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闇系退魔師の受難  作者: 名無しの劣等者
Re:Remember
21/43

陥落

かなり遅れて申し訳ない…。

こっちはもう一つのと比べてカロリーが高過ぎて、ね…?

 4月の中頃。春の麗らかな日差しの下、人々は新たな出会いを果たしたり、別れに涙したりすることが多い、そんな季節の月。


 深川神宮にて職務を果たす者達の耳に、朝からけたたましくサイレン音が鳴り響くのが届く。そして、突如として彼らに齎された報せ。



 ___呪術師と悪魔の手によって羽田空港は占拠された。



 緊迫した空気が一気に流れ、其々が成すべきことをするべく、慌ただしく動き始めた。

 状況を確認すべく、斥候として駆け出す者、逐一流れる情報に統制を敷く者、来たるべく戦闘に備えて準備をする者。


 退魔師とは、悪魔を討伐することを生業としている者達だが人命を軽視している連中の集まりという訳ではない。

 戦闘時には少なからず、巻き込まれる者達も居ることだろう。それを見越し、回復の神威を扱える者も招集される。


 そうして5分もせずに、突入するための部隊が複数編成された。

 その中に彼女_高御門華懍が居るのは分かる。彼女は実力、実績、共にこの作戦に参加するに申し分無いからだ。

 だが、何故…何故私自身もこの部隊に編成されているのか、疑問が止まらない。


「ほら、いつまでボケっとしてるんだい、行くよ」


 作戦の概要や状況など、一通りの説明が終わり、部隊の者達が移動用の車へと歩いていく。車は以前の任務でも乗った装甲車両である。


 彼女は突っ立っている自身の背中をバシンッ!と、勢い良く叩いて動くことを促してきた。

 ヒリヒリと痛む背中に涙目で擦りながら、渋々と後を追い掛ける。ホントに何でこうなったのか…。


 …教官辺りが一枚噛んでそうだ……。

 戻ったらしこたま文句を言ってやるとしよう。



 *  *  *



 あれからまた、荒いと言う言葉で表すには、あまりにも生温いくらいの酷い運転に揺られ、グロッキーな状態で羽田空港へと着いた。


 ヨロヨロと生まれたての子鹿のような足で車から降り立ち、現場を目にしてまず真っ先に感じたのは強い違和感。


 普段なら飛行機が飛び立ったり、次の飛行まで待機してる機体が滑走路端に見えたりする駐車場なのだが、今目の前にはそれらを全てすっぽりと覆い隠す、ドーム状の黒い()()()()()()()が張られているのだ。


「…結界ですか」


 ポツリと呟いた言葉に、いつの間にやら隣に居た華懍が反応を示した。


「へぇ、一目見てこれの正体に気付くかい。やっぱあんた、階級詐欺になるからさっさと昇級しちまいな」


「お断りしますよ、傍面倒な事に足を突っ込みたくないですから」


「もうあんたは十分突っ込んでるから安心しな」


 カラカラと快活に笑う彼女は、何度も見たことのある槍を肩に担ぎ、先に集合のかけられた場所へと歩いていく。そしてこちらよりも早く説明を一通り聞けば、そのまま突っ込んで行ってしまった。


 作戦として、彼女は遊撃隊の一人であり、自身は援護や民間人の救助を主とする後衛部隊。

 ホントなら気になることがあるので、彼女の援護に回りたいところではあるが…こちらはこちらで、そんな余裕は見られなさそうだ。


 辺りを見れば、既にニュースで世間に広まったのだろう。

 異常事態を一目見ようと野次馬が集まってきているのが見て取れる。何とも気楽なものだ、邪魔してくれなければ良いが…。


 一抹の不安を抱きつつ、集合をかけられた場所へ自身も歩いていく。


 其処には疲れた様子が体に完全に張り付いてしまったのであろう退魔師の男性が立っており、集まった皆に説明をしていた。


 確か名前は佐々木と言ったか…。


「斥候と遊撃の方にも先にお伝えしましたが…結界は羽田空港の滑走路を含めた全てをすっぽりと覆う大きさで、結界の中では電波が阻害され通信機器は使えません。…この結界は随分特殊で、私がいるこの地点…ほら、結界のこのあたり…横幅は10m程度でしょうか。ここだけ赤くなっていますよね? ここが出入り口です。結界の周囲を全て調べましたが入れるのはここだけでした」


 どうやら事前に調べれる限りの事は調べてくれていたらしい。一から調べるのと、途中から調べるのでは手間の多さなどが大きく違うので有り難い限りである。


「そしてもう一点、この結界は退魔師はこの出入り口から自由に出入りすることができますが、一般人は入る事ができても出ることができません。以上のことから、皆さんの目的は空港の敷地内に蔓延る悪魔を駆除すること、そして結界を張っている呪術師を突き止め、結界を上げて一般人を救出することの二つとなります」


 大まかだが、とても分かりやすい説明を受ければ、集合していた皆はコクリと一つ頷き、動きのみで了解の意を示す。

 全員の反応を見てから、「それと」と言葉を付け足した。


「加えて、天誠神社の三級退魔師、墨綴栄という女性が数日前から行方不明になっており、この事件に巻き込まれている可能性が高いとのこと。彼女の救出もよろしくお願いします。……最後に、夕顔さんからの伝言です。」


 夕顔……とてもではないが、名前に感じられないので考えられるとすれば亭号だろう。


 亭号とは、簡単に言えばその退魔師を表す二つ名みたいなものである。

 大抵が、その者が扱う神威に因んだものを付ける事が多いが、伝統亭号と呼ばれる昔から受け継がれているものも存在する。

 そして基本的に亭号は他者と被ることがない。この亭号はつまり誰それ、と言ったように特定が容易にできる。


 夕顔を亭号としている者、自身の記憶に違いがなければ退魔師界でも、テレビ界でも、とんでもない大物だったはずだ…。


 こちらの思考など気にする素振りも見せず、淡々と連絡事項を述べていく佐々木。彼の頭上で一羽のカラスがばさばさと羽ばたいた。


「『まず第三ターミナルと第一ターミナルを目指せ』、とのことです。では、私からの連絡は以上です。どうか、御武運を」


 説明が終わった後、慌ただしいまでに急いで準備が済まされれば、斥候や戦闘を行う前衛部隊に遅れるようにして、後衛部隊も羽田空港へと突っ込んで行った。




 斥候や遊撃隊が羽田空港へと侵入を果たして少し経った頃合い。


 建物の屋上には一つの小さな人影が、凪ぐ風に着物を揺らめかせながら立っていた。


 その人影は、少女の姿をしていた。

 空港の屋上に着物を着た少女が一人、というだけでも違和感は大きいものだが、額に左右非対称の小さな角を生やしており、一際の異彩さを放っている。


 そんな少女は眼下の喧騒を眺めれば楽しげにカラカラと小さく笑いを溢す。


「…此度の争い、今までの小競り合いとは違い、中々に荒れそうじゃな…はて、見所のあるものは此処に居るか、見定めてみようかの」


 誰に聞かせる訳でもない独り言を呟けば、カランコロンと下駄を鳴らし、手に持つボロボロの赤い唐傘を差して、クルクルと回しながらその場を後にした。



 様々な思惑が飛び交う羽田空港、呪術師と悪魔、そして退魔師との戦いの火蓋が今切って落とされた__。

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