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ASTRAEON VELORIA――銀河を旅する自由傭兵――  作者: Ren Hazumi


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【第178話】「帰還か、旅か」

【第178話】「帰還か、旅か」



場所: ASTRAEON VELORIA — 観測ラウンジ


主要視点: セラフィナ・ヴァルクレイン・ヴェルドラコン → 星崎紬 → レア・ヴァレン → モード・ラン・ヴァレス


### 視点 — セラフィナ・ヴァルクレイン・ヴェルドラコン


ASTRAEON VELORIAの観測ラウンジから眺める宇宙は、これまで帝国船の窓越しに見てきた景色とは違っていた。


星がより明るく輝いているわけではない。


視界が広がっているわけでもない。


違うのは、それを眺めているときに感じるものだった。


帝国船の観測窓は、決められた予定の合間に景色を楽しむための場所であることが多かった。訪問時間を管理するスタッフがいて、安全を確認する護衛がいて、私室へ戻る時間になれば必ず知らせてくれる係員がいた。


けれど、ここでは好きなだけ座っていられる。


次の予定を告げるために背後に立つ人はいない。


指示を待つ侍従もいない。


広々とした室内と柔らかな照明、そして大型の透明パネル越しに広がる星々があるだけだった。


私は温かな飲み物の入ったカップを小さなテーブルに置いた。


香りはそれほど強くない。味も決して馴染みのないものではない。それなのに、次にやるべきことを考えずに、こうした飲み物を心から味わったことはなかったような気がした。


「お飲み物はお口に合いましたか、セラフィナ様?」


私は振り返った。


数歩離れた場所に、セラフィエルが立っていた。室内の照明の下で、その身体がはっきりと見える。投影映像でもホログラムでもなく、ほかの乗組員たちと同じように、そこに実体を伴って存在していた。


「ええ。美味しかったわ」


「それは何よりです。お代わりはいかがでしょうか?」


「いいえ、結構よ。ありがとう」


「かしこまりました」


セラフィエルはすぐには立ち去らなかった。


テーブルのそばにある小型ディスプレイを確認し、伝えるべき緊急の通知がないかを確かめている。


私は彼女に視線を向けた。


「セラフィエル」


「はい、セラフィナ様」


「父から、その後の返事は届いている?」


「直近の通信状況に変化はありません。帝国側では、引き続きお迎えの調整と移動経路の安全確認が進められています」


「ASTRAEAの乗員たちは?」


「初期の医療検査は終了しています。また、各患者のデータへのアクセス許可を遵守したうえで、セレネ・アルカディアが今後の相談に利用できる概要も準備してあります」


私は頷いた。


少なくとも、彼らには必要な処置が施されている。


「船はもう航行できる状態なの?」


「まだです。カリスタが検査と修理を継続しています。部品交換後には、いくつかのシステムで試験が必要です。すべての安全確認が完了するまでは、航行可能な状態とは判断されません」


「つまり、お迎えはまだ当分先になりそうね」


「責任を持ってお伝えできる時間の見積もりは、現時点ではありません」


私は小さく息を吐いた。


正直なところ、私は一刻も早く、これまでASTRAEAに乗っていた人たちと会いたかった。直接彼らの状態を確かめ、自分の耳で報告を聞き、もう危険にさらされていないことを確認したかった。


けれど、セラフィエルの説明を聞いた今、まだ準備が整っていないものを無理に進めようとは思わなかった。


「分かったわ」


セラフィエルが頷く。


「ほかに何かお尋ねになりたいことはございますか?」


私は再び星々に目を向けた。


「今のところはないわ」


私にほかの手助けが必要ないことを確認すると、セラフィエルは部屋を後にした。


再び、一人になる。


父からのメッセージが、今も心に残っていた。


私は帰ることができる。


正式な経路に従えば、再び帝国の保護下に入ることになる。家族も私の無事を直接確認できるだろう。ASTRAEAで起きた事件についても、船が損傷した理由や、どのようにして救助されたのかを報告できる。


帝国の皇女として、それが本来あるべき行動だった。


家に帰ることに、何の間違いもない。


それでも、私の中には迷いがあった。


私はあまりにも長い間、どこへ行くのか、誰と会うのか、何をするのか、そしていつ自分で決断してよいのかまで、常に周囲によって決められる環境で暮らしてきた。


家族を嫌っているわけではない。


父は権力を守るためだけに、私を閉じ込めようとするような人ではなかった。むしろ、最後に届いたメッセージからは、相手が望まない責任を押しつけるつもりはないという意思さえ感じられた。


けれど、宮殿にいるのは父と母だけではない。


帝室がある。


官僚たちがいる。


そして、私が下すあらゆる決断に利害を持つ人々がいる。


普通の人のように生きたいと言うだけでは、避けられない責任もある。


私は自分の両手を見下ろした。


「もし今、帰ったら……」


その言葉は、最後まで続かなかった。


これから何が起きるのか、容易に想像できたからだ。


父との面会。


正式な報告。


健康診断。


安全評価。


そして、官僚たちへの説明。


すべてが終われば、私は再び、長い間慣れ親しんできた日常へ戻ることになる。


休息の時間は与えられるかもしれない。


旅行を許されることもあるだろう。


けれど、どんな旅にも護衛の名簿や予定表、行動制限がついて回ることを私は知っていた。


窓の外に広がる星々を見つめる。


「私は、本当にすぐ帰りたいのかしら?」


その問いに、簡単な答えはなかった。


ASTRAEONに来る前の私なら、帰ることが最も合理的な選択だと答えていたかもしれない。


けれど今は、もう確信が持てなかった。


観測ラウンジの扉が開いた。


振り返ると、紬が入ってくるところだった。


以前、通信室で話したときと同じ服装をしている。何か正式な会議に出席するために来たわけではなさそうだった。


手にしているのは飲み物が一つだけ。


「まだここにいたのか?」


「ええ。まだ客室に戻る気分じゃなくて」


紬は窓の方に目を向けた。


「確かに、なかなかいい眺めだな」


「あなたもよくここに来るの?」


「急ぎの仕事がなければ、たまにな」


彼はテーブルのそばまで歩き、自分の飲み物を置いた。


「邪魔だったか?」


「いいえ。座って」


紬は私から少し離れた椅子に腰を下ろした。


しばらくの間、私たちはただ宇宙を眺めていた。


やがて、私から話を切り出した。


「紬」


「ん?」


「次の目的地はもう決めたの?」


「まだ完全にはな」


「輸送契約は終わったのに?」


「終わったからこそ、次に何をしたいのか考えられるんだ」


私は小さく微笑んだ。


「すぐに新しい契約を探す必要はないの?」


「もちろん仕事は探すさ。何も生み出さずに、ずっと時間を過ごすわけにはいかないからな。でも、目の前に現れた仕事を何でも最初に引き受ける必要はないだろ」


「つまり、自分で選びたいのね?」


「できることならな」


彼は飲み物を一口飲んだ。


「これほど大きな船を造ったのは、面白いかどうかも考えずに、あらゆる仕事を引き受けるためじゃない」


私は彼の表情を見つめた。


彼はごく当たり前のことのように言った。


大きな野望を語っているようには聞こえない。けれど、その話し方から、仕事を選べる自由が彼にとって大切なものなのだと分かった。


「この後は何をしたいの?」


「いくつか候補はある」


「例えば?」


「傭兵としての活動に戻ること。独立コロニーを巡ること。面白そうな仕事を探すこと。それから、まだ訪れたことのない場所を見に行くのもいい」


「独立コロニー?」


「ああ。大国の行政機構が直接管轄していない地域も、かなりある。独自の交易施設を持つところもあれば、地元企業によって発展したところもある。探検家たちが立ち寄る中継地になっている場所もあるな」


紬は星々に目を向けた。


「そのうちのいくつかを見てみたい。面白そうな仕事が見つかれば引き受ける。なければ、そのまま旅を続ければいい」


「楽しそうね」


「楽しいかもしれないし、疲れるかもしれない」


私は小さく笑った。


「もう少し魅力的に聞こえる言い方はできないの?」


「旅行パッケージを売り込んでいるわけじゃないからな」


「ふふっ」


紬は同じ調子で話を続けた。


「入港許可を待つだけで、何時間も費やす航海もある。利益が大きそうに見えた仕事が、実際には追加検査だらけだったりもする。交通状況や技術的な問題で、航路を変更しなきゃならないこともある。この船で過ごす毎日が、観測ラウンジで飲み物を楽しむような時間ばかりじゃない」


私は頷いた。


「少しずつ分かってきたわ」


「それはよかった」


彼はそれ以上、何も付け加えなかった。


私は手元のカップを見つめた。


「それなら、この船での生活は私が想像していたものとは違うのね」


「どんなものを想像していたんだ?」


「いつも美しい場所へ向かって航行している、豪華な船」


「美しい場所は確かにある。でも、そこに着く前に燃料や物資の補給、システムの検査、仕事、そのほか色々なことを片づけなきゃならない」


「それに契約も?」


「特に契約だな」


私は微笑んだ。


「その答えを聞いたら、ランはとても喜びそうね」


「忘れないようにって、五ページくらい書類を追加してくるかもしれない」


「それも彼女の仕事じゃない?」


「残念ながら、その通りだ」


私たちは小さく笑い合った。


けれど、再び静けさが戻ると、私の思考はまだ答えの出ていない問いへと戻っていった。


「紬、少し聞いてもいい?」


「もちろん」


「自分が持っている自由のせいで、かえって選択に迷うことはある?」


紬はすぐには答えなかった。


窓の外を見つめ、どう説明すればよいのか考えているようだった。実際には、ごく単純なことなのかもしれない。


「もちろんある」


私は彼の方を向いた。


「本当に?」


「選択肢がない人間は、誰かが決めたことに従えばいい。でも、選択肢がたくさんあるなら、それぞれの決断がどんな結果をもたらすのか、自分で考えなきゃならない」


「つまり、自由は必ずしも簡単なものではないのね」


「そうだ。自由だからといって、何もかも簡単になるわけじゃない」


彼はカップを置いた。


「俺にとって自由っていうのは、自分のやりたいことを選べる代わりに、その結果も自分で受け入れることだ。仕事に失敗したとしても、自分の代わりに選んでくれる人がいなかったからって、誰かのせいにはできない」


私は黙り込んだ。


その言葉は単純だった。けれど、宮殿でこれまで聞いてきた数々の助言よりも、今の私が抱えている問題にずっと近いものに感じられた。


「それなら、自分の選択を後悔したことはないの?」


「ある」


「そのときはどうするの?」


「まだ修正できるなら、起きたことを修正する。無理なら、同じ失敗を繰り返さないように学ぶ」


私は彼を見つめた。


紬は、賢そうに聞こえる答えを用意しようとはしていなかった。


ただ、自分がどのように生きているのかを説明しているだけだった。


だからこそ、私はもっと彼の話を聞きたいと思った。


### 視点 — 星崎紬


セラフィナが何を考えているのか、俺には分からない。


ただ、窓の外を眺めている様子からすると、すぐにヴェルドラコンへ帰るべきかどうか、まだ決めかねているようだった。


それは俺が解決するべき問題じゃない。


決断するのは彼女自身だと、すでに伝えてある。


帰りたいなら、合意した手順に従って出発の準備を手伝う。もう少し待ちたいなら、船の運用に支障が出ない範囲で滞在先を調整することもできる。


ただし、彼女が帝国の皇女だからといって、全員がその望みに従わなければならないと考えるのは違う。


それに、俺たちが彼女を救助したからといって、彼女がこの船に残る義務を負っていると思ってほしくもなかった。


「紬」


「ん?」


「もし傭兵の仕事に戻るなら、やっぱり戦闘に関係する仕事ばかりなの?」


「いつもそうとは限らない」


俺は座り直した。


「護衛、輸送、調査、施設警備、捜索。それに、戦闘よりも検査が中心になる仕事だってある。依頼主が何を必要としているか、どんな能力が求められているかによるな」


「それなら、すべての仕事が危険というわけではないのね」


「全部がそうじゃない。ただ、どんな仕事にもリスクはある。荷物を運ぶだけの仕事だって、使う航路が安全じゃなかったり、書類に不備があったりすれば問題になる」


「C-145-MCの契約みたいに?」


「まあ、そんなところだ」


俺は薄く笑った。


「あの貨物の仕事も、決して単純じゃなかった。でも、もう完了した」


セラフィナが頷く。


「あなたが契約を完了させるところを見ていたわ。帝室に関わる問題が起きていたときでさえ、あなたはすべての貨物が手順どおりに検査され、引き渡されることを確かめていた」


「それが俺の責任だからな」


「多くの人なら、あの状況を利用して特別な待遇を求めるかもしれないわ」


「契約上の根拠があるなら、もちろん話し合う余地はある。でも、そうじゃないなら、大きなことを成し遂げたからって理由だけで何かを要求するつもりはない」


俺は飲み物を一口飲んだ。


「俺たちはタラリス側から報酬を受け取る仕事を完了させた。相手は契約どおりに貨物を受け取った。それで終わりだ。追加費用があるなら、根拠と双方の合意が必要になる。航海中に問題が起きたからといって、自動的にボーナスがつくわけじゃない」


セラフィナが微笑む。


「ランが気に入りそうな答えね」


「正式な会議で言えば、もっと気に入ってくれるかもしれないな」


「あなたは会議をよく避けるの?」


「一つの書類で済む話を、わざわざ会議にするのは避けている」


セラフィナが笑った。


それからの会話は、少しずつ気楽なものになっていった。


ただ、彼女がまだ本題を話していないことには気づいていた。


無理に聞き出すつもりはない。


「帰りたいなら、迎えの航路が本当に安全になるまで待てばいい。旅を続けたいなら、別の可能性について話し合うこともできる」


セラフィナが俺を見つめた。


「それでも構わないの?」


「何が?」


「私がすぐに宮殿へ戻らなくても」


「それは俺が決めることじゃない」


考えるより先に、言葉が出ていた。


「君がいつ帰るべきか、俺が決める理由はないからな」


「でも、父からメッセージが届いているわ」


「読んだよ。あれは協力を求めているのであって、命令しているわけじゃない」


「皇帝陛下の要請を拒んでいるとは思わない?」


「君を迎えに行けとか、宮殿まで送り届けろとか、そういう要請はまだ受けていない。仮にそんな要請があったとしても、まずは話し合う必要がある」


俺は肩をすくめた。


「俺は独立船の船長だ。相手の肩書きが高いからって、運用上の判断を変えるわけにはいかない」


セラフィナはしばらく俺を見つめていた。


やがて、彼女は微笑んだ。


「分かったわ」


俺は再びカップを手に取った。


「それならいい」


しばらくして、セラフィエルから船内業務状況の更新通知が届いた。


俺はテーブルにある小型パネルを開く。


緊急事態ではない。


各部門からの定期報告だけだった。


ASTRAEON VELORIA — 運用概要


| 部門 | 状態 |

| ------------ | ------ |

| 航法 | 安定 |

| 艦の主要システム | 正常 |

| ハンガー検査 | 進行中 |

| ASTRAEA修理 | 進行中 |

| 医療研究所 | 継続監視中 |

| C-145-MC契約管理 | 引き渡し完了 |

| 帝国側の迎えに関する調整 | 確認待ち |


俺は報告にざっと目を通した。


「セラフィエル」


「はい、紬」


「急ぎの問題はないか?」


「ありません。ASTRAEON VELORIAの主要システムはすべて正常です。ASTRAEAの修理作業も、カリスタが設定した技術作業計画に従って進行しています」


「分かった」


俺はパネルを閉じた。


セラフィナは先ほどの表を眺めていた。


「契約が終わっても、船の仕事はまだたくさんあるのね」


「仕事なんて、いつだってあるさ」


「あなたの言っていた意味が少し分かってきたわ」


「一晩で全部理解する必要はない」


セラフィナが微笑む。


「そうね」


俺は立ち上がった。


「そろそろ司令室に戻る。君はまだここにいたいなら、構わないからな」


「分かったわ。一緒にいてくれてありがとう」


「礼はいらない」


数歩進んだところで、再びセラフィナに呼び止められた。


「紬」


「ん?」


「もし傭兵の本当の生活を知りたくなったら、また色々と質問してもいい?」


俺は振り返った。


「もちろん。忙しくなければな」


「覚えておくわ」


俺は頷き、観測ラウンジを後にした。


セラフィナの決断は、まだ出ていない。


それでも少なくとも彼女は、周囲から期待されていることだけではなく、自分が本当に何をしたいのかを基準に選択を考え始めていた。


今夜は、それだけで十分だ。


### 視点 — レア・ヴァレン


私はモバイルフレームの装備について定期点検を終えたところで、観測ラウンジにセラフィナがいることに気づいた。


彼女は一人で座っていた。


窓の外の景色に、まだ興味を引かれているらしい。


私はすぐには近づかなかった。


話しかけたくないわけではない。ただ、彼女の表情を見れば、何か考え事をしているのが分かったからだ。


急ぎの仕事がないことを確認してから、私はようやく彼女のもとへ向かった。


「セラフィナ様」


彼女が振り返る。


「レア。どうしたの?」


「特に用事はありません。何か必要なものがないか、確認したかっただけです」


「大丈夫よ。景色を楽しんでいるところだから」


私は窓の方を見た。


「確かに、なかなかいい眺めですね」


向かい側の椅子に腰を下ろす。


「紬が来たところですか?」


「ええ。少し話をしていたわ」


「どんな話を?」


「これからの旅について」


私は頷いた。


「なるほど」


セラフィナが私を見る。


「レア、少し聞いてもいい?」


「もちろんです」


「この船で暮らすのは、どんな感じ?」


私は少し驚いた。


随分と幅の広い質問だ。


「どういう意味でしょう?」


「いつも快適に過ごせているの? ほかの場所へ行きたいと思うことはない? それとも、ここでの生活は危険すぎると感じる?」


私は少し考えた。


「いつも快適というわけではありません」


セラフィナは私の答えに耳を傾けていた。


「仕事が大変に感じる日もあります。気の進まない事態に備えなければならないこともあります。船が危険な状況に置かれていないときでさえ、いつでも対応できるように準備しておかなければなりません」


「つまり、楽しいことばかりではないのね」


「当然です」


私は微笑んだ。


「でも、それを理由にすべてを捨てて離れたいとは思いません」


「どうして?」


「自分がなぜここにいるのか、分かっているからです」


私は背もたれに身体を預けた。


「私には果たすべき役割があります。モバイルフレームや戦闘準備、現場作戦に関係する仕事なら、自分が何をすべきか分かっています。紬はその責任を私に任せてくれていますから」


「それは、あなたを縛っていると感じる?」


「セラフィナ様が想像しているようなものではありません」


私は首を横に振った。


「私には自分で選ぶ余地があります。意見を伝えることも、異議を申し立てることも、何かが間違っていると思えば、そう言うこともできます。紬は船長だからという理由だけで、私が間違っていると思う決定を無理に受け入れさせたりしません」


セラフィナは黙っていた。


私は話を続けた。


「でも、何でも好き勝手にしていいわけではありません。任務を引き受けたなら、最後までやり遂げなければなりません。失敗したなら責任を取る必要があります。自分の行動で誰かを危険にさらしたとき、自由を行使していただけだと言って済ませることはできません」


「つまり、誰もが自由と責任の両方を持っているのね」


「そうです」


私は微笑んだ。


「だからこそ、ここでの生活は少し違って感じられるのだと思います。私たちは同じ人間である必要も、同じ理由でこの船にいる必要もありません。でも、一緒に仕事ができなければならないんです」


セラフィナは自分の手を見つめた。


「もっと穏やかな生活を送りたいと思うことはない?」


「もちろんありますよ」


私は小さく笑った。


「美味しいものを食べたり、温泉に入ったり、仕事のことを考えずに眠れたりする機会があれば、私だってそちらを選びます」


セラフィナが笑った。


「紬みたいなことを言うのね」


「私たち、仕事についての愚痴を聞きすぎているのかもしれません」


「彼はよく愚痴を言うの?」


「それほど多くはありません。でも、何度も確認しなければならない書類があると、すぐに退屈そうな顔になります」


ランから追加書類を渡されたときの紬の表情を思い浮かべる。


思わず、また笑ってしまった。


「それでも、最後までやり遂げますけどね」


セラフィナが頷いた。


「さっき見たわ」


「それが紬なんです。すべての仕事が好きなわけではないでしょうけど、責任を放り出したりはしません」


再び、静かな時間が流れた。


私はセラフィナに目を向けた。


「一つ、聞いてもいいですか?」


「どうぞ」


「宮殿に戻ることが怖いですか?」


セラフィナは少し驚いたようだった。


私はすぐに付け加えた。


「答えたくなければ、無理に答える必要はありません」


彼女は俯いた。


しばらくの間、返事はなかった。


やがて、ゆっくりと口を開いた。


「父が怖いわけではないわ。家族を嫌っているわけでもない。でも、戻れば、また多くのことが変わると分かっているの」


私は黙って耳を傾けた。


「私はまた、会議に出席し、報告を受け、家族の利益を考慮しなければならない帝国の皇女に戻る。そうしたことも、私の人生の一部なのよ。責任なんて存在しないふりをすることはできないわ」


「でも、何か違うことを試してみたいんですね?」


「ええ」


彼女は窓の外に目を向けた。


「すべてのしがらみから離れた場所で、どんな生活ができるのか知りたいの。正式な旅行のために用意された船から眺めるだけじゃなくて。どこかへ行くとき、そこで誰が待っているのか、到着した後に何をしなければならないのか、いつも考える必要のない旅がどんなものなのか、知りたいのよ」


私は薄く微笑んだ。


「それなら、宮殿の外での生活がいつも快適とは限らないことも知っておいた方がいいですね」


「少しずつ分かってきたわ」


「設備が期待していたほど整っていない場所もあります。食事が口に合わないところもありますし、長い移動で身体が疲れることだってあります」


「私の気を変えさせようとしているの?」


「いいえ。ただ、現実を知っておいてほしいだけです」


私は彼女を見つめた。


「ASTRAEONとの旅は、危険のない休暇ではありません。訪れる場所すべてが安全だと保証することはできません。仕事があれば、全員が手順に従わなければなりません。緊急事態になれば、船と乗っている人たちの安全を優先します」


セラフィナがゆっくりと頷く。


「分かっているわ」


「でも、気に入るかもしれないことが一つあります」


「何かしら?」


私は少し大きく笑った。


「ここでは、ほかの人の仕事を妨げず、船の規則に違反しない限り、自分のしたいことを選べます。グランドライブラリーで本を読みたいなら、どうぞ。庭園を楽しみたいなら、それも構いません。ほかの設備を試してみたいなら、手順に従ってアクセス許可を申請すればいいんです」


「なかなか楽しそうね」


「実際、そうですよ」


私は続けて言った。


「ただし、いつも誰かが付き添ってくれるとは思わないでください。私たちにも、それぞれ仕事がありますから」


セラフィナが笑った。


「そこまで期待していないわ」


「それならよかったです。大切なことを一つ理解していただけたようですね」


私は立ち上がり、服装を整えた。


「そろそろハンガーに戻ります。まだ確認しなければならないことが残っていますので」


「ありがとう、レア」


「どういたしまして」


私は扉へ向かった。


けれど、外へ出る前にもう一度振り返った。


「セラフィナ様」


「何?」


「これからどんな選択をするにしても、本当にご自身の意思で決めてください。私たちに助けてもらったからといって、その恩を返さなければならないと思って選ばないでくださいね」


セラフィナは一瞬、黙り込んだ。


それから微笑んだ。


「覚えておくわ」


私は頷き、部屋を後にした。


### 視点 — モード・ラン・ヴァレス


紬が観測ラウンジを離れたという通知を受け取った。


それから間もなく、レアもハンガーへ戻っていった。


セラフィエルから簡単な報告を受け、二人がセラフィナと話をしていたことは把握している。


会話のすべてを知る必要はない。


しかし、ASTRAEONの管理と対外関係を担当する立場として、一つだけ確認しておかなければならないことがあった。


セラフィナがどのような決断を下すにしても、彼女の滞在資格を明確にしておく必要がある。


私は端末を手に取り、観測ラウンジへ向かった。


セラフィナはまだ同じ場所に座っていた。


「セラフィナ様。ご一緒してもよろしいでしょうか?」


「もちろんよ、ラン。どうぞ」


私はレアが先ほど座っていた椅子に腰を下ろした。


「どのような選択をするか、もうお考えになりましたか?」


セラフィナはすぐには答えなかった。


「少しはね。でも、まだ確信が持てないわ」


「問題ありません。今すぐ決断を求めるために来たわけではありませんから」


私は端末を開いた。


「もし今後、私たちと一緒に旅を続けることになった場合、誤解が生じないよう、いくつか確認しておきたいことがあるだけです」


「私の滞在資格について?」


「その通りです」


私は簡単な書類を表示した。


「ヴェルドラコンへお戻りになる場合は、これまで話し合った調整に従って、お迎えの手続きを進めることになります。しかし、当面ASTRAEONに滞在することを希望される場合は、船内での立場を明確に定める必要があります」


セラフィナが書類に目を向けた。


「何を決める必要があるの?」


「まず、滞在中の立場を一時的な乗客とするのか、それとも別途合意を交わしたうえでの同行者とするのか。次に、最初の滞在期間。三つ目に、責任の範囲とアクセス権限。四つ目に、帝室との通信に関する取り決めです」


私は画面を切り替えた。


「そして最も重要なのは、あなたの滞在によって、船の所有権や指揮権限が変わることはないという点です」


セラフィナが頷く。


「船を奪うつもりなんてないわ」


「それは理解しています。ただし、書類にはASTRAEON VELORIAが紬の所有する独立船であり、すべての運用上の決定権が船長である彼の権限下にあることを、明確に記載する必要があります」


「もちろんよ」


私は続けた。


「また、旅に同行するからといって、自動的に乗組員になるわけではありません。役職や任務、アクセス権限は、別途協議し、双方が合意しない限り付与されません」


「分かったわ」


「それから、個人的な用事や帝室に対する義務がある場合は、引き続きご自身で対応していただくことになります。私たちがその責任を引き継ぐことはありません」


セラフィナは、しばらく書類を見つめていた。


「乗客はみんな、こういう扱いなの?」


「書類の調整内容は、それぞれの状況によって異なります。ただし、基本原則は同じです。すべての人が、自分の権利と義務、そして責任の範囲を理解していなければなりません」


「ずいぶん形式的なのね」


私は微笑んだ。


「確かにそうです。しかし、こうした形式的な取り決めこそ、旅が複雑になったときの問題を防ぐ助けになります」


セラフィナが小さく笑った。


「紬がいつも、あなたが全部やってくれると言っていた理由が分かってきたわ」


「紬が、本来なら事前に防げた問題を後から修正するために時間を使わずに済むよう、確認しているだけです」


「彼のことをよく分かっているのね」


「毎日一緒に仕事をしていますから」


私は一度、書類を閉じた。


「ただ、もう一つお伝えしておかなければならないことがあります」


「何かしら?」


「同行する場合、船内のすべての設備を常に無制限で利用できるわけではありません。船の運用や安全、技術作業に関わる一部の区域には、アクセス制限があります」


「無理に立ち入ろうとはしないわ」


「それなら結構です。それから、船の予定は変更されることがあります。予想より早くその場所を離れなければならないこともあれば、未完了の仕事があるために、予定より長く滞在することもあります」


セラフィナが頷いた。


「それにも合わせるわ」


「そして、緊急事態が発生した場合は、船長および担当者からの安全指示に従っていただきます。帝室の肩書きがあっても、船内の緊急手順が変わることはありません」


セラフィナが微笑む。


「あなたたちの仕事を妨げるために、自分の肩書きを使うつもりはないわ」


「それを聞けて安心しました」


私は端末をしまった。


この話し合いで、何かしらの合意が成立したわけではない。


そもそも、今はそれでいい。


セラフィナには、まだ自分の選択を考える時間が必要だ。


書類を用意したからといって、それを理由に決断を急がせるつもりはなかった。


「ラン」


「はい、セラフィナ様」


「あなたは、私が本当にこの船の人たちのように旅を楽しめると思う?」


私は彼女を見た。


「すべてを楽しめるとは、お約束できません。居心地の悪さを感じることもあるでしょう。ただ、旅が皇女であるあなたの都合に合わせて進むものではないと受け入れられるなら、少しずつ慣れていけると思います」


セラフィナは黙り込んだ。


私は少し柔らかな口調で続けた。


「ここでは、仕事も目的も利害も異なる人々と出会うことになります。全員があなたを帝国の皇女として扱うわけではありません。セラフィナという一人の人間として知る人もいるでしょうし、あなたの立場を理由に距離を置く人もいるかもしれません。それも考慮しておく必要があります」


「肩書きで呼ばれなくても、私は構わないわ」


「それはあなたの判断です。ただし、あなたの身元と安全が軽視されないよう、私の方では引き続き配慮します」


セラフィナが微笑んだ。


「ありがとう」


私は頷いた。


「どういたしまして」


私は立ち上がり、観測ラウンジを後にしようとした。


けれど、扉へ向かう前に、もう一度振り返った。


「セラフィナ様」


「何かしら?」


「ご自身のために、一つ答えを出しておくべき問いがあります」


「どんな問い?」


「今夜、誰もあなたの返事を待っていなかったとしたら――お父上も、宮殿の官僚たちも、私たちも――あなたは本当は何をしたいのでしょうか?」


セラフィナは答えなかった。


私は返事を待たなかった。


ただ軽く頭を下げ、そのまま部屋を後にした。


扉がゆっくりと閉じる。


再び、セラフィナは一人になった。


窓の外では、星々が変わらぬ静けさの中を流れていた。


彼女は観測パネルに映る自分の顔を見つめる。


長い年月の間、彼女は果たすべき責任を基準に選択を決めることに慣れていた。ヴェルドラコンの皇女として期待される立場にあったからこそ、戦略や政治、帝国統治について学んできた。


それらすべてを、捨て去るべき重荷だと思ったことはない。


けれど初めて、自分自身の願いというものが、これまでほとんど顧みられてこなかったことに気づいた。


彼女は銀河を見てみたい。


外交任務を遂行する皇女としてではなく。


特定の地域を訪問する帝室の一員としてでもなく。


ただ、自分が行きたいから行くのだ。


独立コロニーに足を踏み入れ、交易の中心地を眺め、宮殿の予定表には一度も載ったことのない場所を訪れ、権力の中心から遠く離れた場所で暮らす人々の話を聞いてみたい。


もちろん、その旅がいつも簡単なものではないことも理解している。


仕事がある。


規則がある。


危険もある。


そして、自分がいつもその場で最も重要な人物であるとは限らない。


けれど、だからこそ経験してみたいと思った。


セラフィナは自分の端末を手に取った。


父から届いたメッセージを再び開く。


今度は、お迎えやASTRAEAの修理について書かれた部分には目を通さなかった。


彼女の視線は、一つの文章で止まった。


私は、お前たちが望まない責任を引き受けるよう求めるつもりはない。


セラフィナは小さく微笑んだ。


「お父様……」


彼女はメッセージを閉じた。


そして、自分に用意された内部通信チャンネルを開く。


船に航路変更を求めるわけではない。


乗組員に指示を出すわけでもない。


彼女はただ、船長に直接伝えたい言葉を準備し始めた。


しばらくして、形式ばった表現だと感じた文章をいくつか削除した。


帝国の命令を下すような言い方はしたくなかった。


一人の人間として、自分の言葉で伝えたかったのだ。


それから間もなく、紬のもとにセラフィエルから通知が届いた。


「紬」


「どうした、セラフィエル?」


「セラフィナ様が、あなたとの面談を希望されています。個人的な決断について伝えたいことがあるとのことです」


俺は艦内時刻を確認した。


「今からか?」


「はい。面談の予定を調整いたしましょうか?」


俺は読んでいたパネルを閉じた。


「俺が観測ラウンジへ行く」


「承知しました」


俺が再び観測ラウンジに入ったとき、セラフィナはすでに窓のそばに立っていた。


扉の開く音を聞いて、彼女が振り返る。


「紬」


「話があるんだって?」


「ええ」


俺は彼女の前に立った。


「聞かせてくれ」


セラフィナはゆっくりと息を吸い込んだ。


今夜、最初に話したときと比べると、ずいぶん落ち着いているように見える。


「父から提示された選択について、考えてみたの」


「そうか」


「私は、家族には会いたい。ASTRAEAの乗員たちにも、必要な治療を受けた後で会いたいと思っているわ。帝国の皇女としての責任を放棄するつもりもない」


俺は頷いた。


「分かった」


「でも、今すぐ宮殿に戻りたいとは思わない。少なくとも、今はまだ」


セラフィナは俺をまっすぐに見つめた。


「普段訪れることのない領域を、もっと見てみたいの。独立コロニーでどんな生活が営まれているのか、人々がどのように働き、商売をし、旅をしているのかを知りたい」


彼女は一度、言葉を切った。


「帝国の皇女としてだけではなく、一人の人間として銀河を見てみたいのよ」


俺はすぐには答えなかった。


セラフィナは続けた。


「ASTRAEONが観光船ではないことは分かっているわ。あなたたちには、それぞれの仕事や規則、責任があることも理解している。私の望みを叶えるために、航路を変更してほしいとは言わない」


彼女は両手を身体の前で揃えた。


「だから、星崎紬艦長に正式なお願いをしたいの」


俺は彼女の表情を見つめた。


「どんなお願いだ?」


セラフィナは俺の目をまっすぐに見た。


「自分の用事には自分で責任を持つことを前提に、しばらくの間、ASTRAEON VELORIAと一緒に旅を続けたいの」


室内が静まり返った。


俺はすぐには答えなかった。


その申し出に驚いたわけではない。


ただ、彼女が今、自分の口で伝えたことを、本当に理解しているか確かめたかった。


セラフィナは乗組員にしてほしいと言ったわけではない。


航路を決める権限を求めたわけでもない。


船の仕事を、自分の都合に合わせてほしいと頼んだわけでもない。


ただ、一緒に旅を続けたい。


しばらくの間。


そして、自分の用事には自分で責任を持つ。


俺はようやく頷いた。


「分かった」


セラフィナの目が少し大きくなる。


「受け入れてくれるの?」


「君の申し出について、これから詳しく話し合うことには同意する」


「あ……」


俺は薄く笑った。


「勘違いするなよ。まだランと一緒に事務的な調整を終わらせる必要がある。君の立場を明確にしなきゃならないし、最初の滞在期間についても話し合う。それに、家族との通信も継続する必要がある」


セラフィナが素早く頷いた。


「もちろんよ。その手順には従うわ」


「それから、君がどこかへ行きたいからといって、航路を変更することはない。旅の計画に合っていて、興味深い目的地なら検討することはできる。でも、最終的な運用判断は俺がする」


「分かっているわ」


「それと、いつかヴェルドラコンへ帰りたくなったら、安全に戻る方法を話し合おう。今夜の決断を、一定の期間は必ず船に残らなきゃならないという約束だと思う必要はない」


セラフィナが微笑んだ。


「分かったわ、紬」


俺は頷いた。


「それなら、明日ランと一緒に詳細を話し合おう。今夜はもう休んでくれ」


「ええ。ありがとう」


俺は扉へ向かった。


けれど今度は、セラフィナに呼び止められることはなかった。


観測ラウンジを出た後、彼女は再び星々を見つめていた。


儀式はない。


宮殿からの発表もない。


官僚たちが見守る中で下された重大な決定でもない。


ただ、自分の人生の進む方向を、自分自身で決めたいと願った一人の人間からの申し出だった。


そして今は、それだけで十分だった。


【第178話・完】


【次回予告 — 第179話】


「戦姫の選択」


セラフィナの申し出は、ASTRAEON VELORIAの船長へと伝えられた。しかし、旅を続けるためには、まず彼女の滞在資格について正式に話し合わなければならない。ランは双方の責任範囲と権利を明確にする一方、カリスタにはASTRAEAで完了させなければならない重要な作業が、まだ残されていた。


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