タレスの容態
王都への道は思った以上にきついものだった。あの黒魔術を使ってから酷い倦怠感が付きまとっていた。刺された腕の痛みを鈍くするほどに。
やっとの思いで王都へ到着する頃には、日が既に西の空へと傾いていた。その間、幸いにも他の誰とも鉢合わせになることはなかった。街の様子も、特に慌ただしい様子は見受けられない。
そして、最大の難点であった、タレスをどうするかという話。常識的に考えて、衛兵に突き出すのが最善だろう。だが、あえてアイルは彼を医療施設へと運んだ。
「何があったんですか!?」
驚く施設の女に、「依頼の途中で魔物に襲われました」とアイルは適当な嘘をでっちあげた。状況が状況なだけに、特に追求することもなく、女はタレスを奥の部屋へと運ばれていった。
それから十分ほど。
「タレスさんの容態は?」
戻ってきた女に、アイルは聞く。
「結論から言いますと、とりあえず命に別状はありません。二、三日療養すれば、元通りの生活に戻れます」
女の言葉に、アイルは素直に喜ぶべきか迷った。そんな彼の様子を見て、女は怪訝そうに眉をひそめたので、彼は慌て咳払いをする。
「良かったです。酷い怪我だったので、どうなるかと……」
「いえ、衰弱していた原因は怪我というより、マナを許容限界を超えて使用したことです」
女の意外なセリフを聞いて、アイルの頭に疑問符が浮かぶ。
「それってどういうことですか? タレスさんの腕は……」
「腕ですか? ここへ来た時には、タレス様の腕の傷は完璧に塞がっていましたよ」
「え?」
アイルは何か聞き間違いをしたのかと思った。
「怪我といえば、背中に局所的に軽い火傷を負っていたくらいですが、これも重傷とはいえないですし……」
「いや、でも……」
そんなはずはない。
崖から落下する時、アイルはタレスの腕を燃やした。それから、再び彼が現れるまで一時間もかかっていないはず。その間に、回復魔法をかけたということだ。
タレス自身がそんな魔法を使えたというのか? それとも……
「大丈夫ですか?」
いつのまにか、女はアイルの顔を覗き込んでいた。
「大丈夫です。それで、マナの許容限界を超えたというのは?」
「はい。通常、マナは毎日一定量が体内で生成、蓄積されます。しかし、この全マナを使い切ることはできません」
「ああ。確か、マナの貯蔵量が一割ほどになると、ストッパーがかかるんですよね」
幼少の頃から魔法の能力が皆無だった分、アイルは勉学に励んできた。こういう知識なら持ち合わせている。
「その通りです。これは、マナが完全に枯渇すると、人体に影響がでるからと言われています。しかし、タレス様の場合、マナが限りなくゼロに近い状態でした。こんなこと普通できません」
「じゃあ、どうしてタレスさんは?」
「わかりません。こんな症例めったに見ないものなので」




