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俺と首輪の協騒曲  作者: ふぁふぁに~る
熱風と離別の交響曲
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戦の都市

 オレが目指していたテイトってのは、にいちゃんが言うには帝の都、つまり皇帝が収めている都の事らしい。


 そんな帝都の周りには、デカくてジグザグな防壁がババンとそびえたっている。


「うっわ、でけえなぁ……んで、門は……」


 あった。壁の真ん中に入口がある。


 凝った装飾も何もない、淡白で大きな四角形。オレはそこへと足を進めながら、にいちゃんに言われたことを口ずさんだ。


「えっと、言ってること分かるかたしかめて……それから、これを売るばしょを、きく……」


 右手で持ったワームの頭と、左手で引きずるワームの身体。


 ずりずりと地面を引きずって来たから俺の通った場所には線状の跡が出来ているけど、風で舞い上がった砂に覆われてある程度先からは消えてしまっている。


 こんなところで迷ったら、誰にも見つけられる事ないんだろうな。そんでそのまま死んじまうんだ。


 ……こっわ。考えるとゾッとしてきた。


 にしても髪の毛と尻尾に砂が入って気持ち悪いな……早く風呂に入りたい。そのためにもあそこに入らねえと。


───


 それから少し歩いて、ようやく入口に辿り着く。


 近くで見るとやっぱり立派な門だ。ガッチリしてて、ちょっとの事じゃ壊れそうにない。


 これ、何で出来てるんだろうな? コンクリートじゃねえし、石……でもねえ、金属っぽいけど鉄って感じでもねえし……。


「おい坊主、お前さんどっから来た」


「……ん?」


「んじゃねえよ」


 オレが眺めていると門の隣の小さな建物、窓口みたいなところから男の声が飛んでくる。


 見ると、そこにいたのは背がデカいオッサンだ。頭の半分には髪が無くて、もう半分は濃い赤色の髪を縛った面白い髪形をしていた。


 あと面白いのが、その耳だ。


「……オッサン、その耳」


「あ゛? んだよ何かおかしいか。普通のヴィードの耳だろ?」


「ヴィード?」


「……変なガキだなぁ、お前さんだってヴィードじゃねえか、しかも俺より血が濃いな」


「……」


 オッサンの耳は人間と同じ位置にあるけれど、その先端からはフサフサの気が生えていた。


 付け根は人なのに、先端は獣。不思議な作りの耳に対しての質問に帰って来たのはそんな答えだ。


 しかもオレもヴィード……獣人(ヴィード)って事か?


「……坊主、お前さん何しに来たんだ」


 オレが頭の中でそう整理していると、またもやオッサンが話しかけて来る。ってか言葉ちゃんと通じてるっぽいな。


 あ、そうだ。オレ街に入らないと……えっと。


「これ売れるところどこだ」


「は?」


「これ、どこで売れるんだ?」


「……お前さん、会話下手か?」


 いや、だってにいちゃん意外とあんまり話してなかったし……。


 でも多分、俺はこのオッサンが言うみたいに会話が下手だ。だって今までそんな会話が大事なもんだって思ってなかったんだから。


 家でも道場でも学校でも、オレはあんまり喋る方じゃなかった。道場の先輩に生意気だって言われてこともある。


 それが良くない事だってのは分かってるけど、けどさ……オレ、にいちゃん以外にあんまり興味を持てないんだ。


「まあいい、そういうやつはいるからな。でだ、そいつを売りたいってか?」


「うん」


「そのスヴェーラ、坊主が狩ったのか」


「スヴェーラ? これのなまえ?」


「ああそうだよ、そいつはスヴェーラってんだ。新米どもが良く食い殺されてる害獣よ」


「うれるの?」


「ああ、軍の所に持ってきゃ買い取ってもらえるだろうぜ」


 そう言って門の先を指さした。オレも指の先を見つめる。


「あれだ、見えるか? あの赤い旗の建物だ」


「ん」


「アイツが軍の買取所、わかったか? わかったならさっさと行け」


「……え?」


「どうしたよ、んな不思議そうな顔して」


 入って良いの……? いや、だってここって皇帝が住んでる都なんだろ? 審査か何かあるんじゃ……。


「はいって、いいの?」


「ああ、さては坊主、外からの流れ者だなぁ? うちの国は外の軟弱な奴らとはちげぇんだ」


「……?」


「うちの国はな、強い奴ほど偉い。それが絶対の掟だ。犯罪を起こす奴ってのはなぁ、大体が狂った奴か弱者なんだよ。


 だからな? そういう弱くて貧しい奴は勝手に野垂れ死ぬ、他の国からの暗殺者とかは、そもそも暗殺対象が自分で片づける。


 審査? んなもんいるかよ、どうせ力ねえ奴らはスラムに落ちてくんだ、この国はスラムを見捨ててる、関係ねえんだ」


「……そっか」


 オレはそう答える事しかできない。


 全然、オレの価値観と違う。だってテレビとかでは人が死んだらまずニュースになるし、学校では人に優しくしなさいってよく言われる。


 オレはピンと来てなかったけど、それが当たり前の事だって思って育っては来たんだ。


 でも、ここでは違うらしい。ここから一歩踏み込めば、オレもその世界に踏み入れるって事になる。


 何だか凄く……。


「……おもしろそう」


「っ……坊主、お前さん……」


 だってさ、つまりこの街だと突然でっかい奴に絡まれることがあるかもしれないって事だろ?


 そしたらオレはそいつと喧嘩して良いわけだ、人を、殴っても良いわけだ。


「……いいんだ、許されるんだ……」


 ずっと我慢してきた。


 唯一にいちゃんの前でだけはそういう気持ちは湧かなかったけど、オレの事を分かりもしないくせに分かったような事言ってくる学校の先生も、オレに戦う方法ばっかり教えて本気でやらせてくれない道場の師匠も……。


 オレの事を全然見てくれない両親や、オレの事を目の敵にする道場の先輩……ああ、思い出すだけで嫌になる。


「はいっていいの?」


「あ、ああ、さっさと入ってくれ。門番は忙しいんだよ」


 なんで少しだけ頬を引き攣らせてんだこのオッサン。まあ、別に良いけど。


 ってか忙しいってなんだ、さっきまで散々オレに色々喋ってくれてたじゃんかよ。オレから聞いたわけじゃないけど、色々助かったからまあ良いか。


 オレは門番のオッサンから目を逸らし門の奥へと目を向ける。


 よくアラジンの挿絵とかで見る、古エジプトって感じの風景。


 にいちゃんが居ないのは凄く寂しい、にいちゃんと一緒にこの景色を見たかった。


 でも、入らないと始まらないし、にいちゃんと再会できるその日までオレは生活していかなきゃいけないんだ。


 門の中、帝都へとオレは足を踏み入れる。


 外の砂漠とは別世界、行きかう民衆飛び交う怒号。なのに荒れぬ街模様。


 熱風は相変わらず吹いているのに、それがなんだか今までとは全く違うものに感じられて、自然と口角が上がるのを感じた。


「……はぁっ、よし」


 にいちゃん、オレ頑張るよ。そんでにいちゃんが迎えに来てくれた時、立派になっててびっくりさせてやるんだ。

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