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ピンク髪の少女

  「依頼の期限は昨日いっぱいとなっていましたので」


  事務的な口調でそう言い、受付嬢がぺこりと頭を下げる。その絶望的な響きに、アイルは膝から崩れ落ちそうになった。


  「なんだって……」


  冒険者総合支援センターにたどり着いたアイルたちに、待ち受けていた残酷な結末。なんと依頼には個々に期限が設けられており、それまでに冒険者による音沙汰がないと、自動的に失敗になると言うのだ。その後「妖精の翼片採取」の依頼は再掲されたが、他の冒険者によって完了されたらしい。


  「他に魔法を使わない依頼って、あったりしますか……?」


  「申し訳ありません。そういったものは滅多に入って来ませんので」


  予想通りの返事。


  「どうする?」


  ライラは困ったような視線を投げかける。

  できれば王都近辺で黒魔術を使いたくないが、ここまできたら背に腹はかえられない。


  「…… 仕方ない。それじゃあ、ここで一番簡単な依頼をお願いします」


  「申し訳ありません。ただいまご用意できる依頼がゼロでして」


  「え?」

 

  意外な答えに、アイルは言葉を失った。


  「一時間ほど前に、今日の分の依頼は全て受注されてしまったんです」


  「全てのって…… 一つもないんですか?」


  「はい。ですので、恐縮ですが、また後日お越しになってください」


  受付嬢はそう締めくくった。


  「まずいな……」


  外に出て、一人呟くアイル。

  昨日から何も口にしておらず、唯一当てにしていた依頼は無効。さらに、奥の手であった他の依頼が受けられないと、まさに踏んだり蹴ったりだ。

  まさか、十五歳という若さで、この先の生活に困窮(こんきゅう)することになろうとは。


  「とりあえず妖精の翼片を売ってみるか」


  「売れるかな?」


  「一応、市場で取り引きはされてるらしい。少なからず需要はあるんだろう。少しは金になるはずだ」


  そう言って、数枚の薬草に一縷(いちる)の望みを託してからどのくらいたったのだろう。登り始めたばかりの太陽は、いつしかアイル達の真上でさんさんと輝いていた。

  結果は散々で、彼らの心中は既に暗く陰っていた。


  「はあ……」


  「売れなかったね……」


  「そうだな……」


  あらゆる傷を癒すという妖精の翼片。しかし、その実、回復魔法に需要を淘汰(とうた)され、その価値はかなり低い。たかだか数枚では銅貨一枚にもならないと、市場の人には一笑に付される始末だ。こんな葉っぱの採集を頼んだ依頼主は、市場で手に入らず相当困っていたのだろう。

  前途に見えていた小さな突破口が、突如岩石で封じられた気分だ。


  「ん? あれは……」


  ふいにアイルの視界に入ったのは、見覚えのある薄ピンク色の髪の少女。


  「リンシア?」


  呼び止められた少女は肩をビクッと揺らし、それから振り向いた。


  「あ、アイル……?」


  その顔はやはり、アイルの幼馴染の一人、リンシアであった。彼が村を追放された日、レイリーと共にアイルを(けな)していた少女だ。

  アイルを見る彼女の瞳は単純に驚いているというより、なぜか狼狽(ろうばい)の色が強い。だが、次の瞬間には、彼を見下すような冷たい余裕を醸し出していった。


  「ふーん、生きてたんだ。村では、あんたが死んだって専らの噂だったけど」


  「いきなり酷い言われようだな…… 」


  「そりゃあそうだよ。まともに魔法も使えないようなあんたじゃ、とっくに魔物に食われてると思ってたのに」


  「まあ、色々あってな」


  話し始めて早々、アイルは声をかけたことを後悔していた。


  「ていうか、何その子。ガールフレンド?」


  リンシアは無遠慮にライラを指差した。


  「違う。俺の師匠だ」


  一瞬どきりとするが、アイルはどうにか平静を装って答える。

  「師匠じゃない」と、ライラは(とが)めるような視線をアイルに向けた。


  「へえ、そうなんだ…… それで、わざわざ私を呼び止めて、私に何か用なの?」


  「いや、たまたま見かけたから声をかけてみただけだ」


  嘘をつく理由もないので、アイルは正直に答える。だが、せっかくならもう少し聞いておきたいことがあった。


  「王都にいるってことは、リンシアも冒険者になったのか?」


  「まあね」


  「レイリーは一緒じゃないのか? 同じギルドに入ると言っていたが……」


  「別に…… あんたには関係ないでしょ」


  冷たくあしらうリンシア。しかし、なぜか彼女の顔は暗くなる。


  「そうだな…… そういえば、その背中に背負ってる物は? かなりの量だな」


  リンシアは彼女の胴体よりも膨らんだ革製のカバンを背中にかけていた。


  「な、なんでもない……」


  リンシアはバツが悪そうに目をそらす。


  「だいぶ重そうだが、手伝おうか? 体力には自信があるぞ?」


  「なんでもないって言ってるでしょ! 二度と話しかけてこないで!」


  早口にそう言うと、リンシアは逃亡犯のごとく走り去ってしまう。その姿は、すぐに曲がり角の方へ消えてしまった。


  「アイル、あの人に嫌われてるの?」


  「ああ、そうだが…… もうちょっとオブラートに包んで言ってくれ。なんだか胸が痛い……」


  「ごめん」


  ライラは軽く頭を下げた。


  「そこのピンクの女! 止まれ!」


  リンシアが消えた角の方から、男の怒鳴り声が響く。その声が示す身体的特徴も、ちょうどリンシアのものと当てはまる。


  「行ってみるか」


  「うん」

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