【第78話】「報道されるはずのなかったニュース」
【第78話】「報道されるはずのなかったニュース」
21日目。
観光区域が夜へと移り変わるにつれて、ペラジア・ノーヴェの光も変化し始めていた。
海岸線に沿って設置された照明が、一つ、また一つと灯っていく。
それまで人工太陽に照らされていた歩道には、路面へ埋め込まれた透明パネルから新たな照明が広がっていた。
街が静かになることはなかった。
むしろ、その逆だった。
レストランには観光客が集まり始める。
店舗は営業時間を延長する。
エンターテインメント地区から流れてくる音楽が、観測エリアにまでかすかに届いていた。
海上では、夜間観光用の船が動き始めている。
アウレリアは、まだ先ほどと同じ場所に立っていた。
手には、先ほど写真を撮るために使った紬の通信端末が握られている。
髪はまだ少し乱れていた。
服の裾も、完全には乾いていない。
その表情は、ペラジア・ノーヴェへ初めて到着したときよりも、ずっと穏やかだった。
紬はその隣に立っている。
「もう満足したか?」
アウレリアは少し考えた。
「分かりません」
「変な答えだな」
「自分がまだ一度も経験したことのないことが、あまりにもたくさんあるんだと気づいたんです」
そこへ、リアが近づいてきた。
「それは、今までの人生を細かいところまで全部決められていたら、当然のことだよ」
アウレリアは微笑んだ。
「そうですね」
ランは買い物用の端末をバッグへしまった。
「それなら明日、リストを作ろう」
アウレリアがすぐに振り向く。
「リスト?」
「まだ行っていない場所。まだ食べていないもの。まだ一度もやったことのないこと」
紬が割って入る。
「休暇を仕事の予定表みたいにするなよ」
「リストを作らなかったら、紬は私たちを食べ物を売っている場所へ連れていくでしょう」
「それの何が悪い?」
「私たちはさっき食べたばかりです」
「二食目には、いつだって心の居場所がある」
リアが笑った。
「そんなことわざ、ないから」
「今からそうなる」
アウレリアも一緒になって笑った。
そんな小さな会話が、何気なく続いていた。
誰も気づいていなかった。
彼らが立っている場所から数キロ離れたところで、ローカルニュースのシステムが、つい先ほどアップロードされた画像を処理していることに。
ペラジア・ノーヴェのメディアセンターの一つ。
そこでは、若いオペレーターが、何千枚もの観光客の写真を表示する画面を眺めていた。
システムは、画質、撮影場所、観光客の密集度、そして著名人との接触の可能性などを基準に、画像を自動で選別している。
その中の一枚で、処理が止まった。
海辺に立つ一人の男性と、一人の少女。
背景には、ペラジア・ノーヴェの観測エリアが映っている。
オペレーターは眉をひそめた。
「ちょっと待って」
同僚が振り向く。
「何?」
「顔認識システムが一致を検出した」
「有名人?」
「違う」
「政治家?」
「もっと複雑だ」
オペレーターは画像を拡大した。
写真の横に表示されていたデータが変化していく。
すぐには名前が表示されなかった。
システムが示したのは、データベース上で高い一致率を持つ、いくつかの検索結果だけだった。
そして、そのうちの一つが表示された。
AURELIA VEYRIENNE
オペレーターは黙り込んだ。
「……ヴェイリエンヌ?」
同僚が近づく。
「例の貴族一族?」
「まだ断定できない」
「じゃあ、どうして名前が出てきた?」
「顔のデータが一致しているからだ」
「何パーセント?」
オペレーターは画面に表示された数字を確認した。
「97.8パーセント」
室内が少し静かになった。
同僚が唾を飲み込む。
「彼女は行方不明だと報じられていなかったか?」
「公式な状況までは分からない」
「過去のニュースを調べて」
「もう調べた」
「それで?」
オペレーターはいくつかの画面を横へ移動させた。
「民間航路から姿を消した旅客船、AURELIS SERENAに関する報道がある」
同僚は再び写真を見つめた。
「それなら……」
「まだ結論を出すな」
オペレーターは一部のデータを閉じた。
「今のところ、データベースに登録されている人物と似ている少女の写真が一枚あるだけだ」
「でも、もし本物だったら?」
オペレーターは息を吐いた。
「もし本当なら、普通の芸能ニュースでは済まない」
その頃。
紬たちはすでに観測エリアを離れていた。
観光ターミナルへ戻る道を歩いている。
その途中、セラフィエルが現地の通信システムから通知を受け取った。
すぐには何も言わなかった。
紬がそれに気づく。
「どうした?」
「観測エリアで撮影された写真が、現地メディアによって公開されました」
アウレリアが足を止める。
「写真?」
「はい」
リアが眉を上げた。
「さっきの写真?」
「紬が撮影したものではありません。別の観光客が撮影した写真です。ただし、その画像にアウレリアが写っています」
アウレリアの身体が少し強張った。
「私が?」
「はい」
「顔ははっきり写っていますか?」
「十分に鮮明です」
紬がすぐに尋ねる。
「もう広く拡散しているのか?」
「まだです」
ランがセラフィエルを見る。
「どの程度まで広がっている?」
「現在はペラジア・ノーヴェのローカルメディア網に限定されています。ただし、いくつかのニュース集約サイトがすでに取得しています」
カルスタが息を吐いた。
「早すぎる」
セラフィエルは落ち着いた声で答える。
「現地のニュース配信システムには自動配信アルゴリズムが導入されています。画像がニュース価値を持つと判断された場合、人間の編集者による完全な確認が行われる前に、その複製が拡散する可能性があります」
アウレリアは俯いた。
「つまり……私がここにいることを、知られてしまったんですね」
紬は彼女を見る。
「かもしれない」
「かもしれない?」
「まだ、誰がその写真を見たのかは分からない。起きてもいないことを考えて、自分で自分を怖がらせるな」
アウレリアは唇を噛んだ。
「でも……家族が……」
「君の家族は、君が俺たちと一緒にいることを知っている」
「そういう意味ではありません」
アウレリアは顔を上げた。
「もし、他の人が見たら?」
紬はすぐには答えなかった。
代わりにランが口を開いた。
「その可能性はある」
リアがランを見る。
「そこまで正直に言わなくてもいいでしょう」
「隠すより、知っておいたほうがいい」
アウレリアは黙った。
ランは続ける。
「でも、この写真から分かる情報はそれほど多くない。具体的な場所もない。個人情報もない。それに、あなたがASTRAEON VELORIAにいると公式に説明されたわけでもない」
セラフィエルが付け加えた。
「ただし、コメント欄ではASTRAEON VELORIAという船名が出始めています」
紬は息を吐いた。
「思ったより早いな」
「ASTRAEON VELORIAは以前の航行からすでに公的な記録があります」
セラフィエルが説明する。
「船名そのものは機密情報ではありません」
リアが紬を見る。
「じゃあ、今度こそ私たちも有名になったの?」
「俺は有名になりたいなんて、一度も言ってない」
「全長8,600メートルの船に乗っているんだから、人に見られないほうが難しいよ」
紬は黙った。
「……それは反論しにくいな」
やがて彼らはターミナルへ到着した。
しかし中へ入る前に、紬が一枚のデジタル掲示板の前で足を止めた。
すでにローカルニュースが表示されている。
同じ写真だった。
アウレリアが紬の隣に立っている。
その上には、大きな見出しが表示されていた。
「ASTRAEON VELORIAの訪問者と一緒に目撃された謎の観光客」
アウレリアは、その見出しをゆっくりと読み上げた。
「謎の観光客……」
リアがその隣に立つ。
「少なくとも、まだ名前までは知られていないみたい」
アウレリアは画面を指差した。
「でも、ASTRAEON VELORIAの名前を使っています」
「うん」
「それって、船に誰が乗っているのか調べられるということでは?」
セラフィエルが答える。
「理論上は、その可能性があります」
紬はこめかみを押さえた。
「だったら、そんなに長く画面の前に立つな」
アウレリアが彼を見る。
「どうしてですか?」
「自分たちのニュースを読んでいる人間にしか見えないから」
ランが笑った。
「実際、そうでしょう?」
「分かってる。でも、それでも間抜けに見える」
アウレリアはとうとう笑った。
顔に浮かんでいた緊張が、少しだけ和らいだ。
彼らは再び歩き始めた。
ターミナルの中へ入ると、アウレリアが突然尋ねる。
「紬さん」
「ん?」
「もし、このニュースが広がったら……ASTRAEON VELORIAへ戻らなければいけませんか?」
紬が足を止める。
「どうして?」
「皆さんに迷惑をかけたくありません」
リアがすぐに答えた。
「あなたがここにいることが問題なんじゃないよ」
アウレリアが彼女を見る。
「でも――」
「あなたは休暇中。それだけ」
リアはアウレリアの肩を軽く叩いた。
「小さな問題が起きるたびに帰っていたら、この旅は永遠に終わらないよ」
アウレリアは紬を見る。
「そうですよね?」
紬は頷いた。
「ああ」
「怒っていないんですか?」
「どうして俺が怒る?」
「この写真のせいで、ASTRAEON VELORIAがさらに注目されるかもしれません」
「船の名前なら、ずっと前から注目されてる」
紬は自分自身を指差した。
「問題は船じゃない。問題なのは、船長が注目を集める必要のない場所で、よく目撃されることだ」
セラフィエルが口を挟んだ。
「同意します」
紬が振り向く。
「お前まで乗ってくるな」
「事実を述べただけです」
ランが微笑む。
「それがセラフィエルだからね」
夜はますます賑やかになっていた。
彼らはやがて、レストランエリアへ戻ってきた。
紬が一軒の小さな店の前で足を止める。
そこでは、ペラジア・ノーヴェの地元料理が販売されていた。
メニューには、二つの主要な選択肢が表示されている。
合成シーフード・ボウル――18 GC
有機海洋漁獲ボウル――240 GC
アウレリアは、その価格を見つめた。
「差が大きいですね」
ランがメニューを見る。
「普通だよ」
「18 GCと240 GCですよ」
「有機素材は、厳しく管理された海域から実際に漁獲されたものだから。供給量が少ない」
紬は二つのメニューを見比べる。
「18 GCのほうで、普通の夕食には十分だろ」
アウレリアが小さく笑う。
「さっき、二食目にはいつでも心の居場所があると言っていましたよね」
「これは二食目じゃない。夕食だ」
「それなら違うんですか?」
「自然界の法律では、違う」
ランが首を横に振る。
「紬の言う自然界の法律、どんどん広がってますね」
アウレリアは合成メニューを見る。
「本当に味が違うんですか?」
カウンターの向こうに立っていた店員が答えた。
「舌次第ですね。うちの合成素材は培養した海洋タンパク質と天然由来の風味抽出物から作っています。きちんと調理すれば、違いが分からないお客様も多いですよ」
アウレリアは続けて有機メニューを指差した。
「では、こちらは?」
「有機海域で漁獲された魚です。培養タンクで生産されたものではありません。数が限られているので、その分かなり高くなります」
紬が尋ねる。
「どちらが一番売れる?」
店員は笑った。
「18 GCのほうです」
「そりゃそうだ」
「240 GCのほうは、自分がペラジア・ノーヴェで有機魚を食べたことを友人に話したい観光客が買いますね」
ランは笑いをこらえた。
アウレリアも口元を押さえる。
「それ……すごく正直ですね」
店員は肩をすくめた。
「観光客は、食べるためだけに来るわけじゃありませんから。物語を買うんですよ」
紬は頷いた。
「なるほど。いい言葉だな」
アウレリアが振り向く。
「では、どちらにしますか?」
紬は価格を見る。
「18 GC」
アウレリアが微笑む。
「私もそれにします」
リアが手を上げる。
「私も」
カルスタも同意した。
「私も問題ありません」
ヴェスペラが頷く。
ランはすぐに言った。
「ようやく、私が長々と計算しなくてもいい決定になりましたね」
セラフィエルがメニューを見る。
「私も同じものを注文します」
紬が彼を見る。
「お前、食べる必要ないだろ」
セラフィエルは微笑んだ。
「ですが、私は肉体を持っています。食事を楽しむ権利はあると思います」
紬は息を吐いた。
「分かった。一つ頼め」
「ありがとうございます」
アウレリアは、そんな彼らを見て微笑んだ。
料理は、それほど時間を置かずに運ばれてきた。
合成シーフード・ボウルは、シンプルな料理だった。
米に似せた食感へ加工された合成米。
培養によって作られたシーフード。
植物由来素材から成形された野菜。
そして、ペラジア・ノーヴェ特有の海洋ソース。
豪華ではない。
高価でもない。
それでも、温かかった。
アウレリアが一口食べる。
「美味しい」
紬も頷いた。
「18 GCでこれなら悪くないな」
ランが器を指差す。
「だから合成食品が銀河の大部分の住民にとって主食になっているんですよ」
「安くて、生産しやすくて、十分な栄養がある」
「その通りです」
アウレリアが微笑んだ。
「それなら、高価な食べ物が必ずしも優れているわけではないんですね」
紬は箸を上げた。
「そういうことだ。今日は一つ学んだな」
「何をですか?」
「食べ物を値段だけで判断しないこと」
アウレリアは自分の器を見つめた。
「……食べ物だけじゃないのかもしれません」
紬の箸が止まった。
リアがアウレリアを見る。
アウレリアは続けた。
「人も、身分だけで判断されるべきではないんですね」
誰も、すぐには答えなかった。
やがて紬が微笑む。
「そうだな」
アウレリアは俯いた。
初めてだった。
そういう言葉が、本当に自分自身のものだと感じられたのは。
食事を終えると、彼らは再びターミナルへ向かって歩き始めた。
その途中、セラフィエルが突然、別の通知を受け取った。
今度は、その表情が少しだけ真剣になる。
紬はすぐに気づいた。
「今度は何だ?」
「先ほどの記事の閲覧数が増加しています」
「どのくらいの速度で?」
「地域ニュースの推薦システムが、ペラジア・ノーヴェのトレンド一覧へ掲載するほどの速度です」
ランがすぐに足を止めた。
「もう地域まで入ったの?」
「まだ完全には入っていません。しかし、その方向へ進んでいます」
紬はポケットへ手を入れる。
「アウレリアの身元は?」
「まだ公式には公表されていません」
「それならいい」
アウレリアが尋ねる。
「それなら、私たちは安全なんですか?」
紬が彼女を見る。
「まだ分からない。でも、今のところ慌てる理由もない」
アウレリアは頷いた。
セラフィエルが続ける。
「それと、AURELIS SERENAのデータに対する検索をいくつか検出しました」
紬が足を止める。
「誰から?」
「まだ特定できません。複数の異なるネットワーク端末から検索されています」
ランが目を細めた。
「船の所有権を調べているの?」
「その一つは、そうです」
「他は?」
「登録情報、出航履歴、そして船舶の法的ステータスです」
リアが尋ねる。
「それって、アウレリアを探しているということ?」
セラフィエルはすぐには答えなかった。
「現時点では結論を出せません」
紬は頷いた。
「なら、結論を出すな。監視だけしておけ」
「了解しました」
アウレリアは、すべてを聞いていた。
その手が、ゆっくりと握り締められる。
紬はそれに気づいた。
「アウレリア」
「はい?」
「今日はまだ休暇だ」
アウレリアは薄く微笑んだ。
「でも、私を探している人がいるかもしれません」
「それは今夜、君が解決できることじゃない」
「分かっています」
「それに、本当に君と話したい相手がいるなら、正式な手続きを使えばいい」
アウレリアは紬を見る。
「本当に怖くないんですか?」
紬は少し考えた。
「怖い? もちろん怖いさ」
アウレリアは少し驚いた表情を見せる。
「認めるんですか?」
「俺だって怖くない人間じゃない。ただ、恐怖に全部の判断を支配されるのが嫌いなんだ」
アウレリアは黙った。
そして微笑んだ。
「私も、そうなれるようになりたいです」
「ゆっくりでいい」
紬は歩き続ける。
「今日は護衛なしで歩くことを覚えた。それだけでも十分だ」
アウレリアは後ろからついてくる。
「では、明日は何を学べばいいですか?」
紬が振り向いた。
「明日?」
「はい」
「明日のことは、明日考えよう。自分で予定表を作り始めるなよ」
アウレリアが笑う。
「分かりました」
やがて彼らはターミナルへ到着した。
ASTRAEON VELORIAへ戻る道中、セラフィエルが追加の報告を行った。
「紬。伝えておくべき財務情報があります」
「何だ?」
「船舶の輸送および関連サービスに対する支払いが完了しました」
紬が眉を上げる。
「もう?」
「はい。2,500,000ギャラクティック・クレジットが船長の口座へ入金されています」
ランがすぐに足を止めた。
「2,500,000?」
「その通りです」
リアも振り向く。
「それはAURELIS SERENAの輸送に対する支払い?」
「合意されていた輸送および取り扱いサービスを含みます」
紬は金融端末を開いた。
残高が表示される。
4,700,000ギャラクティック・クレジット
紬は数秒間、黙っていた。
「……まあまあだな」
ランが彼を見る。
「まあまあ?」
「ああ」
「紬」
「ん?」
「4,700,000ギャラクティック・クレジットを、普通は『まあまあ』とは言いません」
リアが笑った。
「昔からそうなんですよ」
セラフィエルが付け加える。
「なお、船舶輸送に関する港湾費用、物流費、保安費用、移送調整費、および関連する運用上の費用は、合意に基づき保安当局側が負担しています。これらの費用が船長の口座から差し引かれることはありません」
紬は頷いた。
「つまり、この2,500,000は俺たちの仕事に対する純粋な報酬ということだな」
「その通りです」
ランが人差し指を立てる。
「だったら、すぐに使わないでくださいね」
「分かってる」
「私は本気ですよ」
「俺も本気だ」
「紬」
「何だ?」
「その顔、まったく説得力がありません」
アウレリアが笑いをこらえる。
「紬さん、本当にお金を使うのが好きなんですか?」
紬は考えた。
「それほどでもない」
ランが即座に答える。
「高いものを買う前に、『それほどでもない』って言うのが好きなだけです」
「例えば?」
ランは指を折り始めた。
「船」
紬は黙った。
「装備」
沈黙。
「部品」
まだ沈黙。
「食べ物」
紬が手を上げる。
「最後のは高くない」
ランは彼を見る。
「毎日続ければ、それでも高くなります」
リアが笑った。
「もういいよ。今日は休暇なんだから、好きにさせてあげよう」
紬は頷く。
「ほら。リアは分かってる」
ランはため息をついた。
「もう諦めます」
ASTRAEON VELORIAへ続くアクセスゲートが見えてきた。
外から見える巨大な船体が、ペラジア・ノーヴェの光を反射している。
8,600メートルにも及ぶ船体構造が、観光港の上空へと果てしなく伸びていた。
ターミナル区域から見ても、その大きさはすでに、単なる船と呼ぶことすら躊躇われるほどだった。
アウレリアが少しだけ足を止める。
ASTRAEON VELORIAを見つめた。
そして、手元のニュース画面を見る。
そこには、まだ自分の写真が表示されていた。
同じ見出し。
「ASTRAEON VELORIAの訪問者と一緒に目撃された謎の観光客」
アウレリアは画面を消した。
「紬さん」
「ん?」
「今日は楽しかったです」
紬は微笑んだ。
「それならよかった」
「ニュースが出てしまいましたけど」
「明日も楽しくできるさ」
「本当ですか?」
「それは明日になってみないと分からない」
アウレリアは頷いた。
しかし、彼らが船内区域へ入ったとき、セラフィエルが再び一件の通知を受け取った。
セラフィエルは、すぐにはすべてを伝えなかった。
内部画面に、一行のデータだけが表示される。
外部検索活動――増加
その下には、複数のネットワーク情報源が表示されていた。
一つではない。
二つでもない。
複数。
セラフィエルは、やがて紬へ視線を向けた。
「紬」
「ん?」
「アウレリアとAURELIS SERENAに関する検索活動が増加しています」
紬が歩みを止める。
「まだ実行者の身元は分からないのか?」
「まだです」
「なら、監視以外は何もするな」
「了解しました」
紬は再び歩き始めた。
「俺たちは休暇中だ」
リアが微笑む。
「そうだね」
ランがため息をついた。
「その言葉、何か問題を呼び寄せる言葉みたいに聞こえてきました」
紬が振り向く。
「そんなこと言うな」
「どうして?」
「そういうことを誰かが言った直後に、本当に問題が起きることが多いからだ」
セラフィエルが落ち着いた声で答える。
「統計的に見ると、ランの発言は完全には間違っていません」
紬が再び足を止める。
「セラフィエル」
「はい?」
「お前まで乗るな」
アウレリアが笑った。
その笑い声が、ASTRAEON VELORIAの廊下に小さく響いた。
その夜の間だけは、彼らはまだ、その旅を休暇と呼ぶことができた。
しかし外では、小さな一つのニュースが、すでにネットワークからネットワークへと動き始めていた。
そして、その写真を見る人間が増えるほど。
アウレリアの存在を秘密のままにしておくことは、少しずつ難しくなっていく。
【次回予告 第79話――「観光惑星の脅威」】
「観光惑星の脅威」
アウレリアに対する検索活動は、さらに増加していく。
一隻の保安船がペラジア・ノーヴェのシステムへ侵入する。
しかし、その船の身元と公式なステータスは、セラフィエルが受け取っていた保安情報とは一致していなかった。
紬は攻撃的な行動を取らず、状況を観察することを決める。
その船が自分に関係している可能性に気づいたアウレリアは、紬とASTRAEON VELORIAと共に過ごす生活の、別の一面を見始めることになる。
【第79話「観光惑星の脅威」へ続く……】




