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ASTRAEON VELORIA――銀河を旅する自由傭兵――  作者: Ren Hazumi


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【第65話】「観光航路へ」

【第65話】「観光航路へ」


19日目。


銀河レジャー回廊へ向かう旅が、ついに本格的に始まった。


ASTRAEONはEldras出航回廊を離れ、ここ数日間、彼らが仕事をしていたフロンティアの領域の外へ出ていた。


航法スクリーンには、もう採掘施設は映っていない。


護衛を求める鉱物輸送船もいない。


採掘管制からの通信もない。


ASTRAEONの前に残されているのは、星間空間を遠くまで伸びていく民間の星系間航路だけだった。


その航路名がメインスクリーンに表示される。


PELAGIC MERIDIAN ROUTE。


複数の星系を銀河レジャー回廊のネットワークへ接続する、民間航路の一つだ。


ASTRAEONは、いきなり最高速度のFTL航行を使用することはなかった。


文明圏を航行する船として、Seraphielはまず、定められた航路に沿って航行移行を調整した。


商業用FTL航路には規則がある。


進入地点。


安全距離。


他の船舶の交通。


そして、ある星系へ近づくほど、宇宙交通管制の管轄区域へ入る前に通常速度へ戻らなければならない。


Tsumugiはブリッジに立ち、そのすべての過程を見守っていた。


「じゃあ、今度こそ本当に観光航路へ入るの?」


航法コンソールの隣に立っていたSeraphielが答える。


「まだ完全ではありません。今は、そのネットワークへ向かう航路に入ったところです。Pelagic Meridian Routeは、その星間航行部分にあたります」


「どれくらいかかる?」


「承認された航路と複数回のFTL移行を利用して、主要観光区域へ到達するまで数日かかります」


Tsumugiは頷いた。


「数日……」


船長席を見る。


それからスクリーンを見る。


そして再び船長席を見る。


「じゃあ、本当に私は何もしなくていいんだ」


「しばらくは、船長を待っている契約業務はありません」


Tsumugiは微笑んだ。


「それはいいね」


彼女は腰を下ろした。


初めて、その船長席が普通の椅子のように感じられた。


指揮の中心でもない。


保安報告を受ける場所でもない。


緊迫した状況で判断を下す場所でもない。


ただの椅子。


そしてTsumugiは、それをそのように扱うつもりだった。


 


ASTRAEONが出航回廊の境界を通過して数分後、Seraphielは民間交通ネットワークから確認を受信した。


「ASTRAEON VELORIA、Pelagic Meridian交通管制より、民間航路への移行を確認します。指定位置で分離回廊を維持してください」


Seraphielは落ち着いて答える。


「ASTRAEON VELORIA、指示を受領しました」


Tsumugiは目の前の小型スクリーンを見つめた。


遠方にいくつかの船舶マーカーが現れる。


貨物船。


旅客船。


個人輸送船。


さらには、並行航路を進む研究船までいる。


それぞれが、それぞれの目的地を持っている。


誰も誰かを追ってはいない。


軍艦もいない。


戦闘もない。


それまで仕事場のように感じられていた星間空間が、今では非常に広い道路のように見えた。


Tsumugiは身体を預けた。


「違うね」


Seraphielが振り向く。


「フロンティアと比べて、ですか?」


「うん」


「向こうでは、他の船を見るたびに、すぐに敵かどうかを考えてた」


Seraphielは微笑んだ。


「ここでは、そのほとんどがただ移動している船です」


「それはいいね」


Tsumugiは目を閉じた。


「こういうの、好きだな」


 


航路が安定していることを確認すると、Tsumugiはブリッジを離れた。


仕事部屋には向かわない。


ブリーフィングルームにも向かわない。


契約用のタブレットも持っていない。


彼女はGrand Diningへ向かって歩いた。


近づくと自動扉が開く。


すぐに食事の香りが迎えてくれた。


Rheaはすでにそこにいた。


狐獣人の彼女は、朝食の皿の横に置いた旅行カタログのスクリーンを見ながら座っている。


Tsumugiを見ると、彼女は手を上げた。


「船長」


「おはよう」


「おはよう」


Tsumugiは席に着いた。


「何を見てるの?」


「リゾート」


「もう始めたの?」


「さっきから」


RheaはスクリーンをTsumugiのほうへ向けた。


さまざまな観光地の画像が表示される。


海浜惑星。


軌道リゾート。


小惑星の環の内部に建設されたホテル。


一つの星系を周回するクルーズ船。


そして人工的な雪景色を体験できる場所もいくつかある。


Tsumugiは一つずつ見ていく。


「本気だね」


「もちろん」


Rheaが一枚の画像を指差した。


「これなんて、数千キロメートルも続く人工海があるんだって」


Tsumugiは詳細を見る。


「宿泊費はいくら?」


Rheaは黙った。


「聞かないで」


「つまり高いんだ」


「うん」


Tsumugiは笑った。


「却下」


「船長!」


「お金はあるけど、画像が綺麗だからって全部使う必要はないでしょ」


Rheaは頬を膨らませた。


「分かった」


次の候補へスクロールする。


「じゃあ、これは?」


Tsumugiは説明を読む。


「軌道リゾート?」


「うん」


「距離は?」


「途中で乗り継ぎが必要」


「じゃあ、まだ合うか分からないね」


Rheaは再び探し始めた。


今度はすぐに選ばなかった。


施設、距離、ドッキング規則、収容可能な訪問者数、観光客の混雑度について情報を読む。


Tsumugiはその様子を見ていた。


「本当に勉強したね」


Rheaは彼女を見る。


「何が?」


「前なら画像だけで即決してたでしょ」


Rheaは肩をすくめた。


「Lanに教えてもらった」


「それはいい」


Rheaは微笑んだ。


「今回の休暇が場所選びで失敗したら、Lanのせいにするから」


入口からLanの声が聞こえた。


「どうして私の名前が出てくるの?」


Rheaは振り向く。


「だって教えてくれたのはLanでしょ」


Lanは端末を持って入ってくる。


「私は追加費用の読み方を教えただけです」


「そこが一番嫌なところ」


「一番重要なところです」


Tsumugiは小さく笑った。


その朝には予定がなかった。


ブリーフィングもない。


目標もない。


ただ、行ってみたい場所について話している。


そしてTsumugiにとって、その単純な時間は想像していた以上に楽しいものだった。


 


朝食を終えると、Lanは旅行カタログをGrand Salonへ持っていった。


広いその部屋は船の一側面に面しており、外の景色を映し出せるパノラマスクリーンを備えている。


ASTRAEONは現在FTL航行中のため、スクリーンには通常の星空は映らない。


しかし船の映像システムは、受信した天文データをもとに景色をシミュレーションして表示できる。


Lanはソファの一つに座った。


Rheaも隣に座る。


Tsumugiは少し離れた場所に座り、Akashic Grand Libraryから持ってきた本を手に取った。


Lanが目的地の一覧を開く。


「船長」


「うん?」


「いくつかのカテゴリーに分けてみました」


Tsumugiは本を閉じた。


「カテゴリー?」


「リゾート、文化、ショッピング、娯楽、天文観測、それから観光客を受け入れている産業施設です」


ちょうど入ってきたCalistaが、その場で立ち止まった。


「産業施設?」


Lanは頷く。


「はい」


Calistaが近づく。


「見せて」


Lanは微笑んだ。


「興味を持つと思っていました」


Calistaはスクリーンの前に座った。


「銀河レジャー回廊へ行くのなら、民間区域の産業施設がどのように運用されているのか見てみたい」


Rheaは彼女を見る。


「私たち、休暇中なんだけど」


「だからこそ」


「どうして?」


「仕事をしているわけじゃないから」


Rheaは眉をひそめた。


「何が違うの?」


Calistaは少し考えた。


「仕事なら、何かを修理しなければならない」


彼女はスクリーンを指差した。


「観光なら、見るだけ」


Rheaは黙った。


「……それ、本当に休暇なの?」


Calistaは薄く微笑んだ。


「私にとってはそう」


Tsumugiは笑った。


「いいじゃない」


そして再び本を開く。


「みんな、それぞれ余暇の楽しみ方があるんだから」


Calistaは頷いた。


「その通り」


 


Grand Salonの反対側では、Vesperaが航法パネルの前に立っていた。


彼女はリゾートを探していない。


ショッピングセンターも探していない。


彼女が興味を持っているのは、航路の地図だった。


Pelagic Meridian Routeには多くの分岐がある。


一部は商業航路。


一部は旅客船用。


そして一部は、交通密度の低い区域を通る観測航路だった。


Vesperaはその一つを拡大した。


「Seraphiel」


その声が船内通信を通して届く。


「はい、Vespera?」


「この航路のデータを見たい」


「天文観測航路ですか?」


「うん」


「一部は利用できます。ただし、いくつかの区間には速度制限と、定められた通過時刻があります」


Vesperaは航路の線を見つめる。


「天文現象があるから?」


「その通りです。いくつかの区域では、観光船や天文台が観測を行えるよう、意図的に交通による干渉を低く保っています」


Vesperaは微笑んだ。


「面白い」


ソファからその会話を聞いていたTsumugiが振り向く。


「何か見つかった?」


Vesperaが近づいてくる。


「いくつか良い航路がある」


「どんなの?」


「天文観測に適した区域」


Tsumugiはすぐに興味を示した。


「星雲とか?」


「いくつか」


「惑星は?」


「ある」


「小惑星帯は?」


「それもある」


Tsumugiは少し考えた。


「じゃあ、観測施設から見られるね」


Vesperaは頷いた。


「それを考えていた」


Rheaも近づいてくる。


「景色が綺麗なら、私も行く」


Lanが付け加える。


「観光施設があるなら、私も」


Calistaが後ろから言った。


「産業施設からあまり遠くない航路なら」


Rheaはすぐに彼女を見る。


「どうしていつも産業を入れるの?」


Calistaはただ微笑んだ。


 


昼が近づく頃、航行は次のFTL段階へ入った。


Seraphielが船内通信を通して航路変更を知らせる。


「ASTRAEONは、次の航路へ入る前に航法修正を行うため、2分後にFTLを離脱します」


Grand LibraryにいたTsumugiが顔を上げた。


「もう?」


「はい」


彼女は本を閉じた。


Tsumugiは観測室へ行くことにした。


数分後、彼女はVesperaとともに観測室に立っていた。


航法システムのカウントダウンが進む。


5。


4。


3。


2。


1。


FTLが停止する。


通常空間の景色が再び窓を満たした。


暗闇。


星々。


まだ彼らが知らない星系から遠く届く光。


音はない。


肉眼で動いているものもない。


しかしゆっくりと、一つの星系が船の右側に現れた。


Vesperaは黙って立っていた。


「綺麗」


Tsumugiは微笑む。


「これを探してたの?」


「一部だけ」


「一部?」


Vesperaはさらに遠くを指差した。


「まだたくさんある」


Tsumugiはその方向を見る。


遥か彼方に、光の集まりがぼんやりと見える。


「契約を追いかけてないと、こういう旅も楽しいんだね」


Vesperaは彼女を見る。


「こういう宇宙をあまり見たことがない?」


「普段はスクリーンを見てるから」


「どういう意味?」


「仕事中は、データを見ることのほうが多い」


Vesperaは微笑んだ。


「それなら、今はデータなしで見て」


Tsumugiは黙った。


そして頷いた。


「分かった」


しばらくの間、二人はそこに立っていた。


会話もない。


追加の目的もない。


ただ景色を楽しんでいた。


 


航法修正が完了すると、旅は再び続けられた。


ASTRAEONは次のFTL航路へ入る。


今度、Tsumugiはブリッジへ戻らなかった。


Game Roomへ向かった。


Rheaはすでにそこにいた。


「遅いよ」


Tsumugiは立ち止まった。


「何に?」


「ゲーム」


「私がやるなんて誰が言ったの?」


Rheaは椅子を指差す。


「座って」


Tsumugiはゲーム画面を見る。


「もう全部準備したの?」


「うん」


「私、休暇中なんだけど」


「だからだよ」


Tsumugiは笑った。


「分かった」


彼女は座った。


ゲームが始まる。


賞品はない。


お金もない。


賭けもない。


ただ時間を過ごすための簡単なゲームだった。


Rheaは真剣にプレイする。


Tsumugiは最初、気楽に構えていた。


しかし数分後、彼女の表情が変わった。


「ちょっと待って」


Rheaは微笑む。


「何?」


「これ、ずるい」


「どこが?」


「ゲームのパターンをもう知ってるでしょ」


「私のほうが船長よりよく遊んでるから」


Tsumugiは目を細める。


「じゃあ、次のラウンド」


Rheaは笑った。


「船長、負けたくないの?」


「これはプライドの問題」


扉の外を通りかかったLanが、その会話を聞いた。


「船長」


「何?」


「休暇を競争に変えないでくださいね」


Tsumugiはすぐに答えた。


「もう遅い」


Lanは笑いながら首を振った。


 


TsumugiがようやくGame Roomを出た頃には、夕方が近づいていた。


彼女は食事をするためGrand Diningへ向かう。


途中、居住区と船内のレクリエーション施設をつなぐ長い廊下を通った。


ASTRAEONの一部では、まだ活動が続いている。


整備区域では技術者が作業している。


支援クルーがシステムを確認している。


サービスロボットが装備を運んでいる。


Agricultural Deckへ続くアクセスの一つからは、新鮮な植物の香りが漂ってきた。


この船が本当に生命を止めることはない。


Tsumugiが休暇中でも、ASTRAEONは星々の間を移動する小さな都市だった。


Tsumugiは少し立ち止まった。


廊下の先を見る。


これまで彼女は、この船を一つの契約から次の契約へ自分を運ぶ巨大な乗り物として考えることが多かった。


しかし、ここにはレストランがある。


図書館。


庭園。


プール。


スパ。


娯楽室。


医療施設。


工場。


格納庫。


そして観測室まである。


彼女は微笑んだ。


「よく考えたら……」


Tsumugiは周囲を見る。


「……休暇のために、船から降りる必要すらないんだ」


Seraphielの声が船内通信システムから聞こえた。


「それもASTRAEONの機能の一つです」


Tsumugiは笑った。


「確かにね」


 


夕食はGrand Diningで行われた。


今回は全員が集まっていた。


Lanは、さらに絞り込んだ目的地の一覧を持っている。


Calistaは産業施設についてのメモを持っている。


Vesperaはいくつかの観測航路を保存している。


Rheaは増え続けているリゾートの一覧を持っている。


Tsumugiは全員を見る。


「まだ一つも決めてないね」


Lanは頷いた。


「まだです」


「どうして?」


「情報を見れば見るほど、選択肢が増えてしまうからです」


Rheaはため息をつく。


「それが問題なんだよね」


Calistaが付け加えた。


「それぞれの目的地の予定も、まだ分かっていない」


Vesperaも頷く。


「いくつかの場所は、特定の時間帯でしか魅力がない」


Tsumugiは身体を預けた。


「じゃあ、急ぐ必要はないね」


Lanが彼女を見る。


「船長?」


「もう旅の途中なんだから」


Tsumugiは食事を取る。


「目的が本当に休暇なら、契約みたいに予定を無理に決める必要はないよ」


全員が少し黙った。


やがてLanが微笑んだ。


「そうですね」


Rheaも頷く。


「観光回廊に近づいてから決めればいい」


Vesperaは再び地図を見る。


「航路が予定通りなら」


Calistaも食事を続ける。


「賛成」


その夜、彼らは最終的な決定をしなかった。


ただ一つだけ決めた。


この旅を急ぐ必要はない。


 


食事の後、Tsumugiはもう一度観測室へ向かった。


今度は一人だった。


彼女は大きなガラス窓の近くに立つ。


外では、FTL航行がASTRAEONを星系間の距離を越えて運び続けている。


星の光が長い線を描いている。


部屋にはエンジン音は聞こえない。


船のシステムが発する微かな駆動音だけがある。


Tsumugiは先ほど持ってきた本の中から漫画を取り出した。


窓際の椅子に座る。


何ページか読む。


そして、手を止めた。


外を見る。


「もう19年か……」


その声は小さかった。


「19年間、私は地球しか知らなかった」


彼女は微笑む。


「今は、地球からどれだけ離れているのかさえ分からない」


Seraphielはすぐには答えなかった。


数秒後、その声が聞こえた。


「Tsumugi」


「うん?」


「地球が恋しいですか?」


Tsumugiは考えた。


「たまに」


「一番恋しいものは何ですか?」


Tsumugiは手に持った漫画を見る。


「食べ物」


Seraphielが小さく笑った。


「とてもTsumugiらしい答えです」


「本気だよ」


「分かっています」


Tsumugiは再び窓の外を見る。


「でも今の私には、昔は持っていなかったものがある」


「ASTRAEONですか?」


「うん」


彼女は微笑む。


「それと、みんな」


一瞬、通信が静かになった。


やがてSeraphielが優しい声で答える。


「そう言っていただけて嬉しいです」


Tsumugiは再び漫画を読む。


旅は穏やかだった。


穏やかすぎるくらいに。


しかし、それを悪い兆候だと考える者はいなかった。


彼らは本当に休暇へ向かっていたのだから。


 


一日の終わりが近づく頃、ASTRAEONはもう一度、航法修正を行った。


Seraphielは交通密度が高いPelagic Meridian Routeの区間へ入る前に、手順に従ってFTL速度を落とす。


ブリッジのスクリーンでは、船の数が増えていく。


旅客船が頻繁に見えるようになった。


家族を乗せた船もある。


観光客を運ぶ船もある。


リゾート惑星へ向かう航路を進む個人船もいる。


Pelagic Meridian Routeは、フロンティアとは明らかに違っていた。


ここでの旅は、単なる一点から別の一点への移動ではない。


この航路は、銀河の民間生活の一部だった。


人々は休暇へ行く。


商人は貨物を送る。


家族は惑星間を移動する。


研究船は天文台へ向かう。


旅客船は観光客を運ぶ。


そして、すべての船が同じ規則に従って動いている。


Seraphielが交通管制から指示を受信した。


「ASTRAEON VELORIA、交通密度が増加している民間セクターへ進入します。分離間隔を維持してください。次のFTL移行は指定された時間帯に利用可能です」


「承知しました」


Tsumugiはスクリーンを見る。


「観光航路に近づいてきたね」


「その通りです」


「私たちの目的地は?」


「現在地から銀河レジャー回廊までは、まだ数日かかります」


Tsumugiは頷いた。


「分かった」


彼女は失望していなかった。


むしろ、その逆だった。


目的地を追いかける必要がないという事実を、少しずつ楽しみ始めていた。


旅そのものが、すでに休暇の一部になっていた。


 


夜になる。


クルーの一部がそれぞれの部屋へ戻り始めた。


Rheaはまだリゾートのカタログを読んでいる。


Lanはショッピング施設がありそうな場所の一覧をまとめている。


Calistaは産業施設のデータを保存している。


Vesperaはまだ天文地図を確認している。


Tsumugiはシャワーを浴びた後、Captain Residenceへ戻った。


報告書は開かない。


契約も確認しない。


最新情報も求めない。


ただ横になる。


眠る前に、Seraphielが最後の航法報告を伝えた。


「Tsumugi」


「ん?」


「今後数時間はこの航路を維持します。その後、FTL区間が切り替わります。航路に問題はありません」


「よかった」


「何か注意すべきことがあれば、起こします」


Tsumugiはあくびをした。


「重要じゃないなら起こさないで」


「承知しました」


Tsumugiは目を閉じる。


「Seraphiel」


「はい?」


「明日も契約なしだからね」


Seraphielが小さく笑った。


「覚えています」


「よし」


部屋が静かになる。


ASTRAEONは進み続ける。


一つの星系を通過する。


そして次の星系へ。


戦闘はない。


追跡もない。


仕事もない。


ただ観光地へ向かう長い旅が続いている。


しかし日付が変わり、ASTRAEONがPelagic Meridian Routeへ向けて航行を続ける中、主要航路から遥か外側に何かが存在していた。


民間交通の一覧には記載されていないもの。


ドッキング申請を送っていないもの。


救援要請もしていない。


識別信号も送っていない。


そして、ASTRAEONの誰もまだ知らないもの。


 


夜がかなり深まった頃、Seraphielは外縁セクターの交通を監視していた。


最初は、いくつかの光点があるだけだった。


貨物船。


旅客船。


一隻の研究船。


やがて、センサーの境界に一つの信号が現れた。


Seraphielは表示を拡大する。


その信号は、通常の交通パターンと一致していない。


再検査を行う。


登録データがすぐには表示されない。


Seraphielはセンサーをパッシブスキャンから長距離識別へ切り替えた。


ゆっくりと、船の形状がスクリーンに現れる。


大きくない。


重武装でもない。


軍用の機動パターンも示していない。


速度は低い。


位置は主要な民間航路の外側。


Seraphielは数秒間観察した。


そして船の形状を民間データベースと照合する。


結果が表示された。


旅客船。


Seraphielは黙った。


追加検査を行う。


トランスポンダーは作動していない。


通信もない。


救援要請もない。


正常な推進運動もない。


その船は、ただそこにいる。


一隻だけで。


主要航路から遠く離れた場所に。


Seraphielはそのデータを見つめた。


そして、一人へ通信を送る。


「Tsumugi」


返事はない。


Seraphielは数秒待った。


そしてもう一度試す。


「Tsumugi。船を一隻検知しました」


Captain Residenceの中で、Tsumugiがゆっくりと目を開ける。


まだ完全には目覚めていない。


「……船?」


Seraphielはそれ以上詳しく説明しなかった。


「はい」


その声色が変わった。


慌ててはいない。


警報でもない。


しかしTsumugiをすぐに起き上がらせるには十分な真剣さがあった。


「場所は?」


「Pelagic Meridian Routeの主要民間航路の外側です」


Tsumugiはジャケットを手に取る。


「船種は?」


Seraphielはもう一度スクリーンを見る。


新しいデータが表示された。


民間旅客船。


「民間船です」


Tsumugiは扉の前で立ち止まった。


「……民間船?」


「はい」


更新され続けるデータを見る。


そして、静かに付け加えた。


「そして、状態が正常ではありません」


Tsumugiはすぐにブリッジへ向かった。


彼らの休暇旅行は、まだ本格的に始まったばかりだった。


しかし、本来なら通過するはずだった航路に何かが現れた。


そしてASTRAEONはまだ知らなかった。


その民間船が、星間空間で本来ならあり得ないほど長い時間、待ち続けていたことを。


【次話 第66話 ― 「七か月間、返事はなかった」】


ASTRAEONはPelagic Meridian Route ― 外縁民間漂流セクターへ到達する。Seraphielは主要航路の外側で発見した民間船の調査を開始する。Tsumugiはすぐには接近せず、まず登録データ、所有者、救難信号の記録、保険記録、事故報告を確認する。


調査の結果、その船はおよそ7か月前から行方不明として登録されていたことが判明する。


しかし、彼らがその船で何が起きたのかを知る前に、Seraphielはさらに重要なものを発見する。


一つの生命反応が、まだ検知されている。


【第66話へ続く……】

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