閑話 星輝く寒空に灯せ、ともに光を
連続で閑話を挟むのはどうかって感じはしますが、うるせぇ!世はクリスマスなんだ!時事ネタ挟まなくてどうすんだよ!?精神でやっていきたいと思います、はい
「…あぁ、そう言えば今日はクリスマスでしたか」
十二月二十五日、彼からすれば何でもない、普段通りの一日である。
今日も今日とて、多くは消費しないが、それでも少なくなってきた日用品を買い足す為に街へと赴いてみれば、どうだろうか?
いつもと違う雰囲気が街を覆い尽くしていた。
景観として側道付近に植えられた木にはイルミネーション等が施され、建物の壁には飾りが吊るされている。
店もクリスマス仕様になっており、ケーキやチキンなどが店前で売られているのもちらほらと見られた。
ほぅ…と白い息を吐き出し、街の景色に少し呑まれて足を止める。
道を歩く人らを見ても、カップルと思わしき者や、家族と思わしき団体が多く、一人で歩いているのが逆に浮いて感じられる程だ。
祝い事…もう長らく、誰かと共に祝ったりした事がありませんね…。
止めていた足を再び動かし、日用品を買い足すのに普段から贔屓にしている店へ向かいながら、言葉にはしないが心の中で呟く。
最後に祝ったのは果たしていつだったか…。
思い出そうとしても、靄が掛かったように記憶が引き出せない。
何とも言えない感覚に、モヤモヤとした気持ちが、少しずつ重なっていく。何処となく気持ち悪いものである。
…まぁ、良いだろう。別に自分自身はキリスト教の教徒でもなければ、信仰している訳でもない。
今日はあの仕事場では珍しく休みだ、精々羽を伸ばす程度で普段と変わらぬ一日を過ごすとしよう。
そんな感じに気持ちを切り替え、スーパーの中へと入り、目的の物を探しながら他に良さそうな物はあるだろうかと物色をしていれば、唐突に背中を叩かれる衝撃が走った。
振り返れば、其処には自身と似たりよったりな格好をした一人の男性が、ニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
「やっぱり、辛気臭そうな背中だと思ったがお前だったか。クックッ、独り身は寂しそうだなぁ?」
「ッつつ…あなたですか、『戦場ヶ原』さん。唐突に背を叩くのは止めなさい、全く…」
思い切り叩かれて、じんじんと痛むのを伝えるように、ジトッとした視線を相手に送りつけてやる。見えてはいないが。
だが、そんな視線を物ともせず、男性_『戦場ヶ原 影似』は逆に肩を小さく竦めて見せた。
「そう釣れねぇ事言うなよ、同期の好として、な? んな事より何してんだ、クリスマスぼっちを楽しむための物でも買いに来てんのか?」
まるで自然な流れと言うように、彼はこちらの肩に腕を回して軽く持たれ掛かってくる。
身長は大体同じ程度なので、屈むような形にはならないが、圧迫感があってちょっと苦しい。
「そんなのではありませんよ、日用品を買いに来ただけです。そう言うあなたこそ、此処へ何しに?」
「んぁ? そりゃお前、スーパーに来てすることなんて買いもん以外に何があんだよ」
こちらの問い掛けに対し、彼はきょとんとした顔をした後ケラケラと笑いながらこちらの背をばしばしと叩いてくる。
彼は常にこんなテンションだ、よく疲れないものである。
「ま、ちょっとな。頼まれ事だ、所謂お使いみたいな。こっちは忙しいからあれ買ってこい、これ買ってこいって言われてな」
「あぁ、あなたの従者にですか」
「おう、俺自慢の従者にな」
ニッと、先程まで浮かべていた人を馬鹿にするような笑みではなく、本当に自慢げな笑みを浮かべて答える彼。
そう、何気に彼は良いとこの出なのだ。
家庭事情は少々複雑らしく、家出をしたらしいが…その時に着いてきたのが、彼を小さな頃から世話をしてきた女性の従者らしい。
それも魔人の。
何とも特殊な家であり、そして奇妙な組み合わせだと常々思う。
奇妙と言えばもう一つ、一度その従者に会ったことがあるのだが、不思議と彼の従者は魔人らしい、人に向けられる敵意や憎悪が感じられないのだ。
長らく人と一緒に居たからなのか、何なのか…。
「それならさっさと買って帰った方が良いでしょう。また要らぬ疑いを掛けられ、絞められてしまいますよ」
「…それもそうだな、んじゃ行くわ。またな、闇瀬」
「えぇ、また」
彼の従者の不思議さを考えるが、どうせ答えなど出てきやしないので切り替え、彼にそう告げる。
彼は少し逡巡した後、その未来が見えたのかちょっと焦った様子で手を軽く振って陳列棚の影へと消える。
小さい頃から世話されていただけあり、従者には頭が上がらないらしい。
従える者に頭の上がらない主人とはこれ如何程に。
変わらぬ仲睦まじさを、その場で見ずとも感じさせる様子に、クスリと小さく笑みを溢してから、自身もまた物色の続きに入った。
* * *
くっ…スーパーの店員や、よく利用する店の人にやり包められてしまった…。
自身の下げる袋の中には、目的の物である日用品の他にクリスマスに因んだ物品や食べ物が入っていた。
やはり普段から言葉や話題を武器に、人と交渉事などを行っている人達だ。
気が付けばあれよあれよと買ってしまっており、当初予定していた重みよりも、袋はだいぶと重量を持っていた。
百歩譲って買うのは良いとしよう、経済やその店を持つ人の力になれたと考えれば割り切れる。
だが、しかしである。
果たしてこの独り身に、クリスマスグッズを処理するには幾分とキツいものがあるのではないだろうか…?
せめて誰かを誘ったりして共に祝うくらいが良いのだろうが、生憎と気軽に呼べるような相手が居るはずも無く。
暫く考え込みながら帰路につき、もう少しで家に着くであろうと言うときに、今日二度目となる自身の足を止めさせる、背を思い切り叩く衝撃が走った。
「よぉ、結局クリぼっちすんのか?」
「上手くやり込まれましてね、どう処理するかに困ってたところですよ」
掛かった声に、この手の主が誰なのか察すれば、そちらを向くことも無く小さなため息混じりに答える。
戦場ヶ原はそんな答えを聞けばケラケラと腹に手を当てて笑い出した。失礼な話である。
「いやぁ、悪ぃ悪ぃ。存外にお前を丸め込んだ奴らはかなりの口達者なんだと思ってよ」
「口が上手いと言った覚えはありませんよ?」
「俺からすりゃ良い勝負だぜ? それならちょっと待ってろ、良い手がある」
「?」
そうして一方的に告げるだけ告げ、彼は「後でお前の家行くからな」と捨て台詞を吐くように言葉を残せば、ちゃっちゃと走って去っていく。
そんな様子をぼーっと見送ってから、相変わらず忙しない人ですね…なんて心で呟いて再び帰路につく。
もうすぐそこまで来ていたので、特に時間が掛かることもなく家に着き、鍵を開けて中へと入り、持っていた荷物をしまっていく。
つい勢いで買ってしまったクリスマスグッズや、調理の必要が無い食べ物などはテーブルの上に置き、一息つくためにコーヒーを淹れる…辺りで、インターホンが軽快なチャイム音を立てて鳴った。
カメラを起動し、誰かを確認すればそこには先程別れた彼と、何故かその従者、そしてこれまた何故か高御門 華懍が映っていた。
『おーい、早く開けろよ。寂しい寂しいお前のために来てやったんだぜ?』
『唐突に呼びつけて何かと思えば…全く、次からは事前に言ってくれないかい?』
『へーへー、機会があって尚且つ覚えてたらな』
インターホン越しに会話をする二人、そして彼の斜め後ろに立ち続ける従者の姿にぱちくりと目を瞬かせるが、漸く理解が追い付けば玄関へ。
そして扉を開ければ、待ってましたと言わんばかりにガッ、と手を掛けて大きく開け放って「邪魔するぜ!」と彼が入ってくる。
「……礼儀ってもんを知らないんじゃないかい、アイツ」
「考えないようにしてますよ、彼を相手にするときは特に。さ、どうぞ。外に居続けては寒いでしょう」
思わずと言った様子で呟く彼女に、ハハハ…と乾いた笑いを溢してから入るのを促す。
彼女は促されるがまま「邪魔するよ」と一言断りを入れて上がり、従者はペコリと一礼をしてから上がっていく。
これで全員なのを確認してから扉を閉め、自身も中へと入る。
戦場ヶ原は既に我が物顔で居間に置かれたソファーの一つを占領しており、高御門は一人用のソファーに、従者は茶葉でも持ってきていたのか、人数分のお茶を用意していた。
どうでも良いが、何故この家の主人から聞かずとも湯呑みを置いてる場所が分かったのだろうか…家事をする者の勘みたいなものでも働いたのか…。
うーん、不思議なものである。
食器類を勝手に使われるのは特に気にしないので、放っておいても別に良さそうだと判断をすれば自身もまたソファーに腰掛けた。
「私の家を教えたのは、一度だけだというのに…覚えていたとは驚きですよ。して、今日来たのは?」
「おいおい、みなまで言わせんなよ。同期組で今日は楽しもうぜ、物はあるんだろ? タダ飯食わせろ」
「あんたが未だに良いとこの出だなんて信じられないよ…此処に来たあたいが言うのもなんだけど、闇瀬も遠慮みたいなもんとかしてんなら、そんなの取っ払ってガツンと言ったほうが良いよ?」
「あはは、お気遣いだけ頂いておきますよ。実際、物はありますし、処理に困ってたのです。それのお手伝いをして頂けるのであれば、有難いですよ」
「…そういうなら、まぁ…あたいは多くは言わないよ」
こちらの答えに、彼女は納得半分、何だかなぁ…と言ったのが半分といった様子の顔をする。
そんな表情に苦笑を浮かべていれば、いつの間にか茶を淹れ終わり、湯気が上る湯呑みを各個人の前へと従者が置いていく。
そして置き終わればそのまま流れるように戦場ヶ原の隣へと座った。
そんな様子を見れば、やはりクリスマスは彼と彼女のような者が誰の邪魔なく、その日を過ごすものでは…?なんて考える。
どうやら高御門も同じことを考えたらしい、そんな表情を浮かべており、見えてないが視線は感じたのだろう、こちらを向き、小さく苦笑を溢していた。
「…さて、お三人方は其処で歓談のほどを。私は準備してきますので」
「おう、飛び切りのを期待してるぜ」
そう切り出し、立ち上がれば従者と高御門が同じく立ち上がろうとするが、それを手で制止する。
本来ならお茶も家主である自身が出すものだが、従者の彼女にしてもらったのだ。
ならばせめて料理くらいは自身で用意したい。
彼は何一つとしてする気は無いのか、寛いだままで手をひらひらと振っていた。
全く…なんて言葉を残してからキッチンへと立てば、慣れた手付きで料理を用意していく。
流石に今日までの日々を一人で過ごしてきたのだ、料理を含めた家事は人並みには出来ると自負はしている。
従者である彼女には負けるだろうが…。
そうしてある程度時間を掛けて自身が作った料理の他に、街で買った食べ物も手際よくテーブルへと並べていく。
後は簡単な飾り付けだが…こういった時、操作系の神威は便利なものである。
壁の少し高いところにも容易に施し、場を整えれば待たせていた三人を呼ぶ。
「へぇ、こりゃ凄いな。一瞬でこんな部屋を作り出すか」
「あんたの操作系、物を掴めるのは知ってたけどこんなことも出来るなんて…便利で良さそうだねぇ、ホント」
「フフッ、少しでも驚いて頂けたのなら、一寸したサプライズとして用意した甲斐がありましたね。さ、冷めないうちに戴きましょう」
部屋へ入り、其々が思い思いの感想を呟くのを聞けば、満足げに笑い、椅子に座るのを促す。
そして食事の挨拶を済ませれば、其々がこれと思ったものを取っては口へと運び、食事を始めた。
闇瀬の料理に舌鼓を打ち、時間が経つのも忘れ、四人は歓談に花を咲かせていく。
普段と同じ、何気ない日々を過ごすつもりだった闇瀬だったが、この日ばかりは特別な騒がしい一日を、数少ない友人達からプレゼントされ、終えるのであった。




