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ASTRAEON VELORIA――銀河を旅する自由傭兵――  作者: Ren Hazumi


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【第183話】「戦姫、整備区画で学ぶ」

【第183話】「戦姫、整備区画で学ぶ」



場所: ASTRAEON VELORIA — メインハンガー → VRアリーナ 主要

視点: カリスタ・フェロ → セラフィナ・ヴァルクレイン・ヴェルドラコン → レア・ヴァレン


### 視点:カリスタ・フェロ


メインハンガーの中では、機械音が絶え間なく響いていた。


整備ドローンの一機が垂直レールに沿って移動し、検査用スキャナーを運んでいる。その行き先は、検査用スタンドに固定されたモバイルフレームの肩部だった。


その下では、別の二機が装甲パネルの交換作業を終えようとしている。さらに数本の自動作業アームが、アクチュエーターの接合部を調整していた。


床面に沿って配置されたインジケーターライトが、規則正しいパターンで点灯している。


ASTRAEONのメインハンガーは、誰でも自由に立ち入れる場所ではない。


整備区画、モバイルフレームの移送経路、ドローンの作業区域には、それぞれ独立したアクセス制限が設けられている。乗組員であっても、特定の区域に入る際には安全手順を守らなければならない。


別に、私は禁止事項を増やすのが好きなわけじゃない。


ただ、自信過剰になった誰かが、うっかり手を失うような事態を避けたいだけだ。


「M-17、右膝関節のスキャンを停止。内側から再実行して。前回の結果は表面反射の影響を受けすぎている」


一機のドローンが位置を変更する。


「指示を受領。スキャンを再実行します」


「結果をそのまま最終検査として送らないこと。手動確認が必要な箇所には、必ずフラグを立てて」


「了解しました」


端末に表示されたスキャン結果の投影画面へ目を向ける。


大きな問題はない。


ただし、その接合部については、機体の使用可能判定を出す前に、もう一度確認する必要があった。


ハンガーの反対側では、ASTRAEA OF THE SILVER LANTERNが、確保された修理区域にまだ留まっている。数機のドローンが船体の作業に取りかかり、別の機体は以前損傷した内部コンポーネントを担当していた。


修理はまだ終わっていない。


一部のインジケーターが正常に戻ったからといって、船全体が運用可能になったなどと判断するつもりはなかった。


「カリスタ」


背後から聞こえた声に振り返る。


セラフィナが安全ラインから数歩離れたところに立っていた。


暗い銀色の髪が、ハンガーの照明を受けてわずかに輝いている。身につけているのは、ASTRAEONで生活するために用意された普段着だった。初めて会ったときのような、帝国の正式な軍服ではない。


私は彼女に軽く頷いた。


「時間どおりね。まだランと一緒にいるかと思っていたわ」


「ランは事務手続きをいくつか片づけています。先ほど、レアからカリスタと一緒に検査を見学してもいいと言われました」


「なるほどね」


彼女の手首にあるターミナル用ブレスレットを確認する。


アクセス登録は済んでいた。


今日、彼女に許可されているのは、モバイルフレームの検査工程と、承認済みの整備システムの一部を見学することだ。


だからといって、制御パネルを開いたり、許可なくコンポーネントに触れたりしていいわけではない。


「始める前に、いくつか理解しておいてもらいたいことがあるわ」


「安全手順についてですか?」


「いいわね。前に説明したことを覚えているようで安心したわ」


私は床に引かれた色付きのラインを指差した。


「黄色のラインは作業区域の境界。インジケーターが点灯している間は、絶対に越えないこと。青色のラインは機体の移送経路よ。モバイルフレームが動いているように見えなくても、そこには立ち入らないで」


セラフィナは目を落とし、床の表示を確かめた。


「赤いラインは?」


「危険区域。昇降アームの可動範囲だったり、エネルギー放出経路だったり、試験中の装置がある場所だったりするわ。赤いランプが点灯しているときは、近くで見たいからという理由で入ろうとしないこと」


「つまり、色は単なる床の目印ではなく、区域の状態を示しているのですね」


「そのとおり。それと、ドローンがあなたにぶつかる直前で必ず停止してくれるなんて考えないこと。あれらは与えられた座標と手順に従って動いているの。経路を理解しておかなければならないのは、私たち人間のほうよ」


セラフィナは真剣な顔で頷いた。


「分かりました」


私は彼女を連れて、ハンガー中央寄りに設置されたモバイルフレームの検査用スタンドへ向かった。


そこには、訓練用の機体が一機、停止状態で立っていた。内部コンポーネントを確認できるよう、外装の一部が取り外されている。武装は一切装着されていなかった。


「これが基本説明に使う機体よ」


セラフィナはその姿を観察する。


「遠くから見たときに想像していたよりも大きいですね」


「モバイルフレームの大半は、全高八メートルから二十五メートルの範囲に収まるわ。正確なサイズは役割や設計によって異なる。この機体はASTRAEONが保有する中で最大というわけでもないわ」


「パイロットが搭乗する前には、どのような検査を行うのですか?」


なかなかいい質問だ。


「項目は多いわ。でも、一度に全部を覚えようとしなくていい。まずは基本から始めましょう」


私は携帯端末に図面を表示した。


「これが主フレーム。肩、腰、膝、足首の接合部に注目して。パイロットから見れば、どれも動作を構成する部位にすぎないかもしれない。でも、整備士にとっては、それぞれの接合部に維持すべき荷重限界と許容誤差があるの」


「戦闘中に接合部のどこかが損傷した場合は?」


「損傷の程度によるわ。センサーの不具合だけなら、動作に制限をかけたうえで、機体を動かし続けられる場合もある。ただし、メインアクチュエーターや支持フレームが損傷しているなら、無理に動かし続けることで、最初は小さかった損傷が致命的な故障に発展する可能性がある」


セラフィナは図面に目を向けたまま答えた。


「つまり、戦闘続行の命令を出すときも、機体そのものの状態を考慮しなければならないのですね」


「そういうこと。パイロットは機械じゃない。モバイルフレームだって、限界なしに酷使できる道具ではないわ」


私は表示を別の部位へ切り替えた。


「ここがエネルギー配電経路。それから冷却システム、センサー、動作制御装置、通信接続部がある。検査は順番に進めるの。一か所で警告が出たからといって、画面をきれいに戻したいだけの理由で通知を消したりはしない。問題の発生源を突き止める必要があるわ」


「検査はすべてドローンが行うのですか?」


「繰り返し作業の大部分は手伝ってもらっているわ。スキャン、測定、表面検査、承認済みのコンポーネント交換までね。でも、機体を安全に使用できるかどうかの最終判断には、必ず検証が必要よ」


私は検査を終えたばかりのドローンに目を向けた。


「ドローンは、ある部位が許容範囲内にあると報告できる。でも、私がその結果に疑問を感じたら、自分で確認するわ」


「検査結果だけでは、全体の状態まで説明できない場合があるからですか?」


「そのとおり。データは正しく読み取らなければならない。機械の故障が、必ずしも一つの数値にはっきり表れるとは限らないのよ」


セラフィナはわずかに微笑んだ。


「軍隊の作戦準備検査に似ていますね」


「共通する部分はあるわね」


「司令官も、すべての部隊が出撃可能という報告だけを見るべきではありません。報告内容が実際の状況と一致しているか、確かめなければなりませんから」


私は少しの間、彼女を見つめた。


「少なくとも、その点は理解しているようね」


「以前、戦力準備状況の報告が現場の状態を反映していない状況を経験しました。それ以来、慎重に確認するようにしています」


口調に変化はなかったが、その返答の裏にあるものを感じ取った。


彼女は本で戦術を学んだだけの人間ではない。


作戦を指揮した経験があるからこそ、小さな報告ミスが戦闘開始後にどれほど大きな問題へ発展するのかを理解しているのだろう。


「それじゃあ、次は損傷発生時の手順に進みましょう」


私は端末に図解を表示した。


画面には、左腕と右脚が損傷箇所として示されたモバイルフレームの図が映し出される。


「例えば、機体が作戦行動中に損傷したとする。パイロットはどうすべき?」


セラフィナは図を観察した。


「損傷を悪化させる動作を停止し、状態検査を起動する。その後、機体の使用が安全でなくなった場合は、避難手順に従うべきです」


「いい答えね。でも、まだ足りないわ」


「エネルギー供給源の切り離しですか?」


「そう。特に電力経路の損傷が疑われる場合は重要よ。稼働中の接続部には触れないこと。緊急脱出システムが利用可能なら、手順どおりに使用すること。それから、圧力がかかっている箇所や構造的な破損が発生している部分を、無理に開こうとしてはいけないわ」


私はコックピットの画像を拡大した。


「もう一つ。損傷した機体からパイロットが脱出するとき、落下する可能性のある部位の真下に立たせないこと。救助ドローンが機体の位置を安全に固定してから、脱出を支援するわ」


「つまり、パイロットの救助とモバイルフレームの安全確保は、連携して進めなければならない二つの工程なのですね」


「そのとおり。最優先は人命よ。パイロットを犠牲にしてまで、機械を救おうとしてはいけない」


セラフィナはしばらく黙り、それから頷いた。


「覚えておきます」


私は彼女の回答に満足していた。


まだモバイルフレーム工学を理解しているとは言えない。けれど、少なくとも整備という仕事を、機械に任せておけばいいだけの些細な作業だとは考えていないようだった。


「それじゃあ、目の前の機体を見て。今表示されている検査結果から、どの部分を最初に確認するべきか指摘してみて」


私は初期検査の結果を表示した。


セラフィナは安全ラインの外側にとどまったまま、画面に近づく。


「右肩の接合部と、頭部のセンサー経路です。最初のスキャンと二回目の結果に差があります」


「いいわね。では、どうする?」


「その差がスキャナーの位置によるものなのか、コンポーネント自体の状態によるものなのかを確認します。コンポーネントに原因があるなら、機体の使用可能判定を出す前に検査を続ける必要があります」


私は頷いた。


「少なくとも、いきなり全部交換しようとは言わなかったわね。ここに来た何人かより、よほどいい判断よ」


「本当にそんなことをする人がいるのですか?」


「思い出したくもないくらいにはね」


セラフィナが小さく笑った。


「私はそんなことはしません」


「それなら結構。その姿勢を忘れないで」


ハンガーの奥では、自動作業アームが装甲パネルを保管用スタンドへ移動させていた。


セラフィナはその動きを目で追っている。


「カリスタ、ASTRAEAについて聞いてもいいですか?」


いつか聞かれるだろうとは思っていた。


「どうぞ」


「修理の進捗はどうなっていますか?」


私は修理区域に留まっている船へ視線を向けた。


「優先順位に従って作業を進めているわ。安全性や運用適性に影響する損傷から先に対処している。コンポーネントによっては、安全だと判断するまでに何度か検査を繰り返す必要があるわね」


「主機二基も、まだ修理中ですか?」


「ええ。検査に合格していないシステムを再装着するつもりはないわ」


セラフィナはしばらくASTRAEAを見つめていた。


「以前にも説明してもらったことは分かっています。ただ、毎日あの船を見ていると、自分でも進捗を確認したくなってしまって」


「気にする必要はないわ。それはあなたの家族の船なんでしょう。進捗が気になるのは当然よ」


「ありがとうございます」


私は図面をメイン画面へ戻した。


「ただし、私たちが修理できるからといって、すべてがすぐに終わると思わないこと。ASTRAEAには独自の設計と技術基準がある。作業を早く終わらせたいからといって、システムを勝手に変更するつもりはないわ」


「そんなことは頼みません。乗組員の安全は、時間よりも大切ですから」


「それならよかった。すべての船主がそう考えてくれたら、私の仕事もずっと楽になるのにね」


「船主とよく言い争うのですか?」


「自分の持ち物をまともに整備しない人となら、もっとよく言い争うわ」


「それは、ずいぶん疲れそうな問題ですね」


「あなたには想像もつかないくらい疲れるわよ」


セラフィナが微笑む。


開始してから初めて、彼女の表情が本当に穏やかに見えた。


軍の査察に訪れた皇女のように立っているのではなく、自分の住まいをもっと知りたいと思っている一人の乗客のようだった。


私は説明を続けようとしたが、そのときハンガーの出入口から、足早に近づいてくる足音が聞こえた。


「遅れた?」


訓練用の服を着たレアが、パーソナル端末を手に現れた。頭の上にある狐耳が、私たちの様子をうかがうようにわずかに動く。


私は眉をひそめた。


「いいえ。でも、私の説明が終わる前にコンポーネントに触り始めたら、警告を受けるには遅すぎたことになるわね」


「カリスタ、まだ近づいてもいないんだけど」


「あなたのことをよく知っているからこそよ」


レアは笑った。


セラフィナが彼女へ顔を向ける。


「レアも、私に教えてくれるのですか?」


「もちろん。カリスタの説明を聞いたあと、セラフィナがどれくらい理解しているのか確かめてみたいからね」


「必要のない競争にしないでよ」


「まだ何も言ってないでしょ?」


「顔がすでに何かを企んでいるわ」


レアは降参するように両手を上げた。


「分かった、分かった。ただ、技術検査とパイロットの準備を区別できるか見てみたいだけ。それだけよ」


私は鼻を鳴らした。


「それなら、ドローンの作業を邪魔しないことね」


「分かってるって」


私は数秒ほど彼女を見つめた。


「そうだといいけど」


### 視点:セラフィナ・ヴァルクレイン・ヴェルドラコン


ASTRAEONのメインハンガーには、興味深いところがあった。


これまで私が訪れた王立艦隊の格納庫とは、まるで違う。


軍艦では、整備作業は通常、より大きな作業単位ごとに分担されている。整備士、オペレーター、支援要員は、それぞれの責任に従って動く。


しかしASTRAEONでは、物理的な作業の大部分を、中央制御で連携するドローンが担当していた。


互いに衝突することはない。


作業経路を塞ぐこともない。


そして、コンポーネントを移動させる必要が生じるたびに、その経路が非常に綿密に計算されていることが伝わってくる。


それでも、カリスタはすべてを監視していた。


システムからの報告を待っているだけではない。時折、自分でスキャン結果を確認し、ドローンの位置を変更したり、結果に疑問があれば再検査を指示したりしている。


彼女が許可なくコンポーネントに触れる人間に厳しい理由が、少し分かった気がした。


「どう?」


レアが尋ねてきた。


私は彼女に目を向ける。


「何についてですか?」


「カリスタの説明。モバイルフレームの検査なんて、単なる整備士の仕事だと思っていた?」


私は微笑んだ。


「いいえ。整備が見た目以上に複雑だということは認めます」


「よし」


レアは満足そうだった。


しかし、すぐに別の検査用スタンドに置かれたモバイルフレームを指差す。


「あれを見て」


私は彼女の指先を追った。


「ヴァルキリーですか?」


「そう。私の機体」


ヴァルキリーは待機状態で立っていた。


細身の機体で、機動性と戦闘能力のバランスを重視したプロポーションをしている。数機のドローンが脚部と背部の接合部を検査していた。


「ここに持ち込んで検査しているのですか?」


「もちろん。戦闘がないからって、定期検査を省くわけにはいかないでしょ」


「以前、あなたが戦っているところを見ました。かなり高い機動性でしたね」


レアはにやりと笑った。


「覚えていてくれたんだ?」


「あれほど速く戦場を動き回るモバイルフレームを、忘れるのは難しいです」


「確かにね。ヴァルキリーは操縦していて楽しい機体だから」


すぐ近くにいたカリスタが、間髪入れずに口を挟んだ。


「あなたが楽しいと言えるのは、戦闘が終わったあとに損傷箇所を修理するのが私じゃないからよ」


「そこまで壊してないでしょ」


「回避できたはずの装甲損傷をつけて帰ってきたことがあったわよね」


「あれは状況が違ったの」


「『状況が違った』なんて言葉を聞くたびに、交換しなきゃいけない部品が見つかるのよ」


私は二人のやり取りを見ながら、笑みをこらえた。


二人の間に形式的な距離はない。


肩書きも、過剰な敬意も、ぎこちなさも見られなかった。カリスタが小言を言っても、レアはすでに慣れているといった表情で言い返している。


やがて、レアが再び私へ顔を向けた。


「セラフィナはモバイルフレームを操縦したことがある?」


「直接はありません。部隊の連携システムや配置については学んだことがありますが、主力パイロットとしてではありません」


「つまり、司令部から指示を出すことのほうが多かった?」


「そうですね。戦闘や陣形については理解していますが、自分をモバイルフレームのパイロットと呼ぶことはできません」


「問題ないよ。どちらにも、それぞれ違う能力が必要だから」


レアは腕を組んだ。


「パイロットは、機体がどう動作に反応するかを理解していなければならない。敵の位置だけを考えていても駄目。距離、慣性、アクチュエーターの限界、攻撃角度、それに自分の機体の状態も把握する必要がある。そうしないと、書類上では優れた命令でも、パイロットには実行不可能なんてことになりかねないからね」


私は頷いた。


「同感です。司令官は、自分の指揮下にある部隊の能力と限界を理解していなければなりません」


「うん。それが聞きたかった」


私はヴァルキリーへ視線を向けた。


「ただし、艦長が機械のボルト一本一本まで把握する必要はないでしょう。そこには、それを専門に担当する技術要員がいるのですから」


レアは笑った。


「もちろん。でも、何が最も重要なのかを知らなかったら、報告された技術情報が妥当かどうか、どうやって判断するの?」


「すべてのボルトを知る必要はありません。どの部分が損傷すれば艦が動けなくなるのか。それさえ分かっていれば十分です」


「司令官としては、なかなかいい考え方だね」


「私を試しているように聞こえますが」


「少しだけね」


端末を確認していたカリスタが、すぐに顔を上げた。


「二人とも、まだ問題の本質を理解していないわね」


私とレアは彼女に顔を向けた。


「どういう意味ですか?」


カリスタはため息をついた。


「機械の限界を理解していない人間は、よく問題の原因になるということよ。警告が出ているのにモバイルフレームを動かし続けるパイロットは、自分の機体を壊しかねない。技術報告を無視する司令官は、部隊全体の戦闘能力を失わせる可能性がある。どちらも同じくらい厄介なの」


レアが自分を指差した。


「私は技術報告を無視したことなんてないよ」


「あなたの名前を出しているわけじゃない」


「でも、こっちを見ているじゃない」


「目の前に立っているからよ」


思わず、小さく笑ってしまった。


レアは再び私へ向き直る。


「それじゃあ、セラフィナ。興味があるのはモバイルフレームの操縦? それとも、司令官として戦闘を指揮すること?」


「どちらにも興味があります。でも、まずは基本から学びたいです」


「それなら、一緒に訓練できるよ」


「ここでですか?」


「ハンガーじゃないよ。この船にはVRアリーナがあるから。実際のモバイルフレームを動かさなくても、シミュレーションで訓練できるの」


「VRアリーナ?」


レアは楽しそうに頷いた。


「モバイルフレームのパイロット訓練から戦術シミュレーション、艦隊戦の訓練までできる場所だよ。戦場で機体がどう動くのか、陣形がどう変化するのか、指揮官の判断が戦闘結果にどう影響するのかを学べる」


「つまり、本物のコックピットに座る必要はないのですね?」


「もちろん。まずはシミュレーションから始めるよ。司令官として訓練したいなら、司令部の視点からシナリオを設定できる。パイロットを試したいなら、基礎訓練プログラムもあるよ」


私は興味を引かれ始めていた。


「とても役に立ちそうですね」


「実際に役立つよ。紬もあの施設を使えるしね」


「紬が?」


「そう。実は紬もモバイルフレームで戦えるんだ。本人専用の機体を一機持っていて、その戦闘能力はヴァルキリーを上回っているくらいだよ」


私は言葉を失った。


レアは、まるで大したことではないかのように、何気ない口調で話し続けていた。


「それに、剣でも戦えるんだよ。操縦席の中だけで戦うわけじゃない。単艦で戦闘艦を動かして戦うことだってできる。だから、いろいろな立場から戦い方を知りたいなら、紬は――」


「レア」


カリスタの声が、その言葉を遮った。


レアは口を閉じる。


私はカリスタの表情が、それまでとは違っていることに気づいた。


「ん?」


「今、自分が何を話したか分かっている?」


「……」


レアの狐耳が動いた。


そして彼女は、ゆっくりと口を閉じた。


「あ」


私は二人を交互に見る。


「話してはいけないことがあったのですか?」


「そういうわけじゃないよ」


レアは頬をかいた。


「その、VRアリーナについて説明していただけなんだ」


カリスタは腕を組む。


「訓練施設の説明をしていたの? それとも、紬個人の能力について話していたの?」


「両方を少しだけ」


「それは、いい答えとは言えないわね」


「何かを漏らすつもりはなかったんだって」


私は追及しなかった。


けれど、今聞いた情報には十分な興味を引かれていた。


「つまり、紬は専用のモバイルフレームを持っているのですね?」


レアはカリスタをちらりと見る。


カリスタはこめかみを押さえた。


「もう話してしまったのだから、少なくともこれ以上、まだ明かす必要のない情報を付け加えないで」


「分かってるよ」


レアは再び私へ向き直った。


「紬が専用機を持っているのは本当。でも、詳しいことは説明しないよ。本人の許可なく私が話していい情報じゃないから」


「分かりました」


「それとヴァルキリーについてだけど、誤解しないでね。私の機体が劣っていると言っているわけじゃない。二機は設計も目的も違うから。ただ、総合的な戦闘能力で比較すれば、紬の機体がヴァルキリーを上回っているのは確かだよ」


私は彼女の表情を観察した。


明らかな不満は見られない。


むしろ、紬のモバイルフレームについて話すときには、少し誇らしげな様子さえあった。


「実際に彼女が戦うところを見たことがあるのですか?」


「あるよ」


「どのような戦い方を?」


レアは人差し指を立て、それから小さく笑った。


「これ以上説明したら、カリスタにボルトで口を塞がれるかもしれないね」


「ボルトを使う必要はないわ。あなたの会話記録を紬に送るだけで十分よ」


「そっちのほうがずっとひどいよ!」


私は笑ってしまった。


カリスタはため息をつき、レアは自分の発言を半分後悔しながらも、どこか楽しそうにしていた。


しかし、一つのことが私の頭から離れなくなっていた。


私の知る紬は、いつも気楽そうにしている。


自分の能力や地位を誇示するような話し方は、一度もしたことがない。


自由傭兵の仕事について話すときでさえ、彼女がよく考えているのは、船の力を見せつけることではなく、リスクや時間、そして利益だった。


ASTRAEONの所有者であり、危険な状況でも判断を下せる艦長であることは知っている。


けれど、本人が私に見せてきた以上に、個人としての能力が幅広い可能性があるとは、今まで気づかなかった。


意図的に隠しているのか、それとも話す必要がないと思っているだけなのか、私には分からない。


いつか本人に直接尋ねてみてもいいかもしれない。


「それで、VRアリーナでは艦隊戦のシミュレーションもできるのですか?」


私が尋ねると、レアはすぐに元気を取り戻した。


「できるよ。いくつか種類があるの。まずはモバイルフレーム一機の操縦から始めて、複数機による戦闘へ進むこともできる。艦艇のシミュレーションなら、護衛、防衛、艦隊戦のシナリオを設定できるよ」


「面白そうですね。指揮官としてのシミュレーションを試してみたいです」


「それなら、行こう!」


カリスタがすぐに手を上げた。


「待ちなさい。施設の説明を、いきなり本格的な戦闘訓練に変えないで」


レアはにっこりと笑う。


「分かってるって。シミュレーション用の兵装と安全制限を使うだけだよ」


「それから、セラフィナのアクセス権限に含まれていないデータや設定を使用しないこと」


「はいはい、技術主任殿」


「そう呼ばないで」


私は二人を見つめた。


本当に気心の知れた関係なのだろう。


長い間、一緒に働いてきたからなのか。それとも、この船でさまざまな状況に対処してきたからなのか。


私自身は、まだ彼女たちの間で自分の居場所を見つけている途中だ。


それでも、彼女たちは私に、常に皇女でいなければならないと思わせなかった。


ここでは質問をしてもいい。


些細な失敗をしてもいい。


自分の言葉が政治的な判断として受け取られるのではないかと、心配する必要もなく、何かを学ぶことができる。


「準備はできています」


レアが笑顔を向けた。


「よし。でも、私が勝っても文句を言わないでね」


私も笑みを返す。


「経験豊富なパイロットだからといって、最初から負けるつもりはありません」


「うん。それくらいのほうがいいね」


### 視点:レア・ヴァレン


私は、こういう雰囲気が好きだ。


本物の戦闘でもなければ、長い報告書を提出して終わるような訓練でもない。


何かを試す機会があって、相手の能力を知ることができて、それでいて少しくらい楽しめる時間。


セラフィナは私の隣を歩き、VRアリーナへ向かっていた。


私は、紬の能力についてそれ以上話さないことにした。


カリスタから警告されたし、船の施設について説明しているだけなのに、興奮しすぎて問題を起こしたくはない。


それに、紬について話すべきではないことがいくつかあるのも、私自身よく分かっていた。


セラフィナに知ってほしくないというわけではない。


ただ、紬自身が何を話すのか決めたほうがいいと思うだけだ。


「レア」


「ん?」


「一つ質問してもいいですか?」


「いいよ」


「紬が剣を使って戦えると言っていましたが、それは近接戦闘の訓練も受けているということですか?」


私は彼女を横目で見た。


「そこに注目したんだ?」


「聞いてしまった以上、気にならないほうが難しいです」


「まあ、そうだよね。でも、それ以上は説明しないよ」


「カリスタがいるからですか?」


「紬自身のことだから」


セラフィナは微笑んだ。


「無理に聞き出すつもりはありません」


「それならよかった。紬本人が話してくれるなら、私は構わないよ」


私たちはVRアリーナに到着した。


本人確認が完了すると、自動ドアが開く。


内部は十分な広さがあり、いくつかの訓練区画が透明な仕切りによって分けられていた。メインフロアの床面には、シミュレーションの設定に合わせて構成を変更できる特殊な素材が使われている。壁際の情報パネルには、利用予定や実施可能な訓練の種類が表示されていた。


入口近くでは、施設管理用の整備ユニット二機が、使用を終えたばかりのシミュレーションルームを検査している。


出入口のそばにある端末には、利用可能なプログラムが表示されていた。


VR ARENA — TRAINING FACILITY


利用可能な訓練モード:


* Mobile Frame Pilot Training


* Tactical Command Simulation


* Ship Combat Simulation


* Close-Combat Training


* Emergency Response Exercise


セラフィナがリストに目を通す。


「近接戦闘の訓練もあるのですね」


「あるよ。他人と直接接触しなくても、シミュレーションで訓練できる。ただし、実際の訓練をする場合は、それでも安全上の制限を守らなきゃいけないけどね」


「艦艇同士の戦闘シミュレーションは?」


「艦長、戦術管制担当、観測員のどの立場でも参加できるよ。一隻だけのシナリオもあれば、複数の艦艇や、さらに大規模な編成を使うものもある」


「実際の艦艇の性能データを使用するのですか?」


「標準的な訓練用プロファイルなら使えるよ。特別な艦艇のデータについては、別途アクセス制限が設けられている。ASTRAEONの機密設定を使うつもりはないから安心して」


セラフィナは頷いた。


「分かりました」


私は基礎訓練用のシナリオを一つ選択した。


「まずはこれを試そう。護衛作戦中にモバイルフレームが損傷したというシミュレーション。あなたは、パイロットからの報告を受ける司令官役。任務を続行させるのか、撤退させるのか、それとも支援を要請するのかを判断してもらうよ」


「あなたは?」


「私がパイロット役」


「つまり、私たちは協力するのですね?」


私は笑みを浮かべた。


「最初はね。その後は、どちらが状況を早く読み取れるか試してみよう」


「また訓練を競争に変えるつもりですか」


「もちろん。それのほうが面白いでしょ?」


セラフィナは小さく息をついたが、その笑顔は消えなかった。


「分かりました。その挑戦、受けて立ちます」


「よし」


追いついてきたカリスタが、監視用端末のそばに立った。


「訓練パラメーターは私が監視するわ。実際の兵装は使用禁止。艦の運用データの読み込みも禁止。それから、システムが安全警告を出した時点で、必ず訓練を中断すること」


「了解、カリスタ」


私はセラフィナを見る。


「聞いた? 警告を読み違えたせいで、私を負けさせないでよ」


「パイロットはあなたでしょう?」


「だからこそ、司令官が変な命令を出さないようにしておかないとね」


「それなら、必要のない機動をしないことです」


「おっと、もう本物の司令官みたいなことを言い始めたね」


私たちはシミュレーションルームに入った。


VR環境が少しずつ切り替わっていく。


ハンガーの床面が視界から消え、商業航路を移動中の貨物船を取り巻く作戦空間が再現された。


シミュレーション画面に、一機のモバイルフレームが表示される。


私はパイロットの位置についた。


セラフィナは指揮区画に立ち、センサー情報や通信情報が表示された状況画面を確認している。


システム音声が訓練の開始を告げた。


「シミュレーションを開始します」


私はすぐに初期情報を確認した。


「こちら護衛機のパイロット。右脚部アクチュエーターに警告が発生。機動応答はまだ可能ですが、負荷制限が作動しています」


セラフィナは、すぐに前進を指示しなかった。


貨物船の位置、ほかの護衛機との距離、そして撤退経路の有無を確認している。


「高速機動を無理に行わないでください。貨物船との安全距離を維持し、その後、左側の護衛経路へ移動。支援部隊には、安全な距離を保ったまま状態を確認するよう要請します」


「了解」


私は指示どおりに機体を動かす。


悪くない。


シナリオが変化した。


センサーに新しい警告が表示され、続いて護衛部隊間の通信障害がシミュレートされる。


「司令部、支援部隊との通信が途絶しました」


「ローカル通信は使用可能ですか?」


「使用可能です」


「それなら貨物船の防護経路を離れないでください。ローカル通信を使用し、センサーによる確認が終わるまで位置を変更しないこと」


私は小さく笑った。


彼女は、一つの命令ですべての問題を解決しようとはしない。


「了解」


しばらくして、シナリオが終了した。


SIMULATION RESULT


* Cargo Protection: Success.


* Mobile Frame Integrity: Stable.


* Pilot Safety: Secured.


* Mission Completion: Success.


セラフィナが私へ振り返る。


「どうでしたか?」


「なかなかよかったよ。無茶なことをさせられずに済んだからね」


「それは、少し変わった褒め方ですね」


「褒めてるんだって」


カリスタが結果を確認していた。


「機体の状態なら限定的な護衛を続けられるから、撤退の判断は必要なかったわ。ただし、高速機動を無理に行わせなかったのは正しい判断ね」


セラフィナは頷く。


「私はモバイルフレームのパラメーターをすべて理解しているわけではありません。だから、さらに検査する時間を確保できる判断を選びました」


「合理的な考え方ね。司令官がすべてのコンポーネントを理解している必要はない。でも、技術情報が不十分なときに、どこまで危険を冒していいのかは判断できなければならないわ」


私は片手を上げた。


「さて、今度は私が司令官を評価する番だね」


セラフィナが私を見る。


「評価するのはカリスタでは?」


「私にも意見くらいあるよ」


「どうぞ」


私は顎に手を当てた。


「あなたは落ち着きすぎてるね」


「それは良いことではありませんか?」


「司令官としてはね。でも、本物の戦闘では、パイロットがあなたの命令を実行するだけの時間を残しているかどうかも考える必要があるよ」


「覚えておきます」


「それから、パイロット自身の判断も忘れないこと。私が特定の機動は実行できないと言ったら、地図上では安全そうに見えるからって無理に命令しないでね」


セラフィナは微笑んだ。


「それなら、パイロットの能力と機体の状態に見合った命令を出すようにします」


「うん、それでこそいいね」


カリスタはシミュレーション結果の表示を閉じた。


「最初の訓練はここまでよ。ハンガーの検査がまだ終わっていないことを忘れて、あなたたちがここで時間を使い果たすのは困るわ」


私は笑った。


「カリスタ、人の楽しみを終わらせる方法を見つけるのが本当に上手だね」


「終わらせなければならない仕事があるからよ」


「分かってるよ」


私はセラフィナに顔を向けた。


「次は艦隊戦のシミュレーションを試せるよ。あなたが司令官役のほうが得意なら、きっともっと面白くなる」


「ぜひ試してみたいです」


「いいね。でも、次は状況がもっと速く変化したとき、どう対応するか見てみたいな」


「私も、あなたが無駄な動きをせず、司令官の指示に従えるか見てみたいです」


私は声を上げて笑った。


「私をからかうのが上手くなってきたね」


「あなたの言葉に返事をしただけです」


「そっちのほうが危険だよ」


カリスタが鼻を鳴らす。


「あなたたち二人がいると、訓練報告書が長くなりそうね」


私たちはシミュレーションルームを出た。


メインハンガーへ続く通路では、再びドローンの作業音が響いている。数機の整備ユニットがコンポーネントを移動させ、別のユニットは追加検査の順番を待っていた。


ふと、カリスタが作業端末のそばで足を止めたのが目に入った。


「どうしたの?」


彼女はすぐには答えなかった。


視線は、たった今開かれたデータパネルに向けられている。私たちの行動に呆れていた表情から、何かを警戒するような真剣な表情に変わっていた。


「セラフィエル、先ほど送った貨物通信機器の検査記録をもう一度表示して」


端末を通じて、セラフィエルの声が聞こえた。


「記録を表示しました」


私は近づいた。


「貨物用の通信機器? さっき検査していたものだよね?」


「そうよ。初期結果と一致しない点があるの」


セラフィナも端末の反対側に立った。


「故障が見つかったのですか?」


「まだ物理的な故障とは限らないわ。今は信号のパターンを調べているところ」


カリスタが記録の一部を拡大する。


画面に、規則的に並んだ複数のデータ線が現れた。


短い間隔があり、周波数が変化し、その後、同じパターンが繰り返されている。普通の偶発的なノイズとは思えない並び方だった。


表示されている数値のすべてを理解できるわけではない。


それでも、カリスタの表情なら分かる。


彼女は理由もなく、あんな顔をする人ではない。


「カリスタ、何が見つかったの?」


「ここを見て。貨物通信機器の信号パターンに、一瞬だけ乱れが発生しているの。最初は試験環境から発生したノイズだと思った。でも、ほかの記録と比較してみたら、あまりにも規則性がありすぎる」


セラフィナが画面に目を向ける。


「意図的なものですか?」


「まだ断定できないわ」


カリスタは比較用のアーカイブを開いた。


その名前を見て、私はわずかに眉をひそめる。


ASTRAEA — COMMUNICATION FRAGMENT / INCIDENT RECORD


「それは以前の襲撃の記録?」


私が尋ねると、彼女は頷いた。


「そうよ」


カリスタは二つの波形データを並べて比較する。


いくつかの部分に、共通点が現れ始めた。


「この信号の間隔と変化パターンは、ASTRAEAの事件で私たちが発見した通信フラグメントに似ているわ」


セラフィナが一歩近づく。


「アルケイオンの襲撃ですか?」


「似ている部分はある。でも、すぐに同じ勢力の仕業だと結論づけないで。今あるデータだけでは、発信元を特定するには不十分よ」


私は表示をしばらく見つめた。


「つまり、この貨物通信機器には、以前見たことがあるものと同じような妨害パターンが出ているということ?」


「そう。それで、もう少し詳しく調べたいと思っているの」


再びセラフィエルの声が響いた。


「両方の記録を、それぞれ独立した分析アーカイブに保存しました。現時点のデータから、両者の因果関係は確認できていません」


カリスタは頷いた。


「いい判断ね。まだ同一事案としてまとめないで。妨害方式が似ているのか、使用された装置が同じなのか、それとも偶然似たネットワーク特性が現れただけなのか、調べる必要があるわ」


「了解しました」


私はカリスタを見た。


「今から検査を続けるの?」


「ええ。貨物通信機器の試験をもう一度行って、該当するパターンが発生した部分を調べたい。そのあとで、初期分析の結果を紬に報告するわ」


セラフィナは、しばらく何も言わなかった。


それから画面から視線を外し、私へ向き直る。


「レア、今日はこれ以上訓練を続けられそうにありませんね」


私は肩をすくめた。


「構わないよ。また今度続ければいい」


カリスタは、すでに作業へ戻っていた。


画面の中で繰り返し再生される記録を見つめながら、私は一つの考えを振り払えずにいた。


今日は、ただのハンガー見学と、セラフィナとの軽い訓練で終わるはずだった。


ところが、契約を遂行している最中でなくても、この船では何かが起こる。


そして今回見つかったものは、私たちがすでに経験した戦闘を思い出させるものだった。


「初期分析がまとまったら、紬に知らせるわ」


カリスタが言った。


私は頷いた。


「データの確認に夢中になって、食事を忘れないようにね」


「私の心配はしなくていいわ」


「ただの忠告だよ」


「それなら、仕事中に突然の検査を頼まないよう、紬にも忠告しておいて」


私は笑った。


「それは難しいね」


セラフィナは、私たちを見ながら小さく微笑んでいた。


ドローンの駆動音と、メインハンガーを行き交う機械の音に包まれながら、その日の訓練は終わった。


しかし、カリスタが見つけたものは、まだ答えの出ていない疑問を一つ浮かび上がらせたばかりだった。


かつてASTRAEAの事件で確認された通信妨害のパターンが、今度は貨物用の通信機器から発見された。


この二つは、本当に関係しているのだろうか。


まだ、誰にも断言できない。


### 【次回、第184話 — 「食卓の距離感」】


### 食卓の距離感


夕方から夜へと移り変わる頃、ASTRAEONの生活は再び穏やかなリズムを取り戻していた。


セラフィナはセラフィエルが用意した夕食を試し、この船で味わえる料理の種類が、これまで外交旅行の間に口にしてきたものをはるかに超えていることを知る。


レアは紬について彼女をからかい始め、ランは食卓が皇女への尋問の場に変わらないよう、雰囲気を整えようとする。


何気ない会話の中で、セラフィナはASTRAEONでの生活が、技術や戦闘能力だけで成り立っているのではないことを理解し始める。


そこには、小さな習慣があり、乗組員同士の気遣いがあり、肩書きに縛られることなく育まれていく関係があった。


その一方で、カリスタは新たに発見した通信妨害のパターンについて考え続けていた。


【フック:】 セラフィナのもとに、一通の個人的なメッセージが届く。差出人は、ヴェルドラコン帝国への帰還を検討するよう、皇女に求めていた。


【第184話へ続く……】


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