【第83話】「後を追う船」
【第83話】「後を追う船」
メリディアン・ヴェイル――文化惑星軌道。
午前2時。
惑星の夜側から見える都市の灯りは、まだはっきりと残っていた。
遠くから見れば、メリディアン・ヴェイルは金色の光を散りばめた黒い球体のように見える。
先ほどまで観光客で賑わっていた歴史地区は、少しずつ活動を縮小し始めているものの、祭りの地区はまだ完全には眠っていない。
夜間用の交通航路がいくつも稼働し、小型船が軌道を出入りし、現地の通信網ではホテル、娯楽施設、レストラン、交通サービスなどから大量のデータが行き交っている。
大型船向けに指定された民間軌道の一つを、ASTRAEON VELORIAが低速で航行していた。
船内にはエンジン音は響いていない。
床から伝わってくる、ほとんど感じ取れないほどの微かな振動だけが、船が動いていることを伝えていた。
グランド・サロンでは、紬が船を降りる前から着ていた普段着のまま、ソファへ身体を投げ出していた。
「……疲れた」
少し離れた場所に座っていたリアが、すぐに笑う。
「今さら?」
「座ったら初めて気づいた」
「それって、普通に疲れてたってことじゃない?」
「そんな単純なことを分析するなよ」
タブレットでいくつかの電子カタログを確認していたモード・ラン・ヴァレスが顔を上げた。
「私としては、歩き回ったことが原因ではないと思います」
紬が振り向く。
「じゃあ、何?」
「食べ過ぎです」
「そんなに食べてない」
テーブルの反対側に座っていたカリスタ・フェロが、すぐに口を挟んだ。
「メイン料理を四種類、軽食を二つ、デザートを一つ。そのうえ、持ち帰りまで買っていた」
紬は黙った。
リアがにやりと笑う。
「図星」
「文化体験への投資だ」
「それを食事って言うんだよ」
「両立するだろ」
大きな窓からメリディアン・ヴェイルの景色を眺めていたヴェスペラ・ノクス・アウレルが、薄く笑った。
「では、その文化体験は今も感じられますか?」
紬は隣に置いてあった小さな袋を持ち上げた。
「まだある」
「中身は食べ物?」
「……そう」
リアがまた笑った。
「やっぱり」
アウレリア・ヴェイリエンヌは、ヴェスペラの隣に座りながら温かい飲み物の入ったカップを持っていた。
彼女は、彼らのこういう会話にはまだ慣れていない。
王宮では、晩餐の後の会話にもほとんど必ず一定の規則が存在した。
誰が話を始めていいのか。
誰が待つべきなのか。
どう答えるべきなのか。
相手をどれだけ長く見つめてもいいのか。
そうしたことさえ、立場によって左右される。
それなのに、ここでは紬が食べ過ぎだと言われたばかりなのに、誰一人として謝る必要を感じていない。
不思議なことに、アウレリアはそんな雰囲気が嫌いではなかった。
「紬」
「ん?」
「さっき持ち帰った食べ物って何?」
紬が袋を開く。
「これ?」
「うん」
「俺も名前は知らない。店の人がかなり長く説明してくれたけど、一口食べたら忘れた」
アウレリアは笑いをこらえた。
「名前も知らないのに買ったの?」
「美味しかった。それで十分だろ」
「ずいぶん単純な考え方ですね」
「食べる前に毎回研究しなきゃいけないなら、人生が疲れるだろ」
飲み物のテーブルの近くに立っていたセラフィエル・ヴェロリアも口を挟んだ。
「最後の部分には同意します。ただ、もう一度食べる前に、原材料表示くらいは確認することをお勧めします」
紬が彼女を見る。
「セラフィエルまで?」
セラフィエルは微笑んだ。
「船長の健康を維持することも、私の責任ですから」
「さっき自分も食べてただろ」
「その料理が悪いとは言っていません。中身を知っておいたほうが安全だと言っているだけです」
カリスタがセラフィエルを見る。
「二人とも食べ物の話になると長いね」
「船長はいつも、自分の選択を正当化する理由を見つけますから」
「セラフィエル」
「はい?」
「お前、最近ますます俺と一緒に暮らしてる人みたいになってきたな」
セラフィエルはすぐには答えなかった。
そして、口元をほんの少し上げる。
「実際、その通りですから」
アウレリアは二人を見つめた。
なぜか、その単純な答えに微笑んでしまう。
しかし会話がさらに続く前に、グランド・サロンのシステムから通知音が響いた。
警報ではない。
警告でもない。
普段の通知とは少し違う、短い音だった。
セラフィエルが振り向く。
その表情が、ほんのわずかに変化した。
紬はすぐに気づいた。
「どうした?」
セラフィエルが情報パネルへ向かう。
「たった今、現地の交通航路から一隻の船が離れました」
リアが食べ物を置く。
「観光船?」
「まだ断定できません」
ランがカタログを閉じた。
「登録情報は?」
「登録済みです」
紬はほっと息を吐く。
「なら問題ないな」
セラフィエルはデータを読み進める。
「ただし、その船は主要観光航路へ向かっていません」
紬が眉を上げた。
「どこへ?」
「私たちの航路を追っています」
室内が少し静かになった。
誰もすぐには口を開かなかった。
アウレリアが画面を見る。
そこにはメリディアン・ヴェイルの軌道が表示されていた。
ASTRAEON VELORIAは大型の白い船として表示されている。
いくつもの民間船が主要航路を進んでいる。
その少し後方を、一つの別の点が移動していた。
近すぎるわけではない。
遠すぎるわけでもない。
ただ、進行方向だけは同じだった。
リアがソファへ身体を預ける。
「私たちを追ってるの?」
「現時点では、そう見えます」
「どれくらい?」
「まだ継続時間を確定できるだけのデータがありません」
紬はしばらく画面を見た。
それから、再び袋の中の食べ物を取り出す。
「じゃあ、放っておこう」
リアが紬を見る。
「本気?」
「本気」
「船が一隻、私たちを追ってるんだよ?」
「知ってる」
「気にならないの?」
「少しは」
「少し?」
「気にしすぎたら、休暇の時間がなくなるだろ」
リアは笑いをこらえた。
「本当に一貫してるね」
ランは笑わなかった。
画面に表示されたデータを見つめている。
「船長、少なくとも相手が誰なのかは確認しておいたほうがいいと思います。追跡する必要はありません。ただ、本当に重要なものを見落としてしまう可能性は避けるべきです」
紬は頷いた。
「それはそうだな。セラフィエル?」
「確認中です」
セラフィエルがパネルに触れる。
いくつもの情報ウィンドウが開いた。
登録情報。
運用者。
航行許可。
保険情報。
活動区域。
船舶分類。
一つずつ表示されていく。
カリスタが立ち上がって近づいた。
「船種は?」
「中型保安船です」
ヴェスペラが首を傾げる。
「保安船?」
「はい」
リアも立ち上がった。
「正式な保安船?」
「まだ確認できません」
紬が振り向く。
「どういう意味?」
セラフィエルが運用者情報を拡大する。
「この船は商業登録を使用しています。軍事部隊としては登録されていません。惑星警察にも登録されていません。ペラジア・ノーヴェ保安局の所属でもありません」
ランが腕を組む。
「民間保安会社?」
「可能性が高いです」
紬がゆっくり頷く。
「民間の警備会社か」
「その通りです」
アウレリアは何も言わなかった。
ただ、カップを握っている手に少しだけ力が入った。
紬はそれに気づいた。
「アウレリア」
「はい?」
「そんなに気にするな」
アウレリアが紬を見る。
「でも、私を探しているのかもしれません」
「かもしれない」
あまりにも単純な答えだった。
アウレリアは少し驚く。
「あなたは、絶対に私を探しているわけじゃないって言わないんですか?」
「分からないことを絶対だって言ったら、嘘になるだろ」
アウレリアは黙った。
紬はいつもの調子で続ける。
「でも、今のところ相手を敵だと判断する理由もない。だから今は、俺たちを追ってる船。それだけだ」
「もし、本当に私を探しているのなら?」
「話したいなら、正式な手段で連絡してくればいい」
アウレリアは数秒間、紬を見つめた。
「怖くないんですか?」
紬が眉を寄せる。
「何が?」
「彼らが問題を持ってくるかもしれないことが」
「問題なら、来ることはあるだろ」
紬は肩をすくめた。
「でも、問題になるかもしれないってだけで何もかもやめてたら、どこにも行けなくなる」
ヴェスペラが微笑む。
「いかにも紬らしい答えですね」
「どういう意味だ?」
「今すぐ対応する必要があるものと、遠くから注意しておけばいいものを、いつも分けて考えているという意味です」
紬は少し考えた。
「そのほうが体力を使わなくて済むだろ」
カリスタが小さく笑う。
「お金も節約できる」
ランが指を一本立てた。
「それなら、本当に納得できる意見です」
紬がランを見る。
「なんで金の話になると、みんな急に納得するんだ?」
ランは迷いなく答えた。
「私は商人ですから」
「それもそうか」
セラフィエルが再び口を開く。
「紬、初期確認が完了しました」
「どうだった?」
「この船の運用者は民間の警備請負業者です。複数の民間区域で、護衛、資産保護、依頼人の監視を行う許可を取得しています」
「合法なのか?」
「登録自体は有効です」
「任務指示書は?」
「私たちを対象としたものはありません」
紬は頷いた。
「それならいい」
リアが手を上げる。
「待って。何がいいの?」
「正式に俺たちへ干渉する理由がないってことだ」
「ああ」
リアは再び座る。
「それなら、まだ問題じゃないね」
アウレリアは画面上の船の点を見続けていた。
「いつから私たちを追っているんですか?」
セラフィエルは記録を確認してから答える。
「私たちが祭りの区域を離れた後から、移動パターンが一定しています。ただし、攻撃的な接近と判断できる距離には一度も入っていません」
「距離を保っている?」
「はい」
ヴェスペラが画面を見る。
「攻撃しようとしている船の動きには見えません」
「まだ分からないけどね」
リアが口を挟む。
「でも、急いでいる船の動きでもない」
カリスタが顎に手を当てる。
「ただ監視しているのかもしれない」
ランが続ける。
「あるいは、こちらが何か失敗するのを待っているか」
紬が短く息を吸う。
「なら、理由を与えなければいい」
全員の視線が紬へ集まった。
「俺たちは違法なことをしてない。急に航路を変えない。他の船を邪魔しない。挑発もしない。いつも通り旅をするだけだ」
セラフィエルが頷く。
「受動的な監視を継続します」
「深く追跡するなよ」
「承知しました」
「それと、相手のネットワークへ侵入するな」
「船長の命令なしには行いません」
紬は頷いた。
彼は知っている。
セラフィエルの能力は、単に船を操ることだけではない。
ASTRAEON VELORIAの統治型AIであり、最高責任者でもあるセラフィエルは、通信網を解析し、交通パターンを読み取り、大量のデータを処理し、必要であればシステムへの侵入さえ可能だった。
しかし、能力があることと、それを使う許可があることは別だ。
それが、紬が常に定めている境界だった。
セラフィエルも、そのことを理解している。
「外部から確認できる移動情報と公開通信だけを監視します」
「それでいい」
アウレリアはゆっくりとカップを置いた。
「紬」
「ん?」
「もし私が、心配だから別の場所へ行きたいと言ったら……迷惑ですか?」
リアがすぐに振り向いた。
ランも動きを止める。
その質問は単純に聞こえた。
しかし、アウレリアにとってそれが簡単なことではないことを、全員が知っていた。
彼女は公爵令嬢だ。
幼い頃から、旅の決定を自分ですることなどほとんどなかった。
どこへ行くのか。
誰と行くのか。
いつ行くのか。
なぜ行くのか。
どれだけ滞在するのか。
すべてに理由があった。
紬はすぐには答えなかった。
目の前の画面を見る。
一つの点がASTRAEON VELORIAを追っている。
距離は安定している。
通信要求はない。
攻撃行動もない。
正式な脅迫もない。
そして紬はアウレリアを見る。
「本当に不安だから行きたいっていうなら、話し合えばいい」
アウレリアが少し俯いた。
「本当ですか?」
「もちろん」
「怒らずに?」
紬は困ったような顔をする。
「なんで俺が怒るんだ?」
アウレリアは小さく笑った。
「私のいた場所では、旅の予定を変更すると、多くの人が予定を変更しなければならなくなるので」
ランが口を挟んだ。
「この船でも同じですよ」
アウレリアが少し驚く。
ランは微笑んだ。
「でも、必要なら予定を変えられるという違いがあります」
カリスタが頷く。
「この船は大きいからね。変更に対応できるだけの余裕はある」
リアがにやりと笑った。
「それに船長には、そもそも決まった予定がないし」
紬がリアを指差す。
「そういう言い方はやめろ」
「でも本当でしょ」
「分かってる」
アウレリアが小さく笑った。
表情から緊張が少しずつ消えていく。
紬は再び背もたれへ身体を預けた。
「でも今のところ、旅を変える理由はないと思ってる」
「その船がいるからですか?」
「違う。俺たちが止まる理由がないからだ」
紬はもう一度画面を見る。
「攻撃してこない。連絡してこない。航路も邪魔してこない。近づこうともしていない。なら、頭の中で勝手に話を作る必要はない」
アウレリアは頷いた。
「分かりました」
セラフィエルが、そこで片手を少し上げた。
「もう一つ情報があります」
「まだあるのか?」
「その船は、ASTRAEON VELORIAの飛行データへ特別なアクセスを取得しようともしていません。民間航行網から公開されている情報だけを利用しています」
ランがすぐに理解する。
「つまり、こちらのシステムへ侵入してはいない」
「その通りです」
カリスタが小さく口笛を吹く。
「少なくとも、分をわきまえてるね」
リアが腕を組む。
「それとも、ものすごく気が長いだけかも」
紬が薄く笑う。
「気が長いなら、こっちも気長に待てばいい」
「ずっと追わせるの?」
「そうだ」
「いつまで?」
「向こうがやめるまで」
リアが笑う。
「これ以上ないくらい単純な答えだね」
「だって、実際それだけだからな」
セラフィエルが紬へ近づく。
「紬」
「何?」
「もう一つ、船長が知っておいたほうがいいことがあります」
「何だ?」
セラフィエルが小さな画面を見せる。
「現在の船長の口座残高は、4,700,000 Galactic Creditのままです。前回の支払い以降、大きな入出金はありません」
紬が数字を見る。
「4,700,000」
「はい」
ランがちらりと見る。
「観光旅行としては、まだ十分安全な残高ですね」
紬は頷いた。
「今のところはな」
カリスタが笑う。
「その『今のところは』って言い方、好きだよ」
「8,600メートルの船だからな」
リアがすぐにセラフィエルを指差す。
「しかも運用費は安くない」
セラフィエルが落ち着いた声で答える。
「その通りです。ただ、現在の状況による追加費用はありません。追跡している船がいること自体で、直接的な支出が発生しているわけではありません」
紬は頷く。
「なら、考えなくていい」
ランが笑った。
「船長は、本当に問題になる前の問題を無視する才能がありますね」
「才能じゃない」
「じゃあ何です?」
紬は少し考える。
「精神的な効率化」
リアが大声で笑った。
「それ、面倒なことを考えたくないだけの格好いい言い方じゃん」
「結果が同じなら、名前なんてどうでもいいだろ」
セラフィエルが小さく笑った。
アウレリアは彼らを見つめていた。
奇妙なものがある。
それは、追跡している船ではない。
外に潜んでいるかもしれない脅威でもない。
むしろ不思議なのは、ASTRAEON VELORIAの人々が不確かなものに向き合う方法だった。
彼らは恐怖を感じていないふりをしない。
だからといって、危険を必要以上に大きくもしない。
何かを見る。
話す。
確認する。
そして、自分たちが妥当だと思う行動を選ぶ。
それだけだ。
しかしアウレリアにとって、そのやり方はとても新鮮だった。
彼女は紬を見る。
「少し個人的なことを聞いてもいいですか?」
「いいよ」
「どうして、そんなに落ち着いていられるんですか?」
紬は少し黙った。
「俺だって、いつも落ち着いてるわけじゃない」
アウレリアが驚く。
「そうなんですか?」
「そうだよ」
紬は小さく笑う。
「ただ、慌てる理由がないうちから、慌てているところを見せるのが好きじゃないだけだ」
アウレリアはその言葉を考える。
「じゃあ、本当は心配しているんですか?」
「少しはな」
「それでも食べるんですか?」
紬は手に持った食べ物を見る。
「心配だからこそ食べるんだよ」
アウレリアが笑う。
「それ、理屈になってません」
「腹が減ってても、考える助けにはならないからな」
リアが真剣な顔で頷いた。
「それは正しい」
ランも手を上げる。
「私もその意見を支持します」
カリスタがため息をついた。
「この三人、食べ物の話になると本当に止まらないね」
ヴェスペラが窓の外を見る。
「少なくとも、今はいつもの雰囲気に戻りました」
アウレリアも外へ視線を向けた。
グランド・サロンの大きなガラス越しに、メリディアン・ヴェイルがゆっくりと回転している。
都市の光が、川の流れのように移動していた。
ASTRAEON VELORIAのはるか後方では、小さな一点がまだ同じ方向へ進んでいる。
近づかない。
離れない。
ただ、追っている。
セラフィエルが紬の隣に立つ。
「彼らの行動に変化があれば、船長へ報告します」
紬は頷いた。
「頼む」
「もし、向こうから連絡してきたら?」
紬は、先ほど忘れかけていた食べ物をもう一度口に運んだ。
「受け取れ」
「その後は?」
「まず、誰なのか確認する」
「承知しました」
紬は他の者たちを見る。
「じゃあ、明日も休暇は続行だ」
リアが手を上げる。
「賛成」
ランが笑う。
「私も賛成です」
カリスタが頷いた。
「文化施設を見る時間さえあればね」
ヴェスペラが小さく笑う。
「まだ見られなかった古い観測地区にも行ってみたい」
アウレリアは少し黙った。
そして微笑む。
「私も行きます」
紬は頷いた。
「よし」
安全会議はない。
追跡劇もない。
戦闘もない。
ただ一隻の船が、遠くから後を追っている。
今は、それだけだった。
そして、彼らの旅を邪魔しない限り、紬にはようやく手に入れた休暇を一隻の見知らぬ船のために台無しにするつもりなどなかった。
窓の外では、小さな点が依然としてASTRAEON VELORIAの後方に存在している。
距離は安定している。
しかし、その船に乗っている者たちは、まだ立ち去るつもりがないようだった。
【NEXT BAB 84――「家名のないアウレリア」】
「家名のないアウレリア」
メリディアン・ヴェイルでの旅を続ける中、アウレリアは一日をただ自分自身として過ごしていく――レディ・アウレリアとしてでもなく、公爵令嬢としてでもなく、家族の政治的な資産としてでもない。
その素朴な日常の中で、紬は少しずつ理解していく。
アウレリアは家族から逃げようとしているわけではない。
ただ、自分自身の人生のほんの一部分だけでも、自分で決める権利を持ちたいのだ。
そして最後に、アウレリアはこれまで少しずつ心の中で形作ってきた決意を口にする。
彼女は、帰りたいと思っている。
【第84話へ続く……】




