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ASTRAEON VELORIA――銀河を旅する自由傭兵――  作者: Ren Hazumi


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【第68話】「スリーピング・ポッド」

【第68話】「スリーピング・ポッド」



メディカル・プリザベーション・デッキの気密扉が、ゆっくりと開いた。


彼らの到着を迎える足音はない。


ただ、まだ稼働している非常用システムの低い駆動音だけが響いている。


廊下の照明は不規則に点灯していた。いくつかの天井パネルは完全に消えており、それ以外の場所では、白く淡い光が数秒おきに点滅している。


Tsumugiは扉の境界に立っていた。


その隣にはSeraphiel。


Rheaは少し後方に位置し、視線を動かしながら廊下全体を警戒している。


生命の痕跡はない。


人間の声もない。


会話もない。


正常に稼働している医療機器の音も聞こえない。


しかし、これまで通過してきた他のデッキとは違い、メディカル・プリザベーション・デッキにはまだエネルギーが流れていた。


Seraphielがポータブル・スクリーンにスキャン結果を投影する。


「医療システムの主要機能は停止しています。非常用電力が、いくつかのセクターへまだ供給されています」


Tsumugiはシステム一覧を見る。


「どれくらい?」


「多くはありません。最低限の機能だけが維持されています。医療保管設備、生体冷却システム、それからいくつかのプリザベーション・ユニットです」


Rheaが腕を組む。


「つまり、誰かが意図的にここを維持している?」


「必ずしもそうとは限りません。非常用リアクターが医療施設へ自動的に優先電力を供給している可能性があります」


Tsumugiはうなずいた。


「なら、その経路を辿ろう」


彼らは中へ進んだ。


最初の廊下を進むと、検査室が見えてきた。


扉は開いている。


内部には、すでに空になった医療用ベッドがいくつか並んでいた。


そのうちの一台には、乾いて黒ずんだ染みが残っている。


Rheaが一瞬立ち止まる。


その表情が険しくなった。


説明の必要はない。


彼らはすでに、この船の別の場所で似た証拠をあまりにも多く見てきた。


Tsumugiは何にも触れない。


「ここから何も持ち出さないで」


Rheaがうなずく。


「船のステータスがまだ確定していないから」


「そう」


Tsumugiは歩みを進める。


それが、彼女がAURELIS SERENAを普通の廃船として扱わない理由の一つだった。


この船は何か月も放棄されている。


だが、放棄されたからといって、発見した者の所有物になるわけではない。


所有者がいる。


登録記録がある。


保険会社がある。


救難船の権利請求が発生する可能性もある。


そして今、この船の中にはまだ生きている人間がいる可能性がある。


もし本当にそうなら、彼らの優先順位は変わる。


船を奪うことではない。


物資を持ち出すことでもない。


まず、その人物を救うことだ。


Seraphielが廊下の分岐点で立ち止まった。


「Tsumugi」


「うん?」


「先ほど検出した生命反応の発生源を発見しました」


Rheaがすぐに振り向く。


「どこ?」


Seraphielが手を上げる。


メディカル・プリザベーション・デッキのマップが空中に表示された。


その中の一点が光る。


SLEEPING POD 07


距離はわずか数十メートル。


Tsumugiはすぐに動き出した。


Rheaも後に続く。


Seraphielも二人と共に歩くが、その意識の一部は依然として船のシステムへ接続されたままだ。


目的地へ近づくほど、検出される生体信号が鮮明になっていく。


脈動は非常に弱い。


しかし、規則正しい。


Tsumugiは目の前の部屋の扉を見る。


パネルには古い文字がまだ残っている。


SLEEPING POD — MEDICAL PRESERVATION


扉は半開きだった。


Tsumugiがゆっくりと押し開ける。


室内は廊下よりはるかに冷えていた。


いくつものポッドが並んでいる。


その大半は電力を失っている。


開いているものもある。


破損しているものもある。


ただの空の殻となり、インジケーターが消えているものもあった。


しかし、一基だけがまだ点灯している。


部屋の中央。


07。


Tsumugiが立ち止まる。


透明なポッドのガラス越しに、一人の少女がプリザベーション液の中で横たわっていた。


人間族。


年齢は若く見える。


淡い金色の長い髪が、液体の中でゆっくりと揺れている。


その顔は穏やかだった。


この船の状況を考えれば、あまりにも穏やかだった。


Seraphielがすぐにスキャンを開始する。


「生命反応を確認しました」


Rheaが数歩近づく。


「まだ生きてる?」


「はい」


今回のSeraphielの返答は、はっきりとしていた。


「人間族の女性。生物学的年齢は約18歳。心拍数は低く、代謝は抑制されていますが、安定しています」


Tsumugiが息を吸う。


「どれくらい、あそこにいる?」


Seraphielがプリザベーションのデータを確認する。


「システムログから推定すると、約7か月です」


Rheaは黙った。


約7か月。


人間の身体が、これほど長期間この状態に置かれるには、非常に安定したシステムによる支援が必要になる。


そして、この船は明らかに安定していない。


Tsumugiが操作パネルへ近づく。


「起こして」


Seraphielはすぐには答えなかった。


「問題があります」


Tsumugiが止まる。


「何?」


「スリーピング・ポッドの開放システムが、通常のコマンドに反応しません」


Rheaがすぐに前へ出る。


「壊れてる?」


「まだ断定できません」


Seraphielがポータブル・インターフェースをポッドの端末へ接続する。


いくつかのインジケーターが点灯する。


そして消える。


再び点灯する。


また消える。


アクセス経路の候補が、次々と画面に表示される。


PRESERVATION SYSTEM — ACTIVE


LIFE SUPPORT — ACTIVE


NEURAL SUPPRESSION — ACTIVE


POD LOCK — ERROR


Tsumugiが眉をひそめる。


「ロックにエラーがあるなら、手動で開けて」


「試しています」


数秒が過ぎる。


変化はない。


Seraphielが二つ目の制御経路を試す。


結果は同じだった。


Rheaがポッド側面のパネルを見る。


「ケーブルは?」


Seraphielがユニット下部をスキャンする。


「メディカル・プリザベーション・システムからスリーピング・ポッドへ接続されている主要回線に損傷があります」


Tsumugiはポッドの背面から伸びるケーブルを見る。


いくつかはまだ接続されている。


しかし主要回線の一つが、船内システムの障害によって損傷しているようだった。


「つまり、ポッド自体は生きている。でも、本来それを開けるはずのシステムが動かない」


「その通りです」


Rheaがガラス越しの少女を見る。


「なら、ケーブルを切って開ければいい」


「駄目」


Rheaが振り向く。


Tsumugiは生体インジケーターを指した。


「それぞれの回線の機能を把握しないまま接続を切ったら、プリザベーション・システムそのものを停止させる可能性がある」


Rheaは理解した。


その表情がさらに険しくなる。


「じゃあ、どうする?」


Seraphielはすぐには答えなかった。


より深いデータを読み取っている。


すると、赤いインジケーターが表示された。


PRESERVATION STABILITY — DECLINING


Tsumugiがそれを見る。


「Seraphiel?」


「時間制限があります」


室内の空気が変わった。


Rheaが近づく。


「どれくらい?」


Seraphielが数秒間データを処理する。


「正確な時間を提示することは、まだできません。船のシステムがあまりにも大きく損傷しています。しかし、エネルギー消費量とプリザベーション液の状態から判断すると……」


一瞬、言葉を止める。


「スリーピング・ポッドが現在の状態のまま維持され、復旧できなければ、生体状態の安定性は低下し続けます」


Tsumugiが画面を見つめる。


「どれくらい早く?」


「長時間、そのままにしておくことはできない程度です」


Rheaが拳を握る。


「つまり、時間との勝負ってことね」


「はい」


船内へ入ってから初めて、Tsumugiはすぐには答えなかった。


目の前には、彼らの知らない少女がいる。


名前すらまだ分からない。


なぜAURELIS SERENAに乗っていたのかも分からない。


家族が誰なのかも分からない。


この船の乗客たちが、なぜこのような状態になったのかも分からない。


だが、一つだけ明らかなことがある。


彼女はまだ生きている。


そして今、その命は、ほとんど死にかけている船のシステムに委ねられている。


Seraphielが追加の診断パネルを開く。


「手動経路を発見しました」


「よかった」


「ただし、その経路は完全ではありません」


Tsumugiが見る。


「いくつかの制御接続は、まだスリーピング・ポッドとメディカル・プリザベーション・デッキのシステムに接続されています。手動経路から開放を実行した場合、プリザベーション機能の一部が段階的に停止します」


Rheaは意味を理解した。


「早すぎたら?」


「医療システムが移行処理に対応する前に、身体の代謝状態が変化する可能性があります」


「遅すぎたら?」


Seraphielが一瞬黙る。


そして答える。


「安全に覚醒させる機会を失います」


Rheaが息を吐く。


「どっちを選んでも面倒ね」


Tsumugiはそれでも冷静だった。


「ここから、どこまで制御できる?」


「制御システムの大部分です。ただし、メディカル・プリザベーション・デッキから追加のデータソースが必要です」


「取って」


「それと、ポッドのコネクターを直接確認する必要があります」


Rheaはすでに動いていた。


「私が調べる」


Tsumugiがうなずく。


「何も外さないで」


「分かってる」


Rheaがポッド側面の保護パネルを開く。


埃に覆われたケーブルとコネクターの間を、慎重に手が進んでいく。


Mobile Frameに乗っているときに見せる、普段の余裕はもうない。


ここは戦場ではない。


ほんの小さなミスが、まだ目を開けることすらできていない人間を死なせる可能性がある。


「Seraphiel」


「はい」


「まだ電力が供給されている回線が三つある」


「その通りです」


「これは?」


「プリザベーション循環。触らないでください」


「青いのは?」


「ニューラル・サプレッション」


Rheaが止まる。


「そして三つ目は?」


「手動開放制御です」


Rheaがそのコネクターを調べる。


状態は悪い。


保護層の一部は焼けている。


コネクター・ハウジングにも小さな亀裂が入っている。


「これが壊れてる」


「はい」


Tsumugiが近づく。


「Calistaなら修理できる?」


Seraphielはデータを確認してから答えた。


「技術的には可能です。しかし、ASTRAEONへ戻って装備を取り、ここへ戻ってくる時間を考えると、リスクが高まります」


Tsumugiは黙った。


それが本当の問題だった。


ASTRAEONには、はるかに充実したエンジニアリング設備がある。


しかし、ポッドを開けないまま少女を連れ戻すこともできない。


ポッドのシステム全体をASTRAEONへ移すにも準備が必要になる。


今あるものだけで作業するしかない。


Tsumugiはガラス越しの少女の顔を見る。


動かない。


眠ったままだ。


まるで、ポッドの外の世界が変わってしまったことなど、一度も知らないかのように。


そのときSeraphielが、生体検査の結果を投影した。


「一つ、発見しました」


「何?」


「彼女の身体状態は、一般的な乗客とは一致しません」


Rheaが振り向く。


「どういう意味?」


「危険な生物学的異常は確認されていません。しかし、船内の医療データに、システムによって隠蔽された複数の行政上の識別情報があります」


Tsumugiが眉をひそめる。


「行政上?」


「はい。医学的な診断情報ではありません。むしろ、高いアクセス権限を必要とする身分分類に近いものです」


Rheaは少女を見る。


そして、先ほどまでの会話を思い出した。


高級旅客クルーザー。


上流階級の乗客がいた可能性。


通常の事故には見えない戦闘の痕跡。


剣の痕。


貴族の一族。


Rheaが静かに口を開く。


「まさか……」


Tsumugiが振り向く。


「何?」


Rheaはすぐには答えなかった。


プリザベーション液越しに少女の服を見る。


大部分はポッドのシステムに隠れているため、細部は分からない。


しかし、その素材の品質は一般的な乗客の服とは違っていた。


Rheaが目を細める。


「私の推測が正しければ、普通の乗客じゃない」


Tsumugiはその結論をすぐには受け入れなかった。


「まだ分からない」


「そうね」


Rheaがうなずく。


「可能性があると言ってるだけ」


Seraphielはあくまで中立だった。


「現在のデータだけでは、彼女の社会的身分を確認するには不十分です」


Tsumugiがうなずく。


「なら、彼女が目を覚ますまでは決めつけない」


Rheaが薄く笑う。


「そうね」


しかし、ポッドの状態を再び見た瞬間、その笑みは消えた。


問題は、この少女が誰なのかではない。


少なくとも、今はまだ。


問題は時間だった。


Seraphielがついに診断システムの一部を開放することに成功した。


画面上で数字が次々と動く。


そして、一つの警告が表示された。


PRESERVATION POWER RESERVE — CRITICAL


Rheaがそれを見る。


「Seraphiel」


「確認しています」


「あとどれくらい?」


Seraphielはシステム負荷、非常用リアクターの供給量、ケーブルの損傷、そしてポッドに必要な生体維持量を基に、再計算する。


今回は、より明確な答えが返ってきた。


「もう先延ばしにはできません」


Tsumugiはすぐに決断した。


「分かった」


彼女はRheaを見る。


「手動コネクターを準備して」


Rheaがうなずく。


「Seraphiel」


「まだ稼働している制御システムを引き継ぎます」


「彼女の身体に危険が生じたら?」


「手順を停止します」


Tsumugiは再び少女を見る。


初めて、彼らは彼女の顔をはっきりと見た。


淡い金色の長い髪。


穏やかな若い顔。


この7か月の間に何が起きたのかを、彼女が知っているような痕跡はない。


彼女が知っていた世界が変わってしまった可能性を示すものもない。


Tsumugiは手を上げ、ポッドのガラス表面に触れた。


「もう少しだから」


Rheaが彼女を見る。


「聞こえてると思う?」


「分からない」


Tsumugiは静かに答える。


「でも、言っておいたほうがいいと思う」


Seraphielが最後の同期処理を完了する。


「Tsumugi」


「うん?」


「手動開放経路の準備が完了しました」


メインスクリーンが切り替わる。


SLEEPING POD 07


MANUAL RECOVERY SEQUENCE — READY


Tsumugiが息を吸う。


「開始して」


Seraphielの指が操作に触れる。


プリザベーション・システムが振動する。


ポッド内部の液体がゆっくりと動く。


少女の生命インジケーターが変化する。


一つ。


二つ。


三つ。


心拍数がわずかに上昇する。


Rheaが息を止める。


Tsumugiは動かない。


そして――


ポッド内部から、機械音が響いた。


LOCK RELEASE — ERROR


すべてのインジケーターが停止する。


Seraphielがすぐに予備経路を開く。


「主要コネクターが再び失敗しました」


Rheaがパネルを見る。


「まさか、最初からやり直す必要があるんじゃないでしょうね」


「やり直す時間はありません」


Tsumugiがすぐに立ち上がる。


「なら、手動で開ける」


Rheaが彼女を見る。


「Captain」


「リスクは分かってる」


TsumugiはSLEEPING POD 07を見つめる。


「でも、私たちはもう彼女を見つけた」


ポッドが開かないという理由だけで、ほとんど死にかけている船の中に、生きている人間を残していくことはできない。


ガラスの向こうで、少女は眠ったままだ。


その一方で、船のシステムは時間を刻み続けている。


そしてAURELIS SERENAへ乗り込んでから初めて、メディカル・プリザベーション・デッキは、それまでよりはるかに狭く感じられた。


なぜなら、彼らは一つの事実を知ってしまったからだ。


まだ生きている人間がいる。


そして、その人間を救うために残された時間は、決して多くない。


Seraphielが最後の制御パネルを開く。


「Tsumugi。手動経路を準備しました」


Tsumugiがうなずく。


「分かった」


Rheaは損傷したコネクターを手にする。


「もし、間違えたら?」


Tsumugiが彼女を見る。


「間違えない」


目の前では、Sleeping Pod 07がまだ閉じている。


その中では、18歳の人間族の少女が、まだ目を開けていない。


しかし、プリザベーション・システムはすでに危機的な状態へ入っている。


次に行うのは、単に一つの扉を開けることではない。


彼らは、約7か月間眠り続けた人間を取り出さなければならない――


その過程で、彼女を死なせることなく。


そして彼らはまだ知らなかった。


今、救おうとしている少女が、Veldrakon Galactic Empireの公爵の娘、Aurelia Veyrienneだということを。


【次話 第69話 ― 「七ヶ月間の答え」】


Aureliaはスリーピング・ポッドから救出され、ASTRAEON内のEuphoria Medical Instituteへ搬送される。Seraphielはセルラー・スキャン、ニューラル・スキャン、低温保存状態からの回復処置、代謝安定化を開始する。初期回復を終えた後、Aureliaはついに目を開く。


彼女が最初に尋ねたのは、帝国のことでも、家族のことでも、置き去りにされた船のことでもなかった。


ただ一つの簡単な質問だった。


自分は、どれくらい眠っていたのか。


【第69話へ続く……】

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