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束の間の休日

  アイルたちが氷晶の薔薇に加入してから早五日。

  彼らは一日一つというペースで上級の依頼をこなし、陰の立役者として、確実にこのギルドに貢献していた。それでも、烈風焔刃との差は中々縮まらないようだ。

  その烈風焔刃だが、エフスロスの拠点を壊滅した日以降大した情報が入らず、なんとももどかしい日々が続いている。


  「いつもご苦労様。今日は二人ともお休みの日だから、自由に行動して構わないわ」


  早朝、いつものように今日の依頼を聞きに行くと、ソフィアに急にそんな事を言われる。それなら昨日の内に言ってくれればよかったのにと思うが、それを口に出すわけにはいかない。

  因みに、ライラはアイル以外の人にはほとんど口を開かなく、この場にいなくても支障がないのと、朝にめっぽう弱いという理由から、部屋で寝かせている。


  「わかりました。ソフィアさんは、何か予定が?」


  「私? 私は今日も依頼よ」


  「今日もって…… それじゃあ、あなたはいつ休むんですか?」


  「薔薇園の子たちの未来がかかってるのに、私が休むわけにはいかないから」


  ソフィアは小さく口角を上げた。

  思い返してみると、ここ数日、依頼から帰っても彼女が不在という事が多かった。「贖罪のため」という彼女の言葉が蘇る。やはり、彼女は自分の名声などはどうでもよく、真に子供たちの安寧を願っているのだろう。指導者というより慈母のような人だ。

  だが、今の彼女はどこか儚げで、少し風が吹けば消えてしまうのではないかという危うさが感じ取れた。


  「あなたたちの方は、今日何かしたいことはないの?」


  「そうですね…… 少し調べたい事があって、王都にある大図書館に行ってみようかと」


  「もっと羽目を外してもいいのに。アイルは勉強熱心なのね。いってらっしゃい」


  何か言うべきか迷ったが、頭でそれがまとまらず、結局アイルはそのまま部屋を後にした。

  長い廊下を歩いていると、前方からこちらに向かってくる人影が見えた。すぐに、それがこのギルドで一番苦手な人間だと気づく。


  「おはようございます」


  一応このギルドの副リーダーということもあり、アイルは立ち止まって敬語で挨拶をする。しかし、当のレナードはというと、鼻を鳴らしそのまま立ち去ってしまった。

  彼とは一生仲良くなれない。そう確信したが、今のところ害があるわけではないので、気にするだけ無駄だろう。


  「今日の依頼は?」


  部屋に戻ると、未だ頭まで布団にくるまったライラが、欠伸の混じった声で聞いてくる。アイルは、すぐ隣にある自分のベッドに腰掛けた。


  「今日は休みだそうだ」


  それを聞いて、ライラは布団から顔を覗かせる。


  「そうなんだ。…… どこか行くの?」


  アイルの後方に設置されている窓からの朝日が眩しいらしく、彼女はしきりに目をパチパチとさせる。彼が少しずれれば光を遮ってやれるが、そうすると彼女はいつ起き上がるかわからない。彼はそのまま話を続けることにした。


  「ちょっと、大図書館にな」 


  「大図書館…… ?」


  「ああ。かなり規模が大きいらしいから、黒魔術の事やアーテルに関する書籍もあるはずだ。それを見れば記憶を取り戻すキッカケになるかもしれない」


  現状どちらに関する書籍も、なぜか一般には出回っていない。だが、さすがに国の運営する図書館になら、何かしら見つかるという期待があった。


  「アーテル……」


  「どうした?」


  まだ寝ぼけていて脳の処理が追いついていない、というわけではなさそうだった。ライラは何か思い詰めたような表情をしている。


  「もしかして、何か思い出したのか!?」


  「ううん、違うの。でも、何か変な夢を見て」


  「夢?」


  もしかしたら、深層に沈んだライラの記憶が、無意識のうちに夢に反映されたのかもしれない。


  「どんな夢なんだ?」


  「なんだろう…… あんまり覚えてないけど、知らない男の人がアーテルの前で膝をついていて……」


  「それで?」


  「泣いてた」


  「泣いてた…… ?」


  状況が上手く整理できない。


  「襲われそうになってたのか?」


  「わからないけど、悲しそうだった」


  頭の中では奇怪な映像が浮かぶ。なぜ、アーテルを見て悲しのだろう。ますます訳がわからなかった。


  「他には何か覚えていないのか? その人がどんな人だったとか」


  「ううん。顔もぼんやりとしか見えなかったから」


  「そうか……」


  今の不鮮明な情報だけでは、大した進展は見込めなさそうだ。だが、前向きに捉えることもできる。


  「もしかしたら、記憶が戻る良い兆候なのかもしれないな」


  「うん」


  ライラは表情を柔らかくして頷いた。


  「目は覚めたか?」


  「まだ眠ーー」


  「だめだ。早く準備をするぞ」


  布団の端を掴み、中に潜り込もうとするライラをどうにか阻止する。抵抗は無意味と悟ったのか、不承不承といった感じで、ようやくライラは起き上がった。

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