正体は?
オレンジ色の輝き。おそらく炎の属性魔法だ。
魔物の体内にもマナは存在していて、一部の魔物はそれを用い、魔法のような現象を発生させることも可能だ。知性の高い竜種ともなれば、そこらの魔術師よりも強力なものを使えるだろう。
しかし、竜種の知性が高いからこそ、アイルは疑問が浮かんでいた。
「仲間が一瞬でやられたのに。勝ち目がないとわかってて、なぜそこまで俺を殺すことに固執するんだ。今なら見逃してやるから、さっさと逃げてくれ」
半ば訴えかけるように言うアイル。
自衛のためとはいえ、生き物を殺して気分が良いわけがない。できれば、これ以上命を殺めることはしたくなかった。
「グルル……」
しかし、竜種といえど、魔物が人語を解することはない。それらは威嚇するように唸りながら、口内に着々と炎を蓄えていく。
「説得は失敗か。それなら……」
その頰が目一杯膨らむと、三体の竜種は一気に口を開いた。
「グアァァァァァァ!」
三方向から吐き出される高温のブレス。掠めただけでも、あっという間に皮膚がただれるだろう。
しかし、それはアイルの元へ届くことはない。その進行方向上には黒い炎が立ちはだかっていたからだ。
「それだけか?」
攻撃魔法の相殺。
変質、凝縮を経て魔法となったマナは、それ以上の力のある魔法とぶつかることで、急速に分解され魔法としての効力を失う。一直線に向かってくる魔法であれば、相殺するのも容易い。
アイルに一切の怪我を負わせることなく、ついに竜種は炎のブレスを吐き切った。かなりのマナを消費したらしく、竜種の呼吸が乱れているのがわかる。
「これで力の差がわかっただろう」
頭の良い竜種なら、自分の攻撃が通用しないと理解すれば、尻尾を巻いて逃げるはず。これがアイルの算段だった。しかし、すぐにそれは希望的観測に過ぎなかったとわかる。
「グルルルル……」
苦しげに息をしていた竜種は、再びブレスの準備を始めたのだ。
「あいつら、どうしてそこまで……」
アイルは呆然とする。
何が竜種をそこまで駆り立てるのか、彼には全く分からなかった。その異常なまでの執念に、一種の恐怖すら感じる。
「あいつらのマナが切れるまで待つか……?」
だが、すぐにアイルは「いや」と首を横に振った。竜種のマナがいつ切れるかわからない。それまでライラを放置する気にはなれなかった。
「せめて、さっきの竜種みたいに、苦しまないよう逝かせてやる」
そう宣言して、アイルが手をかざした時だった。
晴天だった空が、突如として分厚い灰色の雲に覆われる。しかも、雲はアイルと竜種の上空にしかできていない。その周りは相変わらずの青空だ。
「どうなってるんだ?」
アイルが困惑していると、突然雲が光った。
そしてーー
「グァァァァァァァァァ!」
三体の竜種の元へ稲光が降り注いだ。
翼の動きを止めたそれらは、全てが地面に墜落する。しかし、即死には至らず、それらは身体をピクピクとさせながら、小さく高い鳴き声を上げた。聞いているだけで心が痛くなる。
だが、今はそれどころではない。
「魔法……!? 誰だ!」
アイルは視線を周りに向ける。あれが自然現象のわけがない。
川の方だった。黒いローブで全身を覆った何者かが、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
「お前、さっきの……!」
それはアイル達が崖から落下している最中、崖の上から手を振っていた人間だった。
よく見れば、左腕に被さっている布は明らかに凹んでいる。インフェルノを直に受けて、腕を消失したのだろう。
「誰なんだお前は! ライネスなのか? それともダインか? お前がライラを突き飛ばしたのか!?」
再び訪れた罪の意識を振り払うように、アイルはまくし立てる。
しかし、ローブ姿は何も答えず、ゆったりとした歩調でさらに近づいてくる。
「止まれ! 」
アイルは手をかざした。
相手が誰であれ、殺したくはないため、これはただの脅しである。
それが功を奏したのか、ローブ姿は足を止めた。距離としては四、五メートルほど。
そこまで来てようやくわかった。その身長はおそらくアイルよりも高い。この時点でライネスの線はなくなる。
「ダイン…… なのか?」
「罪人には相応しき罰を」
低くしわがれた声が、セリフに反して愉快そうに言う。そして、ローブ姿はゆっくりと、顔を覆っていた布をめくった。
「そんな、どうして……」
その顔に、アイルは言葉を失った。




