べた感謝や親愛などが多いのだが。
そしてそれは退魔師達も例外ではない。
というか、生き死にが常に隣り合わせの命を掛けたこの仕事において、その話が上がらない方が珍しかったりする。
多分、生存本能とか何かが作用でもしているのだろう、きっと。
だから私がこれをあいつに渡すのも別に不自然ではない、筈だ。うん、そうだ。
「た、たのもー!!」
何故かガラにもなく、謎の緊張が走り、少し上ずった声で、目的の人物が居るであろう部屋の扉を開け放つ。
「……どうされたのですか、華懍さん…」
部屋の中に居た者達は唐突に現れた珍客に、言葉を失って固まったまま視線を向けていた。
そして嫌な静寂が少し空間を支配した後、おずおずといった様子でこちらの名前を呼びながら用件を聞こうとしてくる、目当ての相手である闇瀬。
「い、いや、その、あーっと…ちょいと面を貸しな!」
「へ? あ、ちょっと…!?」
ちょっと困惑気味の相手のみならず、他の視線を受けて居心地の悪さを感じれば、少し乱雑に相手の腕を掴んで駆け出した。
「……はい、紅茶で大丈夫でしたか? コーヒー、お茶もあったので、言ってくだされば淹れてきますが…それは後にしましょうか。さて、ご用件をお聞きしても?」
無理矢理に近い形で引っ張られ、転がり込むようにして入ったのは休憩室であった。
体を落ち着けるために座るソファーや、お茶請けが入った椀の乗った机、今は電源が付けられてないがテレビも置かれており、一時の安らぎを得るには丁度良い部屋だ。
そんな場所で、相手を少しでも落ち着かせる為にソファーへ座らせ、給湯場で紅茶を淹れてから相手の前に出し、対面に位置する場所に自身も腰掛ければ相手を見据えて問いかける。
今回の相手の行動が色々と突飛すぎて、理解をしようにも出来ないのだ。
行動などを咎めるにも、まずは理由を知るところからである。
「あっはは…悪いね…こう言ったのは慣れてなくて、つい勢いで突っ走っちまったよ。ほら、今日はバレンタインだろ? ただ渡すだけだってのに、妙に色々と考えちまってねぇ…」
「あぁ…周りの目とかですか。ただでさえ有名な貴女ですから、ちょっとの事でも要らない噂を立てられがちですからね」
「そーそー、高御門だってだけでだよ。全く、嫌になっちまうよ」
「しかして、それはそうでも今回の行動は、些か思う部分は私としてもありますよ…?」
「うっ…面目無い限りだよ…」
いけませんからねと人差し指を立てて、メッ!と相手を叱れば、顔を下へと俯かせてシュンと落ち込み、体を小さくする華懍。
あれ、そこまでキツく言ってる感じではないんですがね…なんて思いながらも、相手が反省しているのを見ればうんうん、と小さく頷いて見せる。
「反省しているのなら良しです、これ以上は何も言いません。ほら、気に取り直して」
「…時に聞くけど、あんたってホントに男なんだよね…? 見えないのを良いことに、性別を偽ってたりしないかい…?」
「しませんよ!? というか声を聞いて分かるでしょう、完全に男の声をしていると思うのですが…!?」
「いや、分かんないよ、存外に男の声出せる女とか居たりするからねぇ…」
「それ言ったらキリが無いですよね、これ…というか用件とは全く別の話になってるのですが……」
こちらの指摘に、華懍はハッ、とした表情になった後、再び申し訳無さそうな笑みを浮かべた。
「悪い悪い、どーしても気になってた事でもあったからつい、ね。ほらこれ、あんたにやるよ」
あっはは…と頭の後ろに手を当てて、誤魔化すように笑ってから彼女は何処から取り出したか、小さな小袋をこちらへと投げて寄越してきた。
透明な袋なので中に何が入っているか見られるのだが、どうやら中身はチョコの様だった。
「おや、これはこれは。ありがとうございます。しかし、良かったので? 二人きりの方が渡しにくい、なんてよく聞きますが…」
「いや、逆に他の目がある方が渡しにくいよ…それにあんたと二人の方が緊張しなくて済むよ、あんたの空気というか雰囲気がそうさせてんのかねぇ…?」
「あはは…その言葉は下手に気負う必要が無いくらい接しやすい相手、という認識で受け取っておきましょう。では、こちらもお返しをしなければいけませんね」
「へ? あんのかい…?」
がさごそと腰に着けたポーチを漁る闇瀬の姿に、間の抜けた素っ頓狂な声を上げる華懍。
そして無いだろうと思っていた、というよりも予測なんてまずしていなかった華懍の意に反し、ポーチから取り出されたのは、とてもポーチの中に入れていたとは思えぬほどの綺麗な小袋であり、こちらと同じように透明で中身が見える仕様であった。
当然ながら中にはチョコが入っているのだが、その作りが妙に手慣れた感じであり、市販の物を詰めたのだろうか…?と思わせた。
「他の方は美味しいと言ってくださったのですが、何分手作りですので味が貴女のお口に合うか分かりませんが…ハッピーバレンタイン、ということで。どうぞ、お受け取りください」
ふふっ、と軽やかな笑いと共に差し出されるチョコ入りの小袋。
…本当にこいつは男なのだろうか…?
あまりの女子力の高さに、再度闇瀬の性別を疑わしく思いながら華懍は差し出された小袋を受け取る。
そしてそこで漸く華懍は、何故闇瀬と二人きりでも緊張しないのかが理解出来た。
無意識の内でだが、異性ではなく、同性に近い目で見ていたのだ。
うむ、これなら確かに納得だ。同期だから、などといった理由も浮かぶし、それらも一因として入るのだろう。
しかし、それ以上に大方を占めるのがこれなのだろう。
「……やっぱあんたは大物だよ、全く…」
まるで毒気が抜かれたように、顔に手を当てれば力なく笑う華懍。
そんな姿を見て首を傾げる闇瀬を見れば、何でもないとでも言いたげに手を横に振って曖昧な笑みを見せてから、ちょっとだけ休憩しようかと提案をする。
勿論、闇瀬に断る理由も無く、「えぇ、良いですよ」と快諾をすれば、席を立ち、給湯場から追加の紅茶をポットに入れ、持って戻ってくる。
そして暫しの間、二人は互いのチョコを摘みながら歓談に耽り、時間を過ごすのであった。




