第81話「文化の惑星」
第81話「文化の惑星」
22日目。
ASTRAEON VELORIAが星系間航路から、惑星へと続く民間航路へ移行を完了した頃には、Meridien Valeの姿が遠くに見えていた。
外から見ただけで青い海と浮遊都市のネットワークが広がっていることが分かったPelagia Noveとは違い、Meridien Valeはずっと静かな印象を与えていた。
惑星の表面は広大な陸地が大部分を占め、濃い緑、茶色、そして黄金色が混ざり合っている。
いくつもの光の線が大陸の間を走り、都市や交通拠点を結ぶように伸びていた。
軌道上から見る限り、大規模な建造物は軍事施設にも工業地帯にも見えない。
むしろ、そのほとんどが、惑星規模にまで拡大された古い都市の一部のように見えた。
石造りの塔が近代的な建物の間に立っている。
川によって隔てられた地区同士を、アーチ状の橋がつないでいる。
中には、何百年も前から存在しているように見える建築様式を、そのまま維持している地域さえあった。
そのすべての間を、古い街並みを壊すことなく、現代的な交通網が行き交っている。
ASTRAEON VELORIAは民間の進入航路へ入った。
セラフィエルは航法コンソールの近くに立っていた。
ホログラムではない。
この場にいる全員が見慣れている、実体を持った姿だった。
淡い色の長い髪が、空調システムから流れる気流に合わせて軽く揺れている。
官僚や商業契約の相手と接するときに着る正式な服装と比べれば、今の服はずっと簡素だった。
それでも、彼女が持つ一人のエグゼクティブとしての雰囲気を隠すことは難しい。
Tsumugiはシートにもたれた。
「セラフィエル。航路の状況は?」
「順調です。Meridien Valeは民間の宇宙交通管制を採用しており、軌道管制もかなり厳格です。現在の進入航路に異常はありません」
「特別な規則はあるのか?」
「いくつかあります。大型観光船は許可なく低軌道へ入ることができません。観光施設や宇宙港へ向かう航路を取得する前に、指定された待機軌道へ入る必要があります」
少し離れた場所に座っていたLanが表示されたデータへ目を向けた。
「そりゃそうだろうね。ASTRAEON VELORIAほどの船が好き勝手に降下できるなら、下の都市は交通渋滞どころじゃない問題を抱えることになる」
Calistaが腕を組んだ。
「私たちの船なんて、空を飛ぶ新しい地区と勘違いされてもおかしくない大きさだからね」
Rheaが笑った。
「だったら、移動する地区って呼べばいいじゃん」
「Lanに余計なアイデアを与えないで」
Lanはすぐに顔を上げた。
「もう遅い。駐船料金について考え始めてる」
Tsumugiが振り向く。
「本気か?」
「私は商人だからね。全長8,600メートルのものを見たら、最初に浮かぶのは景色だけじゃない」
「何だ?」
「使わない施設の料金を払わずに、どれだけ費用を節約できるか」
Rheaがため息をついた。
「休暇が始まる前から、LanはもうLanだね」
それまで軌道地図を見ていたVesperaが口を開いた。
「少なくとも一貫している」
「それは褒めてるの? それとも嫌味?」
Lanが尋ねる。
「どちらとも取れる」
Rheaがすぐに笑った。
Tsumugiはただ首を横に振った。
コックピットの空気は軽かった。
契約もない。
作戦ブリーフィングもない。
目標もない。
フロンティアからの長い旅を終えて以来、彼らの会話が本当に作戦上の判断へつながらなくてもよい時間は、これが初めてだった。
それがTsumugiには不思議だった。
そして、不思議だからこそ、彼はそれを気に入っていた。
「キャプテン」
セラフィエルが再び呼びかけた。
「ん?」
「Meridien ValeからASTRAEON VELORIAの登録情報を要求されています。船籍情報、超豪華民間宇宙船としての登録状態、乗船者数、兵装申告、そして観光アクセス申請を送信します」
「送ってくれ」
「了解しました」
セラフィエルの指がコンソールの上を動く。
船の通信システムが即座に反応した。
ASTRAEON VELORIAは自らの身元を隠さなかった。
その必要がないからだ。
彼らは観光客として来ている。
艦隊としてではない。
しばらくして、軌道管制官からの返答が届いた。
セラフィエルが内容を確認する。
「進入航路が承認されました。大型船専用の軌道係留ポイントを使用し、その後、観光用交通施設へ移動します」
Tsumugiが頷いた。
「分かった。向こうのルールに従おう」
彼は立ち上がった。
「それじゃ……本当に到着したんだな」
その後ろに立っていたAureliaが、パノラマウィンドウへ近づいた。
「これがMeridien Valeですか?」
「そうだ」
少女はすぐには答えなかった。
ゆっくりと視界を埋めていく大陸の形を、その目で追っている。
「とても綺麗……」
Vesperaが隣に立った。
「気に入った?」
「まだ分かりません。まだ降りてもいませんから」
「いい答えだね」
Aureliaが小さく笑った。
「どうしてですか?」
「他の人が綺麗だと言ったからという理由だけで、自分も綺麗だと思ってしまう人が多いから」
Aureliaは黙った。
単純な言葉だった。
それなのに、なぜか自分に近いものを感じた。
彼女が生きてきた中では、数え切れないほど多くのことが、自分の意見を持つ前に決められていた。
服。
予定。
座る場所。
出席しなければならない行事。
会わなければならない人。
他家の貴族と会ったときに、どのように笑うべきかさえも。
今、彼女は窓越しに一つの惑星を見ている。
そして初めて、誰も彼女にどう感じるべきかを教えていなかった。
「それなら、自分で見てみます」
Vesperaは頷いた。
「そのほうがいい」
その後ろで、セラフィエルが通信手続きを完了させた。
「キャプテン、ASTRAEON VELORIAは進入許可を取得しました。数分後には軌道係留ポイントへ到着します」
「分かった。その後は?」
「大型観光船は都市中心部へ入る必要がありません。軌道係留ポイントからCultural Gatewayへ向かう交通機関があります。そこから主要観光区域へは、惑星の交通網を利用して移動できます」
Tsumugiが笑った。
「簡単そうだな」
Lanがすぐに口を挟む。
「簡単すぎるね」
「どうして?」
「まだ料金について聞いてないから」
「俺は休暇中なんだ。今は料金の話をするな」
「私たちの残高は4,700,000 Galactic Creditあるよ」
Tsumugiが鋭く振り向いた。
「だから料金の話をするなって言っただろ」
「ただ思い出させただけ」
Calistaが小さく笑う。
「放っておけばいいよ。Lanがまだお金を数えている限り、少なくともこの船には正気を失っていない人が一人いるってことだから」
セラフィエルが微笑んだ。
「私はむしろ、Tsumugiが完全にお金を気にしなくなるほうを心配しています」
「君までか?」
「キャプテンが破産しないようにするのが私の仕事です」
「分かってる」
「それはよかったです」
「でも、食事前に数字を聞くのはやっぱり嫌だ」
セラフィエルが首を少し傾けた。
「それはとても人間らしい判断ですね」
Rheaがすぐに割り込んだ。
「ほら、それ。今のセラフィエルにぴったりの台詞」
Tsumugiが彼女を見る。
「どういう意味だ?」
「気づいてないの? 今のセラフィエルはもう食事もできるし、眠ることもできる。疲れも感じるし、痛みも感じる。嫉妬だってする。食べ物のことになると、私たちより危険なくらいだよ」
セラフィエルはRheaを静かに見つめた。
「褒め言葉として受け取っておきます」
「褒めてないよ」
「それでも褒め言葉として受け取ります」
Rheaが笑った。
Aureliaは口元を手で隠しながら、笑いをこらえていた。
Tsumugiが彼女を見る。
「どうした?」
「いえ……ただ、皆さんは本当に仲がいいんだなと思って」
Rheaが振り向く。
「だって、そうだから」
Aureliaが微笑んだ。
「少し羨ましいです」
会話が突然止まった。
雰囲気が悪くなったわけではない。
ただ、その言葉があまりにも正直に出てきたからだった。
Aurelia自身も、自分が何を言ったのか気づいたようだった。
「すみません。そういうつもりでは――」
「謝らなくていい」
Tsumugiが言葉を遮った。
「羨ましいなら、羨ましいでいい。すべての感情を、口に出していい形に整えてからじゃないといけないわけじゃない」
Aureliaは彼を見つめた。
「でも、私はDukeの娘です」
「それがどうした?」
「もっと言葉に気をつけるべきだと思います」
「誰の前で?」
Aureliaは黙った。
Tsumugiが周囲を指した。
「この船にいるのは、お前がほぼ7か月も眠り続けていたことも、目を覚ましたときに弱っていたことも、今こうして食べ物について言い合ってることも全部知ってる連中だけだ。貴族としてのイメージなら、もう十分守られてると思うぞ」
Rheaが大声で笑った。
「キャプテン、それはお姫様を慰める方法じゃないよ」
「でも成功しただろ?」
Aureliaはむしろ笑っていた。
「少しだけ」
その笑いによって、さっきまで存在していた緊張はあっという間に消えていった。
しばらくして、ASTRAEON VELORIAは軌道マヌーバを完了した。
文化の惑星は、都市の細部まで見えるほど近くなっていた。
Meridien Valeには、一つの建築様式しか存在していなかったわけではない。
高い石造りの建物と色ガラスの窓が並ぶ地区がある。
白いドームに覆われた地域もある。
曲線を描く屋根を持つ木造建築が、長い通りの両側に並んでいる場所もあった。
その中に、透明なガラス張りの近代的な建物が立っている。
それらの違いは、都市計画の失敗には見えなかった。
むしろ、歴史そのものが生き続けることを許されたように見える。
Aureliaはずっとその光景を見つめていた。
「どうして古い建物を壊さないんですか?」
他の誰かが答えるより先に、Lanが口を開いた。
「そこには経済的な価値があるからだよ」
Aureliaが振り向く。
「経済?」
「歴史だって金を生み出せる。博物館には来場者が必要だ。古い街並みは観光客を呼ぶ。祭りがあればホテルは満室になる。伝統市場ではショッピングセンターにない商品が売られる。オペラには観客が集まる。レストランは地元の料理を売る」
Calistaが後ろから付け加えた。
「それに古い建物には、今では使われなくなった建築技術が残っていることもある」
Vesperaが彼女を見る。
「あなたがそう言うと思った」
「何が悪いの?」
「悪くはない。ただ、あまりにもあなたらしい」
Calistaが鼻を鳴らす。
「築600年の建物を見たら、どうやって基礎を作ったのか知りたくなる。それが普通でしょ」
Tsumugiが笑った。
「お前にとっては、な」
「むしろ普通じゃないのはあなたたちのほう」
セラフィエルが軽い調子で付け加える。
「統計的に見ても、建築構造に対するCalistaの好奇心は非常に一貫しています」
「セラフィエル」
「はい?」
「あなたまで彼らを助けないで」
「私はただデータを伝えただけです」
「データだって人を苛立たせることはあるんだぞ」
「覚えておきます」
Tsumugiが笑った。
Aureliaはその会話を何も言わずに見ていた。
彼女は少しずつ理解し始めていた。
家族とは、血のつながりだけで決まるものではない。
時には、お互いを遠慮なく困らせても、その関係から追い出されることを恐れない人たちによって、家族は形作られる。
そして、おそらくそれこそが、彼女がこれまで持ったことのなかったものだった。
家族が悪かったわけではない。
むしろ逆だった。
家族が彼女を愛しすぎていたからこそ、その愛し方が、彼女の一歩一歩を常に守るものになっていた。
ASTRAEON VELORIAが観光用軌道施設への降下許可を取得すると、一行は旅客ターミナルを通って船を降りた。
Tsumugiはあえて専属の護衛を連れてこなかった。
その必要がなかったからだ。
彼らは休暇に来ている。
セラフィエルも実体を伴って一緒に歩き、片手には薄型の通信端末を持っていた。
Aureliaがふと彼女を見る。
「セラフィエル」
「はい、Aurelia?」
「いつも一緒に降りてくるの?」
「Tsumugiが行くのであれば、私はたいてい一緒に行きます」
「仕事だから?」
セラフィエルは微笑んだ。
「必ずしもそうではありません」
Aureliaはその答えを理解した。
セラフィエルがTsumugiについて話すときには、何かが違う。
単なる船の所有者に対するAIとしての忠誠心ではない。
それはもっと、人が自ら誰かのそばにいることを選んでいる感覚に近かった。
彼らはCultural Gatewayへ到着した。
交通機関の扉が開いた瞬間、街の音が一斉に押し寄せてくる。
ストリートパフォーマンスの音楽。
交通案内の放送。
さまざまな種族の観光客たちの会話。
石畳の上を走り抜ける小型車両の車輪音。
料理の香り。
香辛料の香り。
焼いた肉の香り。
パンの香り。
そしてTsumugiがすぐに気づいた、現地で本当に調理された料理特有の匂い。
彼は足を止めた。
Rheaが危うくぶつかりそうになる。
「キャプテン?」
Tsumugiは答えなかった。
視線は通りの向こうに並んだ屋台へ向けられている。
Lanが彼の視線を追った。
「ああ」
Calistaもそちらを見る。
「ついに来たね」
Vesperaが薄く笑う。
「何が?」
「Tsumugiが食べ物を見つけた」
Tsumugiが一軒の屋台を指差した。
「あれは何だ?」
Aureliaが近づく。
「どれですか?」
「あそこで焼いてるやつ」
一人の店主が小さな焼き台の上で肉の切り身をひっくり返していた。
その後ろには、価格をGalactic Creditで表示した案内板が置かれている。
Tsumugiがざっと見る。
「28 Galactic Credit?」
Lanがすぐに答えた。
「地元産の有機食品なら、それほどおかしな価格じゃないよ」
Tsumugiが振り向く。
「なんで高いんだ?」
「有機食品には土地、水、エネルギー、輸送、生物学的な管理、それに保存・保管のための流通網が必要だから。多くの発展した世界では、合成食品のほうがずっと安いんだ」
Aureliaも価格表を見る。
「宮殿では……食べ物の値段をこんなふうに話したことはありません」
Tsumugiが彼女を見る。
「ここは宮殿じゃないからな」
「分かっています」
「それならいい」
Tsumugiは屋台へ向かって歩き出した。
「俺、食べてみたい」
Lanが笑う。
「到着したばかりなのに、もうお金を使うんだ」
「28 Galactic Creditくらいで破産するわけじゃない」
セラフィエルが後ろから歩いてくる。
「その通りです。ただ、興味本位で市場全体を買い占めるのはお勧めしません」
「そんなことしない」
Rheaが別の屋台を指差した。
「じゃあ、私はあれがいい」
Calistaが別の料理を指差す。
「私はあれ」
Vesperaは小さな店に目を向けた。
「私はあそこのスープを試してみたい」
Lanがため息をついた。
「降りてからまだ五分だよ。たった五分」
セラフィエルが微笑んだ。
「どうやら、私は楽観的すぎたようです」
Aureliaが小さく笑う。
「私も食べてみたいです」
Tsumugiが振り向く。
「どれがいい?」
Aureliaは並んでいる料理をしばらく見つめた。
宮殿の侍女はいない。
指示を待つ料理長もいない。
どの料理が一人の姫にふさわしいのか説明してくれる人もいない。
自分で選ばなければならない。
そして、それこそが彼女を困らせていた。
「分かりません」
Tsumugiは笑わなかった。
「だったら、一番気になるものを選べばいい」
「それだけ?」
「そうだ」
「もし美味しくなかったら?」
「別のものを探せばいい」
Aureliaが微笑んだ。
「そんなに簡単なんですか?」
「本来は、それくらいでいいんだ」
Aureliaは最後に、薄い葉で包まれた小さな料理を指差した。
「それにします」
「分かった」
店主が料理を手渡す。
Aureliaは両手で受け取った。
まず香りを確かめる。
そして、少しだけ口にする。
彼女の目が変わった。
「……美味しい」
Rheaがすぐに近づく。
「美味しい?」
Aureliaが頷いた。
「とても美味しいです」
Tsumugiが笑った。
「ほらな」
Aureliaは手元の料理を見る。
「不思議です」
「何が?」
「こんなに簡単な料理なのに」
「料理って複雑じゃなきゃいけないのか?」
Aureliaは首を横に振った。
「いいえ。ただ……以前、一つの食卓に30種類以上の料理が並ぶ晩餐会に出たことがあります。料理は一品ずつ、使用人が運んできました。どれも最高の料理人が作ったものでした。でも、道端で自分で買ったものを食べるだけで、こんなに幸せな気持ちになったことはありません」
Tsumugiは少し黙った。
そして、静かに言った。
「たぶん今回は、自分で選んだからだ」
Aureliaはすぐには答えなかった。
料理を包んでいる紙を持つ手に、少しだけ力が入る。
そして彼女は微笑んだ。
「……そうかもしれません」
二人を見ていたセラフィエルが口を開く。
「それなら、急がないほうがいいと思います」
Tsumugiが振り向く。
「どうして?」
「Meridien Valeには、一日ですべてを見るには多すぎるほどのものがあります。国立博物館、歴史地区、オペラ劇場、伝統市場、午後の祭り、古い建築物が残る地域。そのすべてが異なる交通網に接続されています。すべてを一度に回ろうとすれば、休暇が仕事になってしまいます」
Tsumugiが頷いた。
「賛成だ」
Lanが手を上げる。
「私から提案がある」
「何だ?」
「まず博物館。その後、伝統市場。Aureliaが興味を持ったら歴史地区へ。オペラは夜でもいい。祭りは旧市街の中心で開かれるかもしれない」
Vesperaが頷く。
「そのルートなら無理がない」
Calistaが地図を見る。
「私は古い建物の地区を見たい。建築構造が当時のままなら、面白いものがあるかもしれない」
Rheaがにやりと笑う。
「本当に普通の休暇ができないんだね」
「私は普通だよ。建物の楽しみ方を知らないのは、あなたたちのほう」
「建物は食べられないよ」
CalistaがRheaを見る。
「今日聞いた中で、一番くだらない理屈だ」
Tsumugiが手を上げた。
「俺はRheaに賛成」
「あなたまで?」
「俺は食べ物のためにここへ来たからな」
Calistaが舌打ちする。
「あなたたち二人、気が合うね」
Aureliaがまた笑った。
今度は口元を隠すこともなかった。
反射的に姿勢を正すこともない。
表情を落ち着かせようとすることもない。
ただ、本当に面白かったから笑っている。
Tsumugiはしばらく彼女を見た。
それから、前方の通りへ視線を戻す。
Meridien Valeは戦場ではない。
フロンティアでもない。
契約の場所でもない。
護衛しなければならない船もない。
確保しなければならない鉱物もない。
解決しなければならない争いもない。
ただ、彼らが来るずっと前から存在し、彼らが去った後も生き続ける一つの都市があるだけだ。
Tsumugiにとって、だからこそこの場所は興味深かった。
彼らは博物館地区へ向かう交通路を歩き始めた。
道沿いでは、彼らが誰なのかなど気にすることなく、現地の生活が流れている。
年老いたSpace Elfが古本を売っている。
数人のBeastmanの子供たちが、丸い形をした小型車両を追いかけて走っている。
二人のSynthetic Personが伝統衣装を着て、祭りの方向について言い争っている。
人間の商人が手工芸品を売っている。
一人の音楽家が、Tsumugiには名前も分からない形の楽器を演奏している。
すべてが観光客のために作られたものではない。
その一部は、確かに日常の生活だった。
それこそがMeridien Valeを違う場所にしている。
古く見えるように作られたテーマパークではない。
ここは、歴史そのものを生活の一部として今も使い続けている世界なのだ。
Aureliaが少し歩く速度を落とした。
暗い石壁を持つ古い建物へ目を向ける。
「この建物は何ですか?」
Lanが観光情報を開く。
「かつての地方王国の行政庁舎。現在は地域歴史博物館になっている」
「地方王国?」
「現代の惑星統治システムが成立する前、Meridien Valeにはいくつもの政体が存在していたんだ」
Aureliaが微笑む。
「見てみたいです」
Tsumugiが頷いた。
「じゃあ、入ろう」
彼らは博物館へ向かった。
しかし正面入口を通り抜ける前に、Aureliaが足を止めた。
「Tsumugi」
「ん?」
「ありがとうございます」
「何に対して?」
Aureliaは振り返った。
今まで歩いてきた道を見る。
「私を、姫として扱えと言わなかったことです」
Tsumugiは両手をポケットへ入れた。
「ここは宮殿じゃないからな」
「もし私が宮殿にいたら?」
Tsumugiが小さく笑った。
「俺にも分からない。たぶん、そこでもAureliaとして扱うと思う」
少女は数秒間、彼を見つめた。
そして微笑んだ。
「それなら……今日はAureliaとして楽しみます」
数歩後ろに立っていたセラフィエルが、優しく微笑んだ。
「それは、とても良い決断だと思います」
Rheaが手を上げる。
「それで、博物館の後はまた食べよう」
Lanがすぐに答える。
「さっき食べたばかりだよ」
「そんなの関係ない」
Calistaがため息をついた。
「この休暇でお金を使い果たす原因は、ホテルや交通費じゃない気がしてきた」
Tsumugiが遠くに並ぶ屋台を見る。
「大丈夫だ」
Lanが目を細める。
「なんで今の言葉で、逆に心配しなきゃいけない気がするんだろう」
Tsumugiが笑った。
「君の勘がいいからだよ」
「キャプテン!」
彼らの笑い声が、博物館へ続く通りに再び響いた。
その頭上では、Meridien Valeの交通網が絶えず動き続けている。
遠くでは、歴史地区の古い鐘が鳴った。
街の中心部から流れてくる音楽も、少しずつはっきりと聞こえるようになってきた。
そして彼らが気づかないうちに、ASTRAEON VELORIAにとって文化の世界で過ごす最初の日が始まったばかりだった。
契約からでもない。
脅威からでもない。
ただ、一つの簡単な選択から始まった。
何を見たいのか。
そして、その後に何を食べたいのか。
【次の第82話――「食べたことのない料理」】
メリディアン・ベールの文化地区を訪れた後、Tsumugiたちは現地の生活の中心の一つとなっている伝統市場をさらに歩き始める。
Aureliaは、これまで貴族社会の中では一度も味わったことのなかった、より多くの郷土料理を口にすることになる。
その一方で、有機食品と合成食品の違いが再び浮かび上がり、銀河経済が日常生活にどのような影響を与えているのかが見えてくる。
Aureliaにとって、他の人々と一緒に食べる素朴な料理は、これまで知っていた正式な晩餐とは少しずつ違う意味を持ち始めていた。
【第82話へ続く……】




