第五十六章 ヴェルクラーデン・インダストリアル
第五十六章 ヴェルクラーデン・インダストリアル
翌朝、ツムギは全員をリビングルームに集めた。
昨夜のメッセージはまだ彼の頭に残っている——百万五千ギャラクシークレジットの契約。それはこれまで彼が受けたどの仕事よりも大きな金額だった。しかし彼はそれを一人で決めるつもりはなかった。
「新しい契約が入った」とツムギは言い、全員の顔を見渡した。レアはソファに座って脚を組み、ランはタブレットを手にし、カリスタは椅子に座って腕を組んでいる。ヴェスペラはいつものように窓の近くに立っている。
「どんな契約?」とレアが尋ねた。
「エルドラス採掘回廊での護衛任務。依頼主はエルドラス採掘コンソーシアム。報酬は百五十万GC。」
ランが顔を上げた。「百五十万? それは……かなりの額ね。」
「リスクも高い」とツムギは続けた。「エルドラス採掘回廊は不安定な地域だ。海賊活動、企業間紛争、現地住民との緊張。それにこの契約はBクラス以上の傭兵にしか開放されていない。」
「私たちはCクラス」とランが言った。
「ああ。でも実績と推薦状がある。それにASTRAEONの能力を考えれば、依頼主は例外を認めるかもしれない。」
レアが身を乗り出した。「俺はやるべきだと思う。百五十万GCは大きい。それにエルドラスで何が起きているか、この目で見てみたい。」
ランは慎重な表情を浮かべた。「でも危険すぎるかもしれない。Velcraden Industrialがまだ私たちを監視している。もし私たちが弱みを見せれば、彼らはそれを利用する。」
「だからこそ、この契約を受けるべきだ」とカリスタが言った。全員が彼女を見た。「Velcradenは私たちを圧迫しようとしている。市場で、そしておそらく他の方法でも。もし私たちがここで立ち止まれば、彼らは私たちを弱いと見なす。でももし私たちが大きな契約を成功させれば、彼らは私たちを軽く見なくなる。」
ツムギはカリスタの意見を聞いて、少し驚いた。彼女はまだクルーになって日が浅いが、すでに戦略的に物事を考えている。
「セラフィエル、どう思う?」
「カリスタの分析は妥当です、ツムギ。エルドラスでの成功は我々の評判を大いに高め、Velcradenに対する抑止力になり得ます。ただし、リスクも現実です。」
ツムギは頷いた。「わかった。契約を受ける方向で動く。ただし、まずエルドラスについてもっと情報を集める。」
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その日の午後、ツムギはMercenary Association Nhalcorの事務所を訪れた。
受付の女性——以前にも対応してくれた人物だ——は、ツムギがエルドラスの契約について尋ねると、少し驚いた表情を浮かべた。
「エルドラスの契約ですか? それは……かなり危険な仕事ですよ。」
「知っています。でも詳しい情報が欲しい。」
女性は頷き、タブレットを操作した。「エルドラス採掘回廊は、このステーションからFTLで約三日の距離にあります。かつては活発な採掘地域でしたが、数年前に大規模な企業間紛争が発生して以来、治安が悪化しました。」
「企業間紛争?」
「はい。複数の企業が採掘権を巡って争っていました。その結果、武装した私兵が地域に溢れ、海賊までもがその混乱に乗じて活動を始めました。現在は、エルドラス採掘コンソーシアムが地域の安定化を試みていますが、まだ完全には成功していません。」
「コンソーシアムは何を求めている?」
「彼らは採掘回廊の主要なルートを確保し、民間人の保護を強化したいと考えています。また、紛争の原因となった企業の証拠を集めているとも聞いています。」
ツムギはその情報を頭に留めた。「ありがとう。契約の詳細を送ってもらえるか?」
「もちろんです。ただ、Bクラス以上の要件がありますが——」
「推薦状がある。それに実績もある。」
女性は微笑んだ。「わかりました。手続きを進めます。」
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ツムギがASTRAEONに戻ると、Rheaが待っていた。
「どうだった?」
「契約は本物だ。エルドラスは本当に不安定な地域らしい。」
「俺たちでやれるか?」
「わからない。でも情報を集める価値はある。」
その時、Seraphielが割り込んだ。
「ツムギ、緊急の通信です。Velcraden Industrialから。」
ツムギは眉をひそめた。「またか。」
「彼らは今日、ナルコールに到着した代表者を通じて、直接会談を求めています。」
「何を望んでいる?」
「それは言っていません。ただ『重要な提案がある』とだけ。」
ツムギは考えた。前回の会談では、Velcradenは独占契約を押し付けようとし、断ると脅しをかけてきた。今回も同じようなものだろう。
「断る」
「待って」とRheaが言った。「会った方がいい。」
ツムギは彼女を見た。「なぜ?」
「情報を得るため。彼らが何を考えているか、何を計画しているか、少しでも知ることができる。それに、断るにしても、直接会って断る方が印象が強い。」
ツムギはしばらく考えた。Rheaの言うことにも一理ある。
「わかった。会おう。ただし、今回はSeraphielも同席させる。そしてレア、お前も来い。」
「俺も?」
「お前はパイロットだ。彼らが我々の戦力を知れば、軽々しく脅せなくなる。」
Rheaはにやりと笑った。「いいね。」
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会談はNhalcorの高級レストランの個室で行われた。
前回と同じ人物——Daven Kroll——がテーブルの向かいに座っていた。今回は、彼の隣に別の人物がいた。若い女性で、長い黒髪と鋭い紫の目をしている。彼女はVelcradenの制服を着ておらず、シンプルな黒いスーツを着ている。しかしその存在感は強く、部屋に入った瞬間から空気が変わった。
「Kapten Hoshizaki」とDavenが言った。「来てくださって感謝します。こちらは私の同僚、Vesna Ardent。Velcraden Industrialの上級顧問です。」
Vesnaは軽く会釈したが、その目はツムギを値踏みするように見つめていた。
「単刀直入に言いましょう」とVesnaが口を開いた。声は低く、落ち着いている。「私たちはあなたにエルドラスの契約を断ってほしいのです。」
ツムギは表情を変えなかった。「なぜ?」
「エルドラスは私たちの縄張りです。私たちはそこで長年事業を展開しており、安定化のために多額の投資をしてきました。あなたがそこに介入すれば、私たちの努力が無駄になるかもしれません。」
「つまり、競争相手を排除したいだけか?」
Vesnaは微かに微笑んだ。「ビジネスとはそういうものです。」
「もし断らなければ?」
「その場合、私たちはあなたを敵と見なします。そしてVelcraden Industrialの敵は、長くは生き残れません。」
部屋の空気が凍った。
Rheaが椅子に座ったまま、静かに手を拳に握った。Seraphielは表情を変えず、ただVesnaを見つめている。
ツムギはしばらく沈黙した。そして口を開いた。
「私の答えは変わらない。エルドラスの契約は受ける。」
Vesnaの目がわずかに細くなった。「後悔するでしょう。」
「それは私が決めることだ。」
Vesnaは立ち上がった。「Kapten Hoshizaki。あなたは面白い人だ。しかし、面白いだけでは生き残れない。」
彼女は部屋を出ていった。Davenも慌てて後を追った。
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ASTRAEONに戻ったツムギは、全員をリビングルームに集めた。
「Velcradenは私たちを脅した」と彼は言った。「エルドラスの契約を断れと。断れば敵になると。」
「で、どうする?」とRheaが尋ねた。
「契約を受ける。彼らに屈するわけにはいかない。」
ランが心配そうな表情を浮かべた。「でも彼らは本当に危険よ。Velcradenはフロンティアで最大級の企業。彼らには私兵も、影響力も、資金もある。」
「わかっている」とツムギは言った。「だからこそ、私たちは準備を整える。エルドラスでの契約を成功させ、彼らに私たちが簡単に倒せる相手ではないことを示す。」
カリスタが口を開いた。「私も賛成。Velcradenのような企業は、弱みを見せればつけ込んでくる。でも強みを見せれば、手を出しにくくなる。」
レアが立ち上がった。「決まりだな。いつ出発する?」
「三日後」とツムギは言った。「それまでにエルドラスについての情報を集め、装備を整える。」
Seraphielが静かに付け加えた。「エルドラスに関するデータを収集中です。また、契約の正式な受諾手続きも進めています。」
ツムギは頷いた。
「この契約は今までで最も危険かもしれない。でも、私たちならやれる。」
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夜、ツムギは一人でコックピットに立っていた。
「Seraphiel」
「はい、ツムギ?」
「Velcradenはどこまで本気だと思う?」
「彼らは本気です。彼らはフロンティアでの支配を維持するために、あらゆる手段を使います。しかし、彼らもリスクを計算します。もし我々が強力な敵であると示せば、彼らは直接的な衝突を避けるかもしれません。」
「つまり、エルドラスでの成功が鍵になる。」
「その通りです。」
ツムギは星々を見つめた。
「わかった。準備を進めよう。」
「はい、ツムギ。」
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【次回予告 第五十七章 —— 「エルドラス採掘回廊」】
ツムギとそのクルーはエルドラス採掘回廊へ向けて出発する。そこは企業間紛争、海賊、そして不安定な勢力が入り乱れる危険な地域だった。ツムギは単なる傭兵としてではなく、一人の指導者として、この混乱を生き抜かなければならない。
【第五十七章へ続く…】




