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エフスロスの思惑とレナードの告白

  「結局、五人全員が死亡。死因は、体内マナの急速な欠乏によるもので、自然死と診断されました」


  「なるほど」


  レナードの報告を受け、目の前の椅子に座るソフィアは神妙な面持ちで頷いた。

  エフスロスの一件があってから数時間。日は既に沈み、奥に見える窓は天井の照明を反射し、真っ黒なキャンバスに四人の姿を映し出していた。こちらを向く三人は、どうも冴えない顔をしている。


  「確かに、生命維持にも関わるマナが無くなれば、死に至るとは聞いたことがあるけど…… 五人が同時にそんな風になるなんて」


  「ええ、偶然というには話ができ過ぎてます。状況的に見ても、何者かによる口封じの線が妥当かと」


  「でも、そうなると考えられるのは魔法の行使くらいだけど、人間のマナを操る魔法なんて、聞いたことがないわ」


  「それは、私もです……」


  レナードは力なく首を振った。


  「アイル、あなたの見解は?」


  「俺も何者かによる工作だとは思いますが、同じくそう言った類の魔法は聞いたことがありません。辺りに術者らしき人はいませんでしたし」


  アイルもこれに関してはお手上げ状態だ。

  マナの欠乏で言えば、タレスも同じような症状に陥っていたが、それとは訳が違う。まだ仮説の段階だが、彼は精神支配術により、体内に貯蓄できるマナを限界寸前まで使い切ったため、なるべくして衰弱したのだ。今回は、そういった許容量を超える魔法を使用した痕跡はない。

  だが、前述の件との関連性はないにしても、自然死として片付けるには、不審な点が多すぎる。五人を診た医療従事者も、苦悩の末、自然死に位置付けるしかないという感じだった。何か裏があるのは間違いない。

 

  「…… 考えたくはないけど、エフスロスの幹部にそういった特異な魔法を使える人間がいるのかもしれない」


  「そんな手練れが、よもや犯罪組織に与しているとは。もしそうなら、それは禁術に当たるレベルなのでは?」


  レナードの口から発された「禁術」という単語に、アイルはハッとした。

  人間のマナをどうこうできる魔法など、無限の変質性がある黒魔術の"力"でしかできないのではないか。未知のものを全て黒魔術に結びつけてしまっては視野が狭まりかねないが、可能性は無視できない。アイルを監視していた理由は、同じ適性者同士、通じるものがあったから。

  怖いくらいに辻褄があうが、アイルたち以外に本当に黒魔術の適性者がいるのだろうか。


  「アイル? 何か気づいたことでも?」


  「ああ、いえ…… 仮にエフスロスの中に禁術を使える人間がいるなら、本丸を叩くのは至難の業になりそうですね」


  「そうね。この事が知れ渡れば、国が事態の収拾に本腰を入れるのも時間の問題になるかもしれない。その前に、私たちが……」


  どうやらソフィアの意思は固まっているらしい。このギルド間の小競り合いを制するには、エフスロスの本拠地を壊滅させる必要がある。


  「そういえば、どうしてあなたたちが一緒に? ただでさえ珍しい組み合わせなのに、ほとんど人が寄り付かない、遺跡にいたなんて」


  「ええと、それは……」


  アイルは何とか言い繕うと思考を巡らすが、三人がいた場所が場所だけに、ソフィアを納得させられる都合の良い物語が思いつかない。


  「私が、彼を呼んだんです」


  答えたのはレナードだった。


  「へえ、それは意外ね。ようやく打ち解けようと思ったの?」


  何も知らないソフィアは微笑を浮かべて尋ねる。


  「そうではありません。彼を…… ギルドから脱退させようと、いえ、殺そうとしました」


  「レナード…… ? あなた、何を言っているの?」


  「今言った通りです」


  アイルはその場でひっくり返りそうになった。せっかく彼が穏便に済ませたのに、自暴自棄にでもなったのだろうか。


  「アイル、レナードの言っているの事は本当なの?」


  「はい、事実です…… ですが、既に話は円満に収まっています」


  アイルは軽くフォローを入れる。大した効果は見込めなさそうだが。


  「どうして…… どうして、そんな事をしたの?」


  ソフィアの、悲哀と怒りが混濁した瞳がレナードを見る。

  彼は目をそらすことなく、先ほどアイルに告げた自らの胸の内を、彼女にも吐露した。アイルが副リーダーの座についてしまうのではないか。そうすれば、自分は除け者にされてしまうのではないか。

 

  「氷晶の薔薇が非常事態という時に、私は余計な私情を挟んでしまい、その上、仲間を殺そうとしました。いかような処罰も受けるつもりです」


  最後に、レナードはそう締めくくった。 

  ソフィアは瞑目し、しばらくの間黙っていた。


  「話はついていると言っていたけど、アイルはレナードを許したの?」


  「はい」


  「それはどうして?」


  「損得勘定を考慮したのが大きいですが、レナードさんの気持ちも理解できたからです。俺の方に実害もなかったですし。もちろん、それで殺人に思い至るなんてもってのほかですが」


  ソフィアは俯き、再び口を閉ざした。彼女の頭の中で、一体どんな考えが巡っているのだろう。わからないが、次の一言でレナードの処遇が決定する。


  「ごめんなさい」


  「え?」


  ソフィア以外の全員が困惑した。


 

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