怪しい帰還報告
「スキア・サラマンダーを二人で討伐したの…… ?」
机に置かれた報告書に目を通していたソフィアは、口をぽかんと開ける。スキア・サラマンダーとは、先ほど対峙した擬態する魔物だ。
「ええと、はい。紆余曲折あって、どうにか」
「紆余曲折って…… そこが肝心なんだけど……」
「あの、スキア・サラマンダーというのは、そんなに有名な魔物なんですか?」
アイルは助け舟を求める。
魔物の種類について疎い彼だったが、どうやらかなり上位の魔物を討伐してしまったらしい。
「そりゃあ、お前、普通は熟練の魔法師が数十人がかりで討伐にする魔物だぞ? それも、綿密な計画を立てて、先んじて罠なんかを大量に仕込んだりしなきゃならねぇ」
「まあ、俺なら一人でも余裕で倒せるがな」と胸を張って付け加えるタイロン。だが、ソフィアやノエルの微妙な反応を見るに、最後のはハッタリのようだ。
しかし、これではっきりした。あれは二人では到底倒せないような魔物だったのだ。厳密には二人と一頭だが。
「スキア・サラマンダーは特定の住処を持たない竜種の一つなんだけど、稀に人里近くまで下ってくることもあるんだ」
ノエルが説明を付け足す。
「姿を消すという、特殊な魔法を使って狩りをするんだ。その他にもレベルの高い強化魔法を使うことで有名なんだよ。個体数は少ないけど、一つの村を壊滅させたという恐ろしい話もある」
「なるほど……」
だとすると、村人がスキア・サラマンダーに襲われていたところを、竜種が救ったというのはあながち間違いではないように思える。あんな魔物に奇襲を受けたら、なすすべもなかっただろう。
「それで、一体どのようにして、あの魔物を討伐したの? 報告書によると、丸焦げになっていたということだけど」
ソフィアは見定めるように目を細めた。
そういえば、アイルは強化魔法、ライラは召喚術が使えるということしか伝えていなかった。相手を焦がすような魔法は、そのどちらにも存在しない。
「自滅…… しました」
「へ?」
初めて聞く、ソフィアの気の抜けた声。
「あの魔物、体内に酸を蓄えていたのですが」
「そうね。確かに、あの魔物は相手を溶かすための酸を溜め込んでいる」
「奴が偶然、松明の火を飲み込んで」
「飲み込んで?」
「内側から発火しました。それで、しばらくもがき苦しんだかと思うと、そのまま……」
しばしの沈黙が訪れる。
アイルは凛とした表情を崩さないが、内心顔を覆いたくなるほど羞恥に悶えていた。こんな出来すぎたおとぎ話、誰が信じるだろうか。
「そいつはすげえ! まさか、松明がそんな役に立つなんてな! すごい幸運じゃねえか! はっはっはっ!」
いた。
一人だけ大層愉快そうに笑うのはタイロンだ。
「タイロン君、さすがにそれは……」
「なんだ? 松明が身体の中の酸に触れて、一気に燃え広がったんだろ?」
「いや、そうなんだけど。そうじゃなくて……」
「ノエルよぉ。言いたい事があるならはっきり言ってくれねえと。分かりにくい説明は、いざという時に伝達を滞らせちまうからな。もし、自分だけが敵の存在に気づいた時に……」
タイロン節が炸裂し、すっかり押されてしまうノエル。もはや、話の真偽からは離れ、単なる説教に変わってしまっている。
収拾のつかなくなってきた会話に終止符を打つように、ソフィアは大きくため息を吐いた。
「わかったわ。僥倖が重なった末の、偶然の産物ということにしておいてあげる。スキア・サラマンダーを討伐したのは事実なんだし。これでギルドの評価も大分上がるはず」
「助かります……」
全く信じてもらえていないが、タイロンのお陰でどうにか難の逃れることができた。
「馬鹿馬鹿しい」
一人の言葉が、緩みかけていた空気を一気に緊張させる。
「どうせ元々弱っていたか、まだ成体ではなかったんだろう。つまらない作り話を考えて、そんなに皆の気を引きたいのか」
「こら、レナード!」
ソフィアが声を荒げるも、レナードはアイルを最後まで睨みつけ、部屋を出ていってしまった。
「副リーダーも突っかかるのが好きだなぁ」
もはや、タイロンは感心しているようだ。
「相当嫌われてるみたいですね」
アイルは他人事のように言う。
「ごめんなさい。仲良くするよう、何度も言っているのだけれど」
「無理に仲良くなる必要はありません。ですが、あそこまで俺を嫌うのは、何か理由があるんですか?」
「たぶん、烈風焔刃が怪しい噂を立てながら跋扈している昨今だから、少し神経質になっているのかも。あなたたちみたいな人材、そう簡単に手に入らないから」
確かに、アイルたちが戦力を公開すれば、引く手数多だろう。黒魔術が禁術である以上、そんな自殺行為できるはずもないが。そんな人間が、氷晶の薔薇が困り果てていた時にタイミング良く加入するなんて、できすぎた話ではある。
だが、レナードが毛嫌いしているのはアイルだけだ。何か別の理由が、あるように思えてならない。




