エフスロスの目的
「助かりました、レナードさん」
「お世辞はいい。別に私の助けなどなくても、両方倒せていただろう?」
レナードにはお見通しだったらしい。
「倒せていたかもしれませんが、話をすぐに聞ける状態にはできませんでした」
「ふっ。やはり、貴様を好きにはなれんな」
レナードは嫌味っぽくそう言うが、その表情は嫌悪とは程遠い。ちょっと前の険悪な雰囲気とは大違いだ。
アイルは「そうですか」と肩をすくめた。
「さて、先程から我々を監視していたようだが、何が目的だ?」
レナードは声色を変え、氷のツタで全身を拘束された男に聞く。
「お前らに話すことなど何もない」
「貴様、自分の置かれてる状況がわかってーー」
突然、レナードは喋るのをやめた。
「この刺青…… まさか」
レナードの見開かれた目が向く方、男の手の甲には、黒い面妖な刺青が入っていた。アイルはこんな模様見たことがない。
「知っているんですか?」
「ああ、間違いない。これはエフスロスのシンボルだ。王都からの緊急依頼に資料が同封されていたんだが、そこに載っていたのとそっくりだ」
エフスロスと言えば、烈風焔刃が一つの拠点を壊滅させたという犯罪組織だ。一つの拠点と言っても、それは幾重にも別れた枝の一本に過ぎず、核となる幹の部分はなおも顕在らしい。そのため、活動していること自体は別段おかしくはない。問題はなぜエフスロスがここにいるのか。
「そうなると、ますます目的が謎ですね。どうして、悪名高い犯罪組織が俺たちを……」
「おい貴様。さっさと知っていることを吐け」
「さっきから言ってんだろ? 俺は何もーー ぐっ!」
急に男は顔を歪める。よく見ると、巻き付いていた氷のツタが、きつく男の皮膚に食い込んでいくのがわかった。
「相手は、王都が根絶に躍起になっている凶悪な犯罪者だ。多少痛めつけたところで、問題にはなるまい」
「痛い痛い! やめろ!」
「話をする気になったらやめてやる」
「わかった! 話すから! やめてくれ!」
男は存外早く降参した。
大きな組織なら、情報漏洩を防ぐために色々と訓練をしているのかと思っていたが、そうでもないらしい。それにしても、ギリギリまで耐えるくらいの気概を見せてくれてもいいものだが。見た目に反して、レナードの拷問は辛いものだったのだろうか。
「この程度で口を割ろうとするとは……」
レナードの呆れた様子を見るに、男が根性なしなだけなようだ。
「まあ、協力的で助かりましたね」
アイルは楽観的に解釈する。
「たしかにな。それで、もう一度問う。貴様らが我々を監視していた理由は?」
「ボスに言われたんだよ……」
男はぼそりと告白した。
「エフスロスのボスか。で、そのボスは何と?」
男は答えない。だが、男は意味深に一瞬だけアイルの方を見た、ような気がした。彼は内心どきりとする。自意識過剰なのだろうか。そもそも、エフスロスがアイルに何の用があるというのだ。
「やっぱり言えねえ。それを言ったら俺は、俺は」
男は歯切れの悪い言い方をして、視線を彷徨わせる。
「俺は、なんだ?」
「俺はーー ぐっ! うああああああ!」
それは突然のことだった。男は身体をバタつかせ、もがき苦しむ。
「レナードさん! これ以上痛めつける必要は!」
「違う! 私じゃない!」
レナードも混乱しているようだ。その証拠に、周りで気絶していたはずの他の男たちも、苦しそうに呻き始めた。
「まさか、口封じ!? 誰かの魔法か!?」
アイルが叫ぶ。
「なに!? だとしたら、近くに術者がいるはずだ!」
アイルたちは慌てて、辺りに視線を巡らす。通常、魔法は視界内に入っている対象にしか行使できないはずだ。しかし、それらしき人影は見当たらない。
「どこにもいない……」
アイルは、悲しそうに男たちを見るライラを、優しく抱き寄せた。彼女にはあんな光景見ていて欲しくない。
やがて、男たちの阿鼻叫喚は終わりを告げた。そして、永遠に動き出すことはかった。




