表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/107

思いがけぬ共闘

  強酸がアイルたちの顔面を狙い飛んでくる。しかも、容易に逃げられぬよう、広範囲に散布されている。身体強化を発動してからライラを抱えて避けるのでは、とても間に合わない。インフェルノも同様で、発動する前に酸が到達してしまう。

  だが、彼女だけ助けることなら可能だ。

  もはや、躊躇している時間はない。


  「アイル!?」


  ライラが驚きの声を上げる。

  アイルは彼女と酸の間に割って入り、彼女を庇うようにして抱きしめたのだ。これなら、自分が盾になり、彼女へのダメージを最小限に抑えられる。彼自身はどうなるかはわからないが。


  「くそ、俺が油断してなければ……」


  残された僅かな時間で、アイルは一言、自分の無念を口にした。これが最期の言葉になると思うと、いたたまれない気持ちになる。

  背中の辺りから、ヒリヒリするような熱を感じる。


  「くっ……」


 しかし、何かがおかしい。いつまで経ってもそれ以上、何の痛みも感じないのだ。


  「ど、どうなってるんだ…… ?」


  アイルはゆっくりと振り返ってみた。


  「お前…… !」


  アイルは目を疑った。

  目の前を覆い尽くす眩ゆい灼熱の炎。それを噴出していたのは、あの竜種だった。


  「もしかして、私たちを助けてくれたの…… ?」


  ライラが呆然と言う。

  炎を吐き切ると、竜種はぐったりしたように首を下ろした。


  「どうして、そんなことを…… そうだ、敵は!?」


  「どこにもいないよ……」


  「ここに入ってきた瞬間も見えなかった。やはり、奴には擬態能力があるということか……」


  地面に引火性のものがあったのか、竜種の吐いた炎は所々に残り、洞窟内を幾分明るくする。

  しかし、未だに辺りは薄暗く、どんなに目を凝らしても肉眼で敵を識別することはできない。


  「おいお前、もう一度敵の位置を教えてくれ!」


  「人間の言葉、通じるの?」


  「知能が高いんだから、なんとなく伝わってくれるはずだ! 頼む、奴の場所を!」


  アイルは縋るような思いだった。この後、殺さなければいけない相手に助けを請うとは、なんと皮肉なことだろう。


  「グルル……」


  しばしアイルを見つめていた竜種だったが、ふいにその琥珀色の瞳を動かした。それは一見、何もない虚空を見ているようだ。しかし、その目は確かに何かを捉えている。


  「つ、通じたのか…… !?」


  「なんでアイルが一番驚いてるの!」


  「いや、まさか本当に通じるなんて思わなくて」


  たまたま竜種が敵を見るタイミングが合っただけかもしれないが。


  「クロ、お願い!」


  そう言うと、ライラが再びクロを召喚する。その顔に傷らしい傷もなく、この短時間で回復したらしい。

  クロは地面に五本の指を突き刺し、その強靭な握力で岩を抉り取った。そして、竜種の向く方に、それを全力投球する。

  岩の塊は、何もないはずの壁に激突する。


  「キィィィ!」


  突如、甲高い鳴き声が壁の方から聞こえた。そして、その壁からは赤々としたものが滲み出てくる。擬態は解けないが、素早く動くあの赤は、敵を可視化させてるも同然だった。


  「見えたぞ!」


  すかさずアイルが手をかざす。

  だが、魔法発動の前に、再びあの酸が飛んでくる。


  「ふ、またそれか」


  しかし、時間の猶予はたっぷりある。彼は狙いを敵本体から酸へと移した。黒い炎に阻まれ、有色透明な液体は白い水蒸気へと変わる。

  追撃はない。おそらく、酸を溜めるのに多少の時間が必要なのだろう。蒸気が消えれば、後はインフェルノを放って終わりだ。


  「な……」


  しかし、視界に映ったものに、アイルは愕然とした。

  壁や地面、至る所に血が撒き散らされていたのだ。しかも、本体も静止しているらしく、どの赤にも動きはない。木を隠すなら森の中。あの酸攻撃は、最後の悪あがきなどではなく、計算づくの作戦だったのだ。

  アイルは自分の稚拙な戦術を悔いた。


  「くそ、どこだ!」


  「グルルル…… !」


  竜種の声が聞こえ、アイルはすぐさま振り返った。見ていたのは後ろの天井辺り。


  「あそこ! 血が落ちてきた!」


  ライラが指差す。


  「クロ!」


  クロは既に持っていた岩を、標的に向かって投げつけた。岩同士がぶつかり、爆発を思わせる轟音が耳を刺す。しかし、敵の声は聞こえてこない。


  「倒せたかな…… ?」


  「わからない……」


  断末魔を上げる間も無く生き絶えたのだろうか。だが、魔物が落ちてくるどころか、血の一滴も垂れてこない。


  「まさか、あれもダミーだったのか…… ?」

 

  アイルは天井の辺りを見回す。すると、少し離れた位置から血が(したた)るのが見えた。目を凝らしてみると、周りよりも少し隆起しているのがわかる。


  「あれだ!」


  アイルは叫ぶ。

  しかし、相手もそう易々とやられるわけではない。また、目くらまし用の酸だ。


  「もう、同じ手は食わないぞ!」


  身体強化を発動。

  そして、ライラを抱え、大きく跳躍する。


  「クロ!」


  アイルの肩から顔を出し、ライラがクロに命令を下す。クロの投石が天井を狙う。しかし、それは当たらない。


  「(かわ)された…… !」


  「いや、違う!」


  ただ避けたのではない。


  「ガァァァァァァァ!」


  こちらに突っ込んでくる巨体。擬態はほとんど解け、その異様に長い胴体と、半分飛び出した丸い目玉が姿を見せた。その全長は竜種よりも長い。

  半ば捨て身で、術者を攻撃しに来たのだろう。

  アイルは着地すると、今度こそ照準を魔物に合わせる。 "力"の調整などしている暇はない。

 

  「喰らえ!」


  「キィィ……」


  無慈悲の漆黒が、魔物を包み込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ