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一瞬の決着

  「監視されてるって…… 本当か?」


  「うん。向こうの林の方。五、六人がこっちを見てる」


  アイルは、ライラが目配せする方を、自然な動作で何気なく見てみる。アイルたちの位置から数百メートル離れた雑木林の中。確かに、黒い影が木の幹の方へと引っ込んでいった。


  「確認できた。いつ頃からだ?」


  「二人が戦ってる時。私、アイルのこと呼んだんだよ」


  そういえば、戦闘の最中ライラが一度叫んだことがあった。


  「あの時か…… てっきり窮地に陥った俺を心配してくれてたのかと……」


  「ううん。私はアイルを信じてたから」


  「あ、ああ。ありがとう」


  なんとなく調子が狂う。


  「だが、俺たちを監視して、奴らの狙いは何なんだろう。 奇襲を仕掛けてくるわけでもなさそうだし」


  監視の対象がアイルだけなのと、そこにレナードが加わるのでは意味合いが大きく異なってくる。後者であって欲しい、とアイルは切に願う。


  「わからない」


  「まあ、捕まえて話を聞けばわかることだな」


  アイルは再び身体強化を発動し、タイミングを見計らう。距離的に何人か取り逃がしてしまうかもしれないが、一人捕まえられれば情報は得られるはずだ。


  「待て」


   声を上げたのはレナードだ。


  「敵の大体の位置は把握した。とりあえず、私の魔法で敵の逃げ場を遮断する。そうすれば、敵はこっちに側に出て来るしかなくなるはずだ」


  「…… お任せしていいんですか?」


  レナードはゆっくりと立ち上がると、真っ直ぐアイルの目を見て「ああ」と答えた。幾分、吹っ切れたような顔をしている。


  「相手に気づかれる前にやってしまおう」


  「はい」


  レナードは林の方へ素早く手をかざす。

  直後、氷の柱が木々を蹂躙し、林の一部分を囲い込むよう隙間なくそびえ立った。あれなら敵は外側には逃げられない。

  林の中からどよめきが聞こえてきたかと思うと、次の瞬間、木々の間から光が漏れ出し、爆発音が響き渡った。どうやら、何かの魔法でレナードお手製の柵を破壊しようと試みてるらしい。


  「ふっ、あの程度の魔法では傷一つつけられない」


  自信たっぷりに言うだけあって、その後も数回爆発が起こったが、堅牢な柵は一つとして崩れない。


  「出てきたぞ」


  追い立てられる家畜のように、五人の男が林から飛び出してきた。だが、まだ油断してはならない。彼らは魔法という名の牙を隠し持っているのだから。

  二人の男はその場で止まり、残りの三人が突っ込んでくる。


  「遠距離は私がやる。近づいて来る奴は任せた」


  「わかりました」


  「私はどうすればいい?」


  所在無げに立ち尽くしていたライラ。彼女の魔法があれば百人力なのは事実だが、それは自分の罪状を周りに公言する行為に他ならない。


  「ライラ、わかっているだろ?」


  「わかってる……」


  ライラはしょんぼりした様子で引っ込んでいった。


  「話し合いは済んだか?」


  「はい」


  アイルが前に視線を戻すと、奥にいた二人の男が火球を放っていた。その間に近距離型の男たちが一斉に畳み掛けて来る。ある程度の連携は取れているらしい。


  「させるか!」


  レナードは魔法を発動させる。

  すると、彼が放った氷棘が空中で火球にぶつかり、爆発的な水蒸気を上げ相殺される。一発の威力は同格。だが、彼の魔法は一発では終わらない。アイルの頭上を、いくつもの煌めく塊が通り過ぎていった。

 

  「喰らえ!」


  その間に、一人の男が正面から急接近してくる。武器も所持していないことから、身体強化による純粋な肉体での勝負がご所望らしい。しかし、アイルと単なる力比べをするなど自殺行為だ。

  視覚強化の効果により、男は滑稽な芸でも披露するかのように、ゆっくりと近づいてくる。アイルはそれをすんなりと躱し、背中の辺りにかかと落としをお見舞いした。


  「ぐはっ!」


  男は成すすべなく地に伏した。

 

  「アイル! 横!」

 

  ライラが警告する。


  「ああ!」


  左右から二人が迫る。どちらも手にはナイフのような得物が。さらに、その刀身には電流が流れているのが見える。

  アイルが正面に気を取られている内に、死角から一気に攻め込むつもりだったのだろう。しかし、予想以上に早く切り込み隊長が退場してしまい、もはや作戦は破綻しているも同じ。そのためか、左右の敵は切迫した表情をしている。


  「右の奴は任せろ!」


  そこへ、レナードからの敵の心を折るような一言。

  氷の(つぶて)が右側の男めがけて飛んでいく。しかし、それは直撃せず、男の進行方向上の地面へと着弾した。

  外れた。敵側の誰もがそう思っただろう。


  「うっ! なんだ、これ…… !」


  見ると、男の足元から氷が、植物のツタのように伸び行動の自由を奪っていた。

 

  「クソがぁぁ!」


  左から哀れに喚き散らす最後の一人。アイルはそれを軽くダウンさせた。

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