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ASTRAEON VELORIA――銀河を旅する自由傭兵――  作者: Ren Hazumi


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第171話「積荷の無事を確認せよ」

第171話「積荷の無事を確認せよ」


場所:ASTRAEON VELORIA — 戦略貨物区画 → 物流管理室 → 指揮デッキ


航行状況:タラリス外縁通過回廊を経由し、タラリス国境兵站補給拠点へ復帰中


視点:カリスタ・フェロ → モード・ラン・ヴァレス → セラフィエル・ヴェロリア → 星崎紬


◇◆◇


### 視点:カリスタ・フェロ


戦闘が終わったあと、あたしが嫌いな仕事は二種類ある。


一つ目は、艦の部品がどれほど高価なのか理解していない連中が引き起こした損傷を修理すること。


二つ目は、一見何ともなさそうなものが、本当に何ともないのか確認することだ。


残念ながら、一つ目のほうが面白そうだからという理由で、二つ目を飛ばすわけにはいかない。


「セラフィエル、貨物区画の初期点検記録を開いてくれ」


『表示しました、カリスタ』


あたしはASTRAEON VELORIAの戦略貨物区画、その入口に設けられた点検端末の前に立っていた。


保安扉の向こうでは、契約C-145-MCに属する七つの貨物群が、タラリス軍事兵站泊地を出航したときから指定されている位置を、今も占めている。


見たところ、すべて整然としていた。


警報はない。


横転したコンテナもない。


戦闘中に固定装置のどれかが外れたことを示す痕跡もなかった。


だからこそ、あたしはすぐに点検完了とは言いたくなかった。


「最初からやるぞ」


『事件後の予備点検では、封印の破損および貨物の外観上の損傷は確認されていません』


「その報告書はもう読んだ。今度は詳細な実物点検と照合するんだよ」


『了解しました』


格納場所から二機の点検ドローンが出てきた。


一機目は上部点検経路へ向かい、二機目はコンテナの底部に近い経路を進んでいく。


あたしは作業プラットフォームの高さを調整した。


「まずは軍用艦の機関部品群からだ」


画面に一覧が現れた。


第一貨物群は、輸送マニフェストに登録された機関部品と技術装備で構成されている。


それぞれの貨物特性に合わせた保安装置を備えるコンテナへ収容済みだ。


あたしは最初に、外部構造と固定装置の表示を調べた。


「支持部の圧力値は?」


『正常です』


「戦闘前の点検から、位置に変化は?」


『記録された許容範囲を超える変化は確認されません』


「後部の角は?」


『衝突の兆候はありません』


あたしはコンテナ表面の映像を拡大した。


「よし。次のセンサー経路へ移れ。下部の固定具に異常な負荷がかかってないかも確認したい」


二機目のドローンが指示に従って動き出した。


別に時間を潰そうとしているわけじゃない。


こういう貨物は外から見れば無傷でも、十分に強い衝撃を一度受けただけで、内部の梱包状態が変わっている可能性がある。


それが受取人による開封時まで発見されなかったら、相手が最初に尋ねるのは、輸送中の管理責任を負っていたのが誰か、ということだろう。


その答えは、あたしたちだ。


アルケイオンじゃない。


ASTRAEAの生存者でもない。


ASTRAEON VELORIAだ。


「完了。第二貨物群へ」


◇◆◇


次の貨物は、モバイルフレームの整備に関係するものだった。


こっちには少し興味がある。


「これが壊れてたら、本気で腹が立つぞ」


『何か特別な技術上の理由がありますか?』とセラフィエルが尋ねた。


「あるよ。精密部品ってのは、取り付けたあとになって損傷が分かると、とにかく厄介なんだ」


『精密点検には追加の注意が必要であると記録します』


「『厄介』って部分まで書くなよ」


『書きませんよ』


その返事の調子を、あたしは完全には信用できなかった。


一機目のドローンが点検マーカーへ接近する。


走査結果を待つ間、あたしは固定装置、防振支持具、保管環境の各種指標を、積み込み時のデータと比較した。


有意な逸脱はない。


特に弱そうだと考えていた部分も、もう一度確認する。


「よし。問題なし」


『第二貨物群は適合と判定してよろしいですか?』


「輸送状態については適合だ。ただし、全部の部品が実際の運用試験を通過した、なんて書くなよ。今回の点検のためだけに、依頼主の貨物を開封したり、取り付けたりしたわけじゃないんだから」


『両者の状態区分を明確に維持します』


「よし。次は防衛関連部品だ」


第三貨物群の点検では、さらに慎重を期した。


防衛関連部品は、貨物書類に従って特別な保安措置が必要になる。


つい先ほど戦闘を経験したからといって、保管構成を変更する理由にはならない。


あたしは梱包の状態、封印の完全性、外部監視システムの測定値を確認した。


「ASTRAEONの兵装へ転用したものは、一つもないんだよな?」


『ありません。ASTRAEONの防衛システムは、艦自身が保有する装備と備蓄を使用しています』


「よし。その説明はあとでランの報告書にも必ず入れてくれ。戦闘記録を見た誰かに、あたしたちが契約貨物から何か持ち出したと勘違いされたくないからな」


『資材使用記録との照合結果は、すでに準備しています』


「そうそう。そういう答えが聞きたかったんだ」


◇◆◇


第四貨物群へ到達すると、あたしは緊急医療用品のコンテナが並ぶ列の前で、プラットフォームを停止させた。


医療用品には、医療用品なりの厄介な問題がある。


損傷のすべてを、梱包の形状だけで判断できるわけじゃない。


あたしは保管環境の履歴、記録された温度変化、それからASTRAEONがCombat Modeに入っていた間の監視システムの状態を調べた。


「この区画で、環境維持の供給が途切れたことは?」


『ありません。貨物用環境制御システムは、契約に定められた条件の範囲内で稼働を継続しました』


「ASTRAEAを格納庫へ運び込んだときは?」


『ASTRAEAの移送手順と、七つの貨物群の保管設備との間に、運用上の接続関係はありません』


あたしは頷いた。


「そうなってて当然なんだけどな。でも、当然だってことも証明しなきゃいけないんだよ」


続いて、野戦通信モジュール、兵站施設の修理装備、そして人員支援用品の点検へ移った。


ドローンが指定済みの点検箇所を、一つずつ通過していく。


強制開封の痕跡はない。


コンテナの移動もない。


許可のない資材使用もない。


七つの貨物群すべての点検を終えたところで、あたしはメイン端末へ戻り、概要を読み始めた。


【七つの貨物群・詳細技術点検結果】


第01群:軍用艦の機関部品――適合


第02群:モバイルフレームの整備ユニットおよび構成部品――適合


第03群:防衛・防護関連部品――適合


第04群:緊急医療用品――適合


第05群:野戦通信モジュール――適合


第06群:兵站施設の修理装備――適合


第07群:人員支援用品――適合


【総合結果】


輸送継続を妨げる物理的損傷、または保管状態の逸脱は確認されなかった。


あたしは最後の一行を二回読んだ。


「よし。ただし、あたしの点検結果だけで全部を決めるわけじゃない。セラフィエル、次はお前の番だ。こいつらが戦闘前に受け取ったものと、今も同じ貨物だってことを証明してくれ」


『もちろんです、カリスタ』


「それから、実物点検の結果をランへ送ってくれ」


『すでに送信しました』


端末を閉じようとしたところで、マニフェスト一覧の一行が目に留まった。


TL-CG-017。


「ああ、危ない。忘れるところだった。そのコンテナの訂正記録を開いてくれ」


要求したデータが表示された。


【TL-CG-017】


関連コンテナ:TL-CN-017-04


正式な訂正後の記録質量:186,040キログラム


封印識別番号:TL-SG-482716


あたしは質量の測定値と封印の識別情報を確認した。


どちらも、正式に承認された訂正記録と一致していた。


「ほらな。だから、改訂履歴も確認せずに、マニフェストの最初の数字だけを見る奴は嫌いなんだよ」


『検証済みの質量は、引き続き訂正値と一致しています。封印にも変更はありません』


「比較には必ず訂正後の数値を使えよ。せっかく前に片づけた問題を、新しい報告書のせいで蒸し返されちゃたまらないからな」


『了解しました』


あたしは技術承認を保存した。


少なくとも、今日の仕事の一つは、部品交換を必要とすることなく終わったわけだ。


実に喜ばしい進歩だった。


◇◆◇


### 視点:モード・ラン・ヴァレス


『カリスタが、詳細な実物点検を完了しました』


内部通信からセラフィエルの声が聞こえ、私は顔を上げた。


「結果はもう揃っているの?」


『はい。七つの貨物群すべてが、定められた輸送条件を満たしています』


「よかった。センサーの測定記録と一緒に、原本の報告書を送ってちょうだい。概要だけではなくてね」


『すでにあなたの作業環境へ送信済みです』


「ありがとう」


私は再び、目の前の契約ファイルへ注意を戻した。


C-145-MC。


契約総額は8,400,000 GC。


貨物群は七つ。


最終的な受取先は、タラリス国境兵站補給拠点。


最終引き渡しがまだ行われていないため、支払いも未完了。


一息で読み上げれば単純な話に聞こえる。


けれど、実際の輸送業務には、混同してはならない複数の責任が存在する。


実物点検によって証明できるのは、観測可能な貨物の状態だ。


システム履歴の照合によって証明できるのは、記録が継続していること。


そして管理報告書には、正当な根拠のないまま、物品の管理、使用、譲渡が変更されていないことを示さなければならない。


私は戦闘後の初期点検ファイルを開き、最新の結果と並べた。


「セラフィエル、先に一つ確認したいのだけれど。今回の詳細点検は、今朝タラリスへ送信した予備点検の結果を置き換えるものなの?」


『いいえ。今回の点検は、実物データと包括的な照合結果によって、以前の結果を補強するものです。予備通知の訂正を必要とする発見はありませんでした』


「よし」


私は二つの報告書の関連性を記録した。


すでに私たちは、初期点検に基づき、貨物が無事であることを依頼主へ報告している。


今日の点検は、その判断を支える技術的根拠を、より完全なものにしたのであって、以前に報告した状況を変更するものではない。


この区別は重要だ。


二つの報告書を読んだ相手に、私たちが航行を再開してから初めて貨物点検を行ったのだと誤解されては困る。


「次は、救助作戦中の資材使用記録をお願い」


セラフィエルが別の一覧を表示した。


ASTRAEAの人員を救助するために、ASTRAEONが保有する施設と備蓄を使用した。


緊急医療支援、技術的な対応、ドローンやVector Caliperの投入についても同様だ。


それらの活動は、すべて記録されていなければならない。


ただし、同じ艦に積まれていたという理由だけで、救助費用の記録がC-145-MCの契約貨物使用記録に変わってしまってはならない。


私は照合結果を確認した。


「エウフォリアのために、契約貨物の医療用品を持ち出した事実は?」


『ありません』


「ASTRAEAへ野戦通信モジュールを貸し出した記録は?」


『ありません』


「アルケイオンとの戦闘で、契約貨物の防衛関連部品をASTRAEONが使用したことは?」


『ありません』


「施設修理用の装備については?」


『すべて元の貨物群に留まっています。ASTRAEAへの対応には、別途承認された資源を使用しました』


私は頷いた。


「それなら、裏付け記録を添えたうえで、無断使用の項目を該当事実なしとして確定できるわね」


『そのとおりです』


私は結果を主インベントリ報告書へ移した。


【C-145-MC — 事件後の管理記録照合】


受領した貨物群:7


現在もASTRAEONに積載されている貨物群:7


紛失した貨物:確認されず


外部への貨物移転:なし


救助作戦への契約貨物の使用:なし


ASTRAEONの兵装への契約貨物の使用:なし


封印の破損・違反:確認されず


所有権または管理権限の変更:なし


輸送義務の状態:継続中


私は最後の項目で目を止めた。


継続中。


つまり、まだ仕事は残っているということだ。


ただ、少なくとも軽率な判断のせいで、数百万GC相当の貨物を失ったと説明する必要はなくなった。


「セラフィエル、もう一つ質問があるわ」


『どうぞ』


「Vector Caliperが運び込んだ物品は、契約貨物のインベントリに混入していないと確認できている?」


『はい。回収物については、別のインベントリと保管場所で管理しています』


「よかった。あちらの取り扱いを管理上確定するには、まだ所有権の出所を調べる必要があるわ」


『カリスタにも、技術的な分類が自動的に分解許可を意味するわけではない、と伝えてあります』


私は小さく微笑んだ。


「何て言っていた?」


『理解している、とのことでした』


「それだけ?」


『事務作業に時間がかかることについて、いくつかコメントしたあとで、ですが』


「いかにもカリスタらしいわね」


私は自分の担当部分の承認を終え、セラフィエルへ最終確認を依頼した。


ちょうど飲み物を取ろうとしたところで、通信端末が鳴った。


セラフィナからだった。


私は通信を受けた。


『ラン、邪魔をしてごめんなさい。今は忙しいですか?』


「インベントリ報告書をまとめているところよ。何か用かしら?」


『ミレルが、乗客管理手順の写しを受け取りました。ASTRAEA側から、何か追加の書類を提出する必要があるか確認したくて』


「乗客の配置について、新しい問題は発生していないわ。まだ必要な書類があれば、指定済みの経路を通じて送ることになるわね」


『よかった。それから、もう一つ』


「どうぞ」


セラフィナは少し間を置いた。


『タラリスとの契約貨物について、皆さんが点検をしていると聞きました。必要であれば、私たちの艦が関係する事件について、帝国の手順に従った補足報告書を作成するお手伝いもできます。あなたの仕事を引き継ごうというつもりではないのですが』


私は端末を見つめた。


礼儀正しい申し出だ。


しかも彼女の立場を考えれば、多くの人にとって、断りにくい申し出でもあるのだろう。


「ありがとう、セラフィナ。でも、C-145-MCの契約報告書については、依頼主の書類と規定に従わなければならないの」


『つまり、帝国の手順は必要ないということですか?』


「輸送報告書を承認する根拠としては、ね。この契約の相手はタラリス戦略兵站局であって、ヴェルドラコン帝国ではないから」


私は、彼女が拒絶の意味を取り違えないよう、さらに説明を加えた。


「今後、ASTRAEAの事件についての証言や、あなたの艦の身元、あるいは帝国側の権限に属する書類が必要になった場合には、もちろん協力してもらえると助かるわ。でも、今この艦に帝国皇女が乗っているという理由だけで、契約上の点検や承認の書式を変更するわけにはいかないの」


しばらく返事がなかった。


やがて、セラフィナが小さく笑った。


『そういうことでしたか。私は今、自分の仕事の範囲外にあることを申し出てしまったのですね』


「助けようとしてくれた気持ちは嬉しいわ。感謝している」


『それなら、報告書の作成を邪魔しないようにします』


「邪魔だなんて思わなくていいのよ。ただ、書類には最初から正しい手続きを通しておいたほうがいい、というだけだから」


『紬が契約の話になると、いつもあなたの意見を聞く理由が、少しずつ分かってきました』


私はカップを持ち上げた。


「あの人には、そうするだけの非常に大きな理由があるもの」


『事務管理が得意だからですか?』


「まだ8,400,000 GCの支払いを受け取っていないからよ」


セラフィナが、先ほどよりはっきりと笑った。


『分かりました、ラン。皆さんが報酬を受け取るまでの道を、私が塞ぐようなことはしません』


「ありがとう」


通信が終わると、私は再びインベントリファイルへ戻った。


紬が最終承認を出せるようになるまでには、まだいくつか照合すべき部分が残っていた。


◇◆◇


### 視点:セラフィエル・ヴェロリア


カリスタとランからの報告は、ほぼ同じ時刻に届いた。


二つの報告書は、それぞれ異なる観点から作成されている。


カリスタが確認したのは、貨物そのものと保管システムの物理的な状態。


ランが確認したのは、法的責任、物品の管理に関する事務記録、そして事件中の資源使用履歴だ。


私の役割は、両者の結論が、一貫性のある記録によって裏付けられていると確認することだった。


私は、タラリス軍事兵站泊地での初期積載データを開いた。


続いて、ASTRAEONが戦闘宙域へ入る前の点検記録、Combat Mode中のシステム状態、そして最新の検査結果を表示する。


この比較のために、コンテナの中身を開封する必要はない。


承認済みのマニフェスト、封印の識別情報、質量の測定値、位置マーカー、貨物監視システムの記録を利用すれば、必要な確認はすべて行える。


私は、点検内容を四つの主要項目に整理した。


【第一項目:封印の完全性】


各封印の識別情報を、現在有効なマニフェストと照合する。


これには、事件前にすでに処理を終えていた正式な訂正記録も含まれる。


【第二項目:貨物の質量】


戦闘前後の測定値を、正式に記録された質量と比較する。


承認済みの訂正値を、新たな異常として取り扱ってはならない。


【第三項目:コンテナの位置】


各コンテナの位置履歴を調査し、記録のない移動が発生していないことを確認する。


【第四項目:アクセスおよび使用履歴】


救助作戦と戦闘が行われた期間について、開封申請、移動、物品の持ち出しに関する履歴を確認する。


七つの貨物群が、輸送義務の範囲外で使用された兆候は見つからなかった。


続いて、私はTL-CG-017の記録を開いた。


この項目には以前に訂正が行われた履歴があるため、特別な注意が必要だった。


【貨物記録:TL-CG-017】


識別番号:TL-CG-017


対象コンテナ:TL-CN-017-04


訂正後の正式記録質量:186,040キログラム


封印識別番号:TL-SG-482716


最新の測定結果は、現在有効な正式記録と一致していた。


すでに解決済みの管理上の問題を、もう一度持ち出す理由はない。


私は結果を報告書へ追加した。


しばらくして、紬から通信が入った。


『セラフィエル、全体の点検はどうなってる?』


「最後の照合作業を終えるところです。カリスタは輸送を妨げる物理的損傷を発見していません。ランも、貨物の紛失や無断使用がなかったことを確認しています」


『今すぐ俺の承認が必要なものはある?』


「まだありません。別々の結果を根拠に承認してもらうことがないよう、報告書を完成させてからお渡ししたいと思っています」


『分かった。待ってるよ』


私は微笑んだ。


「乗客の宿泊書類について話していたときより、ずいぶん楽しそうですね」


『当たり前だろ。こっちはまだ口座に入ってきてない8,400,000 GCに、直接関係してるんだからな』


「ランも同じことを言っていました」


『いいね。つまり意見が一致してるってことだ』


通信が終了した。


私はすべてのデータを、もう一度確認した。


その中には、意図的に独立した項目として調べていたことが一つある。


戦闘中、ASTRAEONは運用構成を変更している。


防御システムが起動され、直接的な脅威が弱まったあとには、通常航行モードへ復帰した。


そうした変更によって、貨物マニフェストの読み取りに誤りが生じてはならない。


そのため、私は各事象の発生時刻と、貨物区画の監視センサー記録を比較した。


結果は一致している。


点検の結論を左右するような記録の欠落も見つからなかった。


私は艦長への報告用に、比較結果を簡潔にまとめた。


【C-145-MC 貨物状態比較】


――戦闘接触前/詳細点検後――


登録済み貨物群:7/7


検証済み貨物群:7/7


封印の破損・違反が疑われるコンテナ:0/0


無断の貨物持ち出し:0/0


記録のない移動:0/0


輸送継続を妨げる発見事項:0/0


【結論】


利用可能な実物点検、センサーデータ、マニフェスト、アクセス履歴に基づき、C-145-MCの七つの貨物群はすべて、完全な状態を維持していると確認された。


私は報告書を紬へ送信した。


ただし、仕事を終える前に、もう一つ確認しておきたい部分があった。


私たちの最終的な配送先は、契約書に名前が記載されているだけの場所ではない。


タラリス国境兵站補給拠点は、独自の保安手順、到着経路、引き渡し条件を持つ施設なのだ。


通過回廊で武力衝突事件が発生した以上、受け入れ手順が変更される可能性も考慮しなければならない。


私は契約用チャンネルに届いている運用通知を確認した。


配送先を変更する指示は、まだない。


契約解除の命令もない。


私は引き続きチャンネルの監視を維持し、報告書へ戻った。


「照合が完了しました」と、内部通信で告げた。「紬、ラン、カリスタ。すべての検査結果を統合しました」


『やっとか』とカリスタが答える。


ランがすぐに口を挟んだ。


『あなたはたった今、七つの貨物群の点検に時間をかけたばかりでしょう。セラフィエルが理由もなく待たせたみたいな言い方はやめなさい』


『そんなこと言ってないだろ!』


私は二人が少し言い合うのを、そのままにしておいた。


少なくとも、二人の仕事はどちらも満足のいく結果だったのだから。


◇◆◇


### 視点:星崎紬


俺は温かい飲み物を楽しみながら、指揮デッキの端末で最終報告書を読んでいた。


結論は十分に明確だ。


七つの貨物群は、すべて揃っている。


封印の破損はない。


ASTRAEAの救助に、契約貨物を使用した事実もない。


ASTRAEONの兵装へ転用された部品もない。


そして、輸送を中断しなければならないような技術的問題も、確認されなかった。


個人的には、今すぐ承認を出して、飲み物の続きを楽しみたいところだ。


残念ながら、契約書の小さな注記を見落とすのは、ランが不機嫌そうな顔で俺のところへやって来る事態を招く、非常に効果的な方法だと経験から学んでいる。


俺は先に、特記事項の部分を読んだ。


「セラフィエル、TL-CG-017の質量は、正式な訂正記録を使ってるんだよな?」


「はい。186,040キログラムという質量を、コンテナ識別番号TL-CN-017-04、および封印識別番号TL-SG-482716と照合済みです」


「よし。昔の訂正記録を見て、誰かが突然、新しく貨物がなくなったとか言い出したら困るからな」


「そのような兆候はありません」


俺は次の項目へ画面を送った。


「Vector Caliperが持って帰ってきた物品は、全部契約貨物とは別扱いだな?」


「はい」


「ASTRAEAの収容によって、契約コンテナの配置も変わってない?」


「変わっていません。ASTRAEAは、カリスタが承認した格納庫構成に従って収容されています」


俺は頷いた。


「それなら、お前の最終的な結論は?」


セラフィエルが概要を表示した。


「実物点検、センサーデータ、封印と質量の履歴、位置記録、および管理記録の照合結果に基づき、C-145-MCの輸送継続を妨げる貨物状態上の問題は確認されませんでした」


「カリスタは?」


通信越しに、カリスタの声が聞こえた。


『貨物の技術面については、あたしも同意だ。ただし、報告書の意味を間違えるなよ。梱包されてる部品を一つ残らず実際に動かして、運用可能か試したわけじゃないんだからな。あたしが調べたのは輸送状態だ』


「了解」


「ランは?」


『管理書類にも問題はないわ。紛失や無断使用は確認されていない。正式な引き渡し手続きが完了するまでは、契約上の義務は引き続きASTRAEONが負うことになるわ』


「で、支払いは?」


『まだ受け取っていないわよ、紬』


「知ってる。やる気を保つために、もう一度聞いておきたかっただけだ」


どうやら、いつの間にか共有通信に繋がっていたらしいレアが笑った。


『それ、ずいぶん悲しいやる気の出し方だね』


「お前、まだ俺たちの支出一覧を見てないだろ」


『お昼ご飯の前には、できれば見たくないかな』


ランがすぐに言った。


『あとで、自分のモバイルフレームの運用支出に関する項目は、ちゃんと読んでもらうわよ』


『なんで私、この通信に入っちゃったんだろ……』


俺は微笑んだ。


艦内の雰囲気も、本当に普段どおりに戻り始めているらしい。


◇◆◇


俺は点検結果に艦長としての承認を付与した。


【ASTRAEON VELORIA — 艦長承認記録】


契約番号:C-145-MC


依頼主:タラリス戦略兵站局


目的地:タラリス国境兵站補給拠点


貨物群数:7


実物点検:承認


マニフェスト照合:適合


管理記録検査:適合


輸送状況:契約に従い継続可能


支払い状況:最終引き渡し待ち


承認者:星崎紬


俺は表示された確認結果を読み終えた。


「完了。ラン、詳細点検結果の更新報告を契約用チャンネルから送ってくれ」


『了解』


「ヴェスペラ、目的地はそのままだ。今回の貨物点検が終わったからって、航路を変更する必要はない」


『承知しました。引き続き承認済みの経路を使用し、航法上または安全上の必要が生じた場合にのみ調整します』


「よし」


俺は背もたれに身体を預けた。


問題が一つ片づいた。


ASTRAEAには、まだ修理が必要だ。


生存者たちにも、それぞれ対処しなければならない事情が残っている。


帝国側からも、迎えの手配に必要な詳しい情報は、まだすべて届いていない。


でも、少なくとも俺たちの貨物まで、さっきの大騒動の犠牲にならずに済んだわけだ。


システムが入室許可を確認したあと、指揮デッキの扉が開いた。


セラフィナが、ミレルを伴って歩いてくる。


俺は振り向いた。


「ああ、セラフィナ。どうかした?」


彼女は一瞬、足を止めた。


それから、俺がすぐに名前で呼んだことに気づいたのか、微笑んだ。


「先ほど、報告書の作成をお手伝いできないか、ランに連絡したのです。でも、皆さんの契約報告書は、タラリスの規定に従う必要があると言われまして」


「そうだね」


「それで、私の申し出が皆さんを困らせてしまわなかったか、確認したかったのです」


「全然。そんなことないよ」


俺は空いている椅子を指さした。


「座って。ちょうど貨物点検が終わったところなんだ」


セラフィナはミレルにも座るよう促してから、自分も腰を下ろした。


「結果はどうでしたか?」


「良好。全部無事だったよ」


「それはよかった」


「正直、戦闘前後のデータを比較する必要なんて、一度もないまま終わってくれたほうが嬉しかったけどね」


「お気持ちは分かります」


彼女は、一般向けの情報として表示された報告書の概要へ目を向けた。


乗客には不要な技術的詳細は含まれていない。


「では、これからもタラリス国境兵站補給拠点へ向かうのですね?」


「ああ。正式な契約変更があるか、安全上の事情で経路を見直さなきゃいけなくなるまでは、そこが俺たちの目的地だよ」


セラフィナが頷いた。


「一つ、聞いてもいいですか?」


「どうぞ」


「もし帝国皇室が、契約金額の代わりとなる報酬を提示して、先に私たちを帰国させてほしいと頼んだら……あなたは受け入れますか?」


ランが顔を上げた。


共有通信の向こうで、レアの冗談も止まった。


俺はセラフィナを見た。


どうやら、彼女は本気で新しい取引を持ちかけているわけじゃなさそうだ。


むしろ、俺がどうやって物事を判断するのか、知りたいのだろう。


「そんなに単純な話じゃないよ」と俺は答えた。


「すでに契約書に署名しているからですか?」


「そう。仕事の金額だけが問題じゃないんだ。俺たちは、ほかの誰かが必要としている七つの貨物群を、もう預かってる。品物の到着を待っている受取人もいるし、誰かがもっと高い金額を提示したからって、自動的に消えるわけじゃない義務もある」


俺は端末を置いた。


「本当に輸送内容を変更する必要があるなら、正当な根拠と、権限を持つ当事者の同意が必要になる。あなたのご家族からお金を受け取って、そのままタラリスの仕事を放り出すわけにはいかないんだよ」


セラフィナがゆっくりと頷いた。


「分かりました」


ランが付け加えた。


「それに、そうした申し出は、別の新しい契約として扱う必要があるわ。セラフィナの乗客資格によって、C-145-MCの契約内容を変更する権限が与えられるわけではないから」


「その説明は、先ほどあなたから聞きましたよ、ラン」


「分かっているわ。紬が簡単すぎる答えを返さないよう、念のため確認しただけ」


俺はランを見た。


「俺、まだ何もしてないんだけど」


「結構。そのまま維持してちょうだい」


セラフィナが笑った。


それから、再び俺へ目を向ける。


「それなら、皆さんがこの仕事を終えるまで待つことにします。ひとまず私とASTRAEAの人員は、合意済みの乗客向けの取り決めに従います」


「そうしてもらえると助かるよ」


「それから、ASTRAEAへの攻撃について、正式な手続きを通じて私が提供できる情報があれば、教えてください」


俺は頷いた。


「もちろん。必要のないことにまで巻き込むつもりはないけど、あなた自身が攻撃を受けた当事者だって事実も、無視するつもりはないよ」


彼女が微笑んだ。


「ありがとう、紬」


今度は、ずいぶん自然に俺の名前を呼んでいた。


すると、通信越しにレアがすかさず口を挟んできた。


『おお、慣れるの早いねえ』


「レア、なんでまだ聞いてるんだ?」


『だって、まだ誰も共有チャンネルを切ってないんだもん!』


俺はセラフィエルを見た。


彼女は微笑んでいた。


「会議用の設定に従って、チャンネルはまだ開かれたままですよ、紬」


「せめて、ほかの場所から誰かが俺をからかい始めたら、警告くらいしてくれよ」


『それでは、艦長の個人向けサービス申請一覧に追加しておきましょうか』とセラフィエルが答えた。


「やめてくれ」


セラフィナとミレルが笑った。


俺は飲み物を手に取り直した。


今日は、なかなか順調じゃないか。


◇◆◇


数分後、ランから再び指揮デッキへ連絡が入った。


今度の声は、俺がまだ読んでいない書類について注意しようとしている人間のものではなかった。


『紬、詳細な点検結果の送信は完了したわ。それから、目的地の通信チャンネルを通じて、追加の運用通知が届いているの』


俺は振り向いた。


「タラリスから?」


『ええ。配送先の変更でも、契約解除でもないわ。ただし、関連するいくつかの受入地点と通過施設で、保安検査の手順を強化しているそうよ』


セラフィエルが、チャンネルの安全確認を通過したメッセージをすぐに開いた。


【タラリス戦略兵站局】


【追加運用通知】


一部の目的地施設および関連する通過経路における保安状況の変化に伴い、複数の受入地点では、身元、マニフェスト、封印、ならびに貨物の発送元に関する検査を、従来より厳格に実施しています。


輸送事業者は、有効な貨物関係書類をすべて保持し、目的地施設から発せられる正式な到着案内に従ってください。


契約C-145-MC:継続中


配送先:変更なし


最終引き渡し条件:引き続き有効。ただし、到着時に追加の保安確認手順が設けられる可能性があります。


俺は通知を最後まで読んだ。


「つまり、検査が厳しくなってるってことか」


「そうね」とランが答えた。「ただ、すべての施設が同一の手順を採用していると示す詳細は、まだ届いていないわ。目的地へ近づいたら、補給拠点からの個別通知に従う必要があるわね」


ヴェスペラも通信に加わった。


『到着時の通信については、引き続き承認済みの経路を維持します。待機順序や接近地点に変更がある場合には、関係宙域へ入る前に情報を受け取りたいところです』


「賛成だ」


俺は報告書の概要に表示されている、七つの貨物群へ目を向けた。


幸いなことに、俺たちはついさっき詳細な点検を終えたばかりだ。


少なくとも、事件後の封印や質量、貨物の配置について補給拠点の担当者から説明を求められても、ランは必要な記録をすべて揃えている。


「ラン、その通知も契約ファイルと一緒に保存しておいてくれ」


「もう保存したわ」


「セラフィエル、今後の保安情報も監視してくれ。身元を検証できない相手からの配送先変更は、受け入れないように」


「了解しました」


俺は小さく息を吐いた。


「それから、ヴェスペラ……」


『はい?』


「目的地は、引き続きタラリス国境兵站補給拠点だ」


『もちろんです、紬』


セラフィナは、俺たちの会話に口を挟むことなく耳を傾けていた。


しばらくすると、彼女が静かに言った。


「今回のような事件のあとで保安検査が強化されるのは、それほど意外なことではありませんね」


俺は頷いた。


「かもしれない。でも、今回の通知がASTRAEAへの攻撃に直接関係しているのか、それとももっと広い範囲で行われている保安上の調整なのかは、まだ分からない。早まって結論を出したくはないんだ」


「そうですね」


俺は概要表示を閉じた。


外では、ASTRAEON VELORIAが主兵装をすべて格納したまま、航行を続けている。


ASTRAEAは格納庫内で安全に保全され、Vector Caliperも、まだ調査の終わっていない回収物とともに収容されていた。


砲撃はない。


追跡もない。


ただ、引き受けた七つの貨物群を、約束した目的地へ届けなければならない私用艦が、一隻あるだけだ。


そして、どうやら到着した暁には、補給拠点の誰かが、ランの書類をいつも以上に細かく調べることになるらしい。


俺は飲み物を一口すすった。


「……追加報告書の写しを求められたら、ランに話してもらおう」


スペースエルフの彼女は、即座に答えた。


「最初からそのつもりよ」


「よかった。俺はせめて、この契約の報酬を受け取れる日まで生き延びたいんだ」


どうやら、まだ開いたままだった通信から、再びレアの笑い声が聞こえてきた。


◇◆◇


【次話予告・第172話】


「食卓に座る戦姫」


貨物の点検が終わり、セラフィナは再びASTRAEONの乗員たちと合流する。


今回の目的は、戦闘や安全規則について話し合うことではない。


ただ、日常の会話を楽しむためだ。


もっとも、その会話の行方は、戦術報告書よりもはるかに予測が難しいのだが。


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