依頼の真相
アイルたちの目の前に落下する巨大な魔物。洞窟全体に揺れるような衝撃が走り、風圧で松明の火が大きく揺らめいた。
「うわぁ。こんな大きかったんだね……」
「ああ。いつの間にここに入り込んで来てたのか……」
もしかすると、アイルたちの監視の下、堂々と正面から入ってきたのかもしれない。それだけの擬態能力だった。
インフェルノに直撃してもなお、原型を留めているのは、この魔物が強化魔法で身体を守っていたからだろう。普通なら、クロの投石を喰らった時点で、その部分はぺちゃんこになっていたはずだ。
「もう動かないよね?」
「おそらくな」
あれだけの魔法を受け、逆に生きている方がおかしい。
「ねえ、アイル?」
「どうした?」
「村人を襲ったのって、この魔物なんじゃないかな…… ?」
ためらいがちにライラは切り出した。
「こいつが? いや、そうなると目撃証言と食い違いが出てくるぞ」
ソフィアが語った依頼の内容では、村人を襲った魔物は翼が生えていたとのこと。この魔物には、翼も、それと見間違えるような部位も認められない。
「この魔物に襲われていたところを、あの子が助けてくれたとか?」
そんなまさか、と否定しかけたアイルの脳裏には、炎で酸を防いでくれた竜種のことがよぎった。
アイルたちは、一先ず竜種の元へ近づいた。幸いと言うべきか、竜種には酸が及んでいなかったようだ。
「お前は村人を襲ってないのか?」
アイルは単刀直入に聞く。
しかし、竜種はうんともすんとも言わず、じっとこちらを見つめるばかり。アイルとしては、先ほどのように何か反応を示してくれると思っていたのだが。
「どうして答えない」
「アイル……」
「ん? どうした、ライラ?」
「ううん、なんでもない……」
なぜか、ライラは呆れたように言う。
しばらくの間、アイルは竜種を見つめていたが、ふいに一つため息を吐いた。
「…… はあ。とりあえずその出血を止めてやる」
アイルは竜種の胴体の方へ回った。
横っ腹の辺り。比較的新しい傷から、未だに血が流れていた。どう見ても、タレスの魔法で受けたものではない。
彼はライラに松明を渡し、ポケットから麻袋を取り出した。中身を手ですくうと、緑色の粉末が出てきた。もしもの時のために、妖精の翼片を粉状にすり潰しておいたのだ。
「大人しいね」
「ああ」
死角に入られたというのに、竜種はこちらを見向きもしなかった。既に抵抗は無意味と悟っているのか、それとも、自分が治療されることを理解しているのか。
「つけるぞ」
一応声をかけて、それから粉を傷口に擦り込んだ。
「グゥゥ……」
痛むらしく、竜種が弱々しい声を上げる。
効果はすぐに現れた。妖精の翼片は、傷に馴染むと淡い光を放ったのだ。徐々にだが、傷口が塞がってきているのがわかる。
「血、止まったね」
「すごいな。ただの葉っぱにこんな効力があるとは」
アイルは思わずうなった。
これが銅貨一枚の価値もないのだから驚きだ。
「この子、どうしよう」
「俺たちにできるのはこれだけだ。さっきの炎でだいぶ消耗したみたいだが、死ぬことはないだろう」
あまり動かなくなったのも、余計な体力を使わないためかもしれない。それに、その後竜種が耐え凌げなくても、それはアイルのあずかり知るところではない。
「とりあえず、あの魔物を外まで持って行こう。翼の件は、どうにでも誤魔化せる。それに、もうこんな暗い場所はごめんだ」
「そうだね」
アイルたちは竜種の元を離れる。巨大な魔物はクロに運ばせることにした。
途中、アイルはふと後ろを向いてみた。竜種と目が合う。すると、竜種は頭をゆっくりと動かしたが、それはまるでお辞儀でもしているように映った。




