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ソフィアの決意

  「今の話、本当なんですか?」


  「ええ…… 本当よ」


  ソフィアの人工的に薄く伸ばされた唇がいよいよすぼんでいき、露わになったのは陰鬱さの満ち満ちた真剣な表情。その幾分曇りがかったような瞳は真っ直ぐにアイルを据えていた。


  「ソフィア様、考え直してくれよ。協約なんて、烈風焔刃と同じ真似をしちゃいけねえ」


  いつもは能天気なタイロンも、この時だけは鋭く非難するような物言いだった。しかし、当のソフィアはかぶりを振る。


  「いいえ、私は考えを変えるつもりはないわ」


  「でも、王国法でもギルド同士の結託は禁止されていているんでしょう? そんな綱渡りをしてしまって大丈夫なんですか?」


  ここで初めてアイルも意見する。

  彼は王国法について隅々まで熟知しているわけではなく、ましてや、ギルドに関する法など素人に等しい。しかし、そんな不正を犯せば罰則などよりも、ギルドとして面目が立たなくなるのは自明の理。彼もソフィアの提案には反対の姿勢だ。


  「リスクがある事もわかってる。でも、既に烈風焔刃とは圧倒的な差ができているわ。あれに勝つには、相応の気概を示す必要があるの。これ以上、後塵を拝するわけにはいかない。それに、しっかりとした公算もある」


  「公算?」とアイルがおうむ返しし、次いでレナードが「それは一体?」と質問をする。


  「実はここ数日、周辺のギルドの調査を行ったの。そしたら、成果があまり変わっていないところ、それから私たちのように極端に下がったところが見つかったの」


  たった数日でそこまで調べ上げるなんて。おそらく、アイルの身辺を調べた時と同じく、驚異的な情報網を駆使したのだろう。その手回しの速さに、今更ながら彼は舌を巻いた。それと同時に、ソフィアのこの独断的で性急な行動は、彼女の心を絶えず駆け巡っている焦りを透けて見させているようだった。


  「こんな時分にギルドの成果に変化がないということは……」


  レナードは何か気づいたようだ。


  「ええ。おそらく、そのギルドは何かしらの施しを受けている。つまり、そこは既に烈風焔刃の囲いの中にいるのでしょう。反対に、後者はその魔の手が行き届いてない場所だと判断できる。そして、そこなら私たちと同じ不満を抱いているはず」


  「それでは、公算というのは、同族を仲間に引き入れるということですか?」


  アイルが聞くと、理解が早くて助かるといった具合にソフィアが頷いた。

  そこへ、意を唱えるように唸ったのはレナードだ。


  「確かに、それなら協力に漕ぎ着けるのは容易いかもしれません。ですが、仮にそうなったとしても、黒い噂はどこから漏れだすかわかりませんよ。実際、烈風焔刃も尻尾を掴めていないだけで、周囲のギルドもあれの悪行には薄々気づいてるでしょうから」


  「そうだな。それに、仲間だと思って接近したら、実はそいつも敵だった、なんて事もないわけじゃない。やっぱり、ソフィア様の考えには賛同しかねるな」


  タイロンはレナードに同調する。


  「もちろん、話が外部に漏れないよう細心の注意を払うつもりよ。それに、私が協力を仰ぐのはたった一つのギルド。それも、かなり信頼の置けるギルドだから」


  「信頼の置けるーー まさか、白翼(はくよく)(つるぎ)…… ?」


  再びソフィアは満足そうに頷く。


  「白翼の剣?」


  なんだか聞いたことのある名前だ。


  「元王国二位のギルドだよ。今は烈風焔刃に追いやられて、僕たちと同じく順位が下がっちゃったけど」


  アイルが思い出す間も無く、ノエルが説明してくれる。


  「アイルたちにはまだ言っていなかったけど、あそこのリーダーとは私が幼い頃からの知り合いなの。それで、氷晶の薔薇を設立したての頃はよく相談に乗ってもらったたりして。今でこそ会う機会はめっきり減っちゃったけど」


  「そうだったんですか……」


  それはギルド同士の結託に含まれないのか、という野暮な質問はやめておいた。今まで問題になっていないのだから、そういうことなのだろう。それにしても、元王国一、二位のギルドが知り合い同士だったなんて驚きだ。


  「まあ、あのギルドなら信用はできるけどよう……」


  事情は知っているようだが、タイロンは未だ歯切れの悪い言い方をする。


  「大丈夫よ、タイロン。絶対に良い方向へと進むはずだから。私を信じて」


  同情を煽るその痛々しいまでの笑みに、その場の誰もがかける言葉を失った。

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