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ASTRAEON VELORIA――銀河を旅する自由傭兵――  作者: Ren Hazumi


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【第191話】「銀燈の船を直す」

【第191話】「銀燈の船を直す」


場所: ASTRAEON VELORIA — メインハンガー、ASTRAEA OF THE SILVER LANTERN修復エリア 主要

視点: カリスタ・フェロ → セラフィエル・ヴェロリア → セラフィナ・ヴァルクレイン・ヴェルドラコン


### カリスタ・フェロ視点


カリスタがメインハンガーに足を踏み入れたとき、すでに整備機械の駆動音が響いていた。


複数のドローンが銀のランタンのアストライアの船体に沿って移動し、外装に残る戦闘の痕跡を調べている。別のドローンたちは支持フレームの周辺で作業を進め、変形したパネルを取り外しては、仮設の補強材へと交換していた。


明るいハンガーの照明に照らされた全長1,240メートルの船体は、カリスタが初めて目にしたときよりも、はるかに大きく見えた。


そして、損傷の深刻さも以前よりはっきりと分かる。


「状態が悪いとは予想していたけど、最初の報告よりもずっとひどいわね」


カリスタは検査用端末の前で足を止めた。後ろで束ねた赤い髪が、彼女が顔を上げた拍子にわずかに揺れる。視線の先では、ドローンがASTRAEAの船体をスキャンしていた。


その隣には、セラフィエルが本来の肉体を伴った姿で立っている。透明なディスプレイには、修復作業が始まって以来、収集されてきた検査結果が表示されていた。


「初期報告には、追加検査を行わずに確認できた損傷のみが記録されていました。外部構造の検査を進めた結果、それまで到達できなかった領域にまで内部損傷が広がっていることが判明しています」


「見れば分かるわ。この部分の接合部は、すでに形状が変わっている。これを無理に再利用すれば、船が加速したときに発生する応力が、まだ無事な船体部分にまで伝わる可能性がある」


「その通りです」


カリスタは構造部分の画像を拡大した。


「それに、問題はこれだけじゃない。エネルギー遮断層の一部も損傷しているわ。交換用の素材があるからといって、修復可能だなんて簡単には言えない。元の特性を失っている部分もある。そこを無理に残したところで、最終的な安全性が交換した場合より高くなる保証はないわ」


セラフィエルは頷いた。


「そのため、構造上の状態に応じて各部品を分類してあります。基準を満たしている部分は維持し、構造的な完全性を失った部分は交換する方針です」


「いいわね。本当はまだ使えるものまで、無駄に廃棄する必要はないもの」


カリスタは表示を船尾側へと移動させた。


次に検査の焦点となったのは、ASTRAEAの二基の主機関だった。


診断画像を通して見ても、その損傷はすでに深刻だった。二基の外殻構造は元の形状を保っているものの、内部の複数箇所に重大な損傷が生じている。エネルギー分配経路の断絶、推進制御部分の変形、そして状態を確定できない重要部品がいくつも確認された。


カリスタは、そのうちの一つのモジュールを拡大した。


「……これは残せないわね」


「再利用可能な部分は見つかりましたか?」


「外装ケースの一部なら、取り付け位置の基準として使えるわ。接合部も、手作業で検査すれば救える可能性はある。でも、エンジンユニットそのものは駄目ね」


彼女は息を吐いた。


「主機関は二基とも交換する必要がある。いくつかの部品を取り替えるだけじゃないわよ、セラフィエル。新しいユニットを製造しなければならない」


「内部損傷の検出結果から、その可能性はすでに想定していました」


「どうしてまだ可能性なんて言い方をしているの? この部分を見なさい」


カリスタは、黒く変色したエネルギー経路を指差した。


「駆動コア周辺の素材は、熱にさらされたことで性質が変わっている。内部構造も、もはや当初の仕様を満たしていない。こんな状態のエンジンハウジングに新しい部品を取り付けても、問題を別の場所へ移すだけよ」


「理解しました」


「だから、通常の方法で修理しようとしないで。書類の上だけで完成したように見える仕事なんて、私は受け入れないわ。エンジンはハンガーに置いてあるときだけじゃなく、実際に稼働させたときにも耐えられなければ意味がないの」


セラフィエルはわずかに微笑んだ。


「その方針を生産システムに伝えておきます」


「お願いね」


カリスタは再びデータに目を向けた。


実のところ、ASTRAEAの初回検査を行ったときから、彼女の頭には一つの考えが浮かんでいた。


それは、この船のエンジン出力を向上させる可能性だった。船の性格そのものを変えてしまうような改修ではない。あくまで、元の構造と設計の範囲内で実現できる性能向上だ。


当時は、まだ判断を下せなかった。


残存しているエンジンの状態を考えれば、その変更にはあまりにも大きなリスクが伴っていたからだ。


だが、今は状況が違う。


「セラフィエル」


「はい?」


「以前、私が話したエンジン出力向上案の記録は、まだ残っている?」


「もちろんです。ASTRAEAの初期検査結果とともに保存してあります」


「よかった。もう一度見せてちょうだい」


セラフィエルが該当する文書を開く。


カリスタはしばらくその設計案を確認した後、現在のエンジンの状態と比較するため、画像を横に並べた。


「あのとき考えていたのは、船体構造が耐えられる範囲内での出力向上だけよ。エネルギー分配系統や船体の耐圧構造が追いつかないのに、エンジンの出力だけを上げても意味がないわ」


「その案を、今も進めるおつもりですか?」


「今から新しいエンジンを製造しなければならないんでしょう? だったら、古い仕様に合わせて製造してから、また分解するよりも、最初からその向上案を考慮した交換用ユニットを設計したほうがいいわ」


カリスタは画面上の一部分を軽く叩いた。


「ただし、勘違いしないで。ASTRAEAに過剰な出力を持たせるつもりはないわ。この船はドレッドノートじゃない。船の用途と構造に合った範囲で、必要な性能を向上させるだけよ」


「ASTRAEAの基本仕様を基準として維持します。承認された変更は、設計そのものの置き換えではなく、技術的な改訂として記録します」


「それでいいわ」


カリスタは一つの画面を閉じ、次のデータへと切り替えた。


兵装関連の項目だ。


彼女の表情が再び引き締まる。


「ここも、すべてをそのまま残すことはできないわね」


セラフィエルは、すでに検査を終えた複数のモジュールを表示した。


ASTRAEAには、建造当初から兵装が搭載されていた。この船は、護衛艦の防御に頼るだけの豪華なヨットではない。帝国家門の指揮艦として、独自の防御システムと兵装システムを備えていたのだ。


問題は、兵装システムに関係する部分のほぼすべてが損傷していることだった。


一部の制御モジュールは、もはや機能しない。兵装展開機構の機械部分にも変形が生じている。外見上は無事に見える部品でさえ、全面的な検査と交換を行わなければ使用できない状態だった。


「再び動作させること自体はできるわ。でも、損傷した古い部品を無理に残す方法ではやらない」


カリスタは技術設計図を表示した。


「元のブループリントは残っているんでしょう?」


「はい。ASTRAEAの設計データには、現在もアクセスできます。搭載されている兵装システムについても、当初の仕様と技術文書が保存されています」


「それなら、その設計に完全に合わせた交換ユニットを製造すればいい。古い部品が壊れたからといって、わざわざ新型を作る必要はないわ」


「その通りです」


「ただし、兵装の作業を主機関の製造と同時に始めるのはやめて。まずは船体構造とエネルギー分配系統の安定を確認する必要があるわ。電力網が安定していないのに、優秀な兵器を取り付けても意味がないもの」


「生産工程を分けて管理します」


カリスタは満足げに頷いた。


少なくとも、アストラ・フォージの仕事が不足することはなさそうだ。


エンジン部品、制御装置、エネルギー接続部、各種補助システムのモジュールに至るまで、製造しなければならない部品の数がどれほどになるか、彼女はすでに想像していた。


幸いにも、ASTRAEONにはこうした作業に対応できる内部生産施設がある。


「必要な部品を、全部外部市場で探す必要はないのよね?」


「必要ありません。アストラ・フォージで、検証済みの設計に基づいた船舶用部品を製造できます。精製や追加加工が必要な素材については、ディープスター・リファイナリーも利用可能です」


「それなら、互換性の問題も減らせるわね」


カリスタは再び二基の主機関を見つめた。


「異なるメーカーの部品を使えば、元の設計と特性が合うとは限らない。特に、これほどシステムが統合されている船ならなおさらよ。私は、明確に統一された基準に基づいて、すべてを製造するほうがいいわ」


「構造検査が完了した後、二基のエンジンユニットの生産データを準備します」


「お願い。ただし、最終設計を私が承認するまでは、量産を始めないで」


「承知しました」


その後、カリスタは視線を上へ向けた。


最初は、ハンガーの天井付近に設置されている支持装置の位置を確認しようとしただけだった。


しかし、そこで彼女の目に留まったのは、別の大きな構造物だった。


修復エリアの上部には、巨大な機械構造が広がっていた。


それは、巨大なスキャン装置のフレームのように見える。複数のレールがハンガーの構造に沿って伸び、その主要フレームには弧を描く形状のモジュールがいくつも取り付けられていた。さらに、独立して動作できるセンサー群のような装置も確認できる。


カリスタは目を細めた。


「ちょっと待って」


「何か問題でも?」


「あれは何?」


セラフィエルも彼女の視線を追った。


カリスタは頭上の巨大な構造物を指差す。


「その装置のことよ。ハンガーの天井に設置されている機械」


「ああ、あれですか」


「そういう返事だけで済ませないで。あれは何の装置なの?」


セラフィエルは落ち着いた様子で答えた。


「艦船規模の構造スキャナーです。メインハンガーの修復設備の一部にあたります」


カリスタは黙り込んだ。


そして、ゆっくりと彼女のほうを向いた。


「……待って」


「はい?」


「こんな大きな装置が、いつからここにあったの?」


「このハンガー施設が利用可能になったときからです」


「それで、私には一度も教えてくれなかったの?」


セラフィエルは一度だけ瞬きをした。


「これまでは、その装置を使用する必要がありませんでした。これまでの検査は、整備ドローンと局所診断センサーだけで完了できていましたので」


「その答えを聞いても、まったく気分がよくならないわね」


「隠すつもりはありませんでした」


「でも、結局教えてくれなかったじゃない」


セラフィエルはわずかに微笑んだ。


「覚えておきます」


「笑わないで。私は真面目に言っているのよ」


カリスタは再び装置を見上げた。


注意深く観察すればするほど、単なる追加センサーではないことが分かってくる。


巨大なフレームは、ハンガー内に収容された艦船全体を検査するために設計されている。通常の整備施設で扱う規模を大きく超える艦船であっても、対応できる構造だった。


「艦船規模のスキャナー……つまり、ドローンを一機ずつ動かして検査する必要もなく、ASTRAEA全体の構造を調べられるということ?」


「その通りです。装置は船体全体の構造をマッピングできます。センサーシステムが外部構造と、検査可能な内部領域の状態を読み取り、収集したデータに基づいて診断モデルを構築します」


「どうして最初から使わなかったの?」


「初期検査の目的は、ハンガー内で船体を安全に維持できる状態かどうかを確認し、危険な部分を隔離することでした。全面スキャンを行うには、事前準備とスキャン範囲の設定が必要です。そのため、技術担当者の承認を待っていました」


カリスタは両腕を組んだ。


「それなら、今ここで私が承認するわ」


「承知しました」


「起動して。ドローンでは届かない部分も含めて、船体の状態をすべて確認したいの」


セラフィエルは隣にあるパネルに触れた。


「分かりました。ASTRAEAの構造スキャンを起動します」


ハンガーの天井に設置された複数のインジケーターが点灯した。


最初は、一本の細い光がレールに沿って移動しただけだった。


やがてスキャンモジュールが動き始め、ASTRAEAの全長に合わせて位置を調整していく。それまで停止していたフレームが、滑らかな機械音を立てながら稼働を始めた。


カリスタは瞬きもせず、その様子を見つめていた。


「……なかなかいいじゃない」


スキャン光が船体上部をなぞり、ゆっくりと側面へ移動していく。いくつかの箇所では、整備ドローンが作業を中断し、安全な位置へと移動した。


メインディスプレイにASTRAEAの三次元モデルが表示される。


船体構造、内部フレーム、エネルギー網、推進システム、そして兵装モジュールが、順番に描画されていった。


カリスタは画面に近づいた。


「中央部分を拡大して。船体構造とエンジンハウジングの接合部を確認したいわ」


セラフィエルが表示を調整する。


「表示しました」


「ふむ……ここまで読み取れるのね」


カリスタはデータをいくつか操作し、その後、船の中枢システムからそれほど離れていない位置にあるモジュールのところで手を止めた。


「待って」


画像を拡大する。


「これは何?」


セラフィエルもスキャン結果に目を向けた。


検査が始まって以来、初めて彼女の表情にわずかな変化が生じた。


ASTRAEAの内部構造には、帝国軍の指揮艦で一般的に使用される標準的な演算装置とは異なる構成の処理モジュールが複数存在していた。


検出された演算能力も、同じクラスに分類される艦船が通常備えているものを、はるかに上回っている。


カリスタは首を傾げた。


「こんな構成、通常の帝国艦の仕様では見たことがないわ」


「その通りです」


「モジュールの大きさと、検出された演算能力が一致していない。ここにはもっと単純な構成が使われているはずよ。それなのに、どうして読み取った数値はこれほど高いの?」


セラフィエルはすぐには答えなかった。


データを拡大し、隣接する複数のモジュールと比較する。


「もう一度、検査結果を確認します。まだ全体を読み取れていない部分がいくつかあります」


「あなたにも分からないの?」


「結論を出すには、まだ十分なデータがありません」


カリスタは再び画面を見つめた。


「興味深いわね……つまり、この船には外部仕様書にも記載されていない何かが、まだ残されているということね」


セラフィエルは初期スキャン結果を保存した。


「この演算モジュールのデータは、エンジンや船体の修復報告とは分けて保存します。追加検査が終わる前に、異なる結論を混同するべきではありません」


「そうね。でも、この部分の読み取り結果はすべて欲しいわ。データを一つも見落とさないで」


「もちろんです」


カリスタはもう一度、ASTRAEAを見上げた。


この船は、まだ損傷したままだ。


二基の主機関は交換しなければならない。


兵装も再製造が必要だ。


一部のシステムは、まだ起動できない。


しかし、検査を続ければ続けるほど、彼女の好奇心を刺激する要素が増えていく。


そして今度は、単に修復すべき損傷だけが理由ではなかった。


### セラフィエル・ヴェロリア視点


ASTRAEAの構造スキャンが第二段階に入った頃、セラフィエルはカリスタの注意を引いた演算モジュールの検査結果を再確認していた。


彼女はハンガーのメインコンソール付近に立ち、透明なディスプレイに表示された王室艦の内部構造を見つめていた。


結果は、依然として同じ傾向を示している。


複数の演算モジュールが持つ処理能力は、ヴェルドラコン帝国の標準的な指揮艦に設定されている仕様を大幅に上回っていた。


これを単なる読み取りエラーだと考える理由はない。


しかし、セラフィエルも測定された処理能力だけを根拠に結論を出すつもりはなかった。


その構造は、損傷した船の複数のシステムと接続されている。中でも、コンピューティング・コアの一部は依然として損傷した状態だった。


「カリスタ」


「今度は何?」


「先ほど発見した演算モジュールの比較結果をお見せしたいと思います」


カリスタが再び近づいてくる。


「もう結果が出たの?」


「初期段階の結果です。スキャンデータを、ASTRAEONの技術アーカイブに保存されている帝国軍指揮艦の演算システム仕様と比較しました」


カリスタは画面を自分のほうへ引き寄せた。


複数の回路構成がはっきりと表示されている。


「確かに、普通じゃないわね」


「複数のモジュールが、この種の艦船に本来搭載される標準仕様を上回る処理能力を備えています」


「まさか、ブループリントの記載ミスなんて言うつもりじゃないでしょうね?」


「元の設計図を確認するまでは、そのような結論を出すつもりはありません」


カリスタはため息をついた。


「それならいいわ。私も、単なる記載ミスだとは思っていないもの」


彼女は一つの部分を拡大した。


「この構成を見て。処理部分とデータ分配経路が、ずっと複雑なアーキテクチャで構築されている。航行、防御、通信、艦内管理だけが目的なら、これほどの処理能力は必要ないわ」


「私も同意見です」


「でも、まだ全体の機能は分からない」


「その通りです」


セラフィエルは分析結果を保存した。


彼女には、そのモジュールの処理能力よりも、さらに懸念すべきことがあった。


ASTRAEAのコンピューティング・コアが、依然として損傷していることだ。


そして、その損傷は、いくつかの部品を交換したり、断絶した接続経路を修復したりするだけで解決できるようなものではなかった。


彼女は、より深い損傷が生じている部分を複数発見していた。反応しない構造、安定性を失った部分、そして機能をまだ検証できていないモジュールが存在している。


各部分の相互関係を理解しないまま復旧を進めれば、本来なら維持できたはずのシステムまで破損させる危険があった。


「カリスタ」


「ん?」


「コンピューティング・コアについてですが、修復は単純な部品交換では済まないことを、改めてお伝えしておきます」


カリスタは彼女を見た。


「その可能性は考えていたわ。さっきのスキャン結果でも、内部の一部がまったく反応していなかったもの」


「その通りです。該当部分の損傷は、より広範囲の演算構造に影響しています。目に見える損傷部品だけを交換しても、システムが安定して再稼働するとは限りません」


「つまり、最初にアーキテクチャ全体を理解する必要があるわけね」


「はい。各モジュールの接続関係を把握するため、私もマッピングを支援します。ただし、コアの状態を確認できるまでは、無理に起動させることはしません」


カリスタは片手を腰に当てた。


「分かったわ。今は船体構造と主機関の作業を優先しましょう。理解できていない部分があるからといって、そちらの作業まで止めるわけにはいかないもの」


「私も同じ考えです」


「それと、さっきの演算モジュールの結果は別に保存しておいて。物理的な検査が終わった後に、もう一度確認したいわ」


「すでにそのように処理しました」


セラフィエルは、もう一度画面に目を向けた。


あのモジュール群が、帝国軍指揮艦の標準システムの一部だとは言えない。


しかし、さらに踏み込んだ説明をするだけの根拠も、まだ持ち合わせていなかった。


検査を続ける必要がある。


### セラフィナ・ヴァルクレイン・ヴェルドラコン視点


ASTRAEAの検査が進行中だという連絡を受け、セラフィナはメインハンガーへ足を踏み入れた。


数歩進んだだけで、修復エリアに変化が生じていることが分かった。


複数の整備ドローンが船体周辺を移動している。いくつかの箇所には、まだ仮設の支持フレームが取り付けられており、これまで閉じられていたパネルも、より詳細な検査を行うために取り外されていた。


ASTRAEAは、依然として同じ場所に留まっている。


しかし、これまで自分の人生の一部だった船は、今や大規模な手術を受けている最中の人間のように見えた。


「カリスタ」


ドワーフの女性が振り返る。


「あら、セラフィナ。来たのね」


「進捗はどう?」


カリスタは作業用の布で手を拭いてから、近くの画面に検査結果を表示した。


「より詳細な初期検査は終わったわ。まだ維持できる部分もあるけれど、二基の主機関は予想以上に損傷がひどかった。修理で済ませるのは無理ね」


セラフィナは、二基のエンジンの画像を見つめた。


「ということは、まだ動かせないの?」


「ええ。今あるエンジンの使用は勧められないわ」


「修理する方法はないの?」


カリスタはしばらく彼女を見つめた。


「いくつかの部分を、再び使えるように見せかける方法ならある。でも、それとエンジンが本当に安全に動作することを保証するのは別の話よ。そんな危険を冒すつもりはないわ」


セラフィナは再び画面に目を向けた。


「つまり、交換する必要があるのね?」


「そうよ。新しいユニットを二基製造する。壊れた部品だけを交換するんじゃない。元の設計に基づいて、新しいエンジンそのものを作る必要があるわ。それに、構造的な損傷が生じているエンジンハウジングの一部も交換しなければならない」


「それは可能なの?」


「可能よ。ASTRAEONには船舶用部品を製造できる施設がある。ASTRAEAのブループリントを基準にして、必要な部品を製造できるわ」


セラフィナの表情が少し和らいだ。


「外部からエンジンを探してくる必要はないのね?」


「その必要はないわ。むしろ、すべての部品を同じ仕様に基づいて製造したほうがいい。接合部や各部品の特性が、船の設計に適合しているかどうかも、私が確認できるから」


カリスタはエンジンの表示を拡大した。


「それと、もう一つ話しておきたいことがあるの」


「何?」


「以前、エンジン出力の向上を検討したことがあったの。あのときは、元のエンジンを維持しなければならなかったから、推奨できなかった。でも今は二基とも交換する必要がある。だから、その調整を交換用エンジンの設計に組み込めるわ」


セラフィナは彼女を見た。


「その変更によって、ASTRAEAの性格が変わってしまうことはない?」


「ないわ。あなたの船を、まったく別の何かに作り変えるつもりはないもの。私が話している性能向上は、この船の構造、エネルギー分配能力、そして本来の用途の範囲内に収まるものよ」


「ASTRAEAの持つ本来の姿を失ってほしくないの」


その答えは、カリスタが予想していたよりも早く返ってきた。


セラフィナは少しだけ視線を落とす。


「この船は、ずっと前から私の家族の一部だった。私は、この船を修復したいの。名前だけが同じで、まったく別の船に置き換えたいわけじゃない」


カリスタは頷いた。


「分かったわ」


そして、船体構造の画像を指差す。


「だから、まだ使える部分はそのまま残す。深刻な損傷を受けた部分だけを、ブループリントに従って新しい部品に交換する。もっと近代的に見せるためだけに、船の基本形状や外観デザインを変えるつもりはないわ」


「ありがとう」


「まだお礼を言うのは早いわよ。仕事は山ほど残っているんだから」


セラフィナは小さく微笑んだ。


「分かっているわ」


彼女は続いて、兵装システムの表示に目を向けた。


「武装についてはどう? 以前、防御システムが設置されていた部分が、今は開放されているのを見たわ」


カリスタは画面を切り替えた。


「元の兵装システムも損傷しているわ。制御モジュール、ロック機構、展開機構の一部は再利用できない。まだ検査できる部分もあるけれど、いくつかは新しく製造する必要があるわね」


「以前と同じ状態に戻せるの?」


「元のブループリントが残っているから、当初の設計に従って作り直せるわ。適合しない兵器に置き換える必要はない」


「つまり、兵装も以前のASTRAEAと同じものになるのね?」


「そうよ。今はまず、船体構造と主機関の作業を終わらせたい。エネルギー網が安定してから、防御システムと兵装の作業に進むわ。今の段階で全部を取り付けても、船の基盤が本当に整っているか確認できないまま、作業量を増やすだけよ」


セラフィナは頷いた。


「賛成よ。あなたが最も安全だと考える順序で進めてちょうだい」


カリスタは満足げに微笑んだ。


「いい判断ね。あなたから直接その言葉を聞きたかったのよ」


セラフィナは、少し興味深そうに彼女を見た。


「まだ何か言っていないことがあるの?」


「ついさっき見つけた設備が一つあるのよ」


カリスタはハンガーの天井を指差した。


セラフィナも顔を上げた。


ASTRAEAの上方には、巨大な構造物が広がっていた。これまで気にも留めていなかったスキャンフレームが、今はゆっくりと動いている。その細い光が、船体をなぞるように走っていた。


「あれは何?」


「艦船規模の構造スキャナーよ。最初からこのハンガーに設置されていたらしいけれど、セラフィエルは一度も私に教えてくれなかったわ」


セラフィナは、少し離れた場所に立っているセラフィエルへと視線を向けた。


「セラフィエル?」


セラフィエルは穏やかに微笑んだ。


「隠していたわけではありません、セラフィナ。あの設備は、もともとメインハンガーの一部として設置されていました。ASTRAEAの全面検査を行う必要が生じたため、今回初めて使用することになったのです」


カリスタはため息をついた。


「私にも、まったく同じ説明をしたわ」


セラフィナは小さく微笑んだ。


「二人とも、ずいぶん長く一緒に仕事をしているのね」


「長すぎて、まだ教えてもらっていないことが他にもあるんじゃないかと疑い始めているわ」


「今後は、適切なタイミングで関連情報をお伝えするよう努めます」


「その言い方が、かえって心配になるのよ」


セラフィナは小さく笑った。


三人の間に流れる空気が、少しだけ和らいだ。


しかし、次のスキャン結果が表示されると、カリスタの注意は再び画面へと戻った。


彼女は、以前にも確認した部分を拡大する。


その表情が真剣なものへと変わった。


「セラフィエル」


「はい?」


「これが見える?」


「確認しています」


カリスタは船体内部にある複数のモジュールを指差した。


「この部分の処理能力……通常の帝国軍指揮艦の仕様をはるかに上回っているわ。ASTRAEAと同じクラスの艦船で一般的に使われているアーキテクチャとも一致しない」


セラフィナは二人を交互に見た。


「どういうこと?」


カリスタはすぐには答えなかった。


スキャンで読み取った数値に誤りがないか、改めてデータを確認する。


「まだ結論は出せないわ。でも、この複数のモジュールは、通常の艦船機能には必要ないはずの処理能力を備えている」


セラフィエルも画面を見つめた。


「私も同意見です。さらに詳しく調べる必要があります」


セラフィナは再びASTRAEAの画像を見た。


船には、まだ多くの損傷が残っている。主機関は交換が必要で、兵装も再製造しなければならない。コンピューティング・コアにも、特別な検査が必要だった。


しかし、それらの損傷の奥には、彼女たちがまだ完全には理解していない何かが存在している。


「それなら、慎重に調べてちょうだい」


セラフィナは、ようやく口を開いた。


「船の本当の状態を知りたいの。急がなくていいわ。修復を早く終わらせたいからといって、無理に何かを進めることだけはしないで」


カリスタは彼女を見た。


「そんなことはしないわ」


セラフィエルも頷いた。


「検査データがすべて保存され、正しく検証されるよう管理します」


セラフィナは、もう一度ASTRAEAを見つめた。


銀の灯を宿すその船は、まだ空へ戻る準備ができていない。


それでも、損傷した状態で発見されて以来、初めて、その復旧作業は明確な方向性を見せ始めていた。


そして、その船体内部に隠されていた演算モジュールの奥には、彼女たちがまだ知らないASTRAEAの一面が残されていた。


### 次回、第192話「眠っていた船の知性」


### 眠っていた船の知性


VOLUME 7 — ARC 3「ASTRAEA REPAIR PROJECT」


場所: ASTRAEON VELORIA — エンジニアリングデッキ 主要視点: セラフィエル・ヴェロリア → カリスタ・フェロ → セラフィナ・ヴァルクレイン・ヴェルドラコン


カリスタが、通常の指揮艦の仕様をはるかに超える処理能力を備えた複数のモジュールを発見したことで、ASTRAEAの演算モジュールに関する検査は引き続き行われることになった。


セラフィエルは、損傷したコンピューティング・コアの検査をカリスタとともに進め始める。しかし、一部の箇所は部品を交換するだけでは復旧できず、作業には慎重さが求められていた。


検査の最中、これまで反応を示さなかったシステムの一つが、活動の兆候を見せ始める。


それは、新しいAIを搭載したからではない。


ASTRAEAが建造された当初から存在していた、船そのものの知性が再び目覚め始めたのだ。


そして、古い識別システムに表示されたその名前は――


ネリア・ヴェラストラ。


セラフィナが、家族の船を長年守り続けてきたAIの声を聞くのは、このときが初めてだった。


【次回、第192話へ続く……】


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