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 「よくわからねえが、これは大発見なんじゃねえか?」


 突如として目前に出現した隠し階段に、タイロンはいささか興奮気味だ。おっかなびっくり階段の奥を覗きんでいたレナードも、遅れて感嘆の声を漏らす。


 「ライラ、一体何をしたんだ?」


 アイルはこっそり尋ねる。


 「何も…… あの紋章、どこかで見たことある気がして、触ろうとしただけ……」


 「見たことが…… ? じゃあ、別に自分から何かしようとしたわけじゃないんだな?」


 ライラは、良からぬ事をしてしまった子どものように、おずおずと頷く。何か一言慰めの言葉をかけてやりたかったが、あいにく今のアイルにそんな余裕は無かった。

 あの紋章が彼女の記憶に関係ある。さらに、それはおそらく黒魔術のことではあるまいかと、おぼろげながら直感した。

 アイルは不安と焦燥、それから疑問がおり混ざった言いようのない胸のざわつきを覚える。ライラが手をかざしたことで、この大掛かりなカラクリが起動したのは疑いようもない。だが、問題はその理由。

 彼女が触れる前、アイルはべったりと石に指をつけていた。しかし、その際は、紋章はだんまりを決め込んでいたのは覚えている。なぜ、ライラだけに反応を。二人の間に何か決定的な差異があったのか。そう考えると、黒魔術の適性者とは無縁のように思えてくる。


 「今話したことは、他の誰にも話さないようにな」


 ライラは再び頷いた。


 「どうする?」


 ノエルが皆に聞く。その表情から、彼はあまり乗り気でないとわかった。


 「王都に知らせるのが最優先だと思う。勝手なことをして、お咎めを受けるだけなら良いが、何か罪に問われたら大変だ」


 さすが副リーダーだけあって、レナードは慎重派なようだ。


 「少しくらい覗いてってもバレねえって。そもそも、俺たちが見つけたんだから、そのくらいの権利がねえと困る」


 対するタイロンは、階下に何があるのか知りたくてしょうがないらしい。

 体面を重んじるか、自己の欲求に流されるか。もはや、当初の依頼内容など皆の頭からすっぽり抜け落ちているようだ。


 「タイロンくんはまたそんな勝手なことを。いつもそうだけど、もっとしっかりと先を見据えて行動しないと。僕たちがここに来た理由はーー」


 「行ってみましょう」


 ノエルの説教は、出し抜けに響いたソフィアの声により中断させられる。そして、それは他の反対を跳ね除け全く寄せつけない、独裁者の命令も同じだった。

 本当に行っても大丈夫だろうか。アイルは抗議の声を上げ、この奇妙な圧政をどうにかして翻すべきか悩んだ。下へ行くのは不確実な危険が多すぎる。しかし、彼の胸中にはまた、淡い期待が漂っていたのも事実。何かライラの記憶に関係するものが、はたまた黒魔術関連の情報が出土するかもしれない。この機を逃せば、国が再び遺跡の調査に乗り出し、侵入できる可能性は著しく下がる。彼は終始無言を貫いた。

 先頭に立つソフィアが、最初の一段目に足を置く。すると、彼女のすぐ近くにあった両の壁が淡く光り、その羅列がずっと奥の方まで続いて行った。


 「おお、まるで歓迎してくれてるみたいじゃねえか」


 「またそんな暢気なこと……」


 一体何段下だったのだろう。数百段、あるいはそれ以上。おそらく真上はもう遺跡の外なのではないか。そこまでして、ようやく終わりが見えてきた。


 「これは……」


 アイルは言葉を失った。


 「遺跡の下がこんなになっているなんて…… もう隠し部屋なんてものじゃないな……」


 周りを見渡しながら、レナードが言う。

 階段を下った先に待ち受けていたのは、さっきの遺跡内部と同等かそれ以上の広大な空間。ただし、その広い面積の大部分は、真っ黒な奈落に占領されていた。前方には灰色の十字の形をした橋が、それぞれ三つの入り口に向かって伸びている。それとアイルたちのいる十メートル四方ほどの足場以外は、遙か下へと続く穴。


 「すげえな。これは財宝の一つや二つ期待してもいいんじゃねえか?」


 タイロンは盗人のような悪い笑みを浮かべる。


 「さっきも言ったけど、そういう目的でここに来てるんじゃないんだからね」


 「まったく、ノエルは夢が無さすぎなんだよ。人生そんな現実ばっかり見て、お堅く生きてちゃそのうちーー」


 側では、お馴染みのタイロンの講義が始まった。そんな二人の茶番をよそに、アイルはソフィアの横に立った。覗いてみると、やはり生気の失せたような顔をしている。


 「ソフィアさん、どうします?」


 「と、とりあえず奥の方に行ってみよっか」


 ソフィアは逃げるように先を急いだ。その後を少し遅れてアイルとライラが追い、他の皆もぞろぞろとそれに続いていく。

 橋の中間を過ぎた辺りだった。


 「どうした、ライラ?」


 気づくと、ライラは足を止め橋の下を覗き込んでいた。


 「あそこから、何かが見てた気がする……」


 アイルは急いでそちらに向かい、ライラの指差す方に目を凝らした。相変わらず、身がすくむような暗闇である。


 「何もいないぞ? 勘違い、じゃないか?」


 そう説得すると、ライラは「うん」と納得してないような言い方をして、また歩き始めた。しかし、それからすぐ、アイルは彼女の言葉を真摯に受け止めるべきだったと後悔する。

 真下から、聞いたことのない、低い魔物が出すようなけたたましい鳴き声が轟いた。


 「なに…… !?」


 ソフィアのすぐ横から、深淵と同じ真っ黒な触手のようなものが飛び出してくる。おそらくその太さはアイルの身長ほどあり、その長さは目に見えるだけで七、八メートル。


 「なんだあれは!?」


 「魔物か!? それにしても規格外すぎやしねえか!?」


 レナード、タイロンは揃って仰天し、慌てふためく。その正体についてまるっきり見当もついていないようだ。だが、アイルにはその色合いについて思い当たる節があった。


 「まさか、アーテルか…… ?」


 「ソフィア様!」


 ノエルが叫ぶ。触手は大きくしなった後、皆から少し離れたところに立ち竦むソフィアを狙っていた。


 「くっ!」


 アイルは瞬時に身体強化を行う。そして、一気に低く跳躍。黒い触手はもうすぐそこまで迫っていた。


 「間に合え…… !」


 手が、ソフィアの肩に触れた。アイルは彼女の身体を抱くようにして、勢いのままに奥へと転がる。橋が粉々に砕け散る音。すんでのところで間に合ったようだ。


 「ありがとう……」


 「安心しないでください。アーテルはまだーー」


 アイルはふいに浮遊感を覚え、下を向いた。橋の陥落はここまで届いていたのだ。


 「しまった! 床が!」


 「アイル!」


 ライラの声が頭上の方から響き渡る。後から、レナードやらも大声を出すが、それは段々と小さくなっていく。

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