↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ASTRAEON VELORIA――銀河を旅する自由傭兵――  作者: Ren Hazumi


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

190/192

【第189話】「護衛任務の初戦闘」

【第189話】「護衛任務の初戦闘」



状況:契約 Q-181-04 — 民間貨物船護衛/進行中 主要


視点:レア・ヴァレン → 星崎紬 → セラフィエル・ヴェロリア → 襲撃船の船長 → セラフィナ・ヴァルクレイン・ヴェルドラコン


### 視点:レア・ヴァレン


ASTRAEON VELORIAの格納庫は、作戦行動に向けた準備を整えていた。


発進通路に沿って設置された誘導灯が交互に点灯するなか、数機の整備ドローンがモバイルフレームの最終点検を進めている。鋼鉄のフレームの向こう側からロック機構の作動音が響き、換気システムの駆動音や、自動オペレーターたちが指示を受け取る短いやり取りと混ざり合っていた。


格納庫の中央では、ヴァルキリーが発進位置についていた。


レアは、そのモバイルフレームの脚部の横に立っていた。


彼女は片手を持ち上げ、しばらくの間、膝下の装甲にそっと手のひらを当てた。


「準備はいい?」


返事はない。


当然だ。


ヴァルキリーは人間ではない。


それでも、長い間使い続けてきたせいか、レアは時折、まるで仲間に声をかけるように機体へ話しかけてしまう。


「ようやく本物の仕事が戻ってきたわね。期待を裏切らないでよ?」


ヴァルキリーの後方では、一隻の支援艦が最終準備を進めていた。


VECTOR CALIPER — MCV-01。


この艦には独自の整備区域と支援設備が備わっている。ASTRAEONの外部システムから直接射出される偵察ドローンとは異なり、ベクター・キャリパーは独立したAI、航法システム、装備、兵装を備えた独立型の宇宙航行船だった。


もともと、レアとヴァルキリーの作戦行動を支援するために用意された艦である。


兵装と支援装備が適切な構成になっていることは、すでにカリスタが確認済みだった。ベクター・キャリパーの保有物資が、ASTRAEONの備蓄品と無造作に混ぜられることもない。


そして、レアはこの艦がとても気に入っていた。


「ベクター・キャリパー、こちらの状況は?」


格納庫内の通信システムを通じて、落ち着いた電子音声が返ってきた。


『作戦前点検はすべて完了しました。MCV-01は運用可能状態です。推進システム、ベクトル制御、独立航法、兵装、モバイルフレーム支援設備のすべてが点検を通過しています』


レアはにやりと笑った。


「いいわね。頼りにしてるわよ」


『了解しました、レア・ヴァレン』


彼女はそのままヴァルキリーのコックピットへ向かった。


本人確認が完了すると、コックピットハッチが開く。シートに腰を下ろしたレアは、身体を固定する安全装置を装着し、操作パネルに触れた。


画面が一つずつ点灯していく。


ヴァルキリー — 発進前診断


| 項目 | 状態 |

| ----------- | ------- |

| パイロット | レア・ヴァレン |

| フレーム状態 | 稼働中 |

| 構造健全性 | 100% |

| 主推進器 | 100% |

| 360度ベクターノズル | 稼働中 |

| プラズマキャノン | 稼働中 |

| 独立冷却システム | 正常 |

| 軽量ミサイルランチャー | 稼働中 |

| 装甲健全性 | 100% |

| 機動補助 | 稼働中 |

| 戦闘制御 | 手動 |

| 任務 | 護送船団防衛 |


レアは指を動かした。


操作感は軽く、反応も良好だった。


「ヴァルキリー、許可が下りたら出発よ」


『レア』


セラフィエルの声が通信回線から聞こえてきた。


『目標は、護送船団から武装艦を引き離すことです。貨物船の防衛ラインを越えて追跡しないようにしてください』


「分かってる。置いていったりしないわ」


『支援艦の構成データも送信済みです。ベクター・キャリパーは近距離支援を担当し、ヴァルキリーの制御を奪うことはありません』


レアは支援艦の表示に目を向けた。


「誰も私の仕事を取り上げてなんて頼んでないわよ」


『二つの機体が互いの動作を妨げないよう、確認しているだけです』


「はいはい。あなたって、本当に念入りに注意してくれるわね」


彼女は小さく笑った。


だが、その直後、紬の声が通信に割り込んできた。


『レア』


「なあに、紬?」


『あの船が動き始めた。あまり時間がない。発進準備を進めてくれ』


レアの笑顔が消えた。


「了解。ヴァルキリー、出撃準備完了」


『本当の戦闘だからといって、無理はしないように』


レアはコックピットの外部映像に目を向けた。


「心配しないで。みんなと一緒に夕食を食べるために、ちゃんと帰ってくるつもりだから」


『それはいい。必ず戻ってきてくれ』


「ふふっ。もちろんよ」


ベクター・キャリパーの発進ハッチが開いた。


レアの目の前に、広大な宇宙が広がる。


大気はない。


爆発音が直接耳に届くこともない。


そこにあるのは星々の光と、移動する宇宙船、そして今まさに戦場になろうとしている交易航路だけだった。


「ベクター・キャリパー、行くわよ!」


『MCV-01、了解。係留解除を開始します』


支援艦が先に動き出した。


それから間もなく、ヴァルキリーも発進設備から滑り出し、ベクター・キャリパーの側面に近い位置へと移動した。


レアはモバイルフレームを操りながら、速度と距離を調整する。


「こうして一緒に仕事をするのも久しぶりね」


『支援態勢の準備を確認しました。ヴァルキリーの位置に追従します』


「それなら、置いていかれないようにね」


『私が遅れる理由はありません』


レアは笑った。


「いい返事ね!」


### 視点:星崎紬


「つまり、レアを一人で戦わせるつもりなのか?」


俺はセラフィナのほうを向いた。


俺たちはコマンドデッキにいた。メインスクリーンには、格納庫を離れたばかりのヴァルキリーとベクター・キャリパーが、指定された位置へ向かって移動する様子が映し出されている。


「いや。ベクター・キャリパーが同行する」


「その支援艦が?」


「そうだ」


「実際に動いているところを見るのは初めてだな」


「それも無理はない。この艦の設備がすべて乗客に公開されているわけじゃないからな」


セラフィナは視線を逸らさなかった。


「本当にモバイルフレームを支援するために造られたのか?」


「主な役割の一つだ。ベクター・キャリパーには独自のAIと支援設備があり、偵察ドローンとは異なる戦闘能力も備わっている。レアはヴァルキリーと一緒に、あの艦を運用しているんだ」


「つまり、二つで一つの戦力として活動しているわけか」


「だいたいそんなところだ」


俺はもう一度スクリーンに目を向けた。


先ほどから護送船団を追跡していた偵察船は、依然として商業航路の外側に位置している。


その一方で、三隻の武装艦が待機位置から移動を始めていた。


もはや、単に距離を保っているだけではない。


三隻とも、護送船団に向けて進路を取り始めていた。


「セラフィエル」


『はい、紬』


「全艦の位置を表示してくれ」


『承知しました』


戦術マップが表示される。


三隻の貨物船は隊列を維持していた。先頭にファー・ランタン、その後ろにラティス・メア、さらにコッパー・メリディアンが続いている。


ASTRAEONはその外側に位置し、ベクター・キャリパーとヴァルキリーは敵の接近方向により近い位置へ移動していた。


赤いマーカーが三つ表示される。


敵性接触 — 武装艦三隻


追加接触: 未確認偵察船 識別状況: 確認中 行動意図: 敵対行動の可能性大


俺は目を細めた。


「本当に護送船団へ近づいてきたな」


通信コンソールの近くにはランが立っていた。


「貨物船の所有者には、すでに連絡済みよ。警告を伝えて、隊列を維持するよう指示してあるわ」


『ファー・ランタン、指示を受領しました』


アーヴェン・ドレイルの声が通信回線から聞こえてきた。


『速度を維持しています。あの船は本当に我々のほうへ向かっているのでしょうか?』


ランが落ち着いた声で答える。


『はい。こちらで防衛態勢を整えています。連携なしに進路を変更しないでください』


続いて、サエリス・ヴェイの声が聞こえた。


『ラティス・メア、了解しました。ファー・ランタンの位置に追従します』


コルドレン・バールも確認を入れる。


『コッパー・メリディアン、指示を了解しました。乗組員はそれぞれ配置についています』


俺は三つの赤いマーカーを見つめた。


「セラフィエル、状況は?」


『三隻の武装艦は、それぞれ異なる接近経路を取っています。一隻目はファー・ランタンの側面へ向かっています。二隻目はラティス・メアを狙い、三隻目はコッパー・メリディアンの後方へ回り込もうとしています』


「船団を分断するつもりか」


『その可能性が高いです。先ほどから続いている通信妨害も、一部の主要通信回線で継続しています』


「貨物船を引き離させるな」


『了解しました』


セラフィナが俺を見た。


「どうするつもりだ?」


「貨物船が防衛範囲から外れないようにする」


「襲撃してきた船は?」


「攻撃能力を止める。必要がなければ、すべて破壊するつもりはない」


俺はヴァルキリーのマーカーへ視線を移した。


「レアには、船団の側面へ接近する敵艦を担当してもらう」


「では、ASTRAEONは?」


「俺が艦の位置を調整する」


セラフィナは外部映像に映るASTRAEONの船体を見つめた。


全長8600メートルの巨艦は、依然としてラグジュアリーモードの外観を維持している。砲塔は一つも姿を現していない。ミサイル発射装置も展開されていない。戦闘態勢への移行を示す兆候は何も見られなかった。


俺は彼女に目を向けた。


「セラフィナ、一つ提案がある」


「何だ?」


「もう少し近い場所から、ベクター・キャリパーの作戦行動を見てみないか?」


セラフィナはわずかに驚いた表情を見せた。


「それは……あの艦に乗るということか?」


「そうだ」


「もうすぐ戦闘が始まるのではないか?」


「ベクター・キャリパーは戦闘支援艦だ。保護された観測区画と、安全装置付きの旅客用シートがある。モバイルフレームのコックピットに入らなくても、レアとあの艦がどう連携しているのか見られる」


セラフィナは黙り込んだ。


そして、再び移動中の支援艦を見つめた。


「本当に安全なのか?」


「責任を持てないことを提案するつもりはない。ベクター・キャリパーはASTRAEONの防衛指揮下に置く。セラフィエルも位置を監視する」


『通信の保護と両艦の連携については、私が確認できます。ただし、戦闘状況に伴う危険を完全に取り除くことはできません』


セラフィナはゆっくりと頷いた。


「分かった」


再び俺を見る。


「それなら、見てみたい。画面越しに護衛の理論を理解するだけではなく、実際の運用を確かめたい」


「分かった。一緒に来てくれ」


ランがこちらを振り向いた。


「紬、私は貨物船の所有者との通信を引き続き担当するわ」


「船の位置は俺に任せてくれ」


「私の事務処理が面倒になるような機動はしないでよ」


「そんなつもりはない」


「約束として受け取っておくわ」


セラフィナが小さく微笑んだ。


「ラン、状況を見てから戻る」


「分かりました、セラフィナ。ベクター・キャリパーの乗組員の指示には従ってくださいね」


「もちろんだ」


俺たちはコマンドデッキを後にし、艦内通路を通ってメインハンガーへ向かった。


紬の認証が完了すると、ベクター・キャリパーの格納施設の扉が開いた。


支援艦は、まだ発進可能な状態を保っていた。船体側面の表示灯が自動点検に合わせて動いている。先ほどまで艦の周辺にいた整備ドローンは作業を終え、それぞれの作業経路へ戻っていた。


セラフィナは入り口から数歩離れた場所で立ち止まった。


「大きさは……」


「ASTRAEONほどではないな」


「分かっている。そういう意味ではない。支援艦がこんな形をしているとは思わなかった」


ベクター・キャリパーのシルエットは、母艦と比べてよりコンパクトにまとまっていた。モバイルフレームにも、一般的な小型宇宙機にも似ていない。宇宙空間での運用を支えるために設計された船体構造で、機関部やいくつかの装備パネルは民間船とは明らかに異なる形状をしていた。


船体側面には、VECTOR CALIPER MCV-01の識別表示がはっきりと記されている。


「ベクター・キャリパーへようこそ」


艦内通信システムから、AIの声が響いた。


『搭乗者の識別情報を受信しました。セラフィナ・ヴァルクレイン・ヴェルドラコン。登録状態:星崎紬艦長の限定許可を受けた招待客』


セラフィナは眉を上げた。


「この艦は私の身元を識別できるのか?」


「識別システムには、セラフィエルから認証情報が送られている」


『ようこそ、セラフィナ。ご乗艦中の快適性と安全をお守りいたします』


「ありがとう」


俺はセラフィナを観測区画へ案内した。


「何も操作する必要はない。座って、安全装置を装着して、景色を楽しんでくれ」


「分かった」


ASTRAEONへ戻る前に、俺は一度だけ振り返った。


「何か不快に感じることがあったら、すぐにこの艦のAIに知らせてくれ」


セラフィナは頷いた。


「分かった。気をつけて、紬」


「君もな」


俺はベクター・キャリパーのシステムに彼女を任せ、コマンドデッキへ続く通路に戻った。


それから間もなく、支援艦の状態表示が切り替わった。


VECTOR CALIPER MCV-01 — 発進確認。


### 視点:セラフィエル・ヴェロリア


セラフィエルは、四つの情報レイヤーを同時に監視していた。


第一のレイヤーには、護送船団に所属するすべての艦の位置が表示されている。


第二のレイヤーには、三隻の武装艦が接近する経路が映し出されていた。


第三のレイヤーには、依然として妨害を受けている通信データが表示されている。


第四のレイヤーには、ヴァルキリーとベクター・キャリパーの連携状況が示されていた。


通信妨害は、さらに強まっていた。


しかし、貨物船の航行制御は依然として正常に機能している。


「主要通信回線の品質が、ファー・ランタンで27パーセント、ラティス・メアで31パーセント低下しています」


ランはその報告に耳を傾けた。


「二隻とも、予備回線は使えるの?」


「はい。位置情報と機動確認の送信は、引き続き可能です」


「よかった。契約に関する通信と戦術用通信が混ざらないようにして」


「すでに分離しています」


セラフィエルは、護送船団に接近している一隻目の武装艦を拡大表示した。


「紬、敵の主力艦がファー・ランタンの位置を照準に捉えています。前部兵装システムの放射が増加しています」


『確認している』


「警告射撃、あるいは最初の攻撃を行う可能性があります」


『護送船団の防護を開始してくれ』


「了解しました」


セラフィエルは、許可された運用範囲に従い、外部防護設定を作動させた。


ASTRAEONの船体には、目立った変化は起きない。


ラグジュアリーモードは維持されたままだった。


その一方で、ベクター・キャリパーはすでにヴァルキリーの随伴位置へ到達していた。


「MCV-01は適切な支援距離を確保しています」


航法席に残っていたヴェスペラが、航跡予測を確認する。


「ヴァルキリーを支援するには十分近いけれど、モバイルフレームの動きを妨げるほど接近してはいないわね」


「そのとおりです。ベクター・キャリパーには独自の機動経路があります。艦のAIは、レアの位置に合わせて進路を調整しています」


ヴェスペラは表示を拡大した。


「普通の護衛艦とは、動き方が違うのね」


「役割が、護送船団の防衛ラインを形成することではないからです。モバイルフレームの作戦行動を支援し、必要に応じて別の位置を確保できます」


ヴェスペラは薄く微笑んだ。


「レアがあの支援をどう使うのか、見てみたいわね」


セラフィエルは、武装艦のうち一隻に注意を戻した。


「発砲を確認」


光の線がファー・ランタンの前方を横切った。


その攻撃が貨物船の船体に命中することはなかった。しかし、警告システムが作動するには十分な距離だった。


『ファー・ランタンからASTRAEON VELORIAへ! たった今、攻撃を受けました!』


ランが即座に応答する。


「ファー・ランタン、隊列を維持してください。急な機動は避けてください。護衛艦が脅威に対処しています」


『了解しました!』


セラフィエルは襲撃船の表示を拡大した。


「最初の射撃は、意図的に外したものと思われます。ただし、次の攻撃角度から判断すると、貨物船の推進システムを照準に捉えようとする可能性があります」


紬が指示を出した。


『レア、迎撃を開始してくれ。次の射撃距離に入る前に、あの艦を止めるんだ』


『ヴァルキリー、了解!』


レアはすぐに行動を開始した。


モバイルフレームは360度ベクターノズルを使い、襲撃船へ向けて一気に加速する。


その一方で、ベクター・キャリパーも位置を変更し始めた。


そして、その動きは普通ではなかった。


「紬」


セラフィエルが艦内通信で呼びかけた。


『どうした?』


「ベクター・キャリパーが移動パターンを変更しています」


「レアが何かしたのか?」


「いいえ。MCV-01が自律機動を行っています」


ヴェスペラは別の画面を見つめていた。


「船体の向きを変えているけれど、移動ベクトルが船体の向きに追従していないわ」


「そのとおりです」


ベクター・キャリパーは船体を傾けながら、複数の軸で同時に推進方向を変更していた。


船全体を減速させるのではなく、主たる慣性を維持したまま、推力成分を切り替えて横方向へ位置を移していく。


船体が横へ滑る。


続いて、回転する。


他の艦から見れば、まるでベクター・キャリパーが真空の宇宙空間でドリフトしているかのような動きだった。


「これは……」


ヴェスペラは、わずかに目を見開いた。


艦は制御を失っていない。


むしろ、その逆だった。


主たる移動方向を維持しながら船体の向きを回転させ、さらにベクトル補正を加えて射撃経路から離脱していた。


二発目の射撃が、その後方を通り過ぎる。


三発目も、数秒前までベクター・キャリパーがいた場所を空しく薙いだ。


「とても無駄のない機動ですね」


セラフィエルはデータを拡大した。


「ベクトル制御システムと慣性補償システムが連携しています。航跡の安定性を失うことなく、船体の向きと推力方向を変更しています」


ヴェスペラは次の機動を見つめた。


「まるで踊っているみたい……」


ベクター・キャリパーが再び回転した。


今度は船体後部を外側へ向けている。それでも、移動方向は斜めの航跡を維持していた。


機関部が一瞬だけ光を放つ。


その直後、艦は何かに触れる前からそれを避けたかのように、反対側へ滑るように移動した。


「単なる方向転換ではありませんね」


セラフィエルが答える。


「そのとおりです。MCV-01はすでに持っている運動量を利用しながら、推力ベクトルを変更して機動空間を最大限に活用しています」


ヴェスペラは小さく微笑んだ。


「どうしてあの艦がレアの支援艦なのか、少し分かってきたわ」


セラフィエルはヴァルキリーに注意を戻した。


レアはすでにモバイルフレームを、襲撃船とファー・ランタンの間に配置していた。


「ヴァルキリー、迎撃位置に到達」


『レア、敵艦が進路を変えています』


『見えてるわ!』


レアはヴァルキリーを横へ引いた。


弾幕がその脇を通り過ぎる。


彼女はベクターノズルを利用してモバイルフレームの姿勢を回転させ、襲撃船の死角へ向けて短時間の加速を行った。


『遅いわよ!』


ヴァルキリーがプラズマキャノンを構える。


一発の光弾が放たれた。


狙ったのは艦の中枢ではない。ファー・ランタンを攻撃するために使用されたばかりの兵装モジュールだった。


敵艦の側面に小さな爆発が起きる。


前部兵装システムは安定性を失い、射撃を停止した。


「正確な射撃です。一隻目の前部兵装システムに損傷を確認」


ヴェスペラが画面を見つめた。


「レアは船を破壊しなかった。攻撃に使われたシステムを一つ止めただけね」


「紬の指示に沿った行動です」


しかし、残る二隻が動き始めた。


ヴァルキリーが一隻目に注意を向けている隙を利用しようとしている。


「二隻目がラティス・メアへ向かっています」


セラフィエルはすぐにマップを拡大した。


「三隻目も進路を変更しています。護送船団の後方を通り抜けようとしています」


『紬、二隻とも隊列を分断しようとしています』


「ヴェスペラ、機動経路を準備してくれ。セラフィエル、貨物船を安全な側に維持してくれ」


『了解』


セラフィエルは、航法システムへデータを送信した。


紬はASTRAEONの位置を変更するつもりだった。


そして、その機動はベクター・キャリパーのものよりも、はるかに大規模なものになる。


### 視点:星崎紬


「ヴェスペラ、航路の状況は?」


『外側に十分な空間があるわ。ただし、あまり急激に位置をずらすと、二隻の貨物船が安全距離を失う』


「貨物船にこちらの動きへ合わせさせるな。俺が動く」


『了解』


俺はマップを見た。


三隻の襲撃船が、三方向から護送船団へ接近しようとしている。


一隻目はレアによって兵装システムの一つを失った。二隻目はラティス・メアを狙い、三隻目はコッパー・メリディアンの後方へ回り込もうとしている。


あいつらは、貨物船なら簡単に引き離せると思っているらしい。


残念ながら、一つだけ考慮していないことがある。


ASTRAEONは普通の護衛艦ではない。


「セラフィエル」


『はい、紬』


「主推進器とベクター推進器を調整してくれ。護送船団の外側へ移動する。ラグジュアリーモードは変更するな」


『了解しました。艦長、大規模な横方向への機動を実行してもよろしいでしょうか?』


「ああ。段階的に行ってくれ。貨物船がこちらの推進流の影響を受けないように」


『安全な航跡を計算します』


俺はコンソールに触れた。


「始めよう」


ASTRAEONが動き出す。


最初は、艦の位置がほんの少し変わったように感じられただけだった。


しかし、その後、メインスクリーンに映る景色全体が動き始めた。


全長8600メートルの巨艦は、突然回転することはなかった。船体全体が一度の衝撃で方向を変えるような、乱暴な動きもない。


代わりに、機関の推力が複数の方向へ振り分けられていく。


一つのベクトルが、主たる慣性を維持する。


別のベクトルが、横方向の位置を補正する。


そして慣性制御システムが、艦全体の構造安定性を保っていた。


ASTRAEONが横へ滑り始める。


その動きによって、巨艦はまったく異なる規模のドリフトを行っているように見えた。


惑星表面の乗り物が行う、小さなドリフトとは違う。


真空の宇宙空間で、船体の向きを精密に制御し、運動量を維持したまま艦全体を横へ移動させているのだ。


「……いいな」


ヴェスペラが航法表示に目を向けた。


『紬、二隻目との距離が縮まり始めているわ』


「分かっている」


俺は襲撃船の進行方向を注視した。


あいつらは、これほど大規模な横移動を予想していなかったらしい。


二隻目は再びラティス・メアへ照準を合わせようと、攻撃角度を変更し始めた。しかし、それまで開いていた進路は、今やASTRAEONの船体によって塞がれている。


「射線を失ったな」


「そのとおりね」


俺は三隻目へ視線を移した。


「セラフィエル、コッパー・メリディアンの後方へ兵装を向けさせるな」


『防御迎撃態勢を設定済みです』


「ヴェスペラ、あちらが距離を維持できるよう支援してくれ」


『分かったわ』


ASTRAEONは横方向への移動を続ける。


船首は依然として主航路を向いている。その一方で、船体側面が外側へ移動していた。その動きによって、襲撃船と三隻の貨物船の間に、巨大な障壁が生まれていく。


主兵装を展開する必要はない。


戦闘モードを起動する必要もない。


ただ、艦の機動能力を利用するだけだ。


「これで、あの方向から貨物船に接近することはできない」


通信回線からランの声が聞こえた。


「紬、ラティス・メアから攻撃圧力が弱まったと報告があったわ。ただし、三隻目はまだコッパー・メリディアンに照準を合わせようとしている」


「レア、聞こえるか?」


『聞こえてるわ! 三隻目は私に任せるってこと?』


「貨物船を撃たせるな」


『了解!』


俺はヴァルキリーとベクター・キャリパーの位置を確認した。


二隻は非常に優れた連携を見せていた。


ベクター・キャリパーが二隻目の射線を遮る。


ヴァルキリーは、その隙を利用して襲撃船の外側へ移動する。


だが、今度は敵艦が戦術を変えてきた。


ベクター・キャリパーに向けて、弾幕が放たれた。


「レア、ベクター・キャリパーが攻撃を受ける!」


『見えてるわ!』


支援艦は、すぐに距離を取ることはしなかった。


代わりに、再び船体の向きを変更する。


機関部が短い推力を放つ。


艦は中央軸を中心に回転し、斜めに傾きながら弾幕の間をすり抜けた。


一発は上方を通過する。


二発は下方を横切った。


次の一発は後部側面に命中する寸前だったが、ベクター・キャリパーは最後の瞬間に進路を補正した。


勢いを失うことなく、射撃経路から滑るように離脱する。


セラフィナは、きっと艦内からこの光景を見ているのだろう。


俺は薄く笑った。


「面白い経験をしているみたいだな」


ランが応じる。


「景色を楽しみすぎないでよ、紬。三隻目がまだ残っているわ」


「分かっている」


俺は再び画面を見た。


敵の主力艦は、まだファー・ランタンに向けて兵装を動かそうとしていた。


前部兵装システムが損傷していても、別の攻撃装備が残っている。


「セラフィエル。主力艦の兵装制御モジュールを特定してくれ」


『解析を開始しています』


「レア、あの艦の外側から動きを抑えてくれ。艦首付近に長く接近しないように」


『了解』


続いて、残り二隻を見る。


「二隻目と三隻目も……貨物船へ近づけるな。無理に接近を続けるなら、兵装システムを停止させろ」


『了解しました』


護送船団から遠く離れた場所まで、敵艦を追いかける理由はない。


俺たちの目的は、三隻の貨物船を守ることだ。


そして、貨物船が安全である限り、俺たちは彼らを危険にさらさない距離で戦闘を制御する。


### 視点:セラフィエル・ヴェロリア


セラフィエルは、必要な解析結果を得ていた。


敵の主力艦は、中程度の性能を持つ電子システムを使用しており、複数の通信回線を妨害する能力を備えている。その装置は、他の艦との照準や連携を管理するシステムに統合されている可能性が高かった。


しかし、ASTRAEONが位置を変更してから、襲撃船三隻の連携は次第に乱れ始めている。


主力艦は射線を失った。


二隻目は、現在ベクター・キャリパーが監視している経路を通らなければ、ラティス・メアへ接近できない。


三隻目の前には、コッパー・メリディアンとの間に割り込んだヴァルキリーがいる。


「紬、主力艦に通信制御モジュールを確認しました」


「それが妨害の発生源か?」


「放射パターンは、以前の観測で確認した発生源と一致しています。ただし、妨害装置のすべてが一つのモジュールに集約されているかどうかは、まだ確認できていません」


「何ができる?」


「これまでに取得した放射データを利用し、電子的な連携処理を限定的に妨害できます。敵艦のシステム全体を乗っ取ることは試みません」


「必要な範囲で実行してくれ」


『了解しました』


ファントム・クラウンは、許可された解析と介入の範囲内で作動した。


敵のシステム全体が突然ASTRAEONの支配下に置かれるようなことはない。


セラフィエルが行ったのは、攻撃を連携させるために使われている通信経路への限定的な妨害だけだった。


数秒後、敵艦同士の通信に遅延が発生し始めた。


「敵集団の連携能力が低下しています」


ヴェスペラがデータを確認する。


「もう同時に動けなくなっているわね」


「そのとおりです。二隻目は主力艦からの指示を待っています。三隻目は独自に位置を調整しようとしています」


紬が指示を出した。


『ヴァルキリー、今だ!』


『了解!』


レアがモバイルフレームを動かした。


ヴァルキリーは三隻目の側面へ向かって一気に加速する。


敵艦から一発の砲弾が放たれたが、レアはモバイルフレームの身体を傾け、360度ベクターノズルを使って移動ベクトルを変更した。


攻撃は外れる。


ヴァルキリーが回転する。


プラズマキャノンが発光した。


一発の射撃が、三隻目の兵装システムの外側に命中する。


保護装甲が剥がれ落ちる。


兵装モジュールが停止した。


「三隻目は主兵装による射撃能力を喪失しました」


紬が状況を確認する。


「レアの状態は?」


「ヴァルキリーに損傷はありません」


「よし」


セラフィエルは続いて二隻目へ注意を向けた。


ベクター・キャリパーは、その外側に位置している。


支援艦は突然、船体の向きを変えた。


主たる航跡に大きな変化はない。しかし、船体が鋭く回転し、前後の位置が入れ替わったように見えるほどだった。


その後、推力が横方向へ向けられる。


ベクター・キャリパーは斜めの航跡を描いて滑るように進んだ。


二隻目から放たれた射撃は、先ほどまで支援艦がいた位置を通り過ぎた。


『ベクター・キャリパー、機動成功』


支援艦のAIの声が、独立した通信回線に響く。


『ベクトル制御、安定。兵装システム、発射準備完了』


レアはにやりと笑った。


『いいわね! その位置を維持して!』


ベクター・キャリパーが、一部の兵装システムを展開した。


船体側面に二つの発光点が現れる。


セラフィエルは照準結果を確認した。


「紬、ベクター・キャリパーが支援射撃を実行します」


「艦の中枢を狙わないように」


「了解しました」


支援艦が精密射撃を放った。


二本のエネルギー光線が走る。


一発目は、ヴァルキリーに向かっていた敵の砲弾の進路を断ち切った。


二発目は、二隻目の兵装制御システムを直撃する。


大規模な爆発は起きなかった。


船体外側で一瞬の閃光が走り、その後、敵の兵装システムは電力を失った。


「二隻目も射撃能力を喪失しました」


紬は画面を見つめた。


「まだ移動はできるか?」


「はい。三隻すべての主機関は正常に動作しています。ただし、攻撃能力は大幅に低下しました」


「それなら、あとは主力艦だけだな」


セラフィエルは表示を拡大した。


敵の主力艦は、まだその位置を維持していた。しかし、今や三つの脅威に同時に対処しなければならない。


ASTRAEONが射線を遮っている。


ヴァルキリーが外側に位置している。


ベクター・キャリパーは、襲撃船の機動空間を自由に移動していた。


「紬、主力艦が兵装システムの再充填を始めています」


「レア、撃たせるな」


『もう位置についているわ!』


ヴァルキリーが動く。


しかし、主力艦は船体の向きを変え、モバイルフレームを進路から押し出そうとした。


弾幕が放たれる。


レアは下方へ回避した。


ベクター・キャリパーは、その上方を動く。


支援艦は斜めに滑るように進み、回転し、敵の射線の前方を横切った。


セラフィエルはデータを注視した。


「MCV-01は、連続したドリフト機動を実行しています」


ヴェスペラが頷く。


「無駄な動きが一つもないわね。最初の運動量を利用して位置を変え、次の航跡に備えて推力方向を変更している」


「そのとおりです。この能力によって、従来型の航跡予測に依存する敵の照準システムでは、捕捉が困難になります」


紬が微笑んだ。


「レアはきっと気に入っているだろうな」


「私もそう思います」


敵の主力艦は、ついに照準をヴァルキリーからベクター・キャリパーへ変更しようとした。


しかし、その動きは遅すぎた。


すでにヴァルキリーが迎撃位置についている。


『紬、チャンスよ!』


「前部兵装モジュールを狙え」


『喜んで!』


レアはヴァルキリーを外側へ向けた。


プラズマ弾が一発放たれる。


続いて、もう一発。


一発目が兵装モジュールの保護装甲を損傷させる。


二発目が射撃システムの電力接続部に命中した。


主力艦の前部にある光が明滅する。


そして、消えた。


「敵主力艦の主兵装システムが機能を停止しました」


セラフィエルは監視を続けた。


「襲撃船三隻は、これ以上接近を続けるために必要な攻撃能力を失っています」


紬が頷く。


「警告を送ってくれ。すべての攻撃行動を停止し、兵装出力を下げるよう要求する」


『実行します』


セラフィエルは外部通信回線を開いた。


『民間護送船団への接近に関与した、すべての武装艦へ通達します。攻撃を停止してください。兵装システムを停止し、その場で位置を維持してください。貨物船への接近を試みた場合、継続的な脅威として扱います』


数秒間、返答はなかった。


やがて、一つの声が聞こえてきた。


『……こちら主力艦。ASTRAEON VELORIAへ。攻撃を停止する。これ以上撃たないでくれ』


セラフィエルは通信回線の識別結果を表示した。


「敵艦が兵装出力を下げ始めました」


紬は画面を注視する。


「監視を解除するな」


「もちろんです」


### 視点:襲撃船の船長 — ヴェイダン・ラスク


ヴェイダン・ラスクは、44歳のヒューマンの男性だった。自分を愚かな戦闘員だと思ったことは一度もない。


彼は十年以上にわたって武装艦を指揮してきた。


国家の軍人としてではない。


正式な艦隊の一員としてでもない。


金を支払える相手から仕事を請け負う、独立船の船長にすぎなかった。


そして、今回の仕事は簡単に思えた。


三隻の貨物船による輸送を妨害する。


通信を混乱させる。


相手を停止させるか、別の航路へ迂回させる。


船を破壊する必要はない。


乗組員を殺す必要もない。


貨物を奪う必要もない。


ただ、輸送を遅らせればいい。


「船長!」


戦術コンソールから、ネリス・タルの声が聞こえた。


31歳のヒューマンの女性である彼女は、グリムウェイクの通信担当であり、電子戦装置の操作も受け持っていた。


「何だ?」


「前部兵装システムがまだ復旧していません。電力制御モジュールが損傷しています」


ヴェイダンは画面を見つめた。


「復旧までどのくらいかかる?」


「分かりません。エネルギー配電システムにも異常が発生しています」


「くそっ」


彼は外部映像を見た。


先ほどまで護送船団の外側にいた巨大な護衛艦が、今は常識外れの位置取りで移動している。


最初、ヴェイダンはASTRAEONを、動きが鈍くなるほど巨大な、ただ豪華なだけの個人所有船だと思っていた。


だが、その船は今しがた、船体全体を横へ移動させながら、主要な向きを維持してみせた。


グリムウェイクの攻撃経路を遮るために、兵装システムを展開する必要さえなかったのだ。


「あの船は……」


ネリスが振り向く。


「船長?」


「公開されている分類は何だ?」


「超高級長距離個人用宇宙船。ASTRAEON VELORIAです」


「まさか、あんな動きができる豪華客船だと言いたいのか?」


ネリスは答えなかった。


彼女自身も、つい先ほど目の前で起きたことを理解しようとしている最中だったからだ。


センサー表示が変化する。


右舷側の航路付近に、小型艦が一隻現れた。


『高速接触を確認!』


ヴェイダンは画面を見た。


ベクター・キャリパー。


その船は、ASTRAEONとは異なる動きをしていた。


船体は一定の方向を維持していない。


斜めに滑り、回転し、突然推力ベクトルを変える。


こちらの二隻目が放った射撃は外れた。


「何だ、あれは?」


「支援艦です。MCV-01」


「どんな支援艦なら、あんな動きができるんだ?」


ネリスがデータを動かした。


「十分な仕様情報を見つけられません。こちらからアクセスできる公開ネットワークには、登録情報も表示されていません」


ヴェイダンはさらに長く画面を見つめた。


そして、支援艦の近くを移動するモバイルフレームに気づく。


ヴァルキリー。


あの機体は、無闇に接近しているわけではない。


ベクター・キャリパーの位置変更を利用して隙を探り、標的が有利な角度に入ったときだけ攻撃している。


「くそ……」


ヴェイダンは身体をシートに預けた。


「あいつらは普通の護衛じゃない」


ネリスが彼を見る。


「船長、撤退するべきでしょうか?」


ヴェイダンはすぐには答えなかった。


彼は残り二隻を確認する。


ブラック・シルトは前部兵装システムを失っていた。


セーブル・カレントも、効果的な射撃ができない状態にある。


そしてグリムウェイクは、主照準モジュールを失っていた。


「外部に連絡しろ」


ネリスは送信回線を開こうとした。


数秒後、彼女は首を横に振った。


「中継地点への送信回線に障害が発生しています。メッセージが届いたかどうか、確認できません」


ヴェイダンは拳を握った。


「こちらの通信まで混乱しているのか?」


「その可能性が高いです」


「こちらのシステムに何が起きている?」


「妨害が護衛艦から発生しているのか、それとも私たちが使用している装置自体が原因なのか、まだ特定できていません」


ヴェイダンは、笑いともつかない短い息を漏らした。


「俺たちは三隻の貨物船の輸送を遅らせるために雇われたんだ。あんな巨艦と戦うためじゃない」


ネリスが彼を見た。


「船長、こんな能力を持つ護衛艦がいるなんて、事前に聞いていませんでした」


「分かっている」


彼は再び画面に目を向けた。


ヴァルキリーは、まだこちらが安全に攻撃できる距離の外にいる。


ベクター・キャリパーも離れていない。


その一方で、ASTRAEON VELORIAは三隻の貨物船を守れる位置を維持していた。


「あいつらは、その気になれば俺たちを破壊できる」


ネリスは唾を飲み込んだ。


「はい」


「だが、そうしていない」


「そのとおりです」


ヴェイダンは通信パネルへ目を向けた。


彼には、相手の意図が分かった。


こちらに停止する機会を与えているのだ。


それでも抵抗を続ければ、結果はもっと悪いものになるかもしれない。


「全兵装を下げろ。残り二隻にも同じ指示を伝えろ」


「船長……」


「今すぐだ!」


ネリスは公開通信回線を開いた。


『ブラック・シルト、セーブル・カレント。攻撃を停止しろ。すべての兵装システムを下げる。現在位置を維持し、攻撃的な機動を行うな』


数秒が過ぎる。


『ブラック・シルト、了解』


『セーブル・カレント、了解』


ヴェイダンは長い息を吐いた。


約束された仕事は、輸送を遅らせるだけのはずだった。


しかし、実際に彼らが相手にしていたのは、経験の浅い民間護衛艦などではなかった。


そして今、彼は自分の乗組員全員を無事にこの状況から脱出させる方法を考えなければならなかった。


### 視点:セラフィナ・ヴァルクレイン・ヴェルドラコン


セラフィナは、ベクター・キャリパーの観測区画に座っていた。


安全装置は身体にしっかりと固定されている。目の前の観測スクリーンには、複数の外部カメラが捉えた宇宙空間の映像が映し出されていた。


ヴァルキリーが見える。


十分に離れた後方には、ASTRAEONの姿も確認できた。


しかし、彼女の注意を最も引きつけていたのは、自分が乗っているこの艦だった。


ベクター・キャリパーが、もう一度機動を行う。


艦は回転しながら横へ移動した。船室の中に激しい振動は伝わってこない。慣性制御システムが安定性を保つ一方、スクリーンの視点は素早く切り替わっていた。


セラフィナは座席の背もたれを握った。


「……素晴らしいな」


艦のAIの声が聞こえた。


『セラフィナ、体調に問題はありませんか?』


「問題ない。少し驚いただけだ」


『現在の航行状態は安全範囲内です』


セラフィナは小さく微笑んだ。


「私が知っている船とは、まったく違うな」


『ベクター・キャリパーは母艦およびモバイルフレーム周辺での作戦支援を目的として設計されています。機動システムは、位置の維持、方向転換、作戦支援を行うために最適化されています』


「少しずつ理解できてきた」


彼女は再びスクリーンを見つめた。


レアはヴァルキリーの内部にいる。


モバイルフレームは軽快に動き、ベクターノズルを使って、大きな旋回を必要とせずに進行方向を変更していた。


その近くを、ベクター・キャリパーが移動している。


二つの機体は、互いに位置を調整しながら動いていた。


無駄な動きがない。


どちらかが、もう一方の役割を奪おうとすることもない。


レアは好機があれば攻撃する。


レアが支援を必要とする位置にいるときは、ベクター・キャリパーが補助する。


そして敵艦が射撃を試みると、支援艦は攻撃が外れるような機動で航跡を変える。


セラフィナは外部映像を見つめた。


「なるほど……ああやって連携しているのか」


彼女は艦隊の訓練を見たことがある。


戦闘シミュレーションを指揮したこともある。


軍艦が護衛機動を行う場面も目にしてきた。


しかし、ベクター・キャリパーのように動く支援艦を見たことはなかった。


その動きは、あまりにも自由だった。


まるで真空の宇宙空間で踊っているかのようだ。


大気の抵抗はない。


空気との摩擦もない。


あるのは運動量、推力の変更、そして極めて精密な方向制御だけだった。


「ベクター・キャリパーのAI」


『はい、セラフィナ』


「先ほどの機動は……エンジンの向きを変えていたのか?」


『そのとおりです。推進システムは、複数の軸に対して独立して推力を向けることができます。艦は一部の運動量を維持しながら、補正推力を用いて位置と姿勢を変更します』


「つまり、攻撃を避けるたびに、移動方向全体を変える必要はないということか」


『そのとおりです』


セラフィナはベクター・キャリパーを見つめた。


「とても興味深いな」


艦は再び動き始めた。


今度は、より大きな航跡を描く。


船体を傾け、推力方向を変更し、それから敵艦の外側へ滑るように移動した。


船体に射撃が命中することはない。


数発の砲弾が接近しても、ベクター・キャリパーはそのすべてを回避していた。


セラフィナは続いてASTRAEONを見た。


巨艦も、同じような機動を行っていた。ただし、その規模ははるかに大きい。


数千メートルにも及ぶ船体が、ゆっくりと、しかし確実に横へ移動し、襲撃船と護送船団の間で位置を変えていく。


急旋回ではない。


乱暴な動きでもない。


ASTRAEONは、驚くほど滑らかに横へ滑りながら、安定性を保ち、三隻の貨物船を守るための障壁を形成していた。


セラフィナは黙り込んだ。


「紬は、本当に自分の船を自在に操っているんだな……」


彼女は通信画面を見た。


「ベクター・キャリパー、ASTRAEONと通信したい」


『通信回線を利用できます』


セラフィナはパネルに触れた。


『紬、こちらはセラフィナだ』


すぐに返事が届いた。


『どうした?』


「ベクター・キャリパーの機動を見た。それから、先ほどのASTRAEONの機動もな」


『どうだった?』


セラフィナは微笑んだ。


「ASTRAEONほどの大きさの艦が、あんな横方向への移動を行えるとは思わなかった。ドリフトのように見えるのに、とても安定していたな」


『位置を変えるために、急旋回する必要はない。推力の方向と運動量を制御できれば、船体全体を移動方向に合わせて無理に向けなくても、位置をずらすことができる』


「なるほど」


彼女は少し間を置いた。


「それに、ベクター・キャリパーは……」


『レアはきっと楽しんでいるだろうな』


セラフィナは小さく笑った。


「ああ。想像できる」


『画面に夢中になりすぎないように。安全装置がきちんと装着されているか確認してくれ』


「分かっている」


『よし』


通信が終了した。


セラフィナは再びスクリーンを見つめた。


外では、レアが最後の機動を行っていた。


ヴァルキリーが敵主力艦の側面へ移動し、その兵装システムに向けて精密射撃を放つ。


大規模な爆発は起きない。


艦が真っ二つに割れることもない。


ただ一瞬の閃光が走り、その後、敵艦の兵装システムは停止した。


セラフィナはその結果を見つめた。


三隻の襲撃船は、攻撃的な移動を停止し始めていた。


その一方で、ASTRAEONは依然として護送船団の防衛位置を維持している。


「あの船たちを破壊しようとしているわけではないんだな……」


彼女は戦闘情報を確認した。


ベクター・キャリパーがレアを支援した。


ヴァルキリーは三隻目を阻止した。


ASTRAEONは敵の攻撃経路を貨物船から引き離した。


そしてセラフィエルが、防衛と通信の連携を管理した。


誰か一人だけが行動していたわけではない。


それこそが、セラフィナにとって最も興味深いことだった。


軍の世界では、彼女は軍艦や艦隊、指揮系統という形で力を目にすることが多かった。


しかし、ここで彼女が目にしたのは、複雑な指揮構造を必要とせず、それぞれが自分の役割を果たす小さなチームだった。


彼らの自由は、規則もなく動くという意味ではない。


むしろ、互いの限界と能力を正確に理解しているからこそ成り立っている。


それから間もなく、襲撃船のうち一隻から通信回線が開かれた。


『ASTRAEON VELORIAへ……こちらはすべての攻撃行動を停止しました。これ以上の射撃を行わないよう要求します』


セラフィナは画面に目を向けた。


息を切らした男の声が聞こえてくる。


『我々は貨物船を破壊するつもりはなかった。ただ……』


通信が一瞬途切れた。


その後、同じ回線から別の声が聞こえてきた。


『船長、こんな仕事を引き受けるべきではなかったんです! 聞いていた話では、一件の輸送を遅らせるだけだったのに!』


セラフィナは眉をひそめた。


『黙れ!』


船長の怒鳴り声が響いた。


しかし、もう遅かった。


その発言は、ASTRAEONが録音している公開通信回線に記録されてしまった。


セラフィナは、より真剣な表情で画面を見つめる。


「つまり、彼らはこの輸送を妨害するために金を受け取っていたのか?」


通信回線を通して、紬の返答が届いた。


『今の発言からは、そう考えられる。ただし、誰が彼らに金を払ったのか、そして仕事の本当の目的が何なのかは、まだ分かっていない』


「彼らを拘束するのか?」


『まずは状況を確保する。その後、管轄権を持つ当局に引き渡す』


セラフィナは頷いた。


「分かった」


彼女は再びスクリーンを見つめた。


ベクター・キャリパーは、ASTRAEONの随伴位置へ戻り始めていた。


ヴァルキリーも動きを止め、襲撃船から距離を取って警戒を続けている。


セラフィナは長く息を吐いた。


ASTRAEONと共に旅を始めてから、彼女が初めて目にした戦闘が、ようやく終わったのだ。


そして今、彼女は一つのことを理解した。


艦の強さは、どれだけ大きな砲を持っているか、あるいはどれほど強固な防御を備えているかだけで決まるものではない。


時には、適切な瞬間に位置を変え、距離を維持し、戦うことのできない者たちを守る能力こそが、作戦の結果を大きく左右する。


彼女は小さく微笑んだ。


「紬……」


今回は通信を送らなかった。


ただ窓の外に見える巨大な艦を見つめていた。


ASTRAEON VELORIAは、護衛位置へ戻っていた。


三隻の貨物船は、すべて無事だった。


レアとベクター・キャリパーも、運用可能な状態で戻ってきている。


死傷者の報告はない。


しかし、新たな疑問が一つ浮かび上がっていた。


ネレイド工業コロニーへ向かう輸送を妨害するために、誰が武装艦へ報酬を支払ったのか?


そして、この貨物輸送がそれほど重要であるために、誰かが武装艦を雇ってまで到着を阻止しようとした理由は何なのか?


### 戦闘状況 — 契約 Q-181-04


戦術交戦報告書


| 項目 | 結果 |

| ----------------- | ------------ |

| 任務 | 民間貨物船護衛 |

| 敵艦 | 武装艦3隻+偵察船1隻 |

| 敵主力艦 | 兵装システム停止 |

| 敵第二艦 | 主兵装システム停止 |

| 敵第三艦 | 主兵装システム停止 |

| ヴァルキリー | 稼働中 |

| ベクター・キャリパー MCV-01 | 稼働中 |

| ASTRAEON VELORIA | 船体に目視可能な損傷なし |

| ASTRAEON戦闘モード | 未起動 |

| 主兵装 | 未使用 |

| 貨物損失 | 報告なし |

| 民間人死傷者 | 報告なし |

| 敵対行動 | 停止 |

| 敵艦 | 監視中 |

| 契約状況 | 進行中 |


### 次回、第190話「報酬と追加情報」


### 報酬と追加情報


場所:商業航路 → ネレイド工業コロニー 視点:ラン → 紬 → セラフィナ


武装艦が攻撃を停止した後、ASTRAEON VELORIAはファー・ランタン、ラティス・メア、コッパー・メリディアンの護衛を再開し、ネレイド工業コロニーへ向かった。


ランは通信妨害の記録、襲撃船の損傷状況、そして貨物がすべて無事であることを示す証拠を含め、契約の実施報告書をまとめ始める。


紬は、襲撃者たちが護送船団にとって脅威ではなくなったことを確認する。彼らは目的地への到着後、宇宙警察へ引き渡される予定だった。


その一方で、セラフィナはベクター・キャリパーから目撃したばかりの戦闘について考え続けていた。


一見すると単純な護衛任務だったはずが、彼らを重要な情報へと導いた。


襲撃船の乗組員の一人は、特定の輸送を妨害するためだけに雇われたと口を滑らせた。


しかし、彼らを雇ったのは誰なのか?


そして、なぜ誰かがネレイド工業コロニーへの貨物の到着を遅らせようとしているのか?


【次回、第190話へ続く……】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。