【第62話】「エルドラス採掘回廊」
【第62話】「エルドラス採掘回廊」
Eldras Mining Corridorは、決して完全に眠ることがない。
大半の民間船が活動を縮小し始める時間帯でさえ、採掘区域には光が満ちていた。
鉱物輸送船の航行灯が、アステロイド航路の間をゆっくりと移動している。
採掘企業が所有する小型船は、一つの施設から別の施設へと移動していた。
産業用ドローンは採掘物を運搬する。
整備船は点検を必要とする船の船体へ向かっている。
そして遠方では、鉱物精製施設が休むことなく稼働し続けていた。
ASTRAEONは、そのすべての間を進んでいた。
急ぐこともない。
最短航路を選ぶこともない。
Eldras Mining Corridorの交通管制から指定された航路に従っている。
コックピットでは、Tsumugiがホログラム・スクリーンに表示された地図を見つめていた。
前方には一本の光る航路が伸びている。
その左右には、いくつもの別航路が見えていた。
一部は貨物船用。
一部は整備船用。
そして一部は、特別な許可を取得した船だけが使用できる航路だった。
Seraphielがメインコンソールのそばに立っている。
「Tsumugi。Eldras Mining Corridor交通管制から更新情報を受信しました」
Tsumugiが顔を上げる。
「内容は?」
「Eldras Mining Station 7で交通の遅延が発生しています。複数の鉱物輸送船が、まだステーション区域からの出港を許可されていません」
「遅延?」
「はい。公式な理由は、警備上の紛争です」
Tsumugiが眉をひそめる。
「警備上の紛争?」
「その通りです」
「襲撃は?」
「現在、進行中の襲撃に関する報告はありません」
「海賊?」
「確認されていません」
Tsumugiは椅子に身体を預けた。
「それなら、なぜ船を止めている?」
Seraphielが追加データを表示する。
「確認中です」
数秒後、新たなウィンドウが表示された。
「ステーション側の警備担当と、複数の輸送船運航者との間で対立が発生しています」
「どんな対立?」
「警備側は、鉱物輸送船への潜入リスクが存在すると主張しています。状況の安全が確認されるまで、輸送船を検査区域内に留めるよう求めています」
Tsumugiは画面を見つめた。
「船側は?」
「その拘束には十分な根拠がないと主張しています」
「ふうん」
Tsumugiの返事は短かった。
すぐには指示を出さない。
その背後から、足音が聞こえた。
Rheaがタブレットを持ってやって来る。
「艦長」
Tsumugiが振り返る。
「Rhea」
「問題が起きているって聞いた」
「そのようだ」
Rheaは画面を見る。
「何隻か拘束されているの?」
「そうだ」
「じゃあ、そこへ行く?」
TsumugiがRheaを見る。
「なぜ?」
「私たちは保護契約を受けているから」
Rheaはごく簡単に答えた。
Tsumugiは薄く笑う。
「その通りだ」
Rheaはさらに続けた。
「海賊がいるなら、Mobile Frameを使える」
「最初からそう考えるな」
「どうして?」
「まだ海賊はいない」
Rheaは黙った。
そして、耳がわずかに動く。
「……まだ?」
「まだだ」
「それなら、準備だけはしておく」
「それならいい」
Rheaは小さく笑った。
「了解」
コックピットの反対側からLanが現れた。
いくつかの取引データ画面を持っている。
「契約書類を確認しておいた」
Tsumugiが振り返る。
「どうだった?」
「船の拘束そのものは、直ちに契約違反になるわけじゃない」
Lanは彼らの前にホログラム画面を置いた。
「俺たちの契約には、護衛、民間人保護、警備、偵察、証拠収集の義務がある。だが、ステーション当局に通商航路を開放させる権限まではない」
Tsumugiがうなずく。
「つまり、手続きに従って動く必要がある」
「そういうことだ」
Lanが笑う。
「拘束している船を破壊したら、むしろ俺たちが契約違反になる」
Rheaが手を上げる。
「私は破壊するなんて言ってない」
LanがRheaを見る。
「さっきの顔は、そう言ってた」
「本当に?」
「ああ」
Rheaは自分の頬に触れる。
「そう?」
ちょうどEngineeringデッキへ続く通路から入ってきたCalistaが、すぐに口を挟んだ。
「確かにそうだった」
Rheaが振り返る。
「Calista」
「毎日あなたの顔を見ているから」
「それで?」
「撃てるものがあれば、あなたはそれを撃つことを考える」
Rheaは顔をそむけた。
「いつもじゃない」
Calistaは肩をすくめた。
「まあ、いいけど」
Tsumugiは笑いをこらえた。
「もういい」
そして再び画面を見る。
「誰も何も撃たない」
Rheaがうなずく。
「了解」
Tsumugiは立ち上がった。
「Seraphiel」
「はい、Tsumugi?」
「Eldras Mining Station 7へ向かう」
「了解しました」
「それと、交通管制へ連絡して」
「何と伝えますか?」
「ASTRAEONがEldras Mining Consortiumとの契約に基づいて来たと伝えて」
Seraphielが一瞬止まる。
「ドッキング許可を求めますか?」
「ドッキングだけじゃない」
Tsumugiは地図を見る。
「検査区域への進入許可を求める」
「了解しました」
Eldras Mining Station 7が遠方に見え始めた。
そのステーションは、宇宙都市ではない。
壮大な形状もない。
巨大な塔もない。
美しく見せるために造られた構造物でもない。
採掘施設だった。
いくつかの大型モジュールが回廊で接続されている。
外側には鉱物積載区域がある。
反対側には、複数のドッキングアームが設置されていた。
大型の鉱物輸送船が、指定された区域に列を作っている。
しかし、一隻も動いていない。
Tsumugiはその光景を見つめた。
「船が多いな」
Seraphielが答える。
「拘束されている鉱物輸送船を9隻確認しました」
「すべて拘束状態?」
「はい」
「どれくらいの時間?」
「データ上、それぞれ異なります。最初の船は、すでに輸送遅延が発生するほど長時間待機しています。他の船は追加検査が実施されてから拘束されました」
Lanがすぐにデータを見る。
「それなら損失が増え始めている」
Tsumugiが振り返る。
「どのくらい?」
「それぞれの輸送契約を確認するまでは計算できない」
Lanが画面を移動させる。
「鉱物には輸送スケジュールがある。一定の期限を超えれば、企業側に違約金が発生する可能性がある」
「そして誰が払う?」
「契約内容次第だ」
Tsumugiがうなずく。
「つまり、単なる警備問題じゃない」
「そうだ」
Lanはステーションを見る。
「すでに貿易問題になっている」
それまで航路を監視していたVesperaが、船内通信を通じて口を開いた。
「Tsumugi。ドッキング区域へ向かう航路が混雑し始めています」
Tsumugiが答える。
「別の航路は?」
「あります。ただし、その航路は移動許可を待っている輸送船が使用しています」
「今入ったら?」
「待機列を妨害することになります」
Tsumugiは少し考えた。
「やめよう」
Vesperaが答える。
「了解」
「交通管制の指示どおりの位置を維持して」
「分かった」
Tsumugiはもう一度ステーションを見る。
到着する前から、問題は見えていた。
銃撃でもない。
爆発でもない。
動かない船によって。
しばらくして、接近許可が届いた。
Seraphielが指示を読み上げる。
「ASTRAEON、検査用ドッキング区域への進入を許可します。Docking Lane Cを使用してください。最高速度はドッキング管制の指定に従ってください。自動誘導に従い、停止位置まで移動してください」
Tsumugiが答える。
「了解」
「一部の輸送船が警備拘束状態にあります。許可なく拘束船へ接近する操船を行わないでください」
Tsumugiがうなずく。
「了解」
Rheaが画面を見る。
「ドッキングに入るだけでもルールがあるんだ」
Lanが答える。
「当然だ」
Rheaが彼を見る。
「どうして?」
「全船が好き勝手に動いたら、このステーションはとっくに衝突現場になっているからだ」
Calistaが付け加える。
「それにASTRAEONほどの船が数メートル動きを誤っただけでも、被害は小さくない」
Rheaがうなずく。
「確かに」
Tsumugiが笑う。
「世界は、私たちが来たから動くわけじゃない」
RheaがTsumugiを見る。
「艦長、今のいいこと言った」
「記録するな」
「もう遅い」
Tsumugiは小さく笑った。
ASTRAEONがゆっくりとドッキング航路へ入る。
急な動きはない。
FTLの使用もない。
過剰な操船もない。
ステーションのドッキングシステムが最終誘導を引き継ぐ。
誘導灯が一つずつ動いていく。
ASTRAEONは指定された位置で停止した。
その後、ドッキング管制が接続をロックする。
「ドッキング完了。Eldras Mining Station 7へようこそ」
Seraphielが通信を切る。
Tsumugiが立ち上がった。
「よし」
全員を見る。
「仕事を始めよう」
Eldras Mining Station 7の管理区域は、Tsumugiが予想していたよりもはるかに混雑していた。
作業員がデータを運んでいる。
警備担当者が一つの机から別の机へと移動している。
企業の代表者が通信担当者と話している。
何人かの船長は、不満そうな表情で待っていた。
TsumugiはLanとともに歩く。
Rheaが後ろからついてくる。
Calistaは技術区画へ向かうことを選んだ。
Vesperaは船に残り、航路支援とステーション周辺の状況監視を続ける。
SeraphielはASTRAEONの通信システムを通じて接続している。
一人の警備担当者が彼らへ近づいてきた。
「ASTRAEONの艦長ですか?」
Tsumugiが立ち止まる。
「そうだ」
「ステーション警備担当です」
彼は端末のデータを確認する。
「Eldras Mining Consortiumとの契約ですか?」
「その通り」
「すでに受領しています」
「よかった」
警備担当者はためらうような表情を見せた。
「ですが、問題があります」
「もう聞いている」
「それなら、なぜ船を出せないのかもご存じですね」
「警備上の紛争だから?」
「はい」
Tsumugiは彼を見る。
「拘束の根拠を見せてもらえる?」
警備担当者が黙る。
「根拠ですか?」
「書類を」
「警備報告書はあります」
「警備報告書と、拘束の法的根拠は別のものだ」
LanがTsumugiの隣で薄く笑った。
警備担当者は二人を交互に見る。
「艦長、状況はデリケートです」
「分かっている」
「内部文書を開示するとなると――」
「内部文書をすべて求めているわけじゃない」
Tsumugiは落ち着いた声で話す。
「拘束されている船と、私たちが受けた保護契約に直接関係するデータを求めている」
警備担当者は再び端末を見る。
「少々お待ちください」
彼は誰かに連絡した。
数秒が過ぎる。
そして言った。
「こちらへどうぞ」
検査室はステーション内部にあった。
そこには9台の端末が設置されている。
それぞれが鉱物輸送船のデータに接続されていた。
Tsumugiは画面の前に立つ。
Seraphielが遠隔でデータを読み始める。
「限定アクセスを受けました」
Tsumugiが静かに言う。
「始めて」
データが表示される。
船名。
登録番号。
所有者。
運航者。
積荷。
目的地。
警備状況。
拘束時間。
すべてが表示された。
Lanがすぐに作業を始める。
「艦長」
「何?」
「ここを見て」
彼は一つのデータを指した。
「最初の4隻は、それぞれ異なる輸送契約を結んでいる」
「目的地は?」
「4つとも別だ」
「つまり、一つの輸送ではない」
「その通り」
Tsumugiがうなずく。
「続けて」
Lanが次のデータへ移る。
「残り5隻も、さらに異なる流通航路と関係している」
Rheaが腕を組む。
「じゃあ、どうして全部同時に拘束されたの?」
「そこが問題だ」
TsumugiはSeraphielを見る。
「共通するパターンはある?」
「探しています」
画面が切り替わる。
警備データの比較が始まった。
貨物マニフェスト。
航路。
到着時間。
通信頻度。
検査履歴。
外部センサー。
Tsumugiは黙っていた。
しばらくして、Seraphielが話す。
「共通点を発見しました」
「何?」
「積荷ではありません。所有者でも、運航者でもありません」
「では?」
「9隻すべてが、Eldras Mining Station 7へ到着する前に、一つの通信区域を通過しています」
Tsumugiが画面を見る。
「通信区域?」
「はい。ただし、その区域の通信データには障害が発生しています」
Tsumugiはすぐに思い出した。
前の章で起きたこと。
通信障害。
採掘ステーション。
しかし、すぐにすべてを結びつけようとはしなかった。
「その障害は、すべての船で起きた?」
「いいえ。一部の通信だけにパケットデータの損失が記録されています」
「それだけで妨害工作の証拠になる?」
「なりません」
Tsumugiがうなずく。
「それでいい」
RheaがTsumugiを見る。
「いい?」
「まだ十分じゃないなら、それを妨害工作だと言ってはいけない」
Rheaは黙った。
Tsumugiは続ける。
「私たちは証拠で判断する」
Lanが小さく笑う。
「契約にもそう書いてある」
「その通り」
検査室の扉が開いた。
警備監督官らしき男が入ってくる。
いくつかの書類を持っている。
「私が警備拘束の責任者です」
Tsumugiが振り返る。
「分かった」
監督官は書類を机の上に置く。
「これらの船を拘束したのは、警備システムが異常を検知したためです」
「どんな異常?」
「通信の変化です」
「すべての船から?」
「いいえ」
「なら、なぜ全部拘束した?」
監督官は少し黙った。
「どの船が本当に関与しているのか、分からなかったからです」
Tsumugiが彼を見る。
「だから全部止めた」
「他に選択肢がありませんでした」
「選択肢がなかった?」
監督官がうなずく。
「一隻でも誤って出港させれば、結果はさらに悪くなる可能性があります」
Tsumugiはすぐには答えなかった。
その理由は理解できた。
しかし、理解することと、それを法的根拠として認めることは別だ。
「この拘束はいつまで有効?」
「明確な期限はありません」
「誰が命令した?」
監督官は書類を指す。
「回廊警備側です」
「ステーションではない?」
「違います」
TsumugiはLanを見る。
Lanはその書類を読む。
そして、表情がわずかに変わった。
「艦長」
「何?」
「この命令は緊急警備条項を使用しています」
「つまり?」
「権限を持つ側には、船を一時的に拘束する権利があります」
監督官がうなずく。
「その通りです」
Lanは続ける。
「ただし、限界がある」
監督官が黙る。
Tsumugiが彼を見る。
「どのくらい?」
「初期証拠に発展がなければ、拘束は再検討されなければなりません」
「そして、もう再検討された?」
監督官は答えなかった。
Tsumugiが小さく息を吐く。
「まだ?」
「まだ終わっていません」
「なら、私たちの問題は明確になった」
監督官が眉をひそめる。
「どういう意味です?」
「船はリスクを理由に拘束されている」
Tsumugiはデータを指した。
「しかし、今は追加データがある」
「どこからのデータです?」
「私たちのセンサーだ」
監督官がすぐにTsumugiを見る。
「ASTRAEONのセンサー?」
「そうだ」
「それは信頼できるのですか?」
Tsumugiは迷わず答えた。
「センサーデータは検証できる」
Seraphielが通信システムを通じて口を挟む。
「ASTRAEONのセンサーデータ原本のコピーをステーション側へ提出できます」
監督官が端末を見る。
「船のAI?」
「はい」
「そのデータは検証済みですか?」
Seraphielが答える。
「まだそちらでは検証されていません。そのため、私はそのデータを最終的な証拠だとは主張しません。検査材料として提出するだけです」
監督官は黙った。
Tsumugiが薄く笑う。
「ほら」
監督官はデータを見る。
「分かりました」
彼は端末を取る。
「こちらで確認します」
「それだけじゃない」
Tsumugiは9隻の船を指す。
「一隻ずつ再検査して」
監督官が眉をひそめる。
「全船を?」
「そうだ」
「時間がかかります」
「そうだな」
Tsumugiが立ち上がる。
「でも、9隻を個別に検査せず拘束し続けることにも時間はかかる」
監督官はすぐには答えられなかった。
Lanが落ち着いた声で続ける。
「そして追加の遅延は、そのたびに船舶運航者との契約上の問題を発生させます」
監督官がLanを見る。
「我々を脅しているのですか?」
「いいえ」
Lanが笑う。
「契約内容を説明しているだけです」
Tsumugiがうなずく。
「その通り」
検査が始まった。
武器ではない。
Mobile Frameでもない。
追跡でもない。
働いたのはデータだった。
センサーだった。
書類だった。
そして、人だった。
SeraphielはASTRAEONのセンサー記録とステーション側のデータを比較する。
Lanは輸送契約と拘束期限を確認する。
Tsumugiは出来事の順序を確認する。
Rheaは検査室の外に立ち、警備活動を監視していた。
Calistaはステーションの技術システムに接続した。
何かを修理することはしない。
ただ確認するだけだ。
「Calista」
通信を通じてTsumugiの声が届く。
「どう?」
「通信システムに大きな損傷はない」
「じゃあ、障害は故障が原因じゃない?」
「まだ断定できない」
Calistaが答える。
「信号が不安定な地点がいくつかある」
「なぜ?」
「まだ分からない」
「修復できる?」
「できる」
「今?」
Calistaが一瞬止まる。
「できる」
そして付け加えた。
「でも、許可をもらうまでは修復しない」
Tsumugiが笑う。
「それでいい」
「ルールは分かってる」
「ありがとう」
Calistaが小さく鼻を鳴らす。
「私がルールを知らない人みたいに見せないで」
近くにいたRheaが笑う。
「あなた、普段はすぐ何かを分解するから」
Calistaが振り返る。
「だって、たいてい壊れているから」
「壊れてなかったら?」
「触らない」
Rheaが満足そうにうなずく。
「それならいい」
最初の検査が終わった。
不審なものは見つからなかった。
2隻目も同じだった。
3隻目には通信データに小さな違いがあった。
しかし調査の結果、その原因は古い船内通信装置にあった。
4隻目では、船内航行システムによるデータ遅延が発生していた。
5隻目には問題がなかった。
6隻目にもなかった。
一隻ずつ。
確認されるデータが増えるほど、一つのことが明確になっていく。
9隻の船が一つのグループであるという証拠はなかった。
Tsumugiは画面を見る。
「つまり、全部一つの疑いで拘束された」
Seraphielが答える。
「その通りです。しかし、その疑いだけでは、すべての拘束を維持するには不十分になっています」
Lanがうなずく。
「再検討を求める根拠はできた」
Tsumugiが立ち上がる。
「監督官を呼んで」
警備監督官が再び入ってきた。
Tsumugiは検査結果を見せる。
「検査は終わった」
監督官がデータを見る。
「脅威はない?」
「9隻の船が犯罪行為に関与していると判断するのに十分な証拠はありません」
監督官が報告書を読む。
「しかし、通信障害は残っている」
「そうだ」
「なら、脅威の可能性はまだある」
「その通り」
監督官がTsumugiを見る。
「では、全船を解放してほしいのですか?」
「違う」
監督官が驚いた。
「違う?」
「全部ではない」
Tsumugiはデータを指した。
「検査を終えて問題のない船を解放する」
監督官は黙る。
「データがまだ完全ではない船は?」
「検査を続ける」
「ステーションの安全は?」
「維持する」
Tsumugiが彼を見る。
「安全と貿易のどちらかを選ぶ必要はない」
「では?」
「両方やる」
Lanが笑う。
「それが手続きの役割だ」
監督官はしばらくデータを見つめた。
そして、うなずいた。
「分かりました」
彼はステーション通信を開く。
「Eldras Mining Station 7警備管制。検査を完了した船舶について、警備拘束を解除する」
システムから声が返る。
「命令を受領しました」
検査室の外で、いくつかのステータスランプが変わった。
一隻。
そして次の一隻。
拘束状態が変化し始める。
Rheaが廊下から見る。
「成功した」
Calistaがうなずく。
「撃たずにね」
Rheaが笑う。
「残念」
CalistaがRheaを見る。
「撃ちたかったの?」
「違う」
「顔がそう言ってる」
Rheaは黙った。
「……今日はみんなそれを言う」
ほどなくして、許可を得た船が一隻ずつステーション区域を離れ始めた。
すぐに加速することはない。
ドッキング管制が退出航路を指定する。
交通管制が出港順序を管理する。
一隻が動く。
続いて次の船が動く。
船同士の間隔は維持されている。
衝突はない。
混乱もない。
劇的な行動もない。
ただ交通システムが、本来あるべき形で機能している。
Tsumugiは管制室の窓からその光景を見ていた。
「ルールが多いな」
Lanが隣に立つ。
「船が多いからだ」
「そうだな」
Tsumugiが笑う。
「一人がルールを破っても、たぶん目立たない」
彼女は遠ざかっていく大型船を見る。
「でも、千隻が同じことをしたら……」
Lanが続ける。
「回廊全体が止まる」
「そういうこと」
二人はしばらく黙った。
その時、Seraphielが通信を通じて話した。
「Tsumugi。見せたいものがあります」
「何?」
「先ほど拘束されていた船と、私たちを追跡していた3隻の船のデータ比較が完了しました」
Tsumugiがすぐに立ち止まる。
「結果は?」
「直接的な一致はありません」
「ない?」
「ありません」
Tsumugiは表示された画面を見る。
3つのマーカーが現れる。
1隻目。
2隻目。
3隻目。
登録データは空白。
運航者データも不完全。
しかし、Seraphielが新しい情報を追加する。
「トランスポンダーのパターンと、確認可能な管理上の航路情報を調査しました」
Tsumugiが尋ねる。
「それで?」
Seraphielが落ち着いた声で答える。
「この3隻は、Velcraden所有の資産として登録されていません」
Tsumugiは黙った。
Lanが画面を見る。
「Velcradenじゃない?」
「その通りです」
Rheaが近づく。
「じゃあ、誰なの?」
Seraphielが答える。
「まだ分かりません」
Tsumugiは画面上の3つの点を見る。
Teralis Frontier Arbitration Portから。
彼らは監視していた。
追跡していた。
攻撃はしていない。
そして今、一つだけ確定したことがある。
彼らはVelcradenの所有ではない。
Tsumugiが息を吐く。
「じゃあ、私たちはずっと彼らを疑い間違えていた?」
Lanが首を振る。
「まだそうとは限らない」
Tsumugiが振り返る。
Lanは続ける。
「分かっているのは、Velcradenの所有ではないということだけだ」
「そうだな」
「Velcradenと関係がないという意味じゃない」
Tsumugiは再び画面を見る。
「そうだな」
それ以上、何も言わなかった。
やがてSeraphielが尋ねる。
「追跡しますか?」
Tsumugiは考えた。
そして首を振る。
「やめて」
「了解しました」
「まだ仕事がある」
Rheaが眉を上げる。
「艦長」
「何?」
「ちょっと怪しくない?」
「確かに」
「じゃあ、どうして追わないの?」
TsumugiはRheaを見る。
「まだ私たちを攻撃していないから」
Rheaは黙った。
Tsumugiは動き始めた鉱物輸送船を見る。
「私たちは契約を終えるためにここへ来た」
そして小さく笑う。
「敵を探すためじゃない」
Rheaがうなずく。
「了解」
Calistaが部屋に入ってくる。
「じゃあ、私はEngineeringに戻る」
Lanも画面を閉じる。
「俺は遅延した船の補償書類を終わらせる」
Vesperaが通信を通じて話す。
「私はステーション周辺のアステロイド航路を引き続き監視する」
Tsumugiがうなずく。
「ありがとう」
Seraphielが契約状況を表示する。
「Eldras Mining Station 7での任務は、まだ完全には終了していません。追加検査がいくつか残っています」
Tsumugiは画面を見る。
そして笑った。
「それなら、続けよう」
戦争はない。
追跡もない。
大きな勝利もない。
それでも、一つの問題は解決した。
そして、別の一つの問題がより明確になった。
ASTRAEONを監視していた3隻の船は、Velcradenの所有ではない。
しかし、彼らは何者なのか?
今のところ、Tsumugiはその答えを追わない。
Eldrasとの契約は、まだ終わっていないからだ。
そして、フロンティアでの最後の仕事が、まだ待っている。
【次話 第63話 ― 「最後のフロンティアの仕事」】
「フロンティアでの最後の仕事」
契約はEldras Mining Station 7とOuter Mining Corridorで最終段階へ入る。RheaはついにMobile Frameによる作戦を実行する機会を得る。Vesperaはアステロイド航路の把握を支援し、Calistaは産業システムを担当する。一方、Lanはすべての補償と契約上の手続きが規定どおり進むよう確認する。
すべての仕事が完了した後、Eldras Mining ConsortiumはTsumugiに1,500,000 Galactic Creditを支払う。
【第63話へ続く……】




