討伐任務
「えっ…出現した悪魔の討伐、ですか…?」
職場に来てみれば、朝一番に言われたあまり聞きたくない話に、隠しもせず少し渋った様子を見せる。
今自身の前には、この話を持ち掛けてくる以前戦った教官、そしてその横には黙して華懍が立っていた。
「あぁ、数も多くなく、強さもそれ程だ。手に余ることは無いだろう」
「それならば彼女に行かせれば良いのでは? 実力は確かでしょう」
「そうするつもりだが、一緒に出向く奴等が居なくてな。大抵が出払ってるとこだ。幾ら現場に出ない貴様であっても、規約は覚えているだろう?」
「つまり私はただの数合わせという事ですか」
正解だと言うように教官の口角が薄く吊り上がる。
成る程、それならこちらに声が掛かってくるのも道理というわけだ。
三級が単体で任務に出るのを禁じられているのは生存確率を少しでも上げるため。そして仮に殺られたとしても、片側が生き残れば報告も出来る。
ただ、まぁ…その点、彼女は自身とは違って三級という同じ階級でありながら何度も戦地へも向かって経験を積んでいる。
実力も新兵とは言えぬものを持っているし、下手な失敗など考えるほうが難しい。
実力、経験、実績、この三つを評しても二級に相当するが、現階級は三級のまま。試験が実施されてないので、昇級はまだ少し先だと聞く。
経験をろくに積んでない私のような新兵とは違う彼女の、重い足枷となる規約をすり抜けるための措置、といえば良いだろうか。
__だが、それを踏まえた上で解せないのは…。
「それならば私よりもあなたの方が適任でしょう。何よりも彼女の成長が間近で見られる」
数合わせのみならば、彼ですら出来るはずだ。
何せ同行するのみなのだから、戦う必要性も無いことを考えれば楽なものである。
それに教官という立場上、新兵の成長度はなるべく見ることも仕事の内だろう。
暗に「何を考えている…?」という問いに対して、教官は特に取り合う事もなく肩を小さく竦めて見せる。
「俺は既に一線を退いている、今更出しゃばるようなとこは何処にもありやしない。それに、生憎と俺は忙しくてな。何処かの誰かとの一件で、多少だが責任を取らされる形になったもんでな。プラスで数日休んだ分の溜まった仕事もある」
「おや、確かにそれは大変そうですね。ご愁傷様です」
明らかに自身の事を指しているであろう言葉を聞くが、他人事のようにさらりと流して言葉を返す。
後で調べてみて分かったのだが、彼との模擬戦は彼自身が単独で起こしたものなので、自身に責任だとかは無かった。
凡そ、こちらが負うものも一手に引き受けてくれたのだろう。有難い限りだ。
だからこそ、礼として返すならばこの対応が正解だろう。
「では、念のための確認として。華懍さんは私が同行するのは構わない、という事でよろしいですか?」
「あぁ、構わないよ。其処らの下手な奴らよりあんたの方が余程信頼も出来るし、背も任せれる」
ここまで目を閉じて腕を組み、だんまりを決め込んでいた彼女だったが、こちらが声を掛ければ目を開け、少し獰猛さが垣間見えるようなニヤリとした笑みを浮かべる。
「……過度な期待に応えれるよう善処はさせていただきますよ…」
「過度なもんかい、ちゃんとした評価だよ。直接手合わせしたんだ、その上でのもんなんだから、しゃんとしな。あんたは他よりも強いよ、勿論あたしよりもね」
こうも真っ向から褒められると少し気恥ずかしいものがある。よく彼女は恥ずかしげもなく言い切れるものだ。
「首席に褒められるとは光栄ですね」
頬を人差し指でぽりぽりと掻きながら、否定するのも憚れたので根負けしたに近い形で受け取る。
そんな様子の自身に、何故か彼女は少し煮えきらないような表情を見せて口を開く。
「それだって本来は_」
「さ、話は済みましたね。準備をしてくるのでお待ちの程を」
何を言いたいのか瞬時に理解をすれば、彼女の言葉を強引に遮り、背を向けて自身に充てがわれた机へと歩く。
彼女の言いたかった言葉は、本来の首席は自分ではなくお前だ、という事だろう。
実のところ彼女との手合わせの後、私は教官に対し、彼女に負けたと報告を行った。
勿論の事だが独断ではない。ちゃんと彼女と話し合い、了承は得た上でのものだ。彼女はかなり不服そうではあったが。
それもあり、表向きの自身の評価は彼女より下という事になっている。
更にはこうして事務で後ろへと引っ込んでおり、今では私を覚えている同期を探すのが苦労するのではないだろうか。
まぁ、表面上ではこうだが、書類処理をした教官にはもうバレていることだろうし、今となっては隠さなくても良いだろうが。
そうしてパッパと支度を終えれば、再び二人の元へと足を運ぶ。
支度、と言っても実戦なんてしたことがないので用意するものはたかが知れている。自身はあくまで数合わせなのだ。
「お待たせしました、では向かいましょうか。案内はお任せ致しますよ」
「? 随分と早かったね、それにかなり身軽な感じだけど荷物は良いのかい?」
「えぇ、数合わせ兼支援であれば、全てはこの身で足りますから」
「言うもんだねぇ、当てにしてるよ」
「送迎用の車は手配済みだ、表に停まっているだろう、それに乗っていけ。任務に関する詳しい話も運転手に聞けば良い。では武運を祈る」
* * *
「__まさか、送迎の車が装甲車だとは恐れ入る限りですよ…うぷっ……」
現場近くに着くなり、私は近くに生えている木に手を付き、グロッキーな状態から少しでも体調を戻そうと休んでいた。
表に停まっていると聞いた車は、敵に攻撃されても優に凌げる装甲が側面などに着けられた、一般のものとは大きく逸脱したものだった。
最初はそれに度肝を抜かれたが、それだけに終わることはなかった。
運転手の運転があまりにも荒かったのだ。
確かに現場には一分一秒でも早く着くのが理想的である。
だが、だからといって公道を暴走行為とも見られる速度で走り抜けるのは如何なものか。
そしてそれを容認してる警察もどうなのか…。
「全く情けないねぇ、あんなのどうってことないだろうに。絶叫マシンとか苦手なタイプかい?あんたは」
「あれを絶叫マシンと同等に扱うのは多大な疑問が出てきますよ…」
こちらの様子を呆れたような様子で見てくる彼女に対し、体調がある程度回復してきたので体を起こして反論をする。
あれを絶叫マシンと認めたらダメな気がする、確実に。
「オホン…それで、目標はあれらですか」
「あぁ、間違いなさそうだね。小鬼型だ、話で聞いた特徴も合ってる」
気を取り直す様に一つ咳払いをして、視線を眼下の村へと下ろす。
その村には人の気配は無く、代わりとして幾数かの小さな人型の生き物が歩いていた。
同じようにして視線を下ろした彼女は頷いて同調の意を示す。
名称は小鬼、通称を『ガキ』。
昔の妖怪の一つの名を付けられたその悪魔は、日本で伝え聞く様な鬼の姿ではなく、大抵が西洋の鬼の様な姿かたちをしている。
その悪魔達はというと、何か餌になるような物が無いかと物色をしたり、道の真ん中で寝たり、破壊衝動があるのか家を殴り蹴りの暴行で壊したりと様々な行動をしていた。
行動はバラバラであるが、そのどれもが共通して我が物顔で跋扈しているのが見られる。
「ふむ、では手筈通りに。支援はお任せください。悪魔しか居ないようですし、被害なども考えず暴れても問題はないですよ」
「まるであたしが周りや被害の事を一切考慮せずに暴れるやつみたいな言い方だね」
「捉え方次第ですよ」
彼女は「どーだか」と一言呟いて肩を竦めた後、自身の得物である槍を片手にそのままヒョイッと飛び降りる。
通常の人間なら明らか助かるような高さではないが、彼女は器用に壁の斜面を滑るように降りていき、難なく着地して見せた。
あいも変わらず人間離れした運動神経をしている彼女に苦笑を浮かべながら見ていれば、こちらの視線に気付くこともなく、彼女はそのままタッタッと村に向けて駆けていく。
その様子を最後まで眺め、このままでも大丈夫そうだと思い、自身も下へと降りようとした時__
「__ん? ……あれは、少しまずそうですね…」
ふと視界端に写ったものへと視線を滑らし、ゆらりと揺れる明らかに小鬼ではない大きな影を確認すれば急いで彼女の元へと向かうために崖から飛び降りた。




