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ASTRAEON VELORIA――銀河を旅する自由傭兵――  作者: Ren Hazumi


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【第87話】「二通の迎えの手紙」

【第87話】「二通の迎えの手紙」


銀河レジャー・コリドー。


ASTRAEON VELORIAのグランド・サロンに漂っていた空気は、誰一人として指示を出していないにもかかわらず、変わっていた。


数分前まで、この場所は普通の観光旅行の一部にすぎないような雰囲気だった。


一方では、パノラマウィンドウが果てしなく広がる星々の海を映し出している。


民間船、貨物船、観光船、そしてそれぞれの航行コリドーに沿って移動する様々な星系間輸送船の間を、民間交通の航路が細い光の線となってゆっくりと流れていた。


窓際のテーブルには、昼食の残りがまだ完全には片付けられていない。


一部のクルーが選んだ合成食品は、まだ自動保温容器の中に残っている。


一方、先ほどAureliaや他の数人が注文した有機食品の皿は、ほとんど空になっていた。


だが、もう誰も料理には目を向けていない。


全員の意識は、グランド・サロンの中央に浮かぶ一枚の透明な画面へ向けられていた。


二つの外交文書が、並んで宙に浮かんでいる。


一つ目には、ヴェルドラコン銀河帝国政府の正式な紋章が刻まれていた。


二つ目には、それとは異なる認証情報が付いている。


どちらも、同じ名前を記していた。


Aurelia Veyrienne。


しかし、細部まで読み込んでみると、二つは同じことを要求しているわけではなかった。


Tsumugiはテーブルから数歩離れた場所に立っている。


画面には触れていない。


ただ二つの文書を見つめながら、Seraphielがその違いを説明するのを聞いていた。


「一つ目は帝国政府からです」


Seraphielはテーブルの反対側に立っていた。


その肉体は、貴族社会の正式な服装と比べれば簡素な衣服を身につけている。


しかし、その態度はいつも通り落ち着いていた。


「正式な要求は、Aureliaの安全を確認し、本人確認を行った上で、正式な経路を通じて帰還の手続きを整えることです」


Rheaが胸の前で腕を組む。


「それで、二つ目は?」


Seraphielが表示を切り替えた。


一つ目の文書が小さくなる。


二つ目の文書が拡大された。


中央に公爵家の紋章が現れる。


「公爵家からの要請です」


それまで席に座って見ていたLanが、小さく息を吐いた。


「つまり、帝国政府が手紙を送った後に、Aureliaの家族自身も別の手紙を送ってきたってことか」


「その通りです」


「どうして?」


Seraphielはすぐには答えなかった。


「そこが、まだ確定できていない部分です」


Tsumugiが顔を上げる。


「要求の違いか」


「かなり大きいです」


Seraphielが文書のいくつかの部分を拡大する。


「帝国政府は、保護、身元確認、そして外交上の調整を重視しています。一方、公爵家は家族側による直接の迎えを求めています」


Calistaが眉をひそめる。


「直接の迎え?」


「はい」


「つまり、Aureliaをヴェルドラコン領域まで護送するだけじゃなく、家族へ直接引き渡してほしいってこと?」


「おおむね、そのような内容です」


Vesperaが背もたれに寄りかかる。


「それって、たまたま自分たちの船と兵力を持っている家族問題に聞こえるけど」


LanがVesperaを見る。


「貴族の家族問題は、家族だけの問題で終わることが少ない」


「分かってる」


Vesperaは肩をすくめる。


「ただ、今回は近くにいたせいで、私たちまで代償を払うことにならないといいと思ってるだけ」


Tsumugiが一瞬だけVesperaを見る。


「だから、急いで決めない」


Aureliaは、それまで黙って座っていた。


やがて顔を上げる。


表情に混乱はない。


しかし、テーブルの上に置いていた指がゆっくりと動き、それを自覚したところで止まった。


「家族から、もう連絡は来ています」


「そうだな」


「父も母も、私と話しました」


「覚えてる」


TsumugiはAureliaの向かいの椅子を引き、腰を下ろす。


「だから、この手紙の内容が違うからって、偽物だとは考えていない」


Aureliaは一瞬、視線を落とした。


「私も、偽物だとは思っていません」


「でも?」


Aureliaは黙った。


少し離れたところに立っていたRheaが、彼女を見る。


そして公爵家の文書へ視線を移す。


最初から、何かが引っかかっていた。


手紙がAureliaの家族から来たことが理由ではない。


むしろ、その逆だった。


Aureliaと家族の間では、すでに連絡が取れている。


父親はAureliaが生きていることを知っている。


母親もAureliaが助かったことを知っている。


すでに直接、話までしている。


だからこそRheaにとって、その後になって家族側から別の迎えの要求が届いたことは、通常の手続きとして片付けるには少し複雑すぎた。


「一つ聞きたい」


Aureliaが振り向く。


「どうぞ、Rhea」


Rheaはすぐには口にしなかった。


数秒間、画面を見つめる。


自分が踏み込みすぎていないかを確かめるように。


「家族がもうあなたが無事だと知っているなら、どうして別に家族による迎えを要求したの?」


Aureliaが黙る。


「どういう意味?」


「帝国政府はすでに正式な要求を出している。今、あなたがどこにいるかも知ってる。しかも、あなた自身が家族と話している」


Rheaは顎で家族側の文書を指した。


「それなのに、その後で家族による直接の迎えを求める別の要求が出てきた」


Lanがゆっくりと座り直す。


Calistaは手元の小さな機器を弄る手を止めた。


Vesperaも窓の外を見るのをやめる。


単純な質問一つで、空気が変わった。


Aureliaが息を吸う。


「……祖父かもしれません」


Rheaが眉を上げる。


「祖父?」


「父が公爵になる前の、前公爵です」


Aureliaは家族側の文書を見る。


「今は父がその爵位を継いでいます。でも、祖父も今なお家族の中で重要な立場にいます。私が生きていると知って、何を考えているのかは分かりません」


「心配している」


Rheaの声が少し低くなる。


Aureliaが頷く。


「おそらく」


Tsumugiは口を挟まなかった。


Rheaが続ける。


「孫が7か月近く行方不明になって、壊れた船の中で生きている状態で発見された。一方で、他の乗客のほとんどはすでに死亡している……」


そこで言葉を止める。


その目が鋭くなる。


「私だって心配する」


Aureliaは答えなかった。


Rheaは誰かを告発しているわけではない。


だからこそ、次の言葉が重く響いた。


「でも、もう一つ気になることがある」


TsumugiがRheaを見る。


「何だ?」


RheaはAURELIS SERENAの内部を思い出していた。


破壊された廊下。


割れたガラス。


銃撃の痕跡。


乾いた血。


そして壁面に残された長い傷。


斬撃の痕。


一つではない。


いくつも存在していた。


「船は、ただ事故で損傷しただけじゃない」


Rheaの声を聞いて、Aureliaがゆっくりと顔を上げる。


「分かっています」


「そういう意味じゃない」


Rheaは背筋を伸ばした。


「私が気になっているのは、損傷の仕方」


Calistaが小さく頷く。


「私も見た」


RheaがCalistaを見る。


「覚えてる?」


「私はSpace Dwarfよ。毎日、金属を扱ってる」


Calistaは両手をテーブルの上に置く。


「衝突、爆発、機械的な圧力、そして武器による斬撃では、残る特徴が違う。AURELIS SERENAの損傷は、一つの事故だけで説明できるようには見えなかった」


Aureliaが唾を飲み込む。


「つまり……」


Calistaは、その先を口にしなかった。


Rheaが引き取る。


「船が完全に放棄される前に、暴力行為が起きていた可能性がある」


グランド・サロンが再び静まり返った。


Seraphielは新しいデータを表示しなかった。


ただ、すでに存在している分析結果をそのまま画面に残した。


剣による斬撃痕。


銃撃痕。


血。


犠牲者。


スリーピングポッド。


そして、生きて発見された一人の少女。


Aureliaは一度目を閉じる。


「私は何も覚えていません」


「分かってる」


Rheaがすぐに答えた。


「思い出してほしいと言ってるんじゃない」


Aureliaが目を開く。


Rheaは、さらに柔らかな声で続けた。


「ただ、誰かにあなたを引き渡す前に、一つだけ確かめたい」


TsumugiがRheaを見る。


RheaもTsumugiと目を合わせる。


「Aureliaを迎えに来る人が、本当にAureliaを家へ連れ帰るために来ているのかを確認したい」


言葉そのものは単純だった。


しかし、その裏にある意味は明確だった。


Lanが顎を撫でる。


「家族を疑ってるのか?」


Rheaはすぐには答えなかった。


「状況を疑ってる」


「それは違うな」


「全然違う」


RheaはLanを見る。


「Aureliaの家族が何かしたという証拠はない」


そしてAureliaへ視線を移す。


「手紙の内容が違うというだけで、家族を疑うつもりもない」


Aureliaはゆっくりと頷いた。


「ありがとう」


Rheaが眉を寄せる。


「まだお礼は早い」


「どうして?」


「まだ終わってないから」


この会話が始まってから初めて、Aureliaの口元が少しだけ動いた。


「分かった」


Rheaは小さく息を吐く。


「私はただ、最悪の可能性を考えてるだけ」


Tsumugiがようやく口を開く。


「言ってみろ」


RheaがTsumugiを見る。


「もし、別の貴族が公爵の地位を欲しがっているなら、Aureliaはその人たちにとって邪魔になる可能性がある」


Aureliaは動かなかった。


Rheaは慎重に続ける。


「私たちはもう知ってる。貴族の家では、継承は必ずしも息子が父親から爵位を受け継ぐだけの単純なものじゃない。法律や家の規則によっては、女性が継承者になることもある」


Aureliaが頷く。


「その通りです」


「つまり、Aureliaが正当な継承者、あるいは継承候補の一人なら、彼女が存在していること自体に政治的な意味がある」


Lanが息を吐く。


「そして、もし彼女が死んだら?」


Rheaはすぐには答えなかった。


Calistaが答える。


「継承者の立場が変わる」


Vesperaが二人を見る。


「Aureliaの父親の弟のことを考えてる?」


Rheaが頷く。


「彼が犯人だと言ってるわけじゃない」


「でも、考えてはいる」


「そう」


Aureliaが俯く。


数秒間、誰も話さなかった。


やがてAureliaが静かに口を開く。


「叔父は父の弟です。それに、子供がいます」


RheaがAureliaを見る。


「男の子?」


「はい」


Rheaは何も言わなかった。


しかし、先ほどから頭の中にあったいくつもの可能性が、好ましくない一つの形へと組み上がり始める。


証拠ではない。


事実でもない。


ただの可能性。


もしAURELIS SERENAの事故でAureliaが死亡していたなら、継承順位は変わる可能性がある。


もし誰かがその変化を望んでいたのなら、事故というものは一つの手段になり得る。


そして、もし船が放棄される前に本当に襲撃が起きていたのなら、船内に残された剣の傷は、もはや小さな詳細には感じられない。


それでも――


Rheaは、自分自身の考えを抑えた。


不完全な断片だけから、物語を作り上げるのはあまりにも簡単だからだ。


「でも、今はまだ推測」


Rheaは、はっきりと言った。


「一つの剣の傷を見ただけで、すぐに犯人を決めつけるようなことはしたくない」


Tsumugiが頷く。


「それでいい」


RheaがTsumugiを見る。


「気にしないの?」


「気にしない」


Tsumugiの答えは短かった。


しかし、それは問題を軽く見ているからではない。


「疑うこと自体は構わない。ただ、証拠がないうちに疑いを事実へ変えてはいけない」


Seraphielが、ようやく追加のデータウィンドウを開いた。


「私も同意します」


AURELIS SERENAの分析結果をメイン画面へ移す。


「現時点で確認できるデータが示しているのは、AURELIS SERENAが深刻な損傷を受けていたこと、暴力行為の痕跡が存在すること、多くの犠牲者の身元を完全には特定できていないこと、そしてAurelia Veyrienneがスリーピングポッドの中から生存した状態で発見されたことです」


Rheaが再び腕を組む。


「それで、誰が暴力を始めたのかはまだ分からない」


「その通りです」


「Aureliaが本当に標的だったのかも分からない」


「その通りです」


「彼女が誰かに意図的に助けられたのかも、まだ分からない」


Seraphielが一瞬だけ止まる。


「その通りです」


Lanが画面を見る。


「それに、船を襲った人間が、船が放棄される前に船を離れたのかどうかも分からない」


「その通りです」


Vesperaが片手を上げる。


「その答えのパターン、そろそろ嫌いになってきた」


SeraphielがVesperaを見る。


「なぜです?」


「質問するたびに、答えが同じだから」


Calistaが小さく笑う。


「少なくとも一貫してる」


Vesperaが舌打ちする。


「それで安心できるわけじゃない」


Tsumugiが立ち上がる。


「だからこそ、推測だけで決めてはいけない」


二つの文書を見る。


「家族の紋章があるからというだけで、Aureliaを引き渡すことはしない」


AureliaがTsumugiを見る。


「それで、もし本当に私の家族だったら?」


「それでも、本当に迎えに来た人間に権限があることを確認する」


「父自身が来たとしても?」


「それでもだ」


Aureliaが瞬きをする。


「それでも?」


「君の父親が自分で来たとしても、俺は本人確認をする」


Rheaが笑いを堪える。


「Tsumugiって、本当にそういう人だから」


Lanも小さく笑う。


「システムに自分のデータが変わったって言われたら、自分自身の身元まで確認しそうだ」


Tsumugiが二人を見る。


「システムが俺は変わったと言うなら、俺も確認する」


「ほら?」


LanがTsumugiを指差す。


「本気だ」


少しだけ空気が和らいだ。


Aureliaも笑った。


しかし、その笑顔は長く続かなかった。


彼女は再び、空中に浮かぶ二つの文書を見る。


「一つ、知りたいことがあります」


Seraphielが彼女を見る。


「どうぞ」


「家族側の要求には、どうして私を直接迎えに行きたいのか、その理由は書かれていますか?」


Seraphielが文書を切り替える。


「あります」


Aureliaは待った。


「家族の安全、家族を失っていた期間を経た家族関係の回復、そしてAurelia Veyrienne本人の保護について記載されています」


Aureliaはしばらく画面を見つめた。


「……私の家族らしい」


Rheaが顔を上げる。


「でも?」


Aureliaは息を吐く。


「分かりません」


その答えに、Rheaは少し黙った。


Aureliaは続ける。


「父のことは知っています。母のことも知っています。二人が私にどう話しかけるかも知っています。でも、家族の周囲で働いている人たち全員を知っているわけではありません」


指がテーブルの表面に触れる。


「貴族の家の世界は、家族だけで成り立っているわけではありません」


Lanがゆっくり頷く。


「護衛」


「使用人」


Calistaが続ける。


「顧問」


Vesperaも加わる。


「領地の管理者」


Seraphielが続ける。


「行政官」


RheaがAureliaを見る。


「それに、他の貴族たち」


Aureliaが頷く。


「はい」


Tsumugiはしばらく黙っていた。


そして尋ねる。


「Aurelia」


「はい?」


「もし家族の誰かが迎えに来たら、その人と一緒に行きたいか?」


Aureliaはすぐには答えなかった。


その質問は政治についてではない。


文書についてでもない。


爵位についてでもない。


ただ、彼女自身が何を望んでいるのかを尋ねていた。


Aureliaはもう一度、二通の手紙を見る。


帝国政府。


公爵家。


どちらも、自分を故郷へ帰すために安全を確保したいと言っている二つの側。


しかし、その理由と経路は完全には同じではない。


やがてAureliaはTsumugiを見る。


「帰りたいです」


Tsumugiが頷く。


「分かった」


「でも、何が起きているのかも知らないまま、ただ一つの船から別の船へ移されるだけなのは嫌です」


RheaはAureliaの顔を見る。


今度は、その目に迷いがなかった。


Aureliaはまだ恐れている。


それでも、その恐怖が彼女を受け身にさせることは、もうなかった。


「私は、もう7か月近く自分の人生を失いました」


声は静かだった。


「見つかった後に何が起こるのか、その決定まで失いたくありません」


Tsumugiが少しだけテーブルへ身を寄せる。


「なら、簡単にしよう」


Aureliaが待つ。


「俺たちは、どちらかの側を選ばない」


Lanが薄く笑う。


「それは、いかにもTsumugiらしい」


Tsumugiは続ける。


「二つの側が、それぞれ自分たちの要求を説明するのを待つ」


Seraphielはすぐに意図を理解した。


「その後で、権限、目的、帰還経路、そして手続き中のAureliaの安全について、誰が責任を負うのかを比較する」


「その通り」


Tsumugiは家族側の文書を指差す。


「本当に家族が迎えに来たいなら、誰が来るのか、誰が責任を負うのか、引き渡した後にAureliaの安全をどう確保するのかを説明できるはずだ」


続いて帝国政府の文書を指差す。


「帝国政府に別の手続きがあるなら、それも説明してもらえばいい」


Rheaが頷く。


「それで、どちらかが説明もなしにAureliaを引き渡せと強制してきたら?」


Tsumugiは表情を変えずに答える。


「引き渡さない」


AureliaがTsumugiを見る。


その目に、何かが変わった。


完全な安心ではない。


むしろ、スリーピングポッドから目覚めて以来、初めて誰かが自分の人生を自分の代わりに決めようとしていないと感じたような、そんな感覚だった。


そのとき、Seraphielが通信チャンネルを開く。


「もう一つ問題があります」


Tsumugiが振り向く。


「何だ?」


「家族側の要求には、誰が迎えに来るのか、その個人名がまだ記載されていません」


Rheaがすぐに反応する。


「まだ?」


「まだです」


「誰が来るのかも分からない状態で、迎えの手紙だけ受け取ったってこと?」


「行政上は、そうなります」


Calistaが眉を上げる。


「それは気持ち悪い」


Lanが笑みを浮かべる。


ただし、その笑みに冗談の色はなかった。


「貴族の家族にしても、さすがにね」


Vesperaが腕を組む。


「意図的にそうしているのかもしれない」


RheaがVesperaを見る。


「やめて」


「可能性を言っただけ」


「分かってる」


Rheaは再びSeraphielを見る。


「迎えに来る人間の身元を求められる?」


「できます」


Tsumugiが先に答えた。


「名前だけじゃない」


Seraphielが振り向く。


「他には?」


「役職。権限。家族との関係。人数。船の身分。到着経路。そして、誰がその派遣を承認したのか」


Seraphielが薄く笑う。


「分かりました」


Seraphielの手がパネルの上を動く。


いくつかの外交通信文が表示される。


Aureliaは、それを見つめていた。


そのとき、Rheaが突然口を開いた。


「もう一つある」


全員がRheaを見る。


RheaはAureliaを見る。


「もし、さっきの別の貴族についての推測が間違っていたなら、それでいい」


Aureliaが頷く。


「もちろん」


「でも、もし本当にあなたを殺したい人間がいるなら……」


Rheaは一瞬だけ言葉を止める。


「一人で帰らないで」


AureliaがRheaを見る。


「一人では帰りません」


Rheaは首を横に振る。


「そういう意味じゃない」


Tsumugiを見る。


「見つかって戻れることになったからって、全部終わったと思わないでってこと」


Aureliaは、その意味を理解した。


「最初に失敗した人間が、もう一度試すかもしれないから」


誰も答えなかった。


その言葉は、あまりにも明確だった。


やがてTsumugiが口を開く。


「だからこそ、動く前に全部を確認する」


Aureliaが頷く。


「分かりました」


そのとき、Seraphielが突然手を止めた。


通信画面が変わる。


「応答が来ました」


Tsumugiが近づく。


「どこから?」


「公爵家です」


新しい文書が表示される。


先ほどの手紙ほど大きくはない。


しかし今回は、送信者の身元がより詳細に記載されていた。


Seraphielが読む。


「確認要求への返答です」


Rheaが近づく。


「何て?」


Seraphielは最初の数行を読む。


そして、表情がほんのわずかに変わった。


「家族は、Aureliaを強制的に移送することを要求していないとしています」


Aureliaが安堵の息を吐く。


しかし、Seraphielはまだ続ける。


「同時に、Aureliaを指定された家族の一員と会わせる前に、いかなる役人にも引き渡さないよう求めています」


Tsumugiが目を細める。


「指定された人間は誰だ?」


Seraphielが最後の行を表示する。


「まだ記載されていません」


Rheaがすぐに息を吐く。


「また?」


Lanが笑いを堪える。


「どうやらAureliaの家族は、俺たちに質問させるのが好きらしい」


Aureliaはむしろ、さらに真剣な表情になった。


「Seraphiel」


「はい?」


「父が送ったものですか?」


Seraphielが認証情報を確認する。


「要求は公爵家の正式な経路を使用しています」


Aureliaは次の答えを待った。


「ですが、このメッセージには、あなたのお父様本人による直接の署名がありません」


空気が再び凍りついた。


RheaがTsumugiを見る。


Tsumugiは画面を見つめる。


誰も、まだ何も結論づけなかった。


まだ。


しかし今では、Aurelia自身も、なぜRheaが不安を感じていたのかを理解し始めていた。


二通の手紙が、彼女を帰すために届いた。


どちらも家族の名前を使っている。


どちらも正式な認証経路を持っている。


どちらも、彼女を守りたいと主張している。


それでも、本当に彼女を迎えに来る人間が誰なのかは、まだ分からない。


Aureliaはゆっくりと立ち上がった。


「Tsumugi」


「ん?」


彼女は息を吸う。


今度の声は、それまでよりもはっきりしていた。


「私自身を、送り届けてください」


RheaがAureliaを見る。


Lanから笑みが消える。


Calistaが顔を上げる。


Vesperaも黙った。


Tsumugiはすぐには答えなかった。


数秒間、ただAureliaを見つめる。


その言葉が、恐怖から出た一時的な反応ではないことを確かめるように。


Aureliaは、その視線から逃げなかった。


「私は、本当に帰りたいです」


彼女は身体の横で小さく手を握る。


「自分自身で、父と母に会いたい」


そして続けた。


「でも、自分自身の意思で、そこへ辿り着きたいです」


Tsumugiは、ようやく頷いた。


「分かった」


AureliaがTsumugiを見る。


「本当に?」


「前にも言っただろ」


Tsumugiは椅子から立ち上がる。


「君はASTRAEON VELORIAの一時的な乗客だ」


そしてパノラマウィンドウへ視線を向けた。


その向こうには、いまだ広大な銀河レジャー・コリドーが広がっている。


銀河最大の船は、民間航路に沿って航行を続けていた。


静かな旅の雰囲気の裏側では、一つの家族問題が、ゆっくりとさらに複雑なものへ変わり始めている。


「君が帰りたいなら、俺たちが送り届ける」


Tsumugiは再びAureliaを見る。


「君自身がASTRAEON VELORIAから降りて、自分の家族に会えるところまで」


Aureliaが笑った。


今度の笑顔は、貴族令嬢の笑顔には見えなかった。


もっと素朴で。


もっと安心したような笑顔だった。


「ありがとうございます」


RheaはAureliaを見つめ、それから画面へ視線を移す。


二通の手紙。


二つの経路。


そして、そのすべての背後に誰がいるのかについては、まだ答えがない。


Rheaは、自分の疑いが間違っていることを願っていた。


それでも心の奥深くでは、AURELIS SERENAに残されていた剣の斬撃痕が消えていなかった。


そして、その痕跡に説明がつかない限り、RheaはAureliaの帰還を普通の旅だとは考えない。


ASTRAEON VELORIAが、彼女を送り届ける。


しかし、この船がヴェルドラコン銀河帝国の領域へ入る前に、まだ確認しなければならないことがいくつも残っている。


帰るということは、単に目的地を決めることではない。


時には、それよりもずっと重要なことがある。


旅の終着点で、誰が待っているのかを確かめることだ。


---


【次話予告・第88話――「帝国へ向かうASTRAEON」】


Aureliaをヴェルドラコン銀河帝国へ送り届けることが決まり、ASTRAEON VELORIAは再び航行モードへ移行する。


Tsumugiは新しい契約を受けるつもりもなく、貴族家の政治に関わるつもりもない。


彼らがすることはただ一つ。


一人の乗客を、正式な民間航路を通じて故郷へ送り届けること。


しかし、旅がそれほど遠くへ進む前に、Seraphielは帝国側から新たな要求を受信する。


帝国護衛要請――Imperial Escort Request。


【第88話へ続く……】

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