第五十二章 カリスタ・フェロとアストレオン
第五十二章 カリスタ・フェロとアストレオン
翌朝、ツムギが朝食を終える前に、カリスタ・フェロはすでにエンジニアリング・デッキの前に立っていた。
最初に彼女の存在を検知したのは——もちろん——セラフィエルで、彼女は内部通信でツムギに知らせた。トーストをまだ噛んでいたツムギは、仕方なくテーブルから立ち上がり、物理的な姿のセラフィエルを伴ってエンジニアリング・デッキへ歩いていった。
「普通の勤務時間まで待てないのか?」とツムギはエンジニアリングの扉が開いた時尋ねた。
カリスタは既に中に立っていた。工具袋は床に置かれ、両手はメインコントロールパネルに触れている。彼女は振り返り、全く悪びれない表情を浮かべた。
「朝四時から待ってた。邪魔したくなかっただけ。」
「それでも邪魔だ。」
「今日から働いていいって言った。」
「限定的なアクセスを与えると言った。完全なアクセスじゃない。」
カリスタは肩をすくめた。「何も触ってない。見てただけ。」
ツムギはセラフィエルを見た。
「彼女は嘘をついていません。全システムは正常な状態です。」
「わかった。」ツムギは腕を組んだ。「何を見たい?」
「リアクター。」カリスタの目が輝いた。「リアクターを見たい。」
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ツムギはカリスタをリアクター室へ連れて行った——アストレオンの心臓部にある大きな部屋で、ゼロポイント特異点コアからの青い光が脈動している。部屋の中央で、そのエネルギーコアはゆっくりと回転している——力場の中に閉じ込められた小さな星のように見える光の球だ。
カリスタは扉の前に立ち止まった。目を見開く。
「……あれは何?」
「ゼロポイント特異点コアだ」とツムギは答えた。
カリスタは彼を見た。「ありえない。」
「自分の目で見ているだろ。」
「エネルギーコアのように見える何かを見ている。でもゼロポイント特異点は理論よ。誰も構築に成功していない。誰も。」
「アストレオンにはある。」
カリスタはより近くへ歩み寄った。彼女は安全な距離からコアを観察した——触れず、ただ見つめる。目は素早く動き、細部を記録している。
「出力は?」と彼女は尋ねた。
「東京全市に一万年間電力を供給するのに十分だ。」
カリスタは鋭く振り返った。「そんなのありえない。」
「わかっている。」
「お前は自分が何を持っているかわかっていない。」
「持っていることはわかっている。それで十分だ。」
カリスタは首を振った。「わかっていない。これは……」彼女はコアを指した。「これは単なるエネルギー源じゃない。存在するはずのない技術の飛躍よ。もしフロンティアの人々がこれがここにあると知ったら、それを奪うために艦隊全体を送り込むわ。」
「それを知らないと思っているのか?」
「知っている人のようには振る舞っていない。」
ツムギは微かに微笑んだ。「この秘密はうまく守っている。」
カリスタはしばらく彼を見つめた。そして笑った——短く、ほろ苦い笑いだ。
「お前は本当に変なやつだな、船長。」
「よく言われる。」
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リアクターを十分に観察した後、カリスタは製造システム——アストラ・フォージとディープスター・リファイナリー——を見たいと言った。
ツムギは彼女を工業デッキへ連れて行った。そこではアストレオンの内部工場が昼夜を問わず稼働している——部品を生産し、金属を精錬し、船に必要なあらゆるものを建造している。
カリスタはロボットアームとコンベアベルトの間を歩き、目は止まることなく動き続けた。彼女は金属精錬ユニットの前で立ち止まった——内部で溶融金属が高速回転している大きな筒だ。
「これ……金属を精錬しているのか?」
「ああ。ディープスター・リファイナリー。様々な素材を処理する——鉄、チタン、ニッケル、プラチナ、そしていくつかのエキゾチックメタル。」
「エキゾチックメタル?」
「ミスリル、アダマント、オリハルコン、ヒヒイロカネなどだ。」
カリスタは彼を見た。「それを持っているのか?」
「ああ。」
「どこで手に入れた?」
「アストレオンが持っている。どこから来たかは知らない。」
カリスタはため息をついた。「もちろん知らないわよね。」
彼女は次のユニットへ歩いていった——アストラ・フォージ、モビルフレーム、ドローン、武器システムの部品を生産する内部工場だ。
「生産能力は?」
「セラフィエルによると、モビルフレーム一機分の部品を約六時間で生産できる。ドローンは数分で。」
カリスタは彼を見た。「それは……素晴らしい。」
「わかっている。」
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工業デッキを数時間探索した後、彼らはカリスタのための一時的なオフィスとして機能する小さな部屋で立ち止まった。そこにはセラフィエルがデータを用意していた——システム図、素材仕様、技術ノート——すでに調整された詳細レベルで。
カリスタは椅子に座り、画面でそのデータを開いた。
目が素早く動く。最初の数分間、彼女はただ読んだ。そして眉をひそめ始めた。
「セラフィエル」と彼女は呼んだ。
「はい?」
「この素材。」彼女は仕様の一つを指した。「これは何?」
「それはモビルフレーム・ヴァルキリーの装甲に使用されている合金です。」
「装甲合金だとはわかる。でも組成が……」彼女は再び読んだ。「これは私の知っている合金じゃない。フロンティアのデータベースにある合金でもない。中心部のシステムのデータベースにある合金でもない。」
「それはアストレオンが開発した合金です。」
「何のために?」
「様々な用途に。装甲、機械部品、武器システム。」
カリスタはもうしばらく画面を見つめた。そして扉のところに立っているツムギに振り返った。
「船長、この船はどこから来たの?」
「わからない。」
「わからない?」
「見つけたんだ。いや、正確には、中で目を覚ました。誰が作ったのか、どこから来たのか、なぜ私がここにいるのかわからない。わかっているのは、この船が私のものだということだけ。」
カリスタは読み取れない表情で彼を見つめた。
「そして一度も調べようとしなかった?」
「セラフィエルはこの船の出自に関する記録はないと言っている。文書も、ログも、何もない。この船は存在する、それだけだ。」
カリスタはしばらく沈黙した。そしてデータを閉じた。
「わかった」と彼女は言った。「これ以上は聞かない。でも一つ知っておいてほしい。」
「何だ?」
「私は理解できないものとは働けない。だから質問し続ける。お前の秘密を知りたいからじゃない。機械を理解したいからだ。」
ツムギは頷いた。「それは公平だ。」
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夜、彼らはギャレーで一緒に食事をとった——長いテーブルには今、ツムギ、セラフィエル、レア、ラン、カリスタ、そしてヴェスペラが座っている。
カリスタはランとレアの間に座った。彼女は既にシャワーを浴び、作業服を清潔なTシャツと長ズボンに着替えている。赤い髪はまだ少し濡れている。
「で」とレアが言った。「初日の感想は?」
「疲れた」とカリスタは答えた。「でも楽しい。」
「何か面白いものを見つけた?」
「たくさん。」カリスタはフォークを食事に突き刺した。「この船は近いうちに解決しない謎だ。」
「謎が好きなんだろ。」
「機械が好きなんだ。謎はその一部だ。」
レアは微笑んだ。「その考え方、好きだ。」
カリスタは振り返った。「お前はモビルフレームパイロットだろ?」
「ああ。」
「格納庫でお前の機体を見た。ヴァルキリー。良い改造だ。」
「セラフィエルがやった。」
カリスタはテーブルの端に座っているセラフィエルを見た——食べず、ただ観察している。
「お前が改造したのか?」
「はい。」
「技術データベースにアクセスできるのか?」
「アストレオンに保存されている全てのデータにアクセスできます。」
カリスタは静かに頷いた。「面白い。」
向かいに座るヴェスペラは、静かにその会話を観察していた。今夜は多くを語らない——時折飲み物を一口含み、聞いているだけだ。
「ヴェスペラ」とカリスタが突然言った。
ヴェスペラは振り返った。「はい?」
「あなたは探検家よね? フロンティア地域のデータを持っている?」
「いくつかは。」
「見せてほしい。迷惑でなければ。」
ヴェスペラはしばらく彼女を見つめた。「なぜ?」
「この地域の資源について知りたい。金属、鉱物、原材料。何が利用可能か知りたい。」
ヴェスペラは頷いた。「明日見せられる。」
「ありがとう。」
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夕食後、ツムギはコックピットの窓の前に立った。後ろでは、レア、ラン、カリスタがリビングルームで話している——声がかすかに聞こえる。
「セラフィエル。」
「はい、ツムギ?」
「カリスタについてどう思う?」
「彼女は非常に熟練したエンジニアです。知識は広く、学ぶのも早い。しかし同時に非常に好奇心が強い——おそらく好奇心が強すぎるほどに。」
「それは問題か?」
「いいえ、彼女が知る範囲を我々が管理できる限りは。」
「この船は謎だと言った。彼女は全ての答えを得られないことを理解している。」
「結構です。彼女が安全なシステムにのみアクセスできるよう、私が確保します。」
ツムギは頷いた。彼は星々を見つめた。
「明日、オルテイアへ出発する。」
「はい。ルートは準備済みです。」
「ヴェルクラーデンの兆候は?」
「不審な動きはありません。しかし監視は続けます。」
「よし。」
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リビングルームで、カリスタはソファに座り、タブレットを手にしていた。彼女はセラフィエルから渡されたデータを読んでいる——システム図、部品仕様、保守記録。
レアが隣に座った。「ずっと働き続けるんだな?」
「働くのが好きだから。」
「休まないと。」
「この船を理解したら休む。」
レアは小さく笑った。「それは永遠に来ないな。」
カリスタは振り返った。「なぜ?」
「この船は変化し続けるから。セラフィエルは常に何かを改造している。いつも新しいものを見つけることになる。」
カリスタは微かに微笑んだ。「それがむしろ面白くしている。」
レアは首を振った。「お前は本当に変なやつだな。」
「よく言われる。」
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夜が更けていった。一人、また一人と、それぞれの部屋へと向かっていった——レアは自分のキャビンへ、ランは自分のキャビンへ、ヴェスペラは仮に使っている客室へ。カリスタはリビングルームに残り、まだタブレットのデータを読んでいた。
ツムギが扉のところに立った。
「カリスタ。」
カリスタは振り返った。「はい?」
「明日は早朝に出発する。そろそろ寝た方がいい。」
「もう少ししたら寝る。」
ツムギは頷いた。彼は立ち去ろうとした。
「船長。」
ツムギは立ち止まった。「何だ?」
「ありがとう。この機会をくれて。」
ツムギは振り返った。カリスタは微笑んでいた——このドワーフの女性から見た中で最も誠実な微笑みだ。
「まだ何もしてもらっていない」とツムギは言った。
「機会をくれた。それで十分。」
ツムギは頷いた。「おやすみ、カリスタ。」
「おやすみ、船長。」
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【次回予告 第五十三章 —— 「エンジニアの質問」】
カリスタはアストレオンでの仕事を始める——システムを検査し、部品を改造し、セラフィエルの保守を手伝う。しかし彼女は質問を続ける——素材について、技術について、船の出自について。ツムギはどこまで明かすかを決めなければならない。
【第五十三章へ続く…】




