閑話 人知れず、しかして其処にあるもの達(2)
続きみたいなもんです。ちょっと長いなと思って分割したんですけど、短くなってしまった感はある。
「…って、事で…改めて二級の束払だ。色々と大変だろうが、よろしく頼む」
唐突に二人を預かる身となってしまった、二十歳後半に差し掛かろうとする見た目の男性_亭号『束払』は、臨時の部下となる二人を見やる。
一人は女性で、自分と年が近いものを感じるのだが、どうも美人でうら若さを嫌というほど浴びせられている。
何かこう、凄く老けた気分にさせられるな。
もう一人は、こう…凄く怪しい感じの青年だ。
黒一辺倒の服に身を包んで、フードも被ってるし…そういう年頃の子なのだろうか…?
こちらの言葉に、其々が「はい!」「よろしくさん」と返事を返してくれる。
うーん…こうして見ても真反対な感じの二人だなぁ…。
そんな事を思い、考えしまったからか、自然とちょっと引きつった感じの笑みが薄く浮かんでしまう。
「ま、リラックスしようぜ? 我らがリーダーさんよ、顔が引きつってんぞ」
気取られないくらいの小さな反応、だと自分は思っていたが、どうやら男の方は思っていたよりも目敏いらしい。
ニヤニヤと薄く笑みを浮かべて指摘をしてきた。
「俺は見た通り戦闘が豊富って訳でもない新人さんなんだ。無茶しない程度に頼むよ」
「む、真面目に仕事するんですよ? そんな調子じゃ痛い目見ますからね!」
両手を挙げ、わざとらしくヒラヒラと手を振ってアピールをする彼。
そんな行動に思うところがあったのか、食って掛かる彼女。
……前途多難そうだ…。
「ま、自己紹介出来るほどのもんなんて何もないが、一応、な。影法師、三級。改めてよろしくさん」
「しき__あ、空踏です! よろしくお願いします!」
両名が同じように亭号を名乗った所で束払は頷く。
さて、何をするべきか…と、考えた後に二人を見て、ふと知らねばならない事を知らないことに気付く。
「そう言えば二人の神威はどう言ったものなんだ?」
「はい! 私は空を飛べます!」
束払の質問に、真っ先に手を上げて反応を示したのは空踏であった。
むふー!と自慢げに胸を張っているが、あまりにも抽象的すぎる神威の内容に苦笑を一つ浮かべる。
「随分と抽象的だな、制限も何も無く飛び続けれんのか? 便利なこった、何かの拍子でずっこけて飛んで、此処からだけでなく、大気圏からも逃げないことを願うばかりだな」
「んなっ!? そ、そんな事はしないです!」
相も変わらず、人を食ったようなニヤニヤとした笑みを浮かべ続けながら、揚げ足を取る影法師に、指摘をされてムッとした表情を浮かべる空踏。
「ごほん! …えっと、空中を走り抜けることが出来ます! 上下左右の制限はなくて、動ける範囲は大体十メートルくらい、かな? こんな感じです!」
仕切り直しと言うように咳払いをし、漠然としたものではなく、まだしっかりとした内容を教えてくれた。
そして実際に神威を発動して実演もして見せてくれた。
確かに十メートル程の範囲で、上下左右に空中を自由に動き回っている。
浮く、と言うよりも、どちらかと言えば空中を蹴って移動する感じだろうか。
戦闘に応用も効きそうだが、何よりも『空から見る』というのは大きなアドバンテージになりうる。奇襲にも使えるだろう。
存外に使い勝手が悪くなさそうな神威だ。
隣で聞いていた彼も、少し表情が変わり、目の色も若干変わったように感じられる。
同じような思考に至ったのだろうか?もしそうであれば、彼も中々の者になりそうだ。
しかし……着ている服が和服なので色々と危うい、何がとは敢えて言わないでおくが、ホントに危うい。
何か事故とか起きなければ良いのだが…。
「うわぁっ!?」
「あ…? わぶっ?!」
そんな心配をしてしまったからだろうか…。
空中ダッシュをしていた彼女は、足が縺れたのか、わたわたと手をバタつかせた後、そのまま影法師の方へと落下した。
「あったたた…あ、ご、ごめんなさい! その、えっと、大丈夫ですか!?」
見事、彼の上に自由落下を果たした彼女は、相手を押し倒し、勢いのまま体を押し付ける形になっていた。
図らずとも彼の顔は彼女の胸に埋もれており…まぁ、所謂ラッキーなんちゃら、というやつだ。
いや、あの勢いで落ちてきたからな…アンラッキーの方だろうか…頭ぶつけてたし彼、死んでたりしないか…?
あ、彼女の肩を叩いてる。生きてはいたらしい。
そして彼は彼女を無理くり上から退かせば、大きく肩を上下に動かし、荒い呼吸を繰り返しながら片手を後頭部に当てていた。
「ブハッ!! っはぁ、はぁ…! テメ、敵を殺る前に味方を殺す気か…! 頭部強打に続けて窒息狙いだとか、スパイじゃねぇだろうな!?」
あぁ…どうやら彼は地面に頭を強かにぶつけるだけでなく、呼吸器官をも彼女の体によって塞がれていたらしい。
そりゃ血走って喧嘩腰に近い、荒々しい言葉にもなるだろう。
ニヤニヤ浮かべていた薄ら笑いは鳴りを潜め、今は涙目に彼女を睨む少し悲しげな、しかしラッキーな男がそこに居た。
二人ともが漸く落ち着いた辺りで、影法師は次は自分の番だと流れで察したのか、誰かが促すよりも前に口を開いた。
「……はぁ…色々あったが、取り敢えず。俺の神威は『そいつに成る』ものだ、上手く使ってくれよ?」
「成る…ってのは、つまりどういうことだ?」
「どういうことも何も、そうとしか言えねえよ。姿形、声から何もかも、そいつの持つ特異な力を除いて、全てそっくりそのまま姿を変えれる。細部に至るまでな。こんな感じにな」
淡々と内容を語りながら、彼は唐突に被っていたフードを顔が見えなくなる程にグッと引っ張って下ろす。
そして下ろす前と同じくらいの位置にフードを戻せば、そこにはニヤニヤと薄ら笑みを浮かべる空踏が居た。
模倣された本物の空踏は目を白黒させて驚いており、そんな様子を見た、化けている方の空踏は腹を抱えて笑い出す。
呆気に取られていたが、漸くそこで意識を戻した束払は改めて影法師を見やる。
成る程…細部に至るまで、と豪語するだけはある。
傍から見ても、横に立つ空踏と全くもって瓜二つなのだ。
つまりこれが指すのは__
「__潜入型、か」
「大正解」
使い道を当てれば、わざとらしく投げキッスを飛ばしてくる偽空踏。
それを見てボッ、と顔を赤くし、バシバシと叩く本物の空踏。
そんな二人を差し置いて、この後の行動を考える。
このメンバーで一番良い動きは……。
「索敵して、情報を部隊に流しながら敵を切り伏せていくとしよう。異論は?」
「あ、ありません!」
「ねぇな」
「よし、では行こう。先陣は任せてくれ」
* * *
「なんだぁ、ありゃ………?」
ポツリと一人、そんなことを呟くのはイヤリングをした金髪の魔人である青年。
彼はどうやら己を狙ってきた悪魔や、後から湧いて出てきた退魔師やらの追っ掛けを見事に逃げ切り、屋外である滑走路に出て残すはとんずらを決め込むのみ、と言うところで遠目に何かが写って足を止めていた。
なんだろうか?と、よく目を凝らし、その実態を暴いてやろうとする。
人間と違って便利なとこは、視力などの五感が鋭く、もしくは強化されていることだろう。
そんな恩恵もあって、見れた光景は果たして悪魔と退魔師の集団だった。
……うん、俺には何一つとして関係の無い話だな。さっさと逃げるに限る。
そう結論づけてしまえば、彼はちゃっちゃと止めていた足を動かし始め、外へと逃亡を計るのであった。
走れ、名のあるモブ達よ、馬車馬の如く
モブ達「キレっそ」




