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 目を開ける。

  視界は未だ深く暗い緑色に覆われていた。


  「あれ……」


  しかし、先ほどまであった浮遊感は消えていた。背中からは冷んやりと固い感触が、対照に、前面は温かい何かを感じた。アイルは顔だけを動かし、ゆっくり辺りを見回す。

  目に入ったのは、横に伸びる大量の木の幹。


  「森の中……? 俺は地面に着いたのか?」


  アイルはようやく自分のいる場所を把握した。しかし、腑に落ちないことが。


  「どこも、痛くない……」


  アイルは試しに腕を伸ばして左右に回してみる。すると驚くことに、怪我どころか、袖にすら傷一つついていない。数十メートルの高さから落ちたのだ。普通、そんなことはあり得ない。


  「何が起きたんだ……?」


  彼はとりあえず身体を起こそうとする。


  「ん……?」


  何かがつっかえて、身体が容易に上がらない。アイルはハッとした。


  「ら、ライラ!」

 

  アイルの身体の上にぐったりと倒れ込んでいたライラ。

  目立った外傷は見えない。彼はすぐさま彼女を地面に下ろし、それから呼吸の確認をする。


  「よかった、生きてる……!」


  身体の奥底から、今までに感じたことのない格段の喜びが湧き上がってくる。思わず抱きしめたくなるが、ギリギリでアイルは自制した。

  小さな寝息のような呼吸だ。気を失ってるいるのだろう。

  ふと気になって、彼は上を向いた。しかし、隙間なく埋められた木の葉のせいで、崖上の様子は(うかが)い知れない。この際、下手人のことなどどうでもよかった。


  「待ってろ、すぐに王都に戻るからな」


  アイルはライラを背負う。


  壁面に沿ってしばらく進むと、木々が無くなり、開けた場所に出た。地面は草むらから、ゴツゴツとした岩肌に変わっていた。さらに、奥の方では崖が途絶え、視界を横切るように小川が流れている。あれなら、後は川沿いに歩けばいずれ王都の方へ戻れるはずだ。


  「もう少しだ」


  アイルは背中に乗るライラに言う。未だ彼女は目を覚まさない。


  「グァァァアァァ!」


  突如として響く咆哮(ほうこう)


  「なんだ?」


  アイルは上空を見上げた。遠くの方から、四つの巨大な何かが飛来してくる。


  「竜種……!?」


  アイルは驚愕した。

  岩肌のようにゴツゴツとした身体。凶悪なアギトに、巨大な翼。学名まではわかないが、それは(まご)うことなき竜種であった。

  竜牙(りゅうげ)の欠片や、鉱石のように美しい竜鱗(りゅうりん)はお守りやアクセサリー等によく使われ、アイルもそれなら見たことはある。しかし、生きた個体を見るのは初めてだ。


  「王都からそこまで離れていないのに…… なぜこんなところに」


  竜種は人里離れた洞窟などに住み着き、縄張り内で狩りをするが普通だ。それも、大型の竜種は単独で行動するのが通常で、群れで狩りをすることはまずない。全てが異常だった。

  四体の竜種は、真っ直ぐアイルの方へ向かってくる。


  「しかも、狙いは俺なのか。わざわざ遠くから、なぜ?」


  食料になるわけでもなく、しかも、魔法を使える人間を襲うなんて。魔物の中でも知性の高い竜種がそんなことをするわけがない。もはや理解の範疇(はんちゅう)を超えていた。


  「理由はわからんが…… 悪いな、俺はお前らに構っている暇はない」


  今の最優先事項はライラの治療をしてもらうこと。その障害物になるものは、早々に取り除かなければならない。

  竜種の一体が口を大きく広げ、アイルに突っ込んでくる。


  「図体の割に意外と速いな」

 

  鎧のように硬質な皮膚を持つ竜種が、まさに砲丸のように飛んでくる。ライラを背負ったこの状況で、避けるには間に合わない。

  なので、アイルは逃げようとはせず、片手を竜種の方へと向けた。

 

  「だか、俺にとっては、ただのでかい的だ」


  黒い炎が一瞬で竜種を包む。


  「グァァァァァァァァァ!」


  竜種は、もがき苦しんだかと思うと、耳をつんざくような断末魔をあげる。そして、その巨体はアイルのすぐ横に落下した。激しい風圧がこちらまで届き、地面が小さく揺れる。


  「出力を下げすぎたか…… せめて楽に終わらせてやりたかったが」


  アイルは痛々しげに、焦げた竜種を見る。

  黒魔術はその"力"の調整が難しく、ほんの少し調整を誤っただけで、魔法の威力は大きく変わる。半年練習に没頭した彼でも、その微細なコントロールは未だに苦手分野だ。

 

  「グァァァァァ!」


  脳が揺さぶられるような雄叫びが聞こえ、アイルは視線を再び上に戻した。

  いつのまにか三体の竜種は、アイルを囲むようにして浮遊していた。その口元からはオレンジ色の輝きが漏れ出している。

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