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ASTRAEON VELORIA――銀河を旅する自由傭兵――  作者: Ren Hazumi


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【第61話】「未完了の契約」

【第61話】「未完了の契約」


テラリス・フロンティア仲裁 Portは、ASTRAEONの後方でゆっくりと小さくなっていった。


コックピットから見ると、そのステーションは大きなものには見えない。フロンティアの航路の間に浮かぶ金属構造物で、本体にはいくつかのドックが接続されているだけだった。


しかしTsumugiは、あの簡素な場所がEldras地域の交易における重要な拠点であることを知っている。


彼女たちの契約も、そこから始まった。


そして、その契約はまだ終わっていない。


「Seraphiel」


「はい、Tsumugi?」


「契約の状況は?」


艦長席の前にホログラフィックパネルが開いた。


ELDRAS MINING CORRIDOR ― 契約状況


状態:有効


作戦種別:


- 護衛

- 偵察

- 民間人保護

- 警備

- 証拠収集


Tsumugiは一度、すべてに目を通した。


何も変わっていない。


「つまり、本当に目的地まで到着しないと、これを完了したとは扱えないんだ」


「その通りです。全額の報酬も、契約上の義務をすべて完了することが条件となっています」


「面倒だな」


Seraphielが薄く笑う。


「契約に署名したのは、あなたです」


「分かってる」


「では、なぜ不満を?」


「契約がもっと早く終わればいいと思うことくらい、悪いことじゃない」


「技術的には、そうですね」


Tsumugiは椅子に背を預けた。


その後ろでは、Rheaが二つ目の端末を使ってMobile Frameのデータを確認していた。指がホログラフィックパネルの上を素早く動いている。


「契約が護衛だけなら、私が出る必要はない?」


Tsumugiが振り返る。


「まだ分からない」


「残念」


「どうして?」


「Valkyrieを飛ばしたかったのに」


Tsumugiはため息をついた。


「回廊の先で何が待っているか、まだ分からない」


「だからこそ」


「理由にはならない」


Rheaが小さく鼻を鳴らす。


「艦長は慎重すぎる」


「そして、あなたは戦うのが好きすぎる」


「それをプロフェッショナルって言うの」


「金がかかるって言うんだ」


通信室に座っていたLanが、振り向きもせずに口を挟んだ。


「今回は艦長に賛成だ」


Rheaがすぐに彼を見る。


「あなたはいつも金の味方ね」


「もちろん」


Lanはようやく振り向き、笑いながら答えた。


「金なら壊れたものを直せるからな。戦闘は大抵、もっと多くのものを壊す」


技術デッキにいたCalistaが、艦内通信を通じて会話に加わった。


「私もLanに賛成です」


Rheaは天井を見上げる。


「みんなつまらない」


Tsumugiが薄く笑った。


「いいことだ」


「なんで?」


「つまり、まだMobile Frameを出す必要がないってことだから」


ASTRAEONは、Eldras Mining Corridorへの進入航路へ向けて飛行を続けた。


全長8,600メートルのこの船は、FTL-15の能力を無闇に使用することはない。


ASTRAEONが銀河標準を遥かに上回る技術で航行できるとしても、フロンティア地域には依然として交通規則が存在する。


FTL航路は、何の規則もない空間ではない。


商船がいる。


鉱物輸送船がいる。


巡視船がいる。


中継ステーションがある。


採掘区域へ出入りするために定められた航路もある。


そして何より、宇宙交通管制がある。


Eldrasの運用航路の境界へ近づくと、SeraphielがASTRAEONの速度を落とした。


「どうして減速した?」


「交通量の多い区域へ入るためです」


「その通りです。すでに回廊の航行ビーコンを受信しています」


メインスクリーンに、線で構成されたネットワークが表示された。


光る航路が回廊の奥へ向かって伸びている。


いくつかの航路には貨物船用の表示がある。


いくつかは巡視船用。


そして、特定の船だけが使用できる航路もある。


Tsumugiはその地図を見つめた。


「結構混んでるな」


「Eldras Mining Corridorは、このセクターにおける主要な工業航路の一つです。鉱物輸送船の交通量もかなり多くなっています」


「つまり、勝手に入るわけにはいかない」


「はい」


Seraphielが船の識別情報を送信する。


ASTRAEON VELORIA。


所有者:Hoshizaki Tsumugi。


艦長:Hoshizaki Tsumugi。


法的分類:超高級長距離プライベート・スターシップ。


訪問目的:契約業務。


貨物申告:登録済み。


兵装状況:申告済み。


乗員状況:登録済み。


商業契約:有効。


数秒後、通信チャンネルから声が入った。


「ASTRAEON VELORIA、こちらはEldras Corridor交通管制。識別情報を受信しました」


Seraphielがすぐに通信をコックピットへ切り替える。


Tsumugiは受信ボタンを押した。


「ASTRAEON VELORIA、受信した」


「目的地を確認します」


「Eldras Mining Consortiumの契約業務。護衛および警備支援」


「受信しました。契約を確認済み。フロンティア採掘ルート3へ向かってください。許可なく主要貨物航路へ進入しないでください」


「了解」


「船体サイズは8,600メートルとして記録されています。特別分離航路を提供します。指定速度を維持してください」


Tsumugiは画面を見つめた。


「8,600メートルって、いつも問題になるな」


通信室からLanが笑った。


「だって、君の船は本当に大きすぎるからな」


「私のせいじゃない」


SeraphielがTsumugiを見る。


「技術的には、この船はあなたの所有物です」


「分かってる」


通信チャンネルから別の管制官の声が聞こえた。


「ASTRAEON VELORIA、3つのセクターを通過した後、回廊境界へ入ります。その後、交通監視はEldras採掘交通管制へ引き継がれます」


「了解」


Tsumugiは通信を切った。


前方の航路を見る。


多くの船が行き交っている。


鉱物を運ぶ貨物船。


作業員輸送船。


採掘施設からステーションへ向かうシャトル。


サービス船。


中には、船体いっぱいに小惑星の塵の跡を残した、古びた小型船もある。


ASTRAEONが通過したからといって、立ち止まる船は一隻もいない。


誰もが仕事を抱えている。


その光景が、この地域が本当に生きているのだとTsumugiに感じさせた。


「Seraphiel」


「はい?」


「最短航路は使わないで」


Seraphielが振り返る。


「何か理由が?」


「私たちは護衛中だから」


Tsumugiは画面を指差した。


「こっちが速すぎると、護衛している船がついてこられなくなる」


「了解しました。護衛編成に入っている民間船に合わせて速度を調整します」


「それと、正式な航路を使って」


「承知しました」


しばらくすると、いくつかの船がレーダーに映り始めた。


SeraphielがASTRAEON周辺の船舶一覧を表示する。


4隻が護衛航路の対象として登録されていた。


軍艦ではない。


鉱物輸送船だ。


4隻すべてを合わせても、船体はASTRAEONより遥かに小さい。


Tsumugiは、そのうちの一隻が近づきすぎているのを見た。


「距離は?」


「右側の貨物船が、分離線から少し外れています」


「警告を」


「承知しました」


メッセージが送信される。


数秒後、その船は航路へ戻った。


Lanは入ってきた交易データを確認していた。


「積荷はかなり多いな」


「中身は?」


「Eldrasの施設から運ばれた未精製鉱物」


「種類は?」


Lanがデータを開く。


「工業用鉱石の混合物。特におかしなものはない」


Calistaが通信に入る。


「違法な原子炉物質を運んでいないなら、私は構いません」


Lanが笑った。


「まだ積荷を見てもいないだろ」


「私は技術者です。正体の分からない物品には、いつも警戒しています」


「もっともだ」


航行を補助していたVesperaが、ようやく口を開いた。


「艦長」


「ん?」


「前方に二つの代替航路を確認しました。主要航路は少し混雑しています。二次航路はより空いていますが、救援ステーションがあまりありません」


Tsumugiは地図を見る。


「護衛している船にとって、どちらが安全?」


「主要航路です」


「どうして?」


「民間船が多く、通信ステーションも多く、問題が発生した場合の救援地点も多いからです。二次航路は確かに空いていますが、何か起きた場合、対応が遅れます」


Tsumugiは頷いた。


「主要航路を使おう」


Vesperaが小さく笑う。


「予想していた選択です」


Rheaが割り込んだ。


「空いてる航路のほうが楽しくない?」


「遊びに行くなら、そうかもな」


Tsumugiは地図を指差す。


「仕事なら、目撃者と通信、それに代替航路が必要だ」


Lanが笑う。


「それは契約にとっても都合がいい」


TsumugiはLanを見る。


「あなたはいつも契約に戻るな」


「契約は金を払ってくれるからな」


「それもそうだ」


ASTRAEONは、さらにEldras Mining Corridorの奥へ進んでいった。


外の景色が変わる。


前方に大きな惑星はない。


代わりに見えてくるのは、宇宙空間に広がる工業施設のネットワークだった。


いくつもの採掘構造物が小惑星の周囲を周回している。


小型船が出入りしている。


ステーションの機械アームが、貨物船から鉱物コンテナを引き出している。


工業用ドローンが、施設の周囲を群れた虫のように動いている。


遠くでは、大型タンカーが軌道施設から燃料を補給していた。


Tsumugiはそのすべてを見つめた。


「すごい活動量だな」


「Eldrasは活発な経済地域です」


「ただの採掘地じゃない」


「その通りです。支援インフラには、輸送、精製、物流、船舶整備、燃料、警備、交易が含まれます」


Tsumugiは頷いた。


長い説明は必要なかった。


この光景だけで十分だった。


通り過ぎる一隻一隻の船に、誰かの仕事がある。


運ばれる一つ一つのコンテナを、待っている企業がある。


明かりの灯った一つ一つのステーションには、そこで暮らし、働く人々がいる。


フロンティアだからといって、規則がないわけではない。


むしろ、このような地域に多くの人々が依存しているからこそ、交通規則が重要になる。


一隻の大型船が無秩序に動けば、何十隻もの船に影響を及ぼす。


一度のFTLミスが、小さな事故を災害へ変えることもある。


だからこそ、Tsumugiは手順に従うことを気にしていなかった。


「Seraphiel」


「はい?」


「分離航路の状況は?」


「安定しています。護衛対象の全船が適切な位置についています」


「よし」


Tsumugiは再び背を預けた。


しばらくの間、航行は穏やかに進んだ。


穏やかすぎるほどに。


Rheaがついに席を立った。


「暇」


Tsumugiは振り向かない。


「座ってろ」


「ちょっと格納庫に行きたいだけ」


「何しに?」


「Valkyrieを見る」


「さっき見ただろ」


「もう一回見たい」


「駄目」


Rheaが鼻をしかめる。


「艦長、ケチ」


「Mobile Frameは玩具じゃない」


「分かってる」


「本当に?」


Rheaは黙った。


Lanが小さく笑う。


「艦長が正しい」


「Lan」


「はい?」


「今、私は艦長と話してるの」


「それなら話さなきゃいい」


Lanは両手を上げた。


「分かった」


Calistaが通信に入った。


「Rhea、本当に手伝いたいなら、Mobile Frameのドッキングシステムを点検してほしいのですが」


Rheaがすぐに答える。


「本気?」


「本気です」


「分かった」


そのまま立ち去った。


Tsumugiは閉じた扉を見る。


「変わるのが早いな」


Lanが笑う。


「仕事を与えれば、落ち着く」


「最初からそうすればよかった」


その時――


Seraphielが突然、話すのをやめた。


Tsumugiはすぐに気づく。


「どうした?」


数秒間、返事がなかった。


メインスクリーンが切り替わる。


回廊の通信ネットワークの一部が点滅していた。


「Tsumugi」


Seraphielの声の調子が変わった。


慌ててはいない。


だが、より真剣だった。


「話して」


「通信障害を検知しました」


Tsumugiが姿勢を正す。


「どこから?」


「前方にある採掘ステーションの一つです」


地図が拡大される。


一つの採掘ステーションが青い点として表示された。


その周辺のいくつかの通信経路が、点線へと変わっている。


「故障?」


「まだ確認できません」


「交通管制も影響を受けてる?」


「いいえ。主要航行システムは稼働しています。各船も引き続き交通指示を受信しています」


「つまり、通信だけ?」


「今のところは。いくつかのチャンネルが断続的に障害を起こしています」


Tsumugiは画面を見る。


「遭難信号は送ってる?」


「正式な遭難信号はありません」


「なら、すぐに結論を出さないで」


「同意します」


Lanが契約データを開く。


「あのステーションは、俺たちの作戦区域に入ってる?」


Seraphielが答える。


「直接的には、私たちが護衛する施設には含まれていません。ただし、その通信回廊は警備契約に記載された区域内にあります」


Lanが頷く。


「なら、少なくとも記録しておくべきだな」


「全部記録して」


「すでに記録済みです」


Tsumugiは別の画面に目を向けた。


三つの点。


彼女たちの遥か後方。


同じ三隻の船。


まだいる。


近づいてもいない。


離れてもいない。


識別情報も送ってこない。


ただ、ついてきている。


RheaがCalistaからの報告を受け、コックピットへ戻ってきた。


「何があった?」


「採掘ステーションで通信障害」


Rheaが画面を見る。


「海賊?」


「まだ分からない」


「あの三隻は?」


Tsumugiはしばらく黙った。


Seraphielが三隻との距離を表示する。


まだ直接的な脅威と見なせる範囲の外にいる。


Lanが目を細めた。


「まだついてきてる」


「ああ」


「警告する?」


Tsumugiは首を横に振った。


「まだ」


RheaがTsumugiを見る。


「明らかに私たちを監視してる」


「分かってる」


「それで?」


Tsumugiは再び目の前の画面を見る。


「私たちは仕事中だ」


Rheaは黙った。


Tsumugiは静かな声で続ける。


「向こうが問題を起こしていないなら、こっちから問題を探すな」


誰も反論しなかった。


Seraphielはただ頷く。


「了解しました。介入はせず、引き続き監視します」


何隻かの民間船が、ASTRAEONと採掘ステーションの間を通り始めた。


交通管制官が、船同士の距離を調整し続けている。


「ASTRAEON VELORIA、航路を維持してください。貨物船二隻が右舷側のセクターを横切ります」


「了解」


ASTRAEONがわずかに左へ移動する。


巨艦は極端な機動を行うことなく、指定された航路を進んでいった。


前方では、一隻の鉱物輸送船がゆっくりと進んでいる。


その後ろでは、3隻のサービス船がドッキング航路へ入る順番を待っている。


主要航行ネットワークの遥か下では、数隻の作業員用シャトルが採掘施設から出たばかりだった。


すべてが正常に動いている。


しかし、通信障害は依然として続いていた。


Seraphielがデータを拡大する。


「障害が再び発生しました」


「どの程度?」


「いくつかの音声通信チャンネルでパケットロスが発生しています。航行データは正常です。ドッキングシステムも稼働しています。安全システムも稼働しています」


「つまり、ステーション自体はまだ機能している」


「はい」


「機器の故障かもしれない」


「その可能性はあります」


「遠隔で直せる?」


「外部診断は可能です。ただし、ステーション当局の許可なく内部システムへアクセスすることはしません」


Tsumugiは頷いた。


「それでいい」


Calistaもデータを確認する。


「本当に通信機器の故障なら、違うパターンになるはずです」


Tsumugiが振り向く。


「どういう意味?」


「障害の発生が不規則すぎます」


Calistaがグラフを拡大する。


「一つのモジュールが故障しているなら、通常は一定のパターンに従います。でもこれは、発生して、消えて、それから別のチャンネルでまた発生している」


Lanがグラフを見る。


「干渉?」


「まだ分かりません」


Calistaが答える。


Seraphielが初期分析を終えた。


「追加の異常を検出しました」


全員の視線が画面へ向く。


「何?」


「この障害は、完全にステーション内部から発生しているわけではありません」


室内がさらに静かになる。


Tsumugiはグラフを見つめる。


「外部?」


「可能性があります」


「さっきの三隻と関係してる?」


Seraphielはすぐには答えなかった。


いくつかのデータが処理される。


「両者を関連付けるには、まだ十分な証拠がありません」


Tsumugiは頷いた。


「無理に結びつけないで」


「承知しました」


「証拠がないなら、結論もない」


Vesperaが小さく笑う。


「だから私は、艦長の仕事のやり方が好きです」


Tsumugiが彼女を見る。


「どうして?」


「自分で物語を作ろうと急がないからです」


「勝手に作った話は、たいてい事実より高くつくからな」


Lanが笑った。


「その言葉、管理室に印刷して飾ってもいいな」


Tsumugiは無視した。


再び前方の採掘ステーションを見る。


明かりはまだ灯っている。


船も動いている。


爆発はない。


大きな警報もない。


戦争もない。


それでも、何かが正常に進んでいない。


Seraphielが画面を更新する。


「まもなく、あのステーションを通過します」


Tsumugiは頷いた。


「明日、調べよう」


Seraphielが彼女を見る。


「了解しました。接近する前に、通信データ、航行ログ、センサー記録をすべて準備します」


「許可なく、あちらのシステムには触らないで」


「もちろんです」


Tsumugiは再び背を預けた。


コックピットの外では、Eldras Mining Corridorがいつも通り動き続けている。


船は仕事を続けている。


鉱物は運ばれている。


ステーションは稼働を続けている。


そして、識別情報を持たない三隻の船が、依然としてASTRAEONの遥か後方にいる。


誰も攻撃してこない。


まだ。


だが、ほんの小さな通信障害だけでも、彼女たちの旅を少し複雑にするには十分だった。


契約はまだ続いている。


そして今、調べなければならないものが一つある。


【次話 第62話 ― 「エルドラス採掘回廊」】


Eldras Mining Corridor


ASTRAEONはEldras Mining Station 7へ向けて航行を続ける。


数隻の鉱物輸送船が、安全上の争議によって拘束されていることが判明する。


Tsumugiはそれを力ではなく、契約手続き、センサーデータ、運用上の証拠、そして彼女たちの契約が有する法的権限によって解決しなければならない。


同時に、ASTRAEONを追い続ける三隻の監視船の存在についても、より本格的な調査が始まる。


【第62話へ続く……】

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