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ASTRAEON VELORIA――銀河を旅する自由傭兵――  作者: Ren Hazumi


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【第175話】「タラリス境界物流拠点」

【第175話】「タラリス境界物流拠点」


場所: ASTRAEON VELORIA — ナビゲーションデッキ → 艦内監視システム → 運用管理室 → 指揮デッキ 航行状況: タラリス外縁通過回廊 → タラリス国境兵站補給拠点・接近区域 視点: ヴェスペラ・ノクス・オーレル → セラフィエル・ヴェロリア → モード・ラン・ヴァレス → 星崎紬


◇◆◇


### 視点:ヴェスペラ・ノクス・オーレル


目的地の宙域に到達した艦と、実際に受け入れ施設へ進入できる艦との間には、明確な違いがある。


その違いは、ときに数分の航行時間にすぎない。


しかし、星間物流の世界では、そのわずかな時間が、直ちに着艦経路を確保できるか、待機区域で留まらなければならないか、あるいは航行の継続を許可される前に追加検査を受けることになるかを左右する場合がある。


そして今日、私たちは三つ目の可能性に直面していた。


「紬、タラリスの接近境界に入りました」


私はナビゲーション画面を拡大した。


目の前の宇宙地図には、互いに接続する複数の輸送経路が表示されている。色分けされた線は、貨物船用航路、旅客船用航路、そして大型艦専用の航行経路を示していた。


タラリス国境兵站補給拠点は、それらの航路の先にある。


その施設は、単なる貨物保管所ではない。


名称が示すとおり、この補給拠点は、複数の植民地や軍事施設、国境地域の物流センターを結ぶ重要な物流拠点の一つだ。さまざまな種類の貨物を運ぶ船は、輸送品の分類と輸送責任に応じて異なる交通管制や検査手順を通過する必要がある。


ASTRAEON VELORIAを、一般的な貨物船と同じように扱うことは、もちろんできない。


全長8,600メートルという巨体を持つこの艦には、専用に計算された接近経路が必要だった。


私は手を動かした。


「セラフィエル、受入施設の最新位置情報をもう一度送ってください。今回使用する進入経路が、最新の運用設定に合っているか確認したいです」


『送信しています、ヴェスペラ』


目の前の地図が切り替わる。


新しい経路が表示され、現在位置から補給拠点の外部接近区域までを結んだ。


「こちらのほうがいいですね」


私は各経路の間隔を確認した。


受入地点へ向かっている貨物船が数隻いる。右側の航路には中型輸送船が二隻。その下方の航路では、工業用資材の輸送船が比較的ゆっくりと移動していた。


遠方には、物流区域を取り囲むように配置された複数の人工構造物が見える。


通信塔。


交通検査ゲート。


荷役プラットフォーム。


そして、大規模な集積施設がいくつもの群れを成して建設されていた。


タラリスは、観光客の関心を引くために設計された場所ではない。


だが、そこで行われている活動を見るだけでも、銀河の物流ネットワークにおいて、この地域が重要な役割を担っていることは明らかだった。


「この区域へ進入する船の数は、かなり多いですね」


『そのとおりです。観測対象となる以前の標準的な期間と比較して、交通量は約二十パーセント増加しています。ただし、航路閉鎖が必要になる水準には達していません』


「以前、私たちが通知を受けた武力衝突事件による航路変更はありますか?」


『複数の検査地点で認証手順が更新されています。しかし、現在使用している航路の閉鎖については、何の通知もありません』


私は頷いた。


それは以前に受け取った情報とも一致している。


保安検査が強化されたからといって、タラリスの全施設が閉鎖されたわけではない。同様に、私たちが通過した回廊で武力衝突事件が発生したからといって、補給拠点へ接近するすべての船が脅威と見なされるわけでもない。


それでも、準備は必要だ。


「周辺の船舶との安全距離を表示してください。ASTRAEONの船体が大きいという理由だけで、民間船の航路を急に変更させるような事態は避けたいです」


『調整済みです。周辺の船舶はすべて探知されています。ASTRAEONの接近経路と交差する可能性のある航跡はありません』


「よろしい」


私は航路の一つを拡大した。


右側の輸送船が、速度を変更する指示を受けたところだった。さらに遠方にいた物流船が、続く航路へ進入する。


すべてが順序どおりに動いている。


慌ただしい機動はない。


私たちが、ほかの大半の私用艦よりもはるかに大きい船で来たという理由だけで、交通の流れを乱す必要もない。


「ASTRAEON VELORIAは、現在許可されている外部接近経路を使用します。速度を維持し、接岸区域への進入許可を受けるまでは進入しないでください」


『了解しました』


私は操作パネルに触れた。


「続いて、補給拠点の交通管制システムへ通信を接続してください。艦の識別情報と、正式な認証経路を使用します」


『通信要求を準備します』


数秒後、接続インジケーターが点灯した。


私は少し姿勢を正す。


今回の通信相手は、ASTRAEONの内部ネットワークにいる人物ではない。


向こう側には、さまざまな宙域から到着する船舶の管制を担当する職員がいる。


「こちらはタラリス国境兵站補給拠点・交通管制です。船舶識別情報と通信目的を提示してください」


女性の声が聞こえた。


口調は毅然としているが、威圧的ではない。


私は手順に従って答えた。


「こちらはASTRAEON VELORIA。運用識別情報の検証を完了している登録済みの独立艦です。輸送契約C-145-MCの履行のため、タラリス国境兵站補給拠点へ接近中です」


少し間が空いた。


「ASTRAEON VELORIA……船舶識別情報と到着データを照合しますので、そのままお待ちください」


「了解しました」


通信は接続されたままだった。


私はナビゲーション画面へ視線を戻す。


待機している間にも、艦の位置を再確認する。


補給拠点の外縁区域における活動の変化が見えるほど、私たちは十分に接近していた。


貨物船の中には、受け入れ手続きを終えて到着経路から離れ始めたものもある。一方、入域許可を得る前に検査地点へ向かっている船もいた。


通信塔へ技術情報を送る任務を担う、小型船も数隻見える。


そのすべてが、一つのことを示していた。


この補給拠点は、絶え間なく活動を続けている。


一隻の船が軍用貨物を積んで到着したからといって、施設全体の運用を止める理由はない。


「ASTRAEON VELORIA」


交通管制の担当者が再び声をかけてきた。


「船舶識別情報が登録データと一致しました。輸送目的も当施設のシステムに記録されています。搭載している貨物群の数を確認してください」


私は、すでに輸送報告書へ記載されている情報を思い返しながら答えた。


「契約C-145-MCに基づく七つの貨物群です。すべて現在も当艦の管理下にあり、受取側への引き渡しはまだ行われていません」


「確認しました。外部接近航路で現在位置を維持してください。初期確認が完了次第、次の指示を送信します」


「了解しました」


通信が終了した。


私は背もたれに身体を預けた。


「少なくとも、船舶識別情報は問題ありませんでしたね」


『そのとおりです。ただし、外部接近航路での待機を求められたということは、まだ受入区域への進入許可が出ていないということです』


「私も気づいています」


私は再び地図を見つめた。


悪いことが起きると決めつける理由は、まだない。


しかし、目的地の宙域に到達したというだけで、すべての手続きが終わると考える必要もない。


私は紬へ状況を報告した。


「紬、補給拠点との初期通信は正常に完了しました。ASTRAEONの識別情報と契約C-145-MCは、先方の登録データと一致しています。現時点では、次の指示を待つ間、外部接近航路で現在位置を維持するよう求められています」


『了解した。向こうの交通管制に従ってくれ』


「承知しました」


通信を終了する。


そして、私は再び地図へ意識を戻した。


長い旅路を経て、ようやくここまで到着した。


だが、私たちの仕事はまだ終わっていない。


◇◆◇


時刻は17時06分。


ASTRAEON VELORIAは、指定された航路に沿ってゆっくりと進んでいた。


ナビゲーションデッキの窓の外では、さまざまな人工施設から放たれる光が、次第にはっきりと見えるようになってきた。


私は、受入プラットフォームへ向かっている輸送船の一隻を観察した。


「かなりの量の貨物を運んでいる船ですね」


セラフィエルが通信端末から答えた。


『識別情報によれば、工業部品輸送船です。目的地は第二受入施設になっています』


「つまり、荷役地点は複数あるのですね」


『はい。タラリス国境兵站補給拠点には、貨物の分類、船舶の大きさ、必要な検査水準に応じた複数の受入区域が設けられています』


私は頷いた。


「それなら、ASTRAEONほどの大型艦に割り当てられる区域を、決めてもらう必要がありますね」


『船体寸法と必要な旋回空間についての仕様は、すでに送信済みです』


「よろしい」


私は施設の一部を拡大した。


保管施設の周辺では、複数の輸送車両が移動している。別の場所では、コンテナ搬送システムが、プラットフォームから物流経路へ貨物を運び上げていた。


この距離から直接確認できる活動は、それほど多くない。


しかし、施設の内部がどれほど忙しいかは想像できる。


船が到着する。


貨物が検査される。


コンテナが移動する。


書類が処理される。


そして、船は再び出発する。


人によっては退屈に感じるかもしれない日常業務だが、植民地や星間物流に依存する艦隊の生活を支える基盤でもある。


私は小さく微笑んだ。


「このような場所について、紬なら、いちばん面白いのは周辺の食堂だと言いそうですね」


『その可能性は非常に高いです』


「そんなに即答しなくてもいいでしょう」


『経験に基づいた評価を述べただけです』


私は小さく笑った。


そして再び航路を確認する。


今のところ、すべては予定どおりに進んでいる。


少なくとも、次の到着検査が終わるまでは。


◇◆◇


### 視点:セラフィエル・ヴェロリア


ASTRAEON VELORIAが補給拠点の接近区域へ向かって航行している間に、私はカリスタから報告を受け取った。


使用されている通信経路は、格納庫の内部ネットワークだった。


緊急通信ではない。


艦の安全を脅かす損傷に関する報告でもない。


単なる技術作業の進捗報告だ。


けれど、その報告はASTRAEA OF THE SILVER LANTERNの状態に関係しているため、重要な意味を持っていた。


私はカリスタから送られてきた画面を開いた。


メインハンガーでは、帝国家族の艦が、避難後に指定された保管位置に引き続き収容されていた。


ASTRAEAの全長は1,240メートル。


ASTRAEONと比較すれば、はるかに小さい。


それでも、ヴェルドラコン帝国皇室が所有する、指揮能力を備えた高級艦であることに変わりはない。


発見された当時の状態では、安全に航行できる状況ではなかった。


船体は損傷している。


複数の支援システムには、引き続き点検が必要だった。


そして、二基の主機はいずれも運転不能だった。


前段階で私たちが確認したのは、ASTRAEAを安全にハンガーへ移送できる状態にあるかどうかだけだった。


全面的な点検と修理は、それとは別の作業である。


私はカリスタとの通信を接続した。


「カリスタ、更新報告を受け取りました」


『よし。ちょうど初期点検を終えたところだよ』


画面にカリスタの姿が映し出される。


彼女はハンガーの作業区域の一つにいた。普段のカジュアルな服装とは少し異なる、作業用の衣服を着ている。


その背後では、複数の修理ドローンが設備を運びながら作業を進めていた。


「ASTRAEAの進捗はどうですか?」


カリスタが端末の表示を切り替えた。


「二基の主機に関する作業を始めたところだよ」


「修理を開始したのですか?」


「そうだ」


彼女は技術画像の一つを拡大した。


そこには、以前に重大な損傷を受けたASTRAEAの機関部が表示されていた。


「主要構造の点検と損傷箇所のマッピングは、もう終わった。元の二基の主機は、簡単な修理でどうにかなる状態じゃない。損傷した部品をいくつか交換するだけなら、一時的には動くかもしれないけど、あんな状態のまま皇室へ艦を返したくないんだよ」


私は画像を確認した。


「交換用の機関ユニットを使用することにしたのですね?」


「そのとおり。新しい主機を二基用意しているところだ」


カリスタは作業台に片手を置いた。


「もちろん、ASTRAEONの技術をあの艦に取り付けるつもりはないよ」


私は微笑んだ。


「あなたがそのようなことをするとは思っていません」


「それならよかった。簡単な作業を外交問題に変えるつもりもないからな」


彼女の口調は気楽だった。


しかし、カリスタはASTRAEON VELORIAの技術が、一般的な銀河標準とは比較にならないものであることをよく理解している。


正当な必要性もないのに、その技術を外部へ見せれば、余計な問題を引き起こすだけだ。


まして、ASTRAEAは私たちの所有物ではない。


あの艦は、ヴェルドラコン帝国皇室の資産なのだから。


修理では、銀河標準に適合する技術を使用し、所有者が理解し、保守し、運用できる艦へ戻す必要がある。


私は報告書の確認を続けた。


「修理方法について説明してください」


「銀河標準の技術を使う方法で進めている。交換用エンジンの仕様は、ASTRAEAの艦級で受け入れられる技術的限界に合わせる。ASTRAEON独自の中枢システムや特殊素材、専用技術は、交換ユニットに一切組み込まない」


カリスタが画面上の複数の箇所を指さした。


「修理ドローンも手順を調整済みだ。最初は艦の一般的な構造に基づいてマッピングを準備していたけど、ASTRAEAに必要な技術データを渡したあと、部品の配置、接合部の寸法、必要電力、安全手順に合わせて作業するようになった」


「つまり、ASTRAEAの構造に合わせて作業方法を変更したのですね」


「ああ。ドローンに、うちの艦の修理パターンをそのまま使わせるつもりはないからな」


彼女は一瞬、作業区域のほうを振り返った。


大型の部品ユニットを一機のドローンが持ち上げ、別のドローンが取り付け位置を点検している。


「ほら、あれだ。機関部の支持架を準備しているところだよ。寸法はハンガー内部の標準じゃなく、ASTRAEA本来の構造に合わせてある」


私は表示されたデータを確認した。


「機関出力の仕様に変更はありますか?」


カリスタが微笑んだ。


「少しだけな」


「少しだけ、ですか?」


「そんな言い方をするなよ、セラフィエル。新しい戦闘エンジンを作っているわけじゃないんだから」


私は小さく笑った。


「出力の向上幅を確認したいだけです」


「交換する二基の主機は、以前の仕様より少しだけ出力を上げている。ただし、その艦級に適合する銀河標準の運用範囲内には収めてあるよ」


彼女が比較データを表示した。


【ASTRAEA OF THE SILVER LANTERN — 推進システム更新計画】


| 項目 | 交換前の状態 | 修理計画 |

| ------ | -------- | --------------- |

| 左主機 | 運転不能 | 新型交換機関ユニット |

| 右主機 | 運転不能 | 新型交換機関ユニット |

| 技術基準 | 皇室艦の標準技術 | 銀河標準技術 |

| 出力 | 艦本来の仕様 | わずかに向上 |

| 制御システム | 追加点検が必要 | 新型機関ユニットに合わせて調整 |

| 作業状況 | 使用不能 | 組み立ておよび統合作業を開始 |

| 運用状態 | 運用不可 | 安全試験待ち |


私は各項目に目を通した。


「つまり、取り付けと試験が完了すれば、ASTRAEAは以前と同じように自力で移動できる能力を取り戻せるのですね」


「そうだ。しかも、エンジン出力は以前の仕様より少しよくなる。ただし、誤解するなよ。ユニットを取り付けただけで、すぐに飛べるなんて約束はしないからな」


「言いたいことは理解しています」


「制御システムの統合、電力配分の試験、それから機関と艦の支援システムの接続状態も確認しなきゃいけない。新しいエンジンが動いたとき、船体構造に許容範囲を超える負荷がかからないことも確かめる必要がある」


カリスタは肩をすくめた。


「ほかの部分が性能に耐えられないなら、新しいエンジンを取り付けたところで意味がないからな」


「もっともな説明です」


「当たり前だよ。見栄えをよくするためだけに何かを作ってるんじゃないんだ。使う人間が、無事に帰ってこられるものを作りたいんだよ」


私は微笑んだ。


まだ確認しておくべきことが一つある。


「制限されているASTRAEONの技術施設へ、アクセスする必要はありますか?」


「ない」


即答だった。


「Secret Archiveや中枢研究施設、それに今回の修理と関係ない技術へアクセスする必要はない。ハンガーで作業しているドローンは、ASTRAEAに合わせて調整した修理手順だけを使っている。交換ユニットを必要な標準に合わせて製造するための設備も、今あるもので十分だよ」


「分かりました」


「それと、もう一つ、セラフィエル」


「はい?」


カリスタがニヤリと笑った。


「報告書に、あたしが簡単な作業をしてるみたいな書き方はしないでくれよ。皇室艦の主機を二基交換するなんて、ちっとも小さな仕事じゃないんだからな」


「あなたの仕事を簡単だと言ったことはありませんよ」


「ならよかった。ランに、修理費用はボタン一つ押せば処理できるんじゃないか、なんて聞かれたくないからな」


私は笑った。


「技術報告書と管理報告書は、混同しないようにします」


「頼むよ」


カリスタは再び端末へ視線を戻した。


「作業を続ける。重要な進展があったら、次の報告を送るよ」


「了解しました。ありがとうございます、カリスタ」


「どういたしまして」


通信が終了した。


私は技術報告書を保存した。


続いて、ASTRAEAの修理データをASTRAEONの設備インベントリから分離して管理する。


艦の所有権に変更はない。


ASTRAEAの身分にも変更はない。


この修理作業を契約C-145-MCへ組み込む理由もない。


これは適用される同意とアクセス制限に従って行われる、独立した技術作業だ。


すべての記録を保存したあと、私は紬との通信を開いた。


「紬、カリスタから修理の進捗報告が届きました」


『何かあった?』


「ASTRAEAの修理が始まりました」


『お?』


私は報告の概要を送信した。


「カリスタは二基の主機に関する初期点検を完了しました。元の主機は簡単な修理では対応できない状態だったため、新しい交換用機関ユニットを二基準備することにしたそうです」


『ASTRAEONの部品を使うのか?』


「いいえ。銀河標準技術に基づいた方法で作業しており、ASTRAEON独自の技術は一切使用しないことを確認しています。修理ドローンも、ASTRAEAの構造と技術仕様に合わせて作業手順を調整済みです」


『よかった』


私は続きを説明した。


「新しい主機の出力は、以前の仕様よりわずかに高くなる予定ですが、艦級に適合する運用範囲内に収まっています。取り付け、統合、安全試験が完了すれば、ASTRAEAは以前と同じように自力で移動できる能力を取り戻せる見込みです」


『つまり、まだ完了したとは言えないんだな』


「そのとおりです。現在は、組み立てと取り付けの準備段階に入ったところです。制御システム、電力配分、機関と船体構造との接続について、引き続き試験が必要になります」


『それなら、急がせないでくれ。作業を早く終わらせることより、艦と乗員の安全のほうが重要だ』


「その判断を伝えておきます」


『それから、もう一つ。ASTRAEAの修理作業は、貨物の件と確実に分けておいてくれ。タラリス側と話をするときに、誤解が生じるのは避けたいからな』


「もちろんです。二つの記録は、すでに別々の管理経路に置いてあります」


『よかった。ありがとう、セラフィエル』


「どういたしまして、紬」


私は通信を閉じた。


それから再びASTRAEAの表示を眺める。


艦はまだハンガー内に収容されている。


自力で航行できる状態には戻っていない。


けれど、ASTRAEONへ移送されて以来、初めて二基の主機に対する本格的な修理作業が始まった。


将来、所有者へ報告できる進展が、ようやく生まれたのだ。


そして、カリスタが誰の安全も犠牲にすることなく、作業を完了できることを願っていた。


◇◆◇


### 視点:モード・ラン・ヴァレス


長い航海には、私が好きなことが一つある。


艦が目的地へ近づくにつれて、それまで別々に進んでいた仕事を、最終的な完了へ向けて一つの流れにまとめられることだ。


けれど、好きではないこともある。


引き渡し地点へ近づけば近づくほど、正確性を確認しなければならない書類が増えていく。


そして私は、8,400,000 GCもの契約が、本来なら避けられるはずの事務上の問題で台無しになることを、決して許すつもりはなかった。


セラフィエルから到着状況の更新が届いたとき、私は運用管理室にいた。


目の前の端末には、契約C-145-MCのデータ、貨物群の一覧、依頼主の情報、そして準備済みの受領書類の写しが表示されている。


私は最初から順番に、すべてを確認した。


「七つの貨物群。全部、記録に残っているわね」


私はマニフェストの各項目を一つずつ開いた。


第一貨物群は、軍用艦の機関部品。


第二貨物群は、モバイルフレームの整備ユニット。


第三貨物群は、防衛関連部品。


第四貨物群は、医療用品。


第五貨物群は、野戦通信モジュール。


第六貨物群は、兵站施設の修理装備。


第七貨物群は、人員支援用品。


私はコンテナ番号、封印番号、輸送書類を照合した。


すべて、カリスタが先ほど実施した点検結果と一致している。


数量の減少はない。


許可のないコンテナの開封もない。


所有権の変更もない。


そして、最も重要なことに、ASTRAEAの救助作戦に使用された貨物群は一つもない。


私は息を吐いた。


「これなら、少なくとも貨物の紛失報告書を作らずに済みそうね」


セラフィエルが端末越しに答えた。


『そのとおりです。インベントリの記録は、すべて一致しています』


「よかった。それでは、到着時刻の更新を表示してちょうだい」


新しいパネルが現れた。


【C-145-MC — 航行時間更新記録】


| 項目 | 記録 |

| ------------- | ------------------------- |

| 依頼主 | タラリス戦略兵站局 |

| 目的地 | タラリス国境兵站補給拠点 |

| 契約総額 | 8,400,000 GC |

| 貨物群数 | 7群 |

| 貨物の管理状態 | ASTRAEON VELORIAの管理責任下にある |

| 支払い状況 | 未払い |

| 引き渡し状況 | 未実施 |

| 救助作戦による追加所要時間 | 当初予定より18時間50分 |

| 航行状況 | 補給拠点の接近区域へ進入中 |


私は、時間に関する記録を注意深く読んだ。


「18時間50分……」


『はい。事件前の予定と比較して記録された、航行遅延時間の累計です』


「救助と避難に要した時間も含まれているの?」


『そのとおりです。救助作戦、生存者の対応、ASTRAEAのハンガーへの移送、安全確認、そして航路の再調整に要した時間が含まれています』


私は頷いた。


遅延時間だけを説明なしで提示するよりも、ずっとよい。


輸送契約では、遅延の理由は、その長さと同じくらい重要だ。


予定より遅れて到着するという事実だけを示せば、受取側から説明を求められても不思議ではない。


しかし、救助作戦と航路変更の一連の過程が記録されていれば、時間が変わった理由を客観的に確認できる。


「タラリスからの以前の更新通知は、保存されている?」


『保存済みです。タラリス戦略兵站局は到着時刻の変更報告を受領し、更新後の予定に従ってASTRAEONを待つことを確認しています』


「よかった。この遅延記録は、主マニフェストとは別の書類として保存してちょうだい。予定の変更によって、貨物の数量や契約金額まで変わったと誤解されるのは困るわ」


『了解しました』


私は次の受領書類を開いた。


まだ署名はない。


全貨物の受領が完了したという確認もない。


当然、支払いも行われていない。


一つのパネルを閉じて、別のパネルを開く。


「セラフィエル、補給拠点へ送る書類を、もう一度確認したいのだけれど」


『どうぞ』


「船舶識別情報、七つの貨物群の状態、契約番号、輸送認証書類を、正式な通信経路から送信してちょうだい。救助作戦の情報については、別の運用報告書を添付して。貨物の受領書類に混ぜてはいけないわ」


『了解しました』


「それから、輸送と直接関係のないASTRAEAの情報まで送らないこと。あの皇室艦は、今回の契約に含まれていないわ」


『情報の分離を維持します』


私は満足して頷いた。


聞きたかったのは、その答えだった。


◇◆◇


17時42分。


運用通信システムに着信があった。


発信元として表示されているのは、タラリス戦略兵站局。


私は通信を開いた。


「こちらはモード・ラン・ヴァレス。契約C-145-MCの管理担当者です」


向こう側から男性の声が聞こえた。


『こんにちは。こちらはタラリス国境兵站補給拠点・交通管制のヴェイラン・オリスです。ASTRAEON VELORIAの到着情報を受領しました。船舶が受入区域へ進入する前に、いくつか確認させていただきたい情報があります』


私は端末に表示された発信者情報を確認した。


ヴェイラン・オリス。


補給拠点外縁区域において、船舶の到着調整を担当する物流管制官だ。


「どうぞ」


『船舶識別情報、貨物群数、契約番号は受領しています。しかし、貴艦が先ほど通過した回廊では、保安手順に更新が行われています。受入区域への進入許可を出す前に、検査に必要な関連書類が揃っているか確認する必要があります』


私は少し目を細めた。


「未受領の書類が、何かあるのでしょうか?」


『初期検査として、輸送記録、船舶識別情報、貨物封印の状態を確認したいと考えています。また、武力衝突事件のあと、該当回廊を通過した複数の船舶に対して、追加検査が実施されています』


私はすぐには答えなかった。


保安検査の強化そのものは、不自然なことではない。


とりわけ、物流経路が武力衝突事件の発生した区域を含むのであれば、なおさらだ。


しかし、追加手続きが貨物受取側の権限を超えるアクセス要求へ変わらないよう、範囲を確認する必要がある。


「契約と輸送状態に関係する書類は、すべて用意しています。ただ、手続きを進める前に、追加検査の対象範囲を確認させてください」


『船舶識別情報の確認、到着データの認証、マニフェストの照合、封印の検証です。外部からの技術検査については、補給拠点の保安手順に従って実施される場合があります』


「コンテナの開封も必要になるのでしょうか?」


『必ずしもそうなるとは限りません。実物検査の実施については、初期確認の結果を受けて判断されます』


私は小さく頷いた。


「分かりました。契約関係書類は、正式な通信経路を通じて準備します。艦の技術検査についても、合意済みの安全手順に従います。ただし、艦内中枢ネットワークと内部システムへのアクセス権限は、引き続き艦の所有者が管理します」


ヴェイランは少し黙った。


『承知しました。こちらが必要としているのは、検査および受け入れに関係する情報のみです』


「それなら問題ありません」


『ありがとうございます。次の検査指示が発行されるまで、外部接近区域で現在位置を維持してください』


「そのようにします」


通信が終了した。


私は数秒間、端末を見つめた。


それから再び検査書類を開いた。


「セラフィエル」


『はい、ラン』


「要求された書類を送信して。ただし、艦の運用システムへのアクセスは許可しないでちょうだい。それから、今後の検査要求についても、発信元と権限に基づいて一件ずつ記録してほしいわ」


『了解しました』


私は背もたれに身体を預けた。


どうやら、今回の到着は、コンテナを引き渡して報酬を受け取るだけでは終わらないらしい。


でも、対処できない問題ではない。


一つひとつの要求が、正しい経路を通じて行われていることを確認すればいいだけだ。


私は契約書類をもう一度確認した。


840万GC。


七つの貨物群。


紛失なし。


数量の減少なし。


そして、救助作戦による遅延があったからといって、契約金額を一方的に変更する理由もない。


私はかすかに微笑んだ。


「紬なら、いつ支払いを受け取れるのか聞いてくるでしょうね」


セラフィエルが柔らかな声で答えた。


『受け入れ手続き完了後であれば、事務処理に必要な時間を見積もっておくことはできます』


「楽観的すぎる見積もりは出さないようにしてちょうだい」


『利用可能なデータに基づいて算出します』


「よろしい。さっきまでよく見えていた数字が、実は単なる予測だったなんて説明する羽目にはなりたくないから」


◇◆◇


### 視点:星崎紬


ASTRAEON VELORIAがタラリス国境兵站補給拠点の接近区域へ入り始めたとき、俺は指揮デッキにいた。


メインモニターには、次第に近づいてくる物流施設が映し出されている。


その構造物の規模を見る限り、想像していた以上に忙しい場所らしい。


出入りする船が何隻も見える。


コンテナを運んでいる船もあれば、進入許可を待っている船もある。


遠くからでも、受入プラットフォームの間を移動する輸送車両の活動が確認できた。


「なるほど。あれがタラリス国境兵站補給拠点か」


ナビゲーションデッキにいるヴェスペラが、通信を通じて答えた。


『そのとおりです。すでに接近区域へ入りました。ただし、接岸区域への進入許可は、まだ受け取っていません』


「何か問題でもあるのか?」


『航法上の問題はありません。船舶識別情報は受理されており、接近経路も引き続き開放されています。次の検査指示を待つよう求められているだけです』


「分かった。無理に進入しないでくれ」


『もちろんです』


俺はセラフィエルへ視線を移した。


「到着関係の書類はどうなってる?」


「船舶識別情報、貨物の状態、輸送に関する初期書類は、すべて正式な通信経路を通じて送信済みです。タラリス側もデータを受領しています」


「ランは?」


「ランは、受領書類と事務手続きの準備を確認しています」


「よし」


俺は背もたれに身体を預けた。


ようやく、この旅も終わりに近づいてきた。


とはいえ、あまり早く終わったと考えるつもりはない。


すべての貨物が検査され、正式な受領証明が発行され、支払いまで完了しない限り、契約C-145-MCは引き続き俺たちの責任下にある。


単純な話だ。


目的地に到着しただけで、仕事が終わったと思い込まないこと。


「紬」


セラフィエルが声をかけた。


俺は顔を向ける。


「もう一つ、更新情報があります」


「何だ?」


「カリスタから、ASTRAEAの二基の主機について、修理を開始したとの確認が届いています」


俺は頷いた。


「ああ、さっき説明してくれたな。進捗はどうなってる?」


「交換用の新しい機関ユニットを二基準備しています。銀河標準技術を使用した修理であり、ASTRAEON独自の技術は使っていません。ハンガーの修理ドローンも、ASTRAEAの船体構造に合わせて作業手順を調整済みです」


「エンジンの性能向上については?」


「出力は以前の仕様よりわずかに高くなる予定です。ただし、対象の艦級に適合する運用範囲内です」


俺は微笑んだ。


「カリスタは本当に、エンジンのことになると夢中になるな」


「修理作業を簡単なものとして扱わないように、とも言っていました」


「ははっ。いかにもカリスタらしいな」


あのときの彼女の顔が思い浮かぶ。


おそらく、真剣な表情で機関部品の前に立ちながら、誰かに作業の難しさを疑問視されて文句を言っているのだろう。


「でも、よかった。少なくともASTRAEAの修理には進展があったわけだ」


「そうですね。ただし、試験はまだ完了しておらず、同艦を運用可能な状態とは判断できません」


「分かってる。急がせないようにしてくれ」


「カリスタも、安全性と試験結果を、ASTRAEAが自力で航行可能と判断するための基準にすると伝えています」


俺は頷いた。


少なくとも、作業の方向性は明確になっている。


技術的な判断を、俺がカリスタから奪うつもりはない。


機関については、俺より彼女のほうがはるかに詳しい。


合意した範囲内で作業を進めている限り、俺が口を出す理由はなかった。


「そうだ、もう一つ」


俺は顔を向けた。


「何だ?」


「ランから、到着予定時刻に関する更新が届いています」


セラフィエルが小さなパネルを表示した。


【C-145-MC — 航行時間の遅延記録】


当初予定からの追加所要時間:18時間50分


原因:救助作戦、生存者の避難、ASTRAEAの移送、安全確認、および輸送経路の調整


状況:タラリス戦略兵站局へ報告済み


俺はその記録を読んだ。


「18時間50分か」


「はい。依頼主は更新後の予定を受領済みで、以前の通知では、変更された予定に従ってASTRAEONを待つと確認しています」


「それなら、契約どおりに輸送を完了すれば問題ないな」


「そのとおりです」


俺はメインモニターへ視線を戻した。


補給拠点は、さらに近づいている。


受入施設や管制センターと思われる大型構造物が、いくつか見えるようになってきた。


そのとき、ヴェスペラから通信が入った。


『紬、交通管制から新しい指示を受け取りました』


「どうした?」


『外部接近区域で現在位置を維持するよう求められています。受入区域へ進入する前に、追加の保安検査があるそうです』


俺は眉を上げた。


「追加検査?」


『はい。ASTRAEONが先ほど通過した回廊での武力衝突事件を理由に、同区域を通過した複数の船舶に対する追加確認を実施しているとのことです』


俺は地図を確認した。


「航路の変更を求められたのか?」


『いいえ。検査の指示を待つ間、現在位置を維持するよう求められているだけです』


「分かった。正式な指示なしに航路を変更しないこと。他船との安全距離も維持してくれ」


『了解しました』


俺はセラフィエルへ向き直った。


「要求されている検査の範囲は?」


「ランが確認しています。現時点で伝えられているのは、身元認証、マニフェスト、封印の照合、および外部からの技術検査の可能性です。艦内システムへのアクセス要求は、まだありません」


「それなら、手順には従おう。ただし、必要のないアクセス権は渡さないように」


「了解しました」


俺は頷いた。


受け入れ手続きの一環である正当な検査を拒否する理由はない。


しかし、物流施設へ進入するというだけで、ASTRAEONの内部システムにアクセスする権限まで他者へ渡すつもりもなかった。


それぞれの立場には、それぞれの権限がある。


補給拠点は、施設の安全と貨物の受け入れに責任を持つ。


俺たちは、艦と乗員、そしてまだ自分たちの管理下にあるすべての物品に責任を持つ。


どちらか一方が、もう一方の権限を奪う必要はない。


互いの責任を尊重すれば、両方とも成り立つはずだ。


◇◆◇


数分後、セラフィエルからランが指揮デッキへ向かっていると連絡があった。


扉が開き、管理端末を手にしたランが入ってくる。


「紬、タラリスからの追加要求を確認したわ」


「どうだった?」


「今のところ、要求の範囲は妥当ね。船舶識別情報の確認、マニフェストとの照合、封印の検査、それから外部からの技術検査の可能性が含まれているわ」


「拒否する必要があるものは?」


「今のところはないわ。ただし、艦内中枢ネットワークとASTRAEON内部システムへのアクセスは、貨物受け入れ検査の対象外であると、こちらから明確にしてある」


俺は小さく微笑んだ。


「よし」


ランが端末の書類を表示した。


「それから、遅延報告を契約の主書類から分離しておいたわ。18時間50分という数値は、救助作戦による航行上の遅延として記録済み。契約総額は8,400,000 GCのままよ」


「支払い状況は?」


「未払い」


「やっぱりか」


ランは無表情で俺を見た。


「そんなに残念そうな顔をしないでちょうだい。まだ貨物を引き渡していないのだから、当然でしょう」


「確認しただけだよ」


「接近回廊に入ってから、もう三回も同じことを聞いているわ」


俺は彼女を見た。


「本当に?」


「ええ」


セラフィエルが微笑んだ。


「ナビゲーションデッキでの質問も含めると、紬は支払い状況について、すでに四回確認しています」


「……セラフィエル」


「はい?」


「全部数えなくていいからな」


「情報の正確性を確認しているだけです」


ランが端末を閉じた。


「少なくとも、これで双方の記録が一致していることは確認できたわね」


俺はため息をついた。


「分かった。貨物の検査が終わるまでは、もう支払いの話はしないよ」


ランが薄く微笑んだ。


「その約束、覚えておくわ」


「そんなに嬉しそうにするなよ」


「嬉しいわけではないわ。あなたの決定を尊重しているだけよ」


俺は思わず笑いそうになった。


しかし、その会話が続く前に、メインモニターへ補給拠点の通信システムから通知が表示された。


セラフィエルがすぐに意識を切り替えた。


「紬、タラリス国境兵站補給拠点・交通管制から通信が入っています。送信元は初期認証を通過しました」


俺は姿勢を正した。


「接続してくれ」


「接続します」


ヴェスペラとの通信で聞いたものと同じ声が再び響いた。


『ASTRAEON VELORIA、こちらはタラリス国境兵站補給拠点・交通管制です。貴艦の到着データと輸送書類を受領しました。ただし、受入区域への進入を許可する前に、追加の保安検査について通知する必要があります』


俺は画面を見つめた。


「検査の範囲を説明してください」


『タラリス外縁通過回廊で発生した武力衝突事件を受け、保安手順が強化されました。該当する経路を通過した船舶には、追加検査が求められます。手順には、身元認証、到着データの確認、マニフェストの照合、貨物封印の検証が含まれます。施設の保安上必要と判断された場合、外部からの技術検査も実施されます』


俺はランへ目を向けた。


彼女が小さく頷く。


俺は再び通信相手へ答えた。


「ASTRAEON VELORIAは、施設の安全と貨物の受け入れに関係する検査手順に従います。検査内容の詳細、検査地点、そして担当者の権限を示す認証情報を、正式な通信経路から送信してください」


『要求を受理しました。検査の詳細は、補給拠点の保安部門で準備が整い次第送信します。それまでの間、外部接近区域で現在位置を維持し、許可が出る前に受入区域へ進入しないようお願いします』


「了解しました。正式な指示を待ちます」


『ご協力に感謝します』


通信が終了した。


俺は背もたれに身体を預けた。


「つまり、まだ中には入れないということか」


ランが頷く。


「そうね。でも、少なくとも初期検査の範囲は伝えられたわ。正式な書類が届くのを待つだけよ」


「全コンテナの開封を要求される可能性はあるか?」


「まだ、そのような判断は出ていないわ。先方が求めているのは、まずマニフェストと封印の照合よ。追加の実物検査が必要になった場合には、その根拠と対象範囲を提示してもらわなければならないわね」


俺は頷いた。


「分かった。一つずつ対応しよう」


ヴェスペラから状況更新が届いた。


『紬、艦の位置は安定しています。指示に従って、ASTRAEONを外部接近航路に配置しました。他船との距離も安全です』


「よし。そのまま位置を維持してくれ」


『了解しました』


俺は補給拠点の表示を見つめた。


いくつかのプラットフォームに設置された航行灯が、ますますはっきりと見えている。


ほかの船は、今も移動を続けている。


物流施設の職員たちも、それぞれの仕事を進めている。


その活動の中で、ASTRAEON VELORIAは今、貨物輸送の手続きを続けるための許可を待っていた。


「紬」


ランが俺を呼んだ。


「ん?」


「一つ、忘れてはいけないことがあるわ」


「何だ?」


「私たちは確かに目的地の区域まで到着した。でも、契約はまだ完了していない。船が到着したというだけで、輸送責任が受取側へ移ったと誰にも思わせてはいけないわ」


俺は微笑んだ。


「分かってるよ」


もう一度、メインモニターを見た。


「全部、正しい手順で終わらせよう。検査、受領証明、それから支払い。その三つが済んで、初めて仕事が終わったと言える」


ランが頷いた。


「聞きたかったのは、その言葉よ」


俺は再び席に着いた。


今回の旅は、なかなか長かった。


武力攻撃を受け、生存者を救助し、帝国皇室の艦をハンガーへ運び込み、それでも自分たちが責任を負っている貨物はすべて守り抜いた。


それでも、最初に引き受けた義務が消えるわけじゃない。


契約は最後まで完了させなければならない。


そして、ほかにもっと面白そうな用事ができたからといって、途中で仕事を放り出すつもりはなかった。


「セラフィエル」


「はい、紬」


「到着と検査に関する記録をすべて保存しておいてくれ。ヴェスペラの承認なしに、航法設定が変更されないように確認も頼む」


「了解しました」


「ラン、補給拠点との事務調整を続けてくれ。新しい書類が届いたら、承認する前に確認してほしい」


「もちろんよ」


最後に、俺は航行中の艦を示す画面へ目を向けた。


「ヴェスペラ、引き続き警戒を頼む。次の許可を待とう」


『了解しました、紬』


俺は背もたれに身体を預けた。


少なくとも、長い旅路の末に、ようやく目的地へたどり着いた。


残っている仕事を、あとは片づけるだけだ。


◇◆◇


19時18分。


タラリス国境兵站補給拠点・交通管制の正式通信経路を通じて、新しいメッセージが届いた。


セラフィエルは表示する前に、送信元の認証を確認した。


ランが端末の隣に立つ。


俺は通知の内容を読んだ。


【タラリス国境兵站補給拠点】


【追加保安検査通知】


| 項目 | 状況 |

| ---------- | --------------------- |

| 船舶識別情報 | 初期検査にて検証済み |

| 契約番号 | C-145-MC |

| 貨物群数 | 7群 |

| マニフェスト照合 | 継続検査待ち |

| 封印の検証 | 検査待ち |

| 外部技術検査 | 保安手順に従い実施が必要 |

| 受入区域への進入許可 | 未発行 |

| 一時待機位置 | 外部接近区域 |

| 検査の根拠 | 該当回廊で発生した武力衝突事件後の保安強化 |


俺は最後の項目に目を留めた。


「つまり、本当に追加検査を実施するわけか」


ランが頷いた。


「ええ。具体的な実施手順が届くまで待つ必要があるわね」


俺は小さく息を吐いた。


「今日中に、そのまま貨物を引き渡すのは難しそうだな」


「まだ分からないわ。検査にどれくらい時間がかかるのか、まだ把握できていないもの。正式な予定を受け取る前に結論を出さないでちょうだい」


「そうだな。できれば、あまり長引かないことを願うよ」


セラフィエルが微笑んだ。


「更新があれば、すぐにお知らせします」


俺は頷いた。


「頼む」


外では、タラリス国境兵站補給拠点が変わらず稼働を続けていた。


ほかの船は受入経路へ進んでいく。


一方、ASTRAEON VELORIAは外部接近区域で現在位置を維持していた。


旅の目的地は、もう目の前にある。


しかし、契約C-145-MCはまだ終わっていない。


そして、七つの貨物群を正式に引き渡す前に、私たちはもう一つの段階を通過しなければならない。


追加の保安検査だ。


◇◆◇


【次話予告・第176話】


「840万GCの責任」


カリスタは、タラリス国境兵站補給拠点で実施される七つの貨物群の実物検査に立ち会う。ランはマニフェスト、書類、輸送用封印を照合し、紬は武力衝突事件によって生じた遅延の証拠について説明を求められる。契約総額は引き続き8,400,000 GC。ASTRAEONは、正式な受領証明が発行されるまで、まだ支払いを受け取っていない。


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