謎の男たち
彼女に対していたのは、三人の男だった。皆同様に、白い生地に水色の刺繍が入った服を身につけている。何か同じ組織に所属しているのか、もしくは、相当な仲良しなのか。
「さあ、その荷物の中身を見せてもらうぜ」
一番大柄の男がリンシアに詰め寄る。
「な、なんでそんな事しなきゃいけないのよ」
「少し事情があってね。もし、こちらの勘違いなら非礼を詫びよう」
答えたのは、紫の長髪の気品が良さそうな顔をした男。
「意味わかんない! 身勝手にもほどがあるでしょ!」
リンシアは叫びながら、少しずつ後ずさりしていく。隙を見て逃げ出そうと考えているのだろうが、あんな重そうな荷物を背負っていてはすぐに捕まってしまうだろう。
側から見れば、物盗りに襲われる少女の図だ。
「ちょっと行ってくる。ライラはここで待っていてくれ」
見兼ねたアイルはリンシアを助ける事を決意する。厄介ごとに首を突っ込むのは、彼の事なかれ主義的な性分に反しているが、相手が見知った人間なら話は別だ。それがどんな嫌な人であっても、お節介焼きな一面が顔を覗かせてしまう。
「一人で大丈夫?」
「ああ」
力強く頷くと、アイルは一人で歩いて行った。
「さあ、中身を見せるんだ」
紫髪の男が言う。
「嫌よ! 」
「これ以上拒むというのなら、こちらもそれ相応のーー」
「待て!」
四人の視線がアイルの方へ集まる。リンシアは信じられないという顔をしていた。
アイルは悠然と両者の間に割って入る。
「アイル…… あんた、なんで……」
「なんだお前? この女の仲間か?」
大柄の男が、さながら悪役の常套句を口にする。
「別に仲間というわけじゃないが…… 」
「それなら引っ込んでいてもらおう。これは私たちの問題だ」
紫髪の男に、簡単に突っぱねられる。なんとも決まらない流れだ。
「いや、そういうわけにもいかない。仲間じゃないが、一応知り合いというかなんというか…… とにかく! 訳の分からん男たちに襲われそうになっているのを、黙って見過ごすわけにはいかない」
「おいおい、お前は俺たちが悪いことしてるように見えるのかよ? ええ?」
大柄の男は、さも自分がしている行いは高尚で真っ当なものだ、とでも言いたげな様子だ。
「いや、タイロンくん。側から見たら、多分こっちが悪者だよ。実際良いことではないし」
ここで初めて一番背の低い、眼鏡をかけた男が口を挟んだ。その呆れた物言いから、彼は自分がしていることは悪だと自覚しているらしい。
しかし、大柄の男ーー タイロンは首を横に振る。
「わかってねえな、ノエルはよ。本当の正義ってのは、達成されるまでは異端に見られちまうこともあるってもんなんだよ。終わりよければ全てよし」
「そうは言っても、ダメなことはダメだと思うな。騎士に見つかったら、言い逃れできないし」
「ノエル、君はどっちの味方なんだ?」
紫髪の男は呆れたようにため息を吐く。
完全にアイルは蚊帳の外だった。毒気を抜かれるどころか、少し寂しい気持ちすら覚える。
「お、おい……」
「ああ、悪い。ええと、どこまで話したか」
紫髪の男はしばし考える風だったが、おそらく覚えていない様子。
「まあとにかく、そこをどいてくれ。私たちはそちらの彼女に用があるんだ」
「どくわけにはいかない」
「なるほど……」
すると、三人のうちの一人、小柄な男が紫髪の男に何事か耳打ちする。
「すまないが、私たちはこれ以上時間を浪費するわけにはいかないのだ。そこを退かぬと言うのなら、実力行使をすることもやぶさかでないぞ?」
いきなりの宣戦布告。
紫髪の男の温和そうな瞳が、鋭く研ぎ澄まされた光を湛える。彼が本気なのは言うまでもなく、さらに、自分の力を相当に自負しているのが見て取れた。
アイルは運良く衛兵が通りかかる光景を夢想したが、周りにいるのは一般人だけ。皆、総じて傍観の姿勢を決め込んでいる。
「リンシア、時間を稼ぐから、その間に逃げーー」
「ごめん、アイル!」
その声があまりにも遠くから聞こえたので、アイルははてと頭を後ろに回らす。
「え…… ?」
リンシアは既にスタートダッシュを切っていた。こちらを顧みることなく、全速力で。その姿は、すぐに夕暮れの人の往来へと消えていく。
「そこはもっと…… 躊躇するところじゃ……」
「逃げる気か! 追うぞ!」
紫髪の男が叫ぶ。
走り出そうとする三人の前に、アイルが立ち塞がった。
「ま、待て! なんだか思ってたのと違うが…… ここを通さないぞ」
「残念だが君の遊びに構っている暇はない。これ以上邪魔だてするなら、本当に痛い目を見ることになるぞ?」
紫髪の男が冷徹に言い放つ。
「やってみろ……」
「それならーー」
「待てよ」
紫髪の男の前に出てきたのはタイロンだ。
「気に入ったぜ。俺が直々にぶっ倒してやる」




