【第79話】「観光惑星の脅威」
【第79話】「観光惑星の脅威」
ペラジア・ノーヴェは、今も同じ場所にあるように見えた。
ASTRAEON VELORIAの観測窓から見える惑星の表面には、相変わらず広大な青が広がっている。人工島の群れが大海原の上に浮かび、島々を結ぶ交通路が遠くに光の線を描いている。その一方で、フローティングホテルは表面の光を海へと反射していた。
観光地区から流れてくる音楽さえ、共同スペースの一つで流されている公共娯楽放送を通じて、かすかに聞こえている。
まるで、何も変わっていないかのようだった。
しかし、ASTRAEON VELORIAの内部は違っていた。
セラフィエルは、いつも通り落ち着いた様子で実体を持つ身体を立たせ、メイン管制室にいた。
その前には、複数のホログラムが同時に展開されている。
一つにはペラジア・ノーヴェの軌道交通が表示されていた。
もう一つには、つい先ほどこの宙域へ入った船のデータが表示されている。
紬は呼び出しを受けてから、しばらくして管制室へやって来た。
すでにレアもそこにいる。
ランはコンソールの反対側に立ち、ヴェスペラは自動更新された交通航路を確認していた。
カリスタは、技術区画から入ってきたばかりだった。
そして、アウレリアが最後にやって来る。
彼女は扉から数歩離れたところで足を止めた。
視線は、セラフィエルが表示している船のホログラムへまっすぐ向けられる。
「それが、さっき話していた船?」
「はい」
セラフィエルが表示を拡大する。
中型の船が、ペラジア・ノーヴェ外縁の軌道航路を進んでいた。
大きすぎるわけではない。
かといって、シャトルと呼べるほど小さくもない。
船体の形状は、軽武装の保安船に近かった。
側面には企業識別標識が付いている。
しかし、その標識はペラジア・ノーヴェの保安当局から受け取ったデータとは一致していなかった。
紬はジャケットのポケットに手を入れた。
「分かっていることは?」
「この船は民間航路を通って宙域へ入りました」
セラフィエルが一つの画面を紬の前へ移動させる。
「民間保安船としての申告を送信しています。登録された目的は、星系をまたぐ法的案件との関連が疑われる民間船舶に対する安全確認です」
ランが目を細めた。
「ずいぶん綺麗な申告ね」
「はい」
セラフィエルが別のデータを表示する。
「問題は、運用者の身元です」
カリスタが近づく。
「保安会社?」
「はい。しかし、その会社はペラジア・ノーヴェ保安局の一部として登録されていません。また、AURELIS SERENAに対する作戦について、現地政府から委任を受けた保安契約業者としても登録されていません」
レアが腕を組む。
「つまり、警察じゃない」
「その通りです」
「軍?」
「違います」
ヴェスペラが船の航路データを確認する。
「軌道巡回船としても登録されていないわ」
セラフィエルが小さく頷く。
「その通りです」
部屋が静かになる。
アウレリアは何も言わなかった。
しかし、その表情は変わっていた。
彼女はこれまで、護衛、使用人、役人、そして一族の名を背負って話す人々に囲まれて生きてきた。
人は、必ずしも正式な制服を着ている必要はない。
目的を持つこともある。
むしろ制服を着ていない人間のほうが、目的を読み取るのが難しい場合さえある。
「私を探しているの?」
小さな声で、その問いがこぼれた。
紬が振り向く。
「まだ分からない」
アウレリアは紬を見る。
「でも、その可能性はある」
「ある」
紬は隠そうとしなかった。
アウレリアは息を吸う。
「分かりました」
レアが紬を見る。
「船長」
「何?」
「もし本当にアウレリアを探して来たのなら、ペラジア・ノーヴェ保安局に知らせるべきじゃない?」
「もう知らせてある」
紬は即答した。
ランが眉を上げる。
「もう?」
「検索活動が増えた段階で、セラフィエルが報告を送っている。現地当局に彼らの存在を隠す理由はない」
セラフィエルが続ける。
「報告は受理されています。ペラジア・ノーヴェ保安局も、民間保安船が宙域へ入ったことを把握しています。しかし現時点では、拘束、検査、あるいは迎撃の命令は出ていません」
ヴェスペラが軌道航路を見る。
「つまり、向こうも監視している」
「その可能性が高いです」
カリスタが椅子を引いて座る。
「なら、どうして私たちが気にする必要があるの? AURELIS SERENAはもう保安当局へ引き渡した。アウレリアも家族に連絡している。私たちは契約も受けていない。法的には休暇中でしょう」
紬が薄く笑う。
「俺もそう思っている」
アウレリアが紬を見る。
「では……何もしないのですか?」
「そういうことじゃない」
紬はホログラムを指差す。
「注意して見る。それだけだ」
レアが小さく笑う。
「いかにも船長らしいわね」
「どういう意味?」
「普通なら、怪しいものを見つけたら全部調べたくなるでしょう。でも船長は、『まだこっちに手を出していないなら、こっちから手を出すな』って言う」
「俺たちは休暇中だからな」
「分かってる」
レアは笑う。
「でも、脅威は休暇の予定表を読んでくれないみたいね」
ランが笑いをこらえる。
「脅威が予定表を読めるなら、夕食が終わってから来てもらえるのに」
カリスタが口を挟む。
「それなら、食事の予定を教えなければいい」
ヴェスペラは、それまで真剣な表情をしていたが、ついに口を開いた。
「それは困ります。私はすでにレストランの予定を組んでいます」
紬は一人ずつ見る。
「お前たち、よくそんな冗談を言えるな」
ランが迷いなく答える。
「冗談を言わなかったら、緊張しすぎるから」
紬は少し黙った。
そして短く笑う。
「それもそうだな」
アウレリアは、その会話を見つめていた。
彼女には、少し不思議だった。
彼女が育った場所では、一族の安全に関わることが起きれば、空気そのものが変わっていた。
使用人が走る。
護衛が警戒を強める。
役人が集まる。
人々が声を潜めて話す。
誰もが、事態は深刻だと言う。
ここは違う。
怪しい船がいることを知る。
事実を確認する。
当局へ報告する。
そして、そのあともレストランの話をしている。
アウレリアは、ついに尋ねた。
「紬」
「ん?」
「あなたは、いつもこうなの?」
「どういう意味?」
「状況がおかしくなったときでも、落ち着いている」
紬は少し考える。
「そうでもない」
「そうでもない?」
「俺は、問題を実際以上に大きくするのが好きじゃないだけだ」
アウレリアはホログラムを見る。
「それなら、怖くないのですか?」
紬はすぐには答えなかった。
遠くを移動する船を見る。
「怖いのは普通だ」
アウレリアが少し驚く。
「普通?」
「怖くなったことが一度もないって言う人間がいたら、俺はむしろ疑う」
レアも頷く。
「私も」
紬は続けた。
「大事なのは、怖いか怖くないかじゃない。怖いと気づいたあとに、何をするかだ」
その言葉に、アウレリアは黙り込んだ。
自分自身の人生を思い返す。
学ぶべきこと。
行く場所。
会っていい相手。
出席する晩餐会。
話し方。
他の貴族の一族と会うとき、どのように立つべきか。
人生における多くの決定は、他人によって決められていた。
それらはすべて、安全と一族の責務という名のもとに行われていた。
すべてが悪かったわけではない。
家族を愛している。
父は彼女を守ってくれた。
母もいつも彼女を気にかけていた。
護衛たちも真剣に任務を果たしていた。
それでも、彼女は長い年月の中で、一つのことに慣れていた。
危険が現れたとき、何をすべきかを決めるのは他人だった。
今、彼女は一人の傭兵が所有する船にいる。
そして恐怖は普通だと言った最初の人間は、彼女に隠れろとは言わなかった。
アウレリアが尋ねる。
「私が怖かったら、どうすればいいのですか?」
紬は簡単に答えた。
「言え」
「言う?」
「怖いなら、怖いと言えばいい。嫌なら、嫌だと言えばいい。帰りたいなら、帰りたいと言えばいい」
紬は彼女を見る。
「一族の名前が大きいからって、強がる必要はない」
アウレリアは視線を落とした。
指が服の端を握る。
「それは……結構難しいです」
「分かってる」
「どうして分かるのですか?」
紬は笑う。
「人間って、そういうものだからな」
難しい答えはなかった。
理論もない。
ただ、簡単な一言だけだった。
だからこそ、アウレリアはすぐに答えることができなかった。
セラフィエルが沈黙を破る。
「紬」
「ん?」
「先ほどの船が航路を変更しました」
全員が再びホログラムを見る。
先ほどの保安船の航路が曲がっていた。
ペラジア・ノーヴェの中心部へ向かっているわけではない。
ペラジア・ノーヴェ保安局の施設へ向かっているわけでもない。
船は、ASTRAEON VELORIAが現在位置している軌道区域へ向かっていた。
レアがすぐに立ち上がる。
「こっちに来るの?」
セラフィエルが地図を拡大する。
「まだ断定できません。航路は依然として許可された軌道回廊内にあります。しかし、こちらの区域へ接近しています」
ランが尋ねる。
「通信要求は?」
「ありません」
「ドッキング要求は?」
「ありません」
「検査要求は?」
「ありません」
カリスタが顎を上げる。
「ただ近づいているだけ」
「その通りです」
紬は数秒考えた。
そして言った。
「反応するな」
レアがため息をつく。
「やっぱりそう言うと思った」
ヴェスペラが表示を軌道交通図へ切り替える。
「ここに留まれば、向こうはどんどん近づいてくるわ」
「問題ない」
「船長、もし本当にこちらを追っているなら――」
「なら、移動する」
ヴェスペラが振り向く。
「どこへ?」
紬が笑う。
「簡単には追えない場所へ」
セラフィエルはすぐに理解した。
「ノクティス・ヴェイル?」
再び、部屋が静かになる。
アウレリアはセラフィエルを見る。
「それは何ですか?」
紬が答える。
「船のステルスシステムだ」
「戦闘用?」
「違う」
セラフィエルが説明する。
「ノクティス・ヴェイルは、ASTRAEON VELORIAが外部追跡システムから検出される可能性を低下させるためのシステムです。他船を攻撃するためのものではありません。船の存在と移動パターンを隠すことが目的です」
アウレリアはセラフィエルを見る。
「つまり、隠れるのですか?」
「そうだ」
紬の答えはあまりにも自然だった。
アウレリアは、思わず聞き返す。
「本当に隠れるのですか?」
「どうして?」
「逃げているように見えませんか?」
紬は首を振る。
「理由もはっきりしない相手が俺たちについてくるなら、見つけやすい場所に同じ場所に立ち続ける義務なんてないだろ」
ランが笑う。
「その理屈、私は好き」
カリスタが身体をもたれさせる。
「技術的にも、戦闘で受ける損害を修理するより安いわね」
レアが笑う。
「カリスタはいつも修理費のことを考えてる」
「これだけ大きな船は、小銭で修理できるわけじゃないから」
紬はセラフィエルを指差した。
「ノクティス・ヴェイルを起動」
「了解しました」
セラフィエルが手を上げる。
いくつかの船内システムが変化した。
警報は鳴らない。
劇的な音もない。
一般の乗客が感じるような急激な変化もない。
しかし、ASTRAEON VELORIAの深部では、複数のシステムが動き始めていた。
能動送信が抑制される。
通信パターンが調整される。
外部センサー・シグネチャが再設定される。
エネルギー放出パターンが制御される。
航法システムは、正規の民間交通航路を利用しながら、移動パターンを偽装し始める。
ASTRAEON VELORIAが文字通り消えたわけではない。
ただ、簡単に読み取れる標的ではなくなった。
船外では、保安船が移動を続けていた。
数分が過ぎる。
セラフィエルが監視を続ける。
「直接追跡を失いました」
レアが笑う。
「成功?」
「現時点では」
紬が尋ねる。
「向こうは気づいたか?」
「おそらく、追跡対象の状態が変化したことには気づいています。しかし、現在位置までは把握できていません」
ランが画面を見る。
「追ってくる?」
「監視中です」
ホログラムの表示が変わる。
保安船が直接的な接近を止めた。
旋回する。
そして別の航路へ入った。
ヴェスペラがその軌跡を確認する。
「探しているわ」
「はい」
「追跡能力は結構高いわね」
セラフィエルが答える。
「標準的な民間保安船としては十分です。しかし、ノクティス・ヴェイル起動後のASTRAEON VELORIAに対してロックを維持するには不十分です」
アウレリアは、その言葉を聞いた。
そして紬を見る。
「あなたなら、あの船を攻撃することもできますよね?」
紬は少し黙った。
「できるからって、やる必要はない」
アウレリアが見る。
「どうして?」
「まだ向こうは、俺たちを攻撃していないからだ」
「でも、私を探しているかもしれません」
「かもしれない」
「もし、本当に私を連れて行くために来ていたら?」
「法的な根拠があるなら、正式な手続きを通して話せばいい」
紬は通信チャンネルを指差す。
「ペラジア・ノーヴェには保安当局がある。君の家族にも正式な連絡経路がある。領域間の問題なら、それを扱う機関だってある。相手の動き方が気に入らないというだけで、撃つ必要はない」
アウレリアは答えなかった。
胸の中に安堵があった。
しかし同時に、別の感情も生まれていた。
敬意だった。
ASTRAEON VELORIAの力に対する敬意ではない。
この船が並外れていることは、すでに知っている。
彼女を驚かせたのは、紬がその力をどう扱っているかだった。
宮殿では、権力は常に目に見える形で存在していた。
紋章。
制服。
護衛。
一族の名。
軍艦。
軍隊。
誰に権限があるのかを他人に知らせるためのものばかりだった。
紬は違う。
大きな力を持っている。
それでも、それを見せつけようとはしていない。
アウレリアは静かに言った。
「紬」
「ん?」
「あなたは、私が知っている貴族とはずいぶん違います」
紬が瞬きをする。
「それ、褒めてるのか?」
アウレリアが小さく笑う。
「たぶん、そうです」
「じゃあ、受け取っておく」
レアがすぐに口を挟む。
「船長、まだ喜ばないほうがいいですよ」
「どうして?」
「アウレリアはまだ言い終わってません」
アウレリアが笑いをこらえる。
「そうですね」
紬は二人を見る。
「お前たち、妙に息が合ってきたな」
後ろからランが笑う。
「それは良い変化ですね」
カリスタが首を振る。
「二人が船長を相手に結託しなければいいけど」
「なんで俺がいないみたいな話をするんだ?」
「船長はちゃんとそこにいますから」
「それが聞こえてる理由だろ」
緊張していた空気が、少しずつ軽くなっていく。
しかし、セラフィエルは保安船の表示を閉じなかった。
その動きを監視し続けている。
攻撃はない。
通信もない。
領域侵犯もない。
船はただ探している。
そして、その捜索そのものが十分な情報になっていた。
しばらくして、セラフィエルが再び口を開く。
「紬。変化があります」
「何だ?」
「あの船が、複数の現地情報ネットワークへ照会を送っています」
ランが近づく。
「何について?」
「ASTRAEON VELORIAと一緒に確認された民間船についてです」
レアがすぐにアウレリアを見る。
アウレリアは固まった。
セラフィエルが続ける。
「流通しているメディア写真についても、データを要求しています」
紬は何も言わなかった。
アウレリアは心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
「やっぱり……私が原因なんですね」
紬が振り向く。
「可能性は高くなった」
アウレリアは俯く。
「ごめんなさい」
「謝るな」
「でも、私のせいで――」
「アウレリア」
紬の声が少し強くなる。
アウレリアが止まる。
「君は、あの船をここへ呼んでない」
アウレリアは黙った。
「君があいつらをここへ送ったわけでもない」
それでも、黙ったままだ。
「それに、メディアに写真を撮らせたわけでもない」
紬が息を吐く。
「だから、自分のものじゃない責任まで全部背負うな」
アウレリアは唇を噛んだ。
胸の奥にあった苦しさが、少しずつ消えていく。
彼女はこれまでずっと、一族の身分には責任が伴うのだと教えられてきた。
しかし今、責任と罪悪感は違うのだと、少しずつ理解し始めていた。
自分の周囲で起きるすべての問題が、自分の責任というわけではない。
紬は彼女の横を通り過ぎ、扉へ向かう。
「行こう」
アウレリアが顔を上げる。
「どこへ?」
「食堂へ戻る」
「今?」
「今」
アウレリアは戸惑う。
「でも、あの船はまだ私たちを探しているのですよね?」
「重要な変化があれば、セラフィエルが教えてくれる」
紬が振り返る。
「誰かが俺たちを探しているからって朝食を取りやめたら、そいつらはもう俺たちの休暇を邪魔することに成功したってことになる」
レアが大きく笑う。
「それはそうね!」
ランが手を上げる。
「賛成。私はもうメニューを決めてる」
カリスタが立ち上がる。
「それなら私も行く」
ヴェスペラが航法図を閉じる。
「私も」
アウレリアは、まだその場に立っていた。
やがて笑う。
「分かりました」
紬が彼女を見る。
「何?」
「私も行きます」
「よし」
彼らは管制室を出ていった。
セラフィエルは、しばらくその場に残って交通状況を監視し続ける。
外では、ペラジア・ノーヴェが変わらず日常を続けていた。
観光船がフローティングホテルへ向かって進む。
シャトルが観光客を人工ビーチへ運ぶ。
レストランが朝食の注文を受ける。
商人が店を開く。
子供たちが観光地区で魚の形をしたロボットを追いかけて走る。
その惑星の軌道上で、一隻の民間保安船が銀河最大の船を探していることを知る者は、誰もいなかった。
そして、その銀河最大の船は――朝食へ向かっていた。
セラフィエルは、もう一度保安船の航跡を確認する。
船は別のセクターへ移動していた。
攻撃しない。
呼びかけない。
最後通牒も送らない。
ただ、探している。
セラフィエルは、やがて船内通信を開いた。
「紬」
セラフィエルの声が、紬が持つ小型通信端末から聞こえる。
「ん?」
「追加情報があります」
紬が足を止める。
「何だ?」
セラフィエルは落ち着いた声で答えた。
「彼らは正式な追跡者ではありません」
紬がアウレリアを見る。
レアも足を止めた。
ランとヴェスペラが互いに顔を見合わせる。
カリスタが眉を上げる。
アウレリアは動かなかった。
数秒間、誰も話さなかった。
やがて紬が尋ねる。
「どういう意味だ?」
「彼らの申告内容と、使用している情報アクセスのパターンに相違があります。彼らはペラジア・ノーヴェからの正式な命令に基づいて行動していません」
セラフィエルは一度言葉を切った。
「そして、アウレリアの一族から正式な委任を受けている証拠も、まだ確認できていません」
紬は窓の外を見る。
美しいペラジア・ノーヴェは、そこにあった。
青い海。
人工島。
フローティングホテル。
海中都市。
本来なら、休息のために訪れるはずだった観光地。
しかし今、その光の向こう側では、誰かがアウレリアを探している。
そして、その者たちは正式な入口を通って来ていなかった。
紬は静かに息を吸う。
「分かった」
薄く笑う。
「それでも、朝食は食べるぞ」
アウレリアは、思わず笑った。
保安船がこの宙域へ入ってから初めて、彼女の表情から少しだけ緊張が消えた。
しかし管制室では、セラフィエルが監視を続けている。
なぜなら、本当の問題は、もはや誰がアウレリアを探しているのかではない。
問題は――
なぜ彼らは正式な経路を使わずに来たのか。
そして、誰のために動いているのか。
【次回予告 第80話――「休暇は休暇のまま」】
正式な追跡者ではないと判明したアウレリアの捜索船を前に、紬はその状況によって旅を台無しにすることを選ばなかった。ASTRAEON VELORIAは引き続きペラジア・ノーヴェに滞在し、セラフィエル、ラン、ヴェスペラは舞台裏から監視を続ける。レアとカリスタも観光地の雰囲気を楽しみ、アウレリアは一族の身分を意識せず、少しずつ自由に笑えるようになっていく。
旅の途中、紬は次の目的地を一つのカルチャー・リゾート・ワールドに決める。
【第80話へ続く……】




