22.勇者とは
「昨日の今日で新しいお仲間がいるってのはさすがは腐っても勇者様ってことか?」
いやらしい笑みを浮かべて夜須はこちらに言葉を投げかけてくる。
後ろの2人はなにも言わない。
神城は俺に興味がないのがわかるくらいに無感情な目を向けていた。菜々華は困ったような顔をして目をそらしていた。
三者三様の様子で俺の前に立っている。
夜須たちの登場でギルド内は再び喧騒が消えていた。この状態で会話すると全員に聞こえるだろうなぁ。会話したくない。
「おい、なんとか言えよ」
「夜須くん、そんな話し方しなくたっていいじゃない」
菜々華が申し訳程度に抗議するが夜須がその程度でやめるほどいい人ではないのを俺は知っている。
「いいよ、藤堂。昨日ぶりだな夜須。そっちは王様に俺の離脱でも伝えた時にでも仕事を依頼されたってとこか?」
「けっ、相変わらず勘のいいやつだよ。お前の言う通りだよ。今朝の正式発表で理由を公表しなかったのが気にくわねェけどな」
どうせ役立たずだのなんだのと吹き込んだんだろう。予想もできるし聞きたくもないから追及もしない。
「俺も聞いたよ。どうせ支援打ち切りとかそうゆう話もしてきたんだろう」
「いやいや、そんなこと言ってねぇよ。お前に回すはずだったものをこっちによこしてくれってお願いしただけだ」
「そうか」
俺の手元に来ないならたいして変わらない。そもそも追い出された時点で期待していないのだ。どう使われようが王がだれに渡そうが知ったことではない。
会話をしているうちにギルド内にざわきが広がっていく。今朝の発表の真意がどうこう、他の勇者となぜ険悪なのかだの憶測が飛び交っているのだろう。
好きに思ってくれて構わないが当事者の前で話さないでほしいものだ。
「キョウスケ、なんだこいつら」
「キョウスケ様、この人たちなんなの」
苛立ちを隠そうともせず2人は夜須を睨めつけている。
「勇者だよ」
「おいおい、それだけじゃねぇだろう?」
「いや、それだけだよ」
どうせ俺が捨てられたという話を俺の口からさせたいのだろう。わざわざ乗ってやる必要もない。
マオとタマキはますます不信感をあらわにしていた。
「こんな嫌な笑い方をする人が勇者なの?」
タマキが嫌悪を隠そうともせずストレートに言葉を発している。俺も同意するがその言い方は夜須を刺激してしまう。
「どういう意味だガキ。俺は魔王を倒すために召喚された正真正銘の勇者だ。そこの出来損ないと違ってな!」
そう言って俺を指差した。
「もういいだろう。お前らも依頼を受けに来たんだろ。俺なんかに絡んでないでさっさと受けてきたらどうだ。俺もここでの用事は済んだからもう行く」
いい加減晒し者になるのも嫌だ。早々に会話を打ち切りこの場を去ろうとする。
「ちょっと待ってください」
立ち去ろうとすると意外なことに神城に待ったをかけられた。
「その子たち、奴隷じゃないですか?」
「は?おいおい吾妻、捨てられたからって奴隷を仲間にしたのか?仮にも元勇者がゲスなことするじゃんよ」
おそらく鑑定スキルを使われた。神城の鑑定スキルのレベルが今いくつかは知らないが奴隷ってことがわかるなら1ではない。
鑑定される可能性は考えなかったわけではないが本当にしてくるとも思ってなかった。
「まさかとは思いますがユニークスキルを使ったのですか?あれは使うべきスキルではないと言いましたよね?」
神城は奴隷制度に強い反感を持っている。勇者として活動しながら奴隷制度の撤廃も訴えているのだ。
俺たちが召喚された時点でお互いがスキルの情報を交換しているため俺のユニークスキルも把握されている。
「昨日1日でいろいろあったんだ。無理やり使ったわけじゃない」
「どうなのかしらね。そこのお2人、本当に無理やりではないの?」
マオとタマキに視線を向けて問う。自分たちに矛先が向くとは思ってなかったのか少し驚いていたがすかさずタマキが反応した。
「キョウスケ様はそんなことしないよ!!」
「俺は半分無理やり……」
「マオくん!そんなことないでしょ!それともキョウスケ様と一緒にいるのが嫌だったの?!」
「いや、嫌じゃねえけど……そんなに怒るなよ」
タマキは興奮冷めやらぬ状態で耳としっぽをピンと立てて怒っていた。
顔を合わせてから1日も経っていない俺を庇ってくれていた。
「聞いての通りだ。本人の同意の上で契約してる」
「どうでしょうね。そういうように命令してるだけじゃないんですか?」
「そんなことしないって言ってる!キョウスケ様は私にひどいことなんてしてない!いつも優しくしてくれてるもん!」
「タマキ、もういいよ。ありがとうな」
泣きそうな顔になっているタマキを宥めて落ち着かせる。ギルド内は小さい子をここまで追い詰めてる神城の方に避難の目が向き始めていた。
「まぁいいです。ただこのことはしっかり報告させていただきますね」
「……好きにしろ。2人とももう行こう」
マオとタマキに声をかけてギルドを出る。夜須はおもしろいものを見つけたようにニヤニヤと嫌な顔をしていた。どうせこの後王城で報告会でもするんだろう。
簡単に予想できるが否定する要素もなければ止める方法もない。世間的に俺は終わるだろうなぁ。奴隷を使った勇者として。
「まって、吾妻くん」
ギルドから少し離れたところで今度は菜々華に待ったをかけられた。
「なんで奴隷なの?ボクたちが追い詰めてしまったのはわかるけど奴隷を使うような人だと思ってなかったのに」
「あのさ、あんたらってキョウスケとどんくらい一緒にいたの?」
俺に向けられた問いかけに答えたのはマオだった。
「え?召喚されてからずっと一緒だけど半年は経ってないくらいかな…」
「ふーん。それであんたの知ってるキョウスケって?あんたらにバカにされても言い返せない弱虫とか?それともあんたらの言うことは素直に聞いてたいい人とか?」
「そ、そんなこと」
「さっきのヤスって奴の態度を見てて、話を聞いててさ、俺思い出すことがあるんだよね」
菜々華を睨みつけながら言葉を続ける。
「なんだと思う?まぁ多分あんたにはわかんないと思うけど奴隷をただの道具としか思ってない奴らを思い出すよ」
そう言われて菜々華の目が驚愕に見開かれる。
「もう1人の女は綺麗事だけ言ってなにもしてくれない偽善者、あんたに至ってはかわいそうだとか思ってるだけで見てみぬフリをするその辺の人間にしか見えねぇ」
「俺、勇者ってすげぇかっこいい人だと思ってたよ。おとぎ話に出てくるような強くて優しい人。いつか俺たち奴隷を助けてくれるかもしれないって夢見てた」
菜々華はマオと視線を合わせていられなくなったのかだんだんと視線を下げていく。
「けど実際の勇者様は勇者どころかキョウスケを奴隷としか思っていないような人間に見えたよ」
「マオ、もういい」
「キョウスケは黙っててくれ。俺はたしかに奴隷だしキョウスケと契約したのはついさっきだけど今までの飼い主とキョウスケは違うってなんとなくわかる。もしかしたら俺は助けられたのかもしれない。キョウスケは奴隷と契約しているが決して奴隷を『使って』いるわけじゃない」
俺は助けてなんていない。ただ明日を生きるためにウェルズの提案に乗って2人と契約しただけの弱い人間だ。
「俺はあんたらが勇者だとは認めない。俺の中の勇者はキョウスケだけだ」
「そうです!キョウスケ様の方が絶対強くてかっこいいです!」
タマキ、それは違うと思う。少なくとも強くはない。
「奴隷にだって心があるんだ。あんたらからどう見えてるなんか興味だってない。俺とタマキはキョウスケだから契約したんだ」
その通りだと言わんばかりにタマキが頷いている。俺はマオがこんなことを思っているとは思わなかった。
だって出会って1日も経っていない。俺もマオもお互いのことをほとんど知らない。なのにここまで俺のことを考えていたことに驚いていた。
「………こめん、なさい」
菜々華は消え入りそうな声で謝罪した。マオはもう言うことはないとばかりに菜々華に背を向けて歩き出した。
タマキもそれについていく。
「藤堂。俺はお前たちの役に立ってなかった事は自覚してる。マオの言うことはそんな気にしなくていい」
「………」
「けど俺はマオに言われたことに救われた。だから俺は、謝らない」
「……うん、ボクも言われたことに対してなにも言い返せなかった。だから彼が言ってたことは図星だったんだってわかった」
「これ、返すよ。金のあてはできたから。転移石は使ってしまったから手に入れたら返す」
「わかった。けど転移石はいらないよ。それはボクがあげたものだから」
「……そうか。それと今後は俺のことは気にしなくていい。藤堂は優しいから宿では助けてくれるって言ったけどギルドでのこともあったんだ。俺と関わってるといいことなんてきっとない」
「それは、それだけは聞けない。ボクは吾妻くんがパーティにいた時もさっきも何もできなかった。2人を止めることも説得することも。だからこそなにかあれば力になりたい。その気持ちに嘘はないから」
「……わかった。けど気にすることはないからな」
これ以上話すことはない。菜々華に背を向け先に行った2人を追いかけるために俺は駆け出した。後ろで顔を覆ってしまった菜々華にはもちろん気づくことはなく。
2人を追う俺の足取りは昨日と比べて少し軽くなっていた。
マオと菜々華のやりとりを書いてるうちにテンションが上がって長くなってしまった…




