【第90話】「帰還する公爵令嬢」
【第90話】「帰還する公爵令嬢」
ヴェルドラコン帝国到着区域
12:00~19:00
ASTRAEON VELORIAがヴェルドラコン帝国到着区域へ続く最終航路へ入ると、窓の外の光景が再び変化した。
航行する船の密度が増している。
もはやギャラクティック・レジャー・コリドーのように自由に行き交う民間船だけではない。
外交船、政府船、公爵家をはじめとする貴族家の公式輸送船、そして帝国到着区域への滞在を特別に許可されたさまざまな船が航行している。
すべての航路には規則がある。
すべての距離には理由がある。
ただ通過しているだけに見える船でさえ、現在行われている到着手続きの流れを妨げないよう、定められた位置を維持しなければならない。
その中で、ASTRAEON VELORIAはあくまで民間船として進んでいた。
そのステータスは変わらない。
兵装も、依然として隠蔽された構成のままだ。
豪華な船体のどこを見ても、その船が通常の民間船を遥かに超える戦闘能力を持っていることを示すものは一つもない。
外から見れば、あくまでもそのままだった。
全長8,600メートルの豪華なプライベートシップ。
だが、その日、ヴェルドラコンの監視システムのほぼすべてが、その船に注目していた。
「アプローチ・コリドーが割り当てられました」
航行席に座るヴェスペラが告げる。
「帝国到着区域までの距離は?」
「ASTRAEON VELORIAのような船にとっては、まだ十分に距離があります。ただし、航路そのものはすでに交通管制によって固定されています」
「速度は?」
「向こうの指示通りです」
紬は頷いた。
「加速するな」
「しません」
コントロールルームの反対側にいたカリスタが、身体を背もたれへ預ける。
「考えてみれば、この船を『ちょっと立ち寄る』なんて言い方で扱うのは無理があるわね」
「仕方ないでしょう」
ランが答えた。
「ASTRAEON VELORIAは全長8,600メートルもあるんだから。普通の民間ドッキングでさえ、ステーションにいる全員がその大きさを考慮しないといけない」
「別に文句を言ってるわけじゃないわ」
「顔が文句を言ってる」
「これが私の普通の顔よ」
「それはもっと心配だわ」
レアが笑った。
「二人とも、喧嘩はあとにして」
そう言ってから、レアはオーレリアへ視線を向ける。
「今は前を見て」
オーレリアはパノラマウィンドウの近くに立っていた。
到着航路へ入ってからというもの、ほとんど外から視線を逸らしていない。
右手は、自分でも気づかないほど小さな動きで、服の端を握りしめていた。
王冠はない。
公爵家の正式なドレスもない。
隣に専属護衛がいるわけでもない。
簡素な服に家紋が付いているわけでもない。
それでも、遠くに一隻の大型船が現れた瞬間、オーレリアの身体全体から雰囲気が変わった。
「……あれ」
レアが近づく。
「どれ?」
オーレリアが手を上げた。
「あの船です」
ヴェスペラが映像を拡大する。
一隻の外交船が護衛編隊の中を進んでいた。
長く優雅な船体。
そして、標準的な政府船とは明らかに異なる設計。
船体側面には、貴族家の家紋が刻まれている。
幼い頃からオーレリアが知っていた家紋だった。
「私の家の船です」
その声に迷いはなかった。
オーレリアは長い間、その船を見つめていた。
あまりにも長く見つめ続けるので、レアも冗談を言わなくなった。
「お父様は、あそこにいるの?」
「分かりません」
「でも、自分の家の船だって分かるんだね」
「はい」
オーレリアが頷く。
「あの船のことは知っています」
声が少しずつ小さくなる。
「昔、まだ小さかった頃、家の窓からよく見ていました」
レアは口を挟まなかった。
「いつも、あの船はとても大きいと思っていました」
オーレリアが小さく笑う。
「でも、今ASTRAEON VELORIAを見たあとだと、私が覚えていたほど大きくは感じません」
カリスタがすぐに振り向いた。
「全長8,600メートルの船に乗っていることによる副作用ね」
「カリスタ」
「何? 事実でしょう」
オーレリアが小さく笑う。
しかし、その笑いはすぐに消えた。
再び視線が家族の船へ向けられる。
「私、帰ってきたんですね」
今度は、はっきりとした声だった。
「本当に、帰ってきたんですね」
ASTRAEON VELORIAが減速を開始する。
ドッキングシステムが、ヴェルドラコン帝国到着区域から送られてきた一連の指示を受信した。
護衛艦がそれぞれの位置へ移動する。
急激な動きはない。
サイレンも鳴らない。
すべてがあまりにも整然と進むため、劇的という言葉すら似合わない。
だからこそ、その緊張感がより現実的に感じられた。
紬は最終航路が手順通りに進んでいることを確認すると、コントロールセンターを離れた。
向かった先は、メインアクセスエリア。
レア、ラン、ヴェスペラ、カリスタ、そしてセラフィエルもそこにいた。
数歩遅れて、オーレリアもやって来る。
「もう時間ですか?」
「もうすぐだ」
紬は端末の時計を確認した。
「ドッキングが完了すれば、家族の代表と帝国側の関係者が乗り込んでくる」
「分かりました」
「本人確認が行われる」
「はい」
「そのあと、君は降りる」
オーレリアが頷いた。
何もおかしくない手順だった。
しかし、すべてがあまりにも正式なものに感じられるからこそ、オーレリアはさらに緊張しているように見えた。
「紬さん」
「ん?」
「一つ、聞いてもいいですか?」
「もちろん」
「もし私が船を降りたあと……思っていたものと全部違っていたら、どうすればいいのでしょうか?」
その問いに、レアがオーレリアを見る。
紬はすぐには答えなかった。
「俺には分からない」
オーレリアが瞬きをする。
「全部きっと大丈夫だとは、言ってくれないんですか?」
「言わない」
「どうして?」
「分からないからだ」
紬は壁へ身体を預ける。
「全部うまくいくって言えば、君は数分間だけ安心できるかもしれない」
「……」
「でも、本当にうまくいかなかったら、その言葉は何の役にも立たない」
オーレリアが顔を伏せる。
「では、私はどうすればいいんですか?」
「目の前にあるものに向き合えばいい」
「そんなに簡単ですか?」
「簡単じゃない」
紬が薄く笑う。
「でも、だいたいそういうものだ」
オーレリアは黙った。
それから、ゆっくりと息を吐く。
「緊張するとは思っていました」
「実際、緊張してるな」
「分かっています」
「顔に出てる」
「恥ずかしいです」
「別に」
レアがすぐに口を挟んだ。
「むしろ緊張してなかったら、私は怪しいと思う」
オーレリアが小さく笑う。
「ありがとうございます」
「何が?」
「変に思わせないでくれて」
レアが頬を掻く。
「私たちだって、大事なことがあると緊張するよ」
「本当ですか?」
「もちろん」
ランが眉を上げる。
「レアは船の食料残高が減ると緊張するけどね」
「それは別!」
「カリスタは機械部品が壊れると緊張する」
「それは緊張じゃないわ」
「ヴェスペラは探索航路が地図通りになってないと緊張する」
「私は緊張してない」
「じゃあ、セラフィエルは……」
ランが言葉を止める。
セラフィエルが眉を上げた。
「私は何ですか?」
「分からない」
「安全な答えですね」
「ありがとう」
重かった空気が、少しだけ和らいだ。
オーレリアが笑う。
「覚えておきます」
やがて、ドッキングゲートが開いた。
ヴェルドラコン帝国到着区域の空気が、気圧調整システムを通って船内へ流れ込んでくる。
特別な空気ではない。
特別な香りもない。
何か神秘的な感覚があるわけでもない。
ただ、七か月もの間、オーレリアが触れることのできなかった場所の空気だった。
数歩先には、公式の一団が立っている。
正式な衣装。
帝国の紋章。
護衛。
行政担当官。
そして、その後ろには公爵家の人間が何人か控えていた。
オーレリアが立ち止まる。
その視線が、長い間記憶の中でしか見ることのできなかった顔々の間を動いていく。
やがて、公式の列の後ろに立っていた一人の女性が前へ進み出た。
その顔には、抑えきれない感情が浮かんでいる。
「オーレリア」
オーレリアの身体が固まった。
「お母様……」
女性が近づいてくる。
演説はない。
長い言葉もない。
ただ、娘を抱きしめた。
旅の間、ずっと冷静さを保とうとしていたオーレリアは、ついに最後に残っていた防御まで失った。
両手が上がる。
身体が震える。
「お母様……」
「帰ってきたのね」
母親の声が震えた。
「はい」
「本当に帰ってきたのね」
「はい」
その抱擁は、しばらく続いた。
ASTRAEON VELORIAの誰一人として、その時間を邪魔しなかった。
紬は少し離れた場所に立っている。
セラフィエルはその隣にいる。
レアは狐耳を伏せた。
ランは静かに息を吐く。
カリスタは一瞬、顔を逸らした。
ヴェスペラはただ黙って見守っていた。
やがてオーレリアが抱擁を解くと、その数歩後ろに一人の男が立っていた。
その顔は、はるかに落ち着いている。
しかし、その瞳が感情を隠すことはできていなかった。
「お父様」
オーレリアが一歩進む。
男はすぐには答えなかった。
ただ、両腕を広げる。
オーレリアが近づいた。
一瞬だけ、すべての称号が消えた。
公爵もいない。
令嬢もいない。
政治もない。
そこにいたのは、七か月ぶりに帰ってきた娘を見つめる、一人の父親だけだった。
「ごめんなさい」
オーレリアが小さく呟く。
「いい」
父親が答える。
「お前の過ちではないことで、謝る必要はない」
オーレリアが息を止める。
「帰るのが遅くなりました」
「帰ってきた」
男は娘の顔を見つめた。
「それで十分だ」
オーレリアがようやく頷く。
「はい」
家族との再会が終わったあとも、正式な手続きは続いた。
本人確認。
書類照合。
そして、既定の手続きを通じて、オーレリアが公爵令嬢であることが正式に確認される。
紬は、その手続きには一切介入しなかった。
彼はクルーとともに到着区域の端に立っている。
自分のものではないことにまで関わる理由はない。
やがて、一人の帝国高官が近づいてきた。
「キャプテン・ホシザキ・ツムギ」
「はい」
「ヴェルドラコン銀河帝国を代表し、オーレリア・ヴェイリエンヌ嬢の救助に尽力されたことへ感謝を申し上げます」
「お気になさらず」
高官が少し驚いたような顔をする。
「お気になさらず?」
「民間船が遭難状態にあるのを見つけたなら、やるべきことをやっただけです」
「それでも、あなたの行動がもたらした影響は非常に大きい」
「分かっています」
紬はオーレリアのほうへ視線を向ける。
「でも、何かを得るために彼女を送り届けたわけじゃありません」
高官は黙った。
「帝国側へ、何か要望はありますか?」
「ありません」
「報酬は?」
「いりません」
「帝国領域への特別入域権は?」
「いりません」
「政治的な保護は?」
「いりません」
高官は、ようやく薄く笑った。
「本当に、何も求めないのですね」
「最初からそのつもりです」
「なぜですか?」
紬は両手をポケットへ入れる。
「彼女は、俺が家まで送ってきた乗客に過ぎないからです」
その答えは単純だった。
しかし、それだけで高官はしばらく次の言葉を続けられなかった。
遠くから、その会話を聞いていたオーレリアが振り向く。
紬はほんの少しだけ手を上げた。
オーレリアも笑顔で応える。
大きな窓の外では、夕暮れが帝国到着区域へ降り始めていた。
軌道構造物から放たれる人工光が、はるか下に広がる帝都の反射光と混ざり合う。
一つ、また一つと、行政上の手続きが終わっていく。
もうオーレリアには、ASTRAEON VELORIAに残る公式な理由はない。
アクセスカードが返却される。
緊急通信機が引き渡される。
私物もすでに移されている。
多くはない。
数着の衣服。
旅の途中で買ったいくつかの品。
そして、メリディアン・ヴェイルで購入した惑星を模した小さな置物。
それは簡素なものだった。
しかし、オーレリアはそれを強く握りしめている。
紬はそれに気づいた。
「まだ持ってたのか」
「もちろんです」
「ただのお土産だと思ってた」
「そうです」
「じゃあ、どうしてそんなに大事そうに握ってる?」
オーレリアが微笑む。
「私が自分で選んだからです」
紬は頷いた。
「なるほどな」
オーレリアは船内を見渡す。
グランド・サロン。
毎日のように通った廊下。
食事をした場所。
初めて護衛なしで世界を見た窓。
レアと笑った場所。
ランと話した時間。
カリスタのコメントを聞いた場所。
ヴェスペラと航路について話したこと。
そして、想像していた以上に現実的な肉体を持っていたセラフィエルと過ごした時間。
「この船が恋しくなると思います」
セラフィエルが微笑む。
「ASTRAEON VELORIAはどこにも行きません」
「だからこそ、また戻りたくなります」
「それなら、あまり長く姿を消さないでくださいね」
オーレリアが笑った。
「努力します」
レアが近づく。
「戻ってきたら、食べ物を持ってきて」
「レア!」
「何? 本気だよ」
「せっかくの雰囲気を壊してる」
「軽くしてるの」
オーレリアがまた笑う。
「分かりました。何か持ってきます」
「約束?」
「約束します」
ランが首を横に振る。
「レアの言葉を真面目に聞かなくていいからね」
「聞こえてます」
「それが問題なのよ」
カリスタが腕を組む。
「何か持ってくるなら、役に立たないものはやめて」
「カリスタ」
「何?」
「あなたもお願いしてるじゃないか」
「お願いしてない」
「今のはお願いに聞こえた」
「技術的な助言をしただけよ」
ヴェスペラもついに口を開いた。
「それなら、私も何か欲しいです」
レアがすぐにヴェスペラを指差す。
「ほら。結局みんな欲しがるじゃん」
「そういう意味じゃない」
「もう遅いよ」
オーレリアが笑う。
本来なら重くなるはずだった別れは、いつの間にか温かなものへ変わっていた。
きっと、旅というものが残していくものは、そういうものなのかもしれない。
大きな出来事だけではない。
時には、小さな会話だけが、後になって、そのとき自分が思っていた以上に大切なものになる。
やがて、オーレリアは出口の前に立った。
もう一度、振り返る。
「紬さん」
「ん?」
「ありがとうございました」
「気にするな」
「それでも、言いたいんです」
紬は否定しなかった。
オーレリアは、惑星の形をした小さな置物を手の中で握りしめる。
「もし、いつかまた出かけてもいい日が来たら……」
「行けばいい」
紬の答えは、ほとんど間を置かずに返ってきた。
「ただし、今度は許可をもらうために七か月も眠るのはなしだ」
オーレリアが固まる。
そして、笑った。
「覚えておきます」
彼女は息を吸う。
数秒の間、まだ何か言いたそうにしていた。
しかし最後には、ただ微笑んだ。
「お元気で」
紬は頷いた。
「君もな」
オーレリアが歩き出す。
数歩進んだところで、彼女は立ち止まった。
振り返る。
二人の視線が重なる。
「また、お会いします」
紬は約束の言葉を返さなかった。
ただ、手を上げる。
「待ってる」
扉が、ゆっくりと閉じた。
オーレリア・ヴェイリエンヌはASTRAEON VELORIAを離れた。
一人の公爵令嬢が、自分の家へ帰ったのだ。
そして、スリーピングポッドの中で発見されてから初めて、その旅は本来あるべき終着点へと辿り着いた。
少なくとも――そうなるはずだった。
ASTRAEON VELORIAは、まだ出発していない。
帝国到着区域から離れるための手続きが続いている。
紬はグランド・サロンへ戻った。
数時間前と同じソファに腰を下ろす。
その前には、透明な端末を手にしたセラフィエルが立っていた。
「終わったか?」
「まだです」
「ドッキングに問題があるのか?」
「いいえ」
セラフィエルが複数のデータレイヤーを切り替える。
「帝国護衛要請について、最終確認を行っています」
紬が顔を上げる。
「どうしてもう一度確認する?」
「護衛リストに変更があるためです」
「変更?」
「はい」
一つのリストが表示される。
続いて、二つ目。
そして三つ目。
セラフィエルはそれらを横並びにした。
「一つ目は、ヴェルドラコン領域へ入る前に受け取ったリストです」
「二つ目は?」
「帝国到着区域で使用されたリストです」
「三つ目は?」
「オーレリアの同行を許可された実際の人員リストです」
紬は、その違いを見る。
一人の名前が追加されている。
一人の名前が消えている。
それぞれのリストを個別に読むだけなら、目立つものではない。
しかし変更された時刻、管理アクセス、そしてデジタル署名を照合すると、明らかに一致しない部分があった。
「誰が変更した?」
「まだ特定できません」
「いつ?」
「帝国護衛要請が正式に発行されたあとです」
紬は黙った。
「つまり、正式な護衛が組まれたあとに、誰かがリストを変更した」
「その通りです」
「正式なアクセス権限を使って?」
「使用されたアクセス権限は有効です」
「でも、その人物は?」
「まだ分かりません」
セラフィエルが監査記録を拡大する。
「ただし、この変更が意図的に行われたことは確かです」
紬は身体を背もたれへ預けた。
「俺たちには関係ない」
セラフィエルは答えなかった。
数秒が過ぎる。
普段なら会話の声で満たされているグランド・サロンが、今は妙に広く感じられた。
セラフィエルは、まだデータを見つめている。
そして、静かに口を開いた。
「本当に、そうでしょうか?」
紬はすぐには答えなかった。
視線が窓へ向かう。
その向こうでは、オーレリアがまだ家族とともにいて、公式車両へ乗り込む前の姿が見えていた。
数日前まで、自分がどこにいるのかさえ分からなかった少女。
帰る前に銀河を見てみたいと願った少女。
そして、自分自身の意思で帰ることになった少女。
紬は、しばらくその姿を見つめた。
それから、再びセラフィエルの画面を見る。
「……誰が求めたのか、まずは見てみよう」
セラフィエルは笑わなかった。
帝国護衛要請を受け取ってから初めて、彼女も軽口を叩かなかった。
そこにあるのは、ただのデータ。
一つの変更。
一つの名前。
そして、本来なら決して開くはずのなかった扉を、意図的に開いた誰か。
ASTRAEON VELORIAは、まだヴェルドラコン銀河帝国の領域にいる。
オーレリアの帰還の旅は終わった。
しかし、この船にいる者たちにとっては――別の物語が、今まさに始まったばかりだった。
第3巻終了
【第4巻への接続】
「帝国の帰還、貴族たちの戦場」
第4巻は、第90話の結末から生じた結果をそのまま引き継ぎ、ゼロから新たな旅を始めるわけではない。
紬が最初に望んでいたことは、ただ一つだった。
オーレリアを家へ送り届けること。
しかし、護衛リストの改竄は、オーレリアの帰還が公爵家内部の抗争の中にあることを示していた。
ASTRAEON VELORIAは、依然としてヴェルドラコン領域に留まっている。
紬は変わらず、キャプテンであり、オーナーであり、インディペンデント・スペース・マーセナリーである。
帝国の政治に関わるつもりはない。
だが、彼は救助者であり、証人であり、約七か月にわたるオーレリアの旅を知る外部の当事者でもある。
それこそが、彼を簡単に立ち去らせない理由となる。
第4巻はそのまま帝都へ向かい、そこでオーレリアの医学的な経過が、ヒューマンであり星間医師でもあるセレネ・アルカディアを登場させる。
彼女は低温睡眠後の検査、神経学的評価、代謝回復、そして長期的な医学的モニタリングを担当する。
一方、家族の安全を巡る改竄は、公爵家の警備を担当するドラゴンキンのコンバット・スペシャリスト、カイラ・ドレイヴンへと繋がっていく。
セレネは、オーレリアの医学的な帰結を通じて登場する。
カイラは、家族の安全に生じた帰結を通じて登場する。
二人は偶然現れるヒロインではない。
どちらも、第3巻が残した結果から直接繋がっている。
そして、たった一つの言葉から始まった旅――
「帰りたいです」
――は、やがて、さらに大きなものへと変わっていく。
【第3巻終了】




