7.教育係、奴隷と初対面
「たしかこっちの方だった気が…」
寝落ちる前に案内された場所を思い出しながら商館を探索する。
でかい屋敷ってなぜこうも似たような風景が続くのだろうか。廊下もやたらと長い。
「やっぱこんなでかいとこに住むのは性に合わないんだろうな。庶民が染み付いてるわ」
空腹を紛らわすために独り言も増える。
決して廊下が薄暗く不気味だからではない。決して。
食堂目指して進んでいくと案内された時に見たような気がする場所に出てきた。
「お、ここ見たことあるな。こっちであってそうだな」
昼間の記憶を掘り起こして食堂があると思われる方に向かおうとした時にそれは現れた。
「あのー…」
「うぉぉああぁぁぁ!!!???」
「ひやぁぁぁぁ!?」
ビックリした!なに!?誰!?
慌てて辺りを見回してたがなにもいない。
「え、まさかね、幽霊とかそんなわけないよね」
ビビってるわけではない。幽霊なんているわけないのさ。
けどこれ以上は今日はいいだろうよし、部屋で寝よう。
部屋に戻る決意を秒でして振り返ると小さく丸まっている物体があった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいいいい」
なにかに向かってぶつぶつと誤っていた。
なにこれ怖い。
「あ、あのー」
「ひゃい!?」
恐る恐る声をかけると丸まってたものがピシッと伸びた。というか人だった。
目を硬く瞑って震えている。
というかさっきの声はこの子だろうか。そして俺の悲鳴で怖がらせてしまったのだろうか。
もしそうならとても申し訳ない。
「ご、ごめんな。さっき声かけてくれたのは君か?」
「はい…そうです…」
まだ目を瞑ったままプルプルと震えていた。
頭についてるネコミミも相まって小動物感がすごい。そして罪悪感もすごい。
「大きな声を出してすまなかった。声をかけられると思ってなくてビックリしただけなんだよ」
「い、いえ、こちらこそ驚かせてしまい申し訳ございませんでした…謝りますのでどうかお許しください…」
「いや、許すもなにも俺の方が悪いし…」
罪悪感がハンパない。
どうしたものかと震える少女に目を向ける。すると左肩に見慣れない紋様が刻まれていることに気がついた。
召喚されてすぐのころ、この世界のことを知ろうと本を読み漁っていた時に見た記憶がある。
「そうか…君奴隷か…」
そう呟くと少女は肩をピクリと震わせて縮こまってしまった。
(参った…どうしていいかわかんねえ…)
悩んだ挙句俺は彼女の頭に手を乗せた。
乗せた途端に大きく体が跳ねて震えが大きくなった。
失敗したかもしれない。なるべく怖がらないように…
「だ、大丈夫。俺は怒ってないし君を罰するつもりもないよ。許してほしいと言うなら許すよ。けど君が謝ることはなにもないから」
そう言って優しく頭を撫でた。
「え…」
少女は今度は大きく目を開いて俺を見上げた。
硬く瞑っていた時にはわからなかったが大きな綺麗な目をしていた。
着ている服はボロ布で体は決して綺麗とはいえないだろうが。
「落ち着いたかな?ほんとに脅かしてしまってごめんな」
謝りつつ彼女を立たせてやる。
改めて見るとやはり小さかった。6、7歳くらいだろうか。
ネコ耳だと思っていたが尻尾を見ると猫とは思えないほどの毛の量と太さだったため、狐か犬の亜人なのだろう。
こんな小さな子も奴隷として売られている事実に吐き気がするがこの世界ではこれが普通のことなのだ。認めたくなくても受け入れるしかない。
「あ、ありがとうございます」
「いいよ。悪いのは俺だしな。俺、吾妻恭介って言うんだ。君の名前は?」
「タマキです…」
「タマキちゃんね。よろしくね。それでタマキちゃんはこんなとこでどうしたの?」
「あ、…っとトイレに行った帰りにアズマさん…じゃなくてアズマ様を見かけたのでどこに行くのかなと気になって」
そんでついてきて声をかけたと。たしかにトイレっぽいとこは通った気がする。
そこからここまで気づかれずについてきたのかこの子…昨日まで一応ダンジョンに潜ってた身なのに気づかないとは…情けなくて死にたくなる。
「そうなのか。俺、今日からここにお世話になることになったんだけど夕飯食べ損ねちゃってね。使っていい食堂があるって聞いてたからそこに向かってたんだけどどこにあったか自信がなくてねー」
こんな小さい子相手に道に迷ったと説明することの恥ずかしさと言ったら。初体験だった。
「あの、食堂なら場所わかる…あ、いや、わかります。あんな…ご案内します」
「え、ほんと?それは助かるよ。ありがとう」
小さな子に道案内までしてもらえることになった。俺、今だけで一生分の恥をかいてる気がする。
だが空腹の要求は凄まじく恥など捨ておけと責め立ててくるのでおとなしく案内されることにした。
「案内よろしくね。あと話しにくそうだから無理に丁寧に話す必要はないよ。俺のことも様付で呼ぶ必要もないから。呼びやすいように呼んで」
「はい…!わかりました!キョウスケ様!」
さっきの怯えた表情が嘘のような笑顔で返事をしてくれた。
なにもわかってないんじゃないだろうかこの子は。
けれどさっきみたいな怯えた表情なんかより笑顔の方がいいだろうと深く考えずに案内してくれるタマキの後ろについていった。
そしてフリフリと揺れる尻尾に気を取れられていてアナウンスに気づくことはなかった。
『隷属化に成功しました』




