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冒険者総合支援センター

 

  徒歩で三時間。ようやく到着したのは、サンクトゥスという名の王国の王都。

  大きな通りの両端では、青果から衣類まで、様々な出店が開かれている。そこは、多くの人でひしめきあい、活気で満ちあふれていた。遠くには存在感のある大きな王宮が建っている。


  「わあ……」


  「さすがに王都は広いな。これは、はぐれた終わりだ。ライラ、しっかりついて来るんだぞ?」


  まるで親が小さな子に言うセリフだ。

  しかし、隣にいるはずのライラから返事がない。


  「ライラ……?」


 まさかと思い振り返ると、彼女はいた。


  「なんだ、びっくりさせないでくれ……」


  アイルは思わず安堵の息をもらす。こんな序盤ではぐれたら、とんだお笑い(ぐさ)だ。

  しかし、なぜかライラは歩き出そうとはせず、じっとアイルを見つめている。

 

  「どうした? 腹でも痛めたか?」

 

  「手」


  一言そう言って、ライラは細っそりとした腕をこちらに伸ばした。

  アイルは首をかしげる。


  「手?」


  「はぐれないように」


  「ああ、そういうことか……」


  ようやく理解した。手を繋いでくれ、ということだ。


  「別にわざわざそんなことをする必要はないだろ? 並んで歩いていれば見失うことなんてないし、もしそうなっても大声で叫んでくれれば大丈夫だ」


  しかし、アイルは適当な理由を並び立てて、ライラの申し出を渋る。

  気恥ずかしいのだ。


  半年間、黒魔術の使い方を教えてもらうため、ライラと寝食を共にしてきた。だが、年頃の男女が二人だけで生活していたにもかかわらず、今までこれといった進展もないのだ。それは、彼が黒魔術の事に半ば心酔し、ライラを恋愛の対象として捉えてなかったことが大きい。

  しかし、いざ、こういう場面に直面すると、彼の成熟しきっていない少年の心が遺憾(いかん)なく表に出てきてしまう。


  「……」


  ライラは何も答えない。


  「な、なんだ……」


  「なんでもない」

 

  ふいに、ライラの手が引っ込められる。その声はどことなく悲しげだ。


  「待て! わかった!」


  アイルは咄嗟に手を伸ばし、ライラの手をそっと握った。いや、握るというより、手を添えると言った方が正しい。


  「こ、これでいいだろ?」


  「……うん」


  あまり表情に変化はないが、どことなくライラの顔が満足げに映った。

  側からみればぎこちないカップルのような形で、二人は王都を進んでいく。アイルとしては、文字通り手に汗握る状態だった。

  それから数分。彼らは、周りよりも一際大きな建物の前で足を止めた。


  「ここが冒険者総合支援センターか」

 

  「なんかヘンテコな名前だね。ここでお金がもらえるの?」


  「依頼を受けるんだ。食料を買う金くらいは稼げるはずだ」


 ここは王国直属の施設で、国中から集まる依頼を一手に斡旋している。

  中は堅木(かたぎ)張りの床に、白っぽいレンガの壁で、全体的に落ち着いた雰囲気の内装であった。奥には受付口が設置してあり、その横には大小様々な紙が貼られた掲示板が。


  「サンクトゥス王国冒険者総合支援センターへようこそ。ご用件を伺ってもよろしいでしょうか?」


  受付嬢が慣れた様子で要件を聞く。


  「一日で終わるような、簡単な依頼を受けたいんですが」


  「かしこまりました。会員登録はお済みでしょうか?」


  「いえ…… 今日が初めてなもので」


  「それでは、簡単な登録をさせていただきます。こちらに個人情報をお書きの上、登録料としてお一人様、銅貨一枚のお支払いをお願いいたします」


  そう言って、受付嬢は卓上に二枚の紙を滑らせた。流れでアイルはそれにペンを走らせようとするが、ある事に気付き、手を止める。


  「あの」


  「いかがなさいましたか?」


  「登録料、払えないんですけど」


  「は?」


  受付嬢はにこやかな顔を崩さず、しかし、呆れたような声を出す。


  「ええと、銅貨二枚ですよ?」


  受付嬢が困惑するのももっともだ。銅貨は一枚で果物一つ買えるくらいの価値だ。


  「はい。一銭もなくて」


  「でしたら、申し訳ないのですが、登録は致しかねます」


  あっさりと断られる。

  ライラの方を向くと、彼女の悲哀のにじんだ瞳がアイルを見ていた。


  「あの! どうにかなりませんか? 報酬の一部から支払うとか!」


  アイルは慌てて、引っ込められそうになった書類の上に手を置く。


  「申し訳ございません。登録をしていただかないと、信用の観点から依頼を受けるのはできない決まりとなっております」


  作り笑顔を浮かべた、受付嬢の口角がピクピクと痙攣(けいれん)している。だが、ここで引くわけにはいかない。


  「そ、そこをなんとか! お金がないと、この先、生活ができないんです!」


  「無理なものは無理です! そちらの事情なんて知らないし! さっさとお帰りください、このーー」


  我慢の限界が来たのか、受付嬢の口調がとうとう破綻してきた時だった。乾いた音を立て、目の前の卓上に何かが飛んでくる。よく見ると、それは二枚の金貨であることがわかる。


  「彼らの分、僕が払いましょう」


  爽やかな声が聞こえてきた。

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