表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/107

大型の魔物

  血の跡を追い、横穴へと入る。そこは先ほど通った道よりも幾分狭く、血痕は天井にまで付いていた。魔物にとって、ギリギリの高さだったのだろう。やはり、かなり大型の魔物らしい。


  「ライラ、クロをいつでも出せるように準備しておいてくれ」


  空気が擦れるような小さな声音でアイルが伝える。


  「うん」


  ライラは少し緊張している様子だ。

  いくら禁術と呼ばれる黒魔術でも、敵を発見してから魔法の発動に移行するまで、少しのラグが生じる。視界の効かない場所でいきなり奇襲をかけられれば、その一瞬の隙で勝敗が決まることもある。

  さらに進んでいくと、今度は、縦横一気に開けた空間に出た。松明の乏しい明かりだけでは、全体が見通せないほどだ。ここなら何か棲みついていてもおかしくない。しかし。

 

  「静かだな」


  「そうだね」


  大型の魔物がいるのなら、息遣いやら多少の身動ぐ音でわかると思ったが、そんな気配はない。時より、どこかから雫が垂れる音がするだけだ。


  「…… 奥まで行ってみよう」


  アイルは意を決して、真っ直ぐ奥へと向かった。地面には、ところどころに乾いた血が付着していた。しかし、呆気ないことに、前方に見えてきたのは行き止まりを示す岩の壁。

  そこから壁沿いにぐるりと一周してみるが、結局何もなかった。わかったのは、ここはドーム状になっているらしいということ。

 

  「おかしいな。血は確かにこっち側に続いていたのに」


  「もう、どこかに逃げちゃったんじゃない?」


  楽観的な、しかし、一番可能性のある考えだ。


  「そうかもな。よし、戻るか」


  アイル達は来た道を戻り始める。しかし、そのちょうど中間地点に差し掛かった時。


  「ん…… ?」


 突然、ピタっと肩に何かが降ってきた。それは服にじんわりと滲み、(ほの)かな温もりが肌に伝わる。アイルはギョッとして肩を見た。布地に広がっていたのは赤い染み。まさか、とアイルは上を見る。

  炎の明かりが、真っ暗な天井に二つの球体を映し出していた。


  「ライラ! 上だ!」


  アイルが叫ぶのとほぼ同時に、真上の天井の方から岩が削れるような音がした。大小の岩が降り注いで来る中、巨大な何かのシルエットが見えてくる。


  「グァァァァァ!!」


  聞いたことのある、凶悪な雄叫び。


  「まさか、竜種…… !?」


  咄嗟に、アイルは上に向かい手をかざした。あの大きさなら、インフェルノを当てるのは容易い。

  しかし、寸前でアイルはそれを中断し、"力"を身体強化へと変質させる。


  「ライラ!」


  アイルはライラを抱き抱え、その場から大きく飛び退った。直後、地響きが洞窟内に広がる。

 

  「大丈夫か?」


  「うん、私は平気…… でも、どうして?」


  どうして、十分なチャンスがありながら、攻撃をやめ逃げに転じたのか。ライラの目はそう問いかけていた。


  「あの竜種、この前俺を襲ってきたやつだ」

 

  その色と形、そして、傷だらけの身体。それは、タレスの雷により瀕死状態に追いやられた竜種の一体だった。


  「まさか、まだ生きてたとは……」


  「でも、もうボロボロ……」


  着地した竜種だったが、すぐに身体をよろめかせ、地面へと這いつくばってしまう。おそらく、最後の力を振り絞り、奇襲を行なったのだろう。


  「グルル……」


  竜種はなおも威嚇するように喉を鳴らすが、それ以上何の動きも見せない。


  「もう、襲ってくる余力もないんだろうな」


  「この竜種が村人を襲ったのかな…… ?」


  「翼の生えた大型の魔物なんて、そうはいないはずだ。それに、俺もこの竜種の群れに襲われた。こいつで間違いないだろう」


  「どうするの?」


  ライラに聞かれ、アイルは押し黙ってしまう。

  彼は再び竜種の方を見た。さすがは魔物の頂点に君臨するだけある。その瞳には、まだ力強い光が残っていた。

  だが、弱っているのは事実。動けない敵にとどめを刺すのは、さすがに心が痛い。


  「…… かなり衰弱してるが、体を休めれば動き回れるようになるかもしれない。また他の村人が襲われる前に蹴りをつけないとな」


  「私が代わる…… ?」


  「いや、大丈夫だ」


  ライラから追撃が来る前に、アイルは竜種の方に手を向けた。しかし、中々心が決まらない。

  先ほど、竜種の正体を知る前に、さっさとインフェルノを放っておけば良かったと強く後悔する。


  「グルルル……!」


  突然、竜種が勢いよく頭をもたげた。


  「なっ…… !こいつ、俺たちを油断させて…… !」


  竜種の知性の高さを失念していた。アイルは魔法の発動を急ぐ。


  「待ってアイル!」


  「どうした!」


  「あの竜種、私たちを襲う気じゃないよ」


  「なんだって?」


  確かに、竜種は何もしてこない。


  「私たちの後ろの方を見てるみたい……」


  後ろの方、つまり、この空間に続く狭い一本道の方だ。

  そして、ようやく気づく。一定の速いリズムで聞こえてくる、低い地鳴りのような音。

 

  「何の音…… ?」


  「でかい何かが、こっちに向かってきてる」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ