↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ASTRAEON VELORIA――銀河を旅する自由傭兵――  作者: Ren Hazumi


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

170/183

【第169話】「航路へ戻る」

【第169話】「航路へ戻る」


場所: ASTRAEON VELORIA — 指揮デッキ → メイン格納庫 → モバイルフレーム区画 → 管理室 → タラリス外縁通過回廊

視点: ヴェスペラ・ノクス・オーレル → カリスタ・フェロ → 星崎紬 → モード・ラン・ヴァレス


視点:ヴェスペラ・ノクス・オーレル


私はメインディスプレイから、以前の出航経路を削除した。


目的地が変わったからではない。


タラリス国境兵站補給拠点は、今も契約C-145-MCに定められた引き渡し地点である。積載している七つの貨物群についても、配送先と輸送条件に変更はない。


問題は、現在位置から承認済みの輸送回廊までの宙域を、もはや通常の通過経路として扱えなくなっていることだった。


数時間前、この場所ではアルケイオンの軍事戦力とASTRAEAの護衛艦隊、そして最終的にはASTRAEON VELORIAを巻き込んだ戦闘が発生している。


敵の接触反応の一部は撤退した。しかし、残る接触反応については、今こちらを撃っていないというだけで無害だと判断することはできない。


残骸もある。


まだ安定していない可能性のある物体も存在する。


そして今、私たちには全長1,240メートルの艦を運ぶという、新たな責任も加わっている。


ただし、それは本来の積荷を無視してよい理由にはならない。


私は戦術マップを拡大した。


「セラフィエル、離脱方向の最新のパッシブ観測結果を表示してください」


「分かりました」


作成済みの経路上に、複数のマーカーが現れた。


私はそれぞれを確認してから、航法に関係のないものを非表示にした。


「この宙域から遠ざかっているアルケイオンの接触反応は?」


「ASTRAEONへ戻るような方向転換は、まだ確認されていません。ただし、監視は継続しています」


「それを保証だとは考えないでください。戦闘宙域を完全に離れるまで、観測結果を更新し続けてほしいのです」


「了解しました」


私は三つの代替経路を比較した。


第一の経路は、残骸の分布域に近すぎる。計算上は通過可能だったが、小型の物体を発見するのが遅れた場合に備え、かなり大きな修正機動を想定しなければならない点が気に入らなかった。


第二の経路なら、アルケイオンの接触反応が最後に確認された宙域から、より十分な距離を取れる。しかし、その分だけ輸送回廊から大きく逸脱してしまう。


第三の経路は、第一案ほど短くないものの、不必要な迂回を増やすことなく、ASTRAEONを承認済みの航路へ復帰させられる。


私は第三案を残した。


「セラフィエル、ASTRAEAを収容したあとの機動制限はどうなっていますか?」


「格納庫の保全システムは輸送用の構成に移行しています。ただし、出航制限を解除するには、カリスタの最終確認が必要です」


「私が聞いているのは、ASTRAEONがあの積荷を載せて動けるかどうかではありません。今回の出航に対して、実際に承認された制限値です」


「分かっています。艦の最大性能ではなく、技術点検の結果に従って設定します」


「それなら結構です」


私は表示上の航跡を少し移動させた。


ASTRAEONは、通常の輸送艦に求められる水準をはるかに超える能力を持っている。


だからといって、損傷艦を格納庫に収容した状態で、追加の荷重をまったく考慮せずに機動してよいわけではない。


まして、ASTRAEAは単なる無生物の貨物ではなかった。


あの艦には、引き続き安全を確保しなければならない部分があり、保存すべき記録があり、生存者たちの私物も残されている。


私は次の報告書を開いた。


輸送回廊への復帰準備


| 確認項目 | 状況 |

| -------------- | ----------------- |

| C-145-MCの配送先 | 変更なし |

| 戦闘宙域からの離脱経路 | 安全性を考慮した代替案を最終調整中 |

| アルケイオンの接触反応の監視 | 継続中 |

| 格納庫内積荷に伴う機動制限 | カリスタの最終確認待ち |

| 航路逸脱の必要性 | 契約更新報告用に記録 |

| FTL起動 | 未承認 |


経路の終端を拡大していたところで、紬から指揮デッキへ通信が入った。


『ヴェスペラ、航行再開の準備はどうなってる?』


「主回廊へ戻る経路は確保できました。ただし、格納庫からの報告を待っているため、まだ最終的な出航経路としては承認していません」


『分かった。セラフィエルにも最新状況を聞いておく。急がなくていいからな』


「そのことを、わざわざ私に言う必要はありませんよ」


『分かってるよ。でも聞かなかったら、今度は艦長がのんびりしすぎだって言うだろ?』


「そんなこと、一度も言っていません」


『直接は、な』


私は微笑んだ。


「それなら指揮デッキへ来てください。この経路を選んだ理由を、あなたにも確認してほしいので」


『了解。すぐ行くよ』


通信が終わった。


私は、残骸の広がる宙域から離れるように弧を描き、やがて輸送航路へ戻っていく一本の線を見つめた。


目立つ機動はない。


ASTRAEONがどれほど速く飛べるのかを、証明する必要もない。


先ほどまでの混乱を思えば、何の予想外の出来事も起こらない出航こそ、私が望める最良の結果だった。


### 視点:カリスタ・フェロ


「その支持具は、まだ動かすな!」


二機の整備ドローンが、即座に動作を停止した。


あたしはASTRAEAの下面フレームの映像を拡大した。


「左側はそれでいい。右側は荷重分布の測定結果が出るまで待機だ。両方同時に動かしたら、比較に使うデータが取れなくなるだろ」


『指示を受領。右側支持具の位置を維持します』


「よし。もう一度測定しろ」


あたしはASTRAEONのメイン格納庫に設けられた点検プラットフォームの一つに立ち、数時間前まで戦闘宙域の真ん中にいた帝国皇室専用ヨットを見上げていた。


ASTRAEA OF THE SILVER LANTERN。


全長1,240メートル。


間近で見る損傷は、センサー映像で確認したときより、ずっと痛々しい。


船体の各所には被弾の痕が残っている。複数の区画では防護カバーが変形していた。主エンジン二基は依然として使用できず、内部電力網についても、通常運用には適さない損傷システムとして取り扱う必要がある。


それでも、少なくとも今はもう、ASTRAEONの外に漂っているわけじゃない。


生存者と関係区画の点検について、必要な完了承認が得られたあと、あたしは限定的な曳航計画を承認した。


曳航用の接続箇所を一つずつ確認し、ドローンと格納庫の移送システムを使って、ASTRAEAの主推進システムを起動させることなく内部へ運び込んだ。


速くはなかった。


見栄えのいい作業でもなかった。


誰かを感心させるためだけに、もう一度やりたいと思えるような仕事でもない。


ただ、結果には満足している。


ASTRAEAは今、船体の状態に合わせて調整された保持システムに支えられ、メイン格納庫の中に収まっていた。


あたしは最新の測定値を確認した。


ASTRAEA — 収容状況


| 確認項目 | 結果 |

| --------------- | ---------------------- |

| 所在地 | ASTRAEON VELORIAメイン格納庫 |

| 外部宙域からの移送 | 完了 |

| ASTRAEA主エンジンの起動 | 禁止 |

| 支持装置および輸送用固定具 | 設置済み |

| 損傷した電力網 | 必要に応じて隔離済み |

| 初期安全点検 | 保管に必要な範囲で完了 |

| 全面的な修理 | 未着手 |

| 自力運用の可否 | 未承認 |


あたしは最後の項目を指で叩いた。


「いいか。『格納庫へ収容済み』を『もう使えるようになった』と読み間違える奴が出ないようにしろよ。この二つは全然違うんだからな」


『当該注意事項は、すべての技術記録に維持します』とシステムが答えた。


「よし」


背後から声が聞こえた。


「また自分の報告書にお説教してるの?」


振り向くと、ヴァルキリーの装備点検を終えたレアが歩いてきたところだった。


「あたしの報告書を、あとで読み間違えるかもしれない連中に説教してるんだよ」


「なるほど。予防措置ってわけだね」


「そのとおり!」


レアはあたしの隣で足を止め、ASTRAEAを見上げた。


狐耳がぴくりと動く。


「こうして見ると、損傷がずいぶんひどいね」


「実際、ひどいからな」


「でも、安全に運び込めた」


「まだ第一歩だよ」


あたしは、今も立入禁止の表示が付けられている船体部分を指さした。


「詳しい点検のためであっても、まだ開けちゃいけない区画がある。構造接合部にも追加測定が必要だし、周辺の危険をすべて把握するまでは、主エンジン二基には触りたくない」


レアが頷いた。


「急げなんて言わないよ」


「よし。あとで紬が、この艦はもう飛べるのかなんて聞き始めたら、その言葉を思い出させてもらおう」


「紬はむしろ、カリスタが無理に作業を急がされないようにしてくれって、私に言ってたよ」


あたしは黙った。


「……お?」


レアが微笑んだ。


「怒る口実がなくなって、がっかりした?」


「少しな」


彼女が笑った。


あたしは固定装置のデータへ視線を戻した。


「そういえば、ヴァルキリーはどうなった?」


「もうモバイルフレーム格納庫に戻してあるよ。作戦後の点検も終わったし、装備もちゃんと安全に保管した」


「よし。お前自身は?」


「もう一度医療室へ行かなきゃいけないような問題はないよ。セラフィエルに指定された検査も済ませたし」


「あたしは、お前がまだ戦えるかどうかを聞いてるんじゃない。ちゃんと元気かって聞いてるんだよ」


レアは少しの間、あたしを見つめた。


それから、その笑顔が柔らかくなった。


「大丈夫だよ、カリスタ。ありがとう」


「だったら、右側の測定値を一緒に見てくれ。修理を手伝わせるわけじゃないぞ。最後に固定したときから変化がないか、確認するだけだ」


「了解!」


彼女が端末へ近づいてきた。


少し離れたところでは、MCV-01 Vector Caliperが自身の格納庫へ戻ったあと、その整備区画の扉が閉鎖されていた。


Vector CaliperのAIは、今回の作戦中に保全したすべての物品について、初期インベントリをすでに提出している。


機体、宇宙機、構成部品、その他の資材は、確認可能な出所、物理的な状態、安全点検の状況に基づいて記録されていた。


ただし、あたしはまだ、それら全部を分解する権利を得ていない。


それに、面白そうな部品を一つでもこっそり作業場へ持ち込もうと誰かが考えるより先に、ランがインベントリへ事務上の制限表示を付けていた。


あの女、本当に技術者の楽しみを台無しにする方法を心得てるよ。


……まあ、今回に限っては、彼女の言い分が十分に筋の通ったものだってことも認めるけどな。


「Vector Caliperから追加の測定結果は届いた?」とレアが尋ねた。


「届いたよ。安全性と所有権の問題が片づいたあとなら、さらに調べる価値がありそうな部品についても、AIがいくつか記録してる」


「なんだか嬉しそうだね」


「当たり前だろ! まだ直接調べたことのない機体や部品があるんだぞ。システムのいくつかが無事なら、少なくともどんな構造で作られてるのかくらいは知りたいじゃないか」


あたしはすぐに指を一本立てた。


「ただし、あとでだ。先にASTRAEA!」


「私、まだ何も言ってないけど」


「自分に言い聞かせてるんだよ」


レアがまた笑った。


ようやく端末から確認音が鳴った。


右側の支持具の測定値が安定したのだ。


あたしは以前の点検結果と照合してから、セラフィエルへ報告書を送信した。


「ASTRAEAの輸送用固定を承認する。出航を延期する必要があるような荷重変化は確認されなかった。送っておいた機動制限は、そのまま維持してくれ」


『報告を受領しました、カリスタ』


「それから、乗客用の端末からASTRAEAの推進システムを起動できるようなことは、絶対にするなよ」


『そのようなアクセス経路は付与していません』


「分かってる。もう一度聞いておきたかっただけだ」


レアがあたしの肩をぽんと叩いた。


「これで少し休めるね」


「少しだけな。あと一件、報告書を終わらせたら」


「それ、もう三回言ってるよ?」


「三件目の報告書は、前の二件とは違うんだ」


「はいはい、そうだね」


あたしは、その言葉には反応しないことにした。


点検区域を離れる前に、あたしはC-145-MCの七つの貨物群の状態を開いた。


貨物監視システムによる封印検査は完了しており、戦闘後の記録との照合も済ませてある。


ASTRAEAへの対応のために開封された契約コンテナは、一つもない。


皇室専用ヨットの収容場所を確保するために移動された契約貨物もなかった。


貨物の取り扱い記録では説明できない重量変化も、確認されていない。


以前に重量の訂正と正式な封印記録の更新が行われたコンテナTL-CN-017-04についても、現在有効なマニフェストとの一致が維持されていた。


あたしは概要を転送した。


C-145-MC — 事件後の技術確認


貨物群: 7/7 確認済み 固定状態: 正常 封印: 破損・違反は確認されず 戦闘による損傷: 契約貨物には確認されず ASTRAEA救助への転用: なし 輸送再開の可否: 貨物の技術的観点から承認


あたしは結果を見つめた。


「よし。少なくともこっちは、修理の仕事を増やしてくれなかったな」


レアが画面を覗いた。


「ランが喜びそう」


「あいつは、Vector Caliperの回収物一覧も空欄なしで送ってやったら、もっと喜ぶだろうけどな」


「まだ終わってないの?」


「まだだ。そもそも、身元が確定してない物品もあるんだよ。形が何かに似てるってだけで、出所や技術の種類を書き込むつもりはない」


「それは正しいと思う」


「正しいんだよ。残念なことに、好奇心を満たすより、正しいことを確認するほうが時間がかかる場合は多いからな」


あたしたちは点検プラットフォームの出口へ向かって歩き始めた。


背後のASTRAEAは、静かにそこへ留まっている。


今のところ、あの艦に与えられる最良の状態は、それだった。


### 視点:星崎紬


俺が指揮デッキへ入ると、ヴェスペラはすでに三層に分かれた航法マップを用意していた。


セラフィエルは、いつもどおり実体のある身体でメイン端末のそばに立っている。


本人がこうして直接一緒にいられるのだから、わざわざ投影映像で姿を見せる必要もないわけだ。


「どうなってる?」と俺は艦長席へ近づきながら尋ねた。「ASTRAEON VELORIAの航行再開準備は?」


セラフィエルがすぐに最新の報告を開いた。


「主な準備は完了しています、紬。ASTRAEA OF THE SILVER LANTERNは、すでにメイン格納庫へ収容されています。カリスタが曳航用の接続箇所、関係区画の安全確保、および安全上の制限を承認したあと、移送を実施しました」


「じゃあ、本当にもう中に入ってるんだな?」


「はい。輸送用の固定も完了しており、カリスタから最終報告を受け取ったところです」


俺は安堵の息を吐いた。


「よかった……」


正直なところ、生存者たちだけを連れて、ASTRAEAを戦闘宙域に置き去りにするという選択は、あまり好きじゃなかった。


だからといって、技術部門の承認もないまま、全長一キロメートルを超える損傷艦を無理やり曳航するのも馬鹿げた判断だ。


幸い、カリスタは他人の希望を、自分の点検結果より優先したりはしない。


セラフィエルが続けた。


「MCV-01 Vector Caliperも格納庫へ帰還済みです。保全した物品はすべて、合意済みのインベントリ管理とアクセス制限の下に置かれています」


「レアはどうしてる?」


「すでにモバイルフレーム格納庫へ戻っています。ヴァルキリーの安全確保も完了し、現在は作戦後の点検を終えたあと、カリスタと一緒にいます」


「よし」


俺は席に座った。


「だったら、カリスタの最終点検が本当に終わるまでは出航しないようにしてくれ」


「その点検はすでに完了しています。彼女からは、指定した機動制限の範囲内で航行を再開するための技術承認が出ています」


セラフィエルが艦の状態表示を拡大した。


「それから、ASTRAEON VELORIAは通常航行用の構成へ復帰しました。Combat Mode中に展開していた主兵装はすべて格納され、外装カバーも再び閉鎖・固定されています」


俺はASTRAEONの外観投影図を見た。


全長8,600メートルの巨艦は、再び超豪華な私用宇宙船としてのシルエットを取り戻していた。


外部に露出した主砲の砲身はない。


外からたまたま観測している相手に対して、戦闘態勢を見せつけるような構成にもなっていない。


まるで、ここ数時間の出来事が、少し面倒な旅の一幕でしかなかったかのようだ。


もちろん、実際にはそんな単純な話じゃないことくらい、俺も分かっている。


「防御システムは?」と尋ねた。


「限定的な警戒状態を維持しています。NOCTIS VEILと脅威監視システムについては、航法上の必要に応じた設定を維持しています。航行中ずっとCombat Modeを全面的に有効化しておく必要はありません」


「途中で何かに攻撃された場合は?」


セラフィエルが表示を切り替えた。


「防御用ミサイルシステムは、確認済みの脅威に対する迎撃準備を整えられます。迅速な対応が必要な場合も含めてです。現れる脅威の一つひとつに対処するためだけに、主兵装を展開したり、Vector Caliperを格納庫から発進させたりする必要はありません」


俺は頷いた。


「つまり、Vector Caliperは中に置いたままで、初期防御はASTRAEON自身で対応できるわけだな」


「そのとおりです。ただし、目標の判定は引き続き武力行使規定に従う必要があります。接近する物体を検出したからといって、それだけで発射許可が出るわけではありません」


「もちろん。別の輸送船がちょっと近くを通っただけで、ASTRAEONがミサイルを撃ち始めるようなことは望んでないよ」


ヴェスペラが航法席から振り向いた。


「私も、民間船が安全距離を読み間違えただけで、新しい事件報告書を書く羽目になるのはごめんです」


「そこは意見が一致したな」


セラフィエルが構成の概要を表示した。


ASTRAEON VELORIA — 出航時の状態


| システム | 状況 |

| ----------------------------- | --------------- |

| 艦のモード | 通常航行 |

| 主兵装 | 格納・安全確保済み |

| 防御用ミサイルシステム | 条件付き待機 |

| MCV-01 Vector Caliper | 格納庫内に収容 |

| レア所有のヴァルキリー | モバイルフレーム格納庫内に収容 |

| ASTRAEA OF THE SILVER LANTERN | メイン格納庫内で安全確保済み |

| 脅威監視システム | 稼働中 |

| Combat Modeの全面起動 | 現時点では不要 |

| C-145-MCの貨物 | 無傷・固定済み |


俺はすべてに目を通した。


「全部の武器を展開したまま出航するより、ずっと気楽でいいな」


セラフィエルが微笑んだ。


「交通量の多い宙域へ戻った際、外部の人々が私たちの艦の構成を誤解する可能性も減らせます」


「よし。そのままにしてくれ。本物の脅威が現れたら俺に警告して、状況に応じた必要な防御対応を取ってほしい。俺たちに何ができるか見せつけるためだけに、艦の能力を全部引っ張り出す必要はないからな」


「了解しました、紬」


俺はヴェスペラを振り向いた。


「さて、次はそっちだ」


「ようやくですね」


彼女が航法マップを起動した。


「三つの代替案を用意しました」とヴェスペラが言った。


「どれを選んだ?」


「第三案です」


「理由は?」


「第一案は戦闘の残骸に近すぎます。第二案なら、アルケイオンの接触反応が最後に確認された位置から十分な距離を取れますが、航路逸脱が大きくなり、配送日程への影響も増えてしまいます。第三案であれば、先に危険な宙域を離脱してから、不必要な迂回をせず主回廊へ復帰できます」


彼女は経路の比較図を表示した。


第三案を示す線が、危険表示の残る宙域を避けているのが分かる。


「ASTRAEAへの影響は?」


「カリスタの機動制限を反映済みです。最新の観測結果どおりの宙域状況が維持される限り、この経路では急激な修正機動を必要としません。FTLの起動についても、航法部門と技術部門の承認を得た経路区間に到達するまでは行いません」


「新しいアルケイオンの接触反応が出たら?」


「次の宙域へ入る前に、再評価します。一度きれいに経路を描いたからという理由だけで、その計画に固執するつもりはありません」


俺は微笑んだ。


「聞きたかった答えだよ」


ヴェスペラは、現在位置とタラリス外縁通過回廊を結ぶ方向を表示した。


「それから、ASTRAEAの人員を迎えに来る地点は、固定目的地として設定していません。まだ場所が検証されていないためです。ヴェルドラコン帝国側から正式な詳細が提供され、ランが契約への影響を確認したあとで、合流の可能性を評価できます」


「よし」


俺は椅子の背もたれに身体を預けた。


「外部から連絡が入り始めたからって、今回の航行を国境観光ツアーに変えるつもりはないからな」


「何しろ、帝国皇女も乗せていますからね」とヴェスペラが付け加えた。


「そう、それだ。だからこそ、航路を変えるなら、その理由を全部きちんと書いておかないと」


セラフィエルが乗客に関する簡単な更新情報を開いた。


「乗客として配置済みの生存者には、全員、資格に応じたアクセス権が付与されています。引き続き医療監視が必要な患者は、エウフォリアに留まっています。セラフィナとミレルも、それぞれの客室へ案内済みです」


「問題は?」


「出航を延期する必要があるものはありません」


「さっきセラフィナ宛てに届いた暗号化メッセージは?」


「引き続き、多層的な認証検査を行っています。本文は開いていませんし、添付ファイルも中核ネットワークへ接続していません。安全な受信経路だと確認できたあと、本人へ知らせます」


俺は頷いた。


「分かった。送信者が宮廷を名乗ってるからって、前にあった緊急通信インターフェースへの侵入疑惑を、急に忘れたりしないようにな」


「忘れていませんよ」


「分かってる」


俺は格納庫への通信を開いた。


「カリスタ、聞こえるか?」


『聞こえてるよ。何だ、紬?』


「報告書は受け取った。直接確認したかっただけなんだが、ASTRAEAは、お前が許可した構成のままなら、安全に一緒に運んでいけるんだな?」


『ああ。測定結果に従って支持具と輸送用固定装置を取り付けてある。ただし、出航を承認したからって、好き勝手に機動していいという意味じゃないからな』


「ヴェスペラがお前の制限を経路に反映してるよ」


『それならいい。あと、ASTRAEAのエンジンは起動するなよ』


「そもそも俺、起動方法だって知らないんだけど」


『艦長の返答としては、あんまり安心できないね』


彼女の背後から、レアの笑い声が聞こえた。


『カリスタ、紬は別に、あなたの仕事を横取りしようとしてるわけじゃないって』


『分かってるよ。でも、あとで言うより今言っといたほうがいいんだ』


俺は苦笑しながら首を振った。


「契約貨物のほうは?」


『七つの貨物群は、全部そのまま固定されてる。封印の破損も、戦闘による損傷もない。ASTRAEAのために契約貨物を使ったことも一度もないよ。報告書はランに送ってある』


「素晴らしい」


『何だ? 驚いてるみたいな声だな』


「驚いたんじゃない。安心したんだ。そこは違うぞ」


『だったら、あんまり長く邪魔しないでくれ。Vector Caliperが運び込んだ物品の技術記録も、まだまとめたいんだよ』


「ランの許可なしに、証拠品を分解するなよ」


一瞬の沈黙。


『……分かってる』


「念のため言っただけだ」


『お前、だんだんランみたいなこと言うようになってきたな』


「恐ろしい成長だな。それじゃ、またあとで」


カリスタが言い返す前に、俺は通信を切った。


ヴェスペラがこちらを見た。


「わざとからかいましたね?」


「少しだけな」


セラフィエルが微笑んでいる。


俺は最後の報告書へ目を向けた。


貨物は無事。


生存者は必要な処置を受けている。


ASTRAEAも、もう外に置き去りにはなっていない。


レアもVector Caliperも帰還済み。


そして、ASTRAEON自身も通常航行の構成へ戻った。


ASTRAEAからの救難信号を受信して以来、ようやくすべての主な準備について、十分に明確な答えが揃った気がする。


俺は姿勢を正した。


「セラフィエル、艦長の承認を記録してくれ。ヴェスペラ、第三案を採用する。C-145-MCの輸送を再開しよう」


「了解しました」


二人の返事が、ほぼ同時に重なった。


俺は艦の前方に広がる宙域の投影図を見つめた。


「ASTRAEON VELORIA、出航準備」


### 視点:モード・ラン・ヴァレス


指揮デッキから出航承認が届いたとき、私は技術報告書と契約書類の照合作業を進めているところだった。


この二つの内容に、食い違いがあってはならない。


紬の口頭説明がどれほど説得力を持っていようと、今後、配送遅延が問題になった場合、依頼主が必要とするのは検証可能なデータなのだから。


私はC-145-MCのファイルを開いた。


依頼主: タラリス戦略兵站局 目的地: タラリス国境兵站補給拠点 契約総額: 8,400,000 GC 支払い状況: 未払い。契約条件の履行および最終引き渡し待ち。


すべて変更なし。


先ほどの戦闘によって、七つの貨物群が私たちの自由に使える物品へ変わったわけではない。


帝国皇女を救助したからといって、輸送義務が自動的に免除されたわけでもなかった。


幸いなことに、カリスタは非常に明確な点検結果を提出してくれていた。


私はタラリス宛ての更新報告を作成した。


事件の全容に関する報告書ではない。


少なくとも、まだその段階ではなかった。


保全しなければならない証拠もある。第三者の機密情報も含まれている。通常の物流連絡に混ぜるには適切でない、調査上の記録も存在した。


ただし、遅延の理由、貨物の状態、そして出航状況については伝える必要がある。


私はメッセージをもう一度確認した。


運用状況更新 — 契約C-145-MC


送信元: ASTRAEON VELORIA 宛先: タラリス戦略兵站局 件名: 武力衝突事件後の輸送継続について


* 輸送契約は引き続き有効であり、配送先はタラリス国境兵站補給拠点から変更されていません。


* 遅延は、ASTRAEONが武力攻撃事件および緊急救助作戦に関与したことによるものです。


* 七つの貨物群すべての点検を実施済みであり、固定状態および封印は記録と一致しています。


* 契約貨物について、戦闘に起因する損傷は確認されていません。


* ASTRAEONは、航行再開に必要な技術承認を取得済みです。


* 到着予定時刻は、承認済みの離脱経路に基づいて更新しています。ただし、宙域の安全状況が変化した場合、さらに変更される可能性があります。


* 事件に関連する証拠は保全しており、適切な正式手続きを通じて提供する予定です。


私は、ヴェスペラが算出した到着予定時刻を該当するシステム項目へ追加した。


その数値が保証ではなく、あくまでも推定値として明示されていることも確認する。


すべてが正しいことを確かめてから、契約用チャンネルを通じてメッセージを送信した。


「セラフィエル、更新報告を送信したわ」


『確認しました。返信を監視しておきます』


「セラフィナ宛ての帝国関係の通信とは、混同しないようにお願いね」


『両者は別々のチャンネルと制限の下で管理されています』


「よし」


私はVector Caliperのインベントリファイルへ移った。


その一覧は、飲み物をもう一杯用意するべきか考えたくなるほど長かった。


保全された機体や資材には、すでに保管場所の識別表示が付けられている。ただし、所有権の出所を証明できるものばかりではない。


私は事務上の区分を作成した。


所有者が確認されたASTRAEAの物品。


アルケイオンの戦力に関係する資材。


出所の追加確認を必要とするその他の回収物。


証拠品として保全しなければならない物品。


カリスタが今すぐ分解したがっている面白そうなもの、という分類は存在しない。


あの人なら、きっと喜ぶと思うけれど。


私は制限表示の設定を終えようとしていたところで、乗客関係の通知を受信した。


セラフィナから、乗客用の観察区域の一つで出航を見守ってもよいかという確認の申請だった。


単純な要請だ。


アクセス権にも問題はない。


私は承認し、場所の案内を送信した。


乗客用の観察区域は、指揮施設への直接のアクセスを許可しない場所に設けられている。


本来、施設を確認するためだけに、私が直接足を運ぶ必要はない。


ただ、セラフィナへ渡すべき短い文書が一つあったため、届けることにした。


到着すると、彼女はミレルと一緒に観察パネルの近くに立っていた。


外では、いくつかの光点が、ASTRAEONに対して周辺宙域がゆっくり相対移動し始めたことを示していた。


「殿下」


セラフィナが振り向いた。


「ヴァレスさん」


「承認済みの乗客資格と、今後の航行に関する取り決めをまとめた概要の写しです」


「ありがとうございます」


彼女は文書を受け取った。


私は、彼女の前にある観察用端末が、一般的な航行情報のみを表示していることを確認した。詳細な航法マップや、乗客には不要な運用データは開示されていない。


セラフィナは私の視線の先に気づいた。


「こちらへ来る前に、システムへ許可を求めました」


「申請は正しく行われています。問題ありません」


「よかった。乗客になった初日から、あなたに違反報告書を作らせたくはありませんから」


「私も、そのような報告書を必要としない日を好みます」


彼女が小さく笑った。


そこでミレルが言った。


「殿下は、ASTRAEONが動き始めるところをご覧になりたいそうです」


私は観察パネルへ目を向けた。


「ヴェスペラが選定した航跡を使って、危険な宙域から離脱する予定です。ここから見ても、あまり劇的な出航にはならないかもしれませんが」


「それで構いません」


セラフィナがかすかに微笑んだ。


「先ほどのことを思えば、むしろ何も劇的な出来事が起こらないことを願っています」


その意味は、私にも理解できた。


ほどなくして、ASTRAEONが動き始めた。


初期加速は承認済みの制限に従って調整されている。


観察区域の内部で、揺れを感じることはなかった。位置の変化は、星々の景色が移り変わっていく様子や、乗客用端末の方位表示からのほうが分かりやすいほどだ。


セラフィナは外を見つめた。


「ASTRAEAも、本当に今は私たちと一緒にいるのですね?」


「はい。あなたの艦はすでに格納庫内で安全に固定されています。カリスタも、今回の出航に対して、輸送用構成が適切であると判断しています」


ミレルが安堵の息を吐いた。


「本当によかった……」


セラフィナはすぐには答えなかった。


しばらくして、静かに口を開いた。


「父と祖父が、あの艦を私に贈ってくれたのです。艦は修理することも、代わりを用意することもできると分かっています。でも……」


彼女は言葉を止めた。


私は、その続きを代わりに口にしようとはしなかった。


「その価値は、製造にかかった金額だけで決まるものではないのでしょうね、殿下」


セラフィナがこちらを向いた。


「ありがとう」


「ただ、誤解を避けるために、収容が完了したことと全面的な修理が終わったことは、まだ同じではないとお伝えしておきます」


彼女が微笑んだ。


「本当に細かいところまで正確なのですね、ヴァレスさん」


「それが私の仕事ですから」


「少しずつ慣れてきました」


私たちは再び、外の景色へ視線を向けた。


しばらくして、セラフィナが尋ねた。


「星崎艦長や、ほかの皆さんは、このあとお休みになるのですか?」


「それぞれの仕事に合わせて、交代で休息を取ります」


「私たちの救助に成功したあと、何か特別な催しはないのでしょうか?」


私は少し眉を上げた。


「特別な催し、ですか?」


「作戦の成功を祝う会ですとか。あるいは、乗員全員で集まるだけでも」


私は艦内の状況を思い浮かべた。


カリスタは、まだ技術記録をまとめている。


レアは、つい先ほど戦闘装備の点検を終えたばかりだ。


ヴェスペラには、この艦を危険宙域の外まで導く仕事がある。


セラフィエルも、生存者の安全と艦内システムの監視を続けている。


紬は出航を指揮しているところだ。


そして私自身も、契約更新報告を送信し終えたばかりで、確認すべき長いインベントリがまだ残っている。


「今のところ、そのような予定はありません」


セラフィナは意外そうだった。


「これほど多くの人を救助できたのに?」


「生存者の皆さんを危険から連れ出せたことは、私たちも嬉しく思っています。ただ、まだすべてが終わったわけではありません。引き続き処置を必要とする方もいますし、ASTRAEAも詳しい点検が必要です。それに、輸送義務もまだ完了していませんから」


私は小さく微笑んだ。


「次の仕事が待っているのに、途中の成功を祝うたびに手を止めていたら、残りは誰が片づけるのかと、紬が尋ねるかもしれませんね」


ミレルが小さく笑った。


「この艦での皆さんの日常が、少し分かってきた気がします」


セラフィナは外を見つめた。


「私もです」


それからしばらく、彼女は何も言わなかった。


ただ、その表情に変化が現れていることは分かった。


ASTRAEONの能力に対する、過度な感嘆ではない。


もっと単純なことへ、注意を向け始めているようだった。


戦闘が終わったあとも、六人がそれぞれの仕事を続けている。


その姿に。


### 視点:星崎紬


「初期離脱経路、安全を確認しました」とヴェスペラが報告した。


俺は航法マップへ目を向けた。


ASTRAEONは、彼女が承認した航跡に従って、残骸の分布域から離れていく。


主兵装はすべて格納されたままだ。


Vector Caliperも格納庫内にいる。


まだ警戒が必要な宙域を通過しているからといって、わざわざ再び発進させる理由はない。


「脅威の観測状況は?」と俺は尋ねた。


セラフィエルが答えた。


「現在の航跡へ直接接近する動きを示す、新たな接触反応はありません。監視は継続中です」


「防御用ミサイルは?」


「あなたが承認した構成に従って待機中です。迎撃条件を満たす目標はありません」


「よし。そのままで」


俺は再び艦の状態表示を見つめた。


正直、Combat ModeのあとでASTRAEONがいつもの外観へ戻っているのを見ると、少し妙な感じがする。


同じ艦だ。


性能だって変わっていない。


でも、今回の目的は軍事艦隊と対峙することじゃない。


俺たちはただ輸送航路へ戻り、預かった貨物を届け、救助した人々を安全な場所へ送り届けたいだけだ。


俺は、そういう仕事のほうがずっと好きだった。


セラフィエルが近づいてきた。


「紬、ランから更新報告を受け取りました。契約に関する通知は、すでに送信済みです」


「返事は?」


「まだです」


「分かった」


ヴェスペラが次の宙域を拡大した。


「まもなく、次の遷移を検討できる経路区間へ到達します。ただし、FTLの起動可否を判断する前に、最後の観測を一度行いたいと思います」


「頼む」


俺は肩を伸ばした。


「次の旅では、貴族の艦だの帝国皇女だのが襲撃されるような事件や、ランが新しい書類の分類を作らなきゃいけないような出来事が起こらないといいんだけどな」


セラフィエルが微笑んだ。


「それは、お約束できることではありませんね」


「少しくらい、約束するふりをしてくれてもいいだろ?」


「次の旅が順調に進むことを願っていますよ、紬」


「うん。それでいい」


ヴェスペラが小さく笑った。


しかし、その会話からさほど経たないうちに、セラフィエルが通信端末へ注意を向けた。


「紬、タラリス戦略兵站局からの返信を受信しました」


俺は姿勢を正した。


「早いな。何て書いてある?」


セラフィエルは、契約用チャンネルの検査を通過したメッセージを表示した。


タラリス戦略兵站局 C-145-MC運用状況更新への回答


武力衝突事件に関する通知、および到着予定時刻の変更を受領しました。


契約C-145-MCは、引き続き有効です。


ASTRAEON VELORIAは、承認済みの輸送回廊を通じ、タラリス国境兵站補給拠点への輸送を継続してください。安全状況によって今後さらに変更が生じた場合は、定期的な航行状況の更新を求めます。


また、依頼主は、攻撃事件に関連する記録および証拠を、今後の正式な手続きによる調査に備えて保全するよう要請します。


俺は読み終えてから、セラフィエルへ顔を向けた。


「つまり、契約を取り消すつもりはないんだな?」


「はい」


「アルケイオンを追いかけろとも言ってない?」


「言っていません」


「それから、ASTRAEONの機密記録を全部まとめて送れ、なんて要求も?」


「ありません。今後の検証手続きに備え、証拠を保全するよう求めています」


俺は満足して頷いた。


「よし。それなら対応できる」


すぐにランが内部通信へ加わった。


『こちらでも返信を受け取ったわ。紬、証拠については情報源、アクセスレベル、データの所有者を区別して記録するつもりよ。ASTRAEAの所有する情報や艦の機密データは、適切な権限確認を行わずに提出することはしないわ』


「賛成だ」


『定期的な輸送状況の報告も継続するわ』


「ありがとう、ラン」


『それから、もう一つ』


俺は少しだけ目を閉じた。


「……何だ?」


『乗客の客室割り当てに関する書類で、まだ何件か、あなたの承認が必要なの』


「……さっきので終わったと思ってたんだけど」


『さっきのは包括的な承認。こっちは初期配置後の事務上の詳細よ』


俺はセラフィエルを見た。


微笑んでいる。


ヴェスペラは、航法マップの確認で忙しくて仕方がない、という顔をしていた。


俺はため息を吐いた。


「分かったよ。送ってくれ。あとで読むから」


『開いただけで、読んだつもりにならないでね』


「ラン、俺への信頼が胸に染みるよ」


『信頼しているわ。だからこそ、念のために言っているの』


通信が終わった。


俺は艦長席の背もたれに身体を預けた。


「……少なくとも、いつもの仕事には戻れたみたいだな」


セラフィエルがこちらを見た。


「そうですね」


そこで、ヴェスペラが次の報告を行った。


「離脱航跡を確認しました。現段階では、追加の修正機動は必要ありません。ASTRAEONは、承認済みの輸送回廊へ向けて航行を継続できます」


俺はメインスクリーンに広がる星々を見つめた。


「だったら、続けてくれ」


「了解しました、紬」


ASTRAEON VELORIAは、戦闘宙域から離れるように航行を続けた。


その格納庫内では、ASTRAEA OF THE SILVER LANTERNが、ようやく安全な保管場所を得ていた。復旧に向けた長い仕事は、まだ始まっていないけれど。


Vector Caliperも、今後点検しなければならない回収物とともに帰還している。


レアとカリスタには、それぞれの仕事がある。


生存者たちは、食事と医療処置、そして休息するための部屋を与えられた。


セラフィナも、観察室から自分の艦の残骸を見つめ、俺たちがASTRAEAを置き去りにするのではないかと考え続ける必要は、もうなくなった。


そして、C-145-MCの七つの貨物群も、すべて無傷のままだ。


俺たちがその宙域を離れたとき、勝利の歓声が上がることはなかった。


あったのは航法報告と、システムの確認音、乗員同士の会話、そして一つずつ完了の印が付けられていく仕事だけだった。


俺は、そういう状況が好きだ。


「セラフィエル」


「はい、紬?」


「本当に安全な航路へ戻れたら、食事を取るように声をかけてくれ」


「もちろんです。朝食の候補も、すでに準備してありますよ」


「助かる」


「今日は、有機農園で収穫した食材を使ったメニューになさいますか?」


「それでいいよ。食べるために追加の書類へ署名する必要さえなければな」


ヴェスペラがまた笑った。


セラフィエルは穏やかに微笑んだ。


「あなたの朝食については、必要ありませんよ、紬」


「……よかった」


外では、ASTRAEONの航跡が、ゆっくりと本来進むはずだった経路へ戻っていく。


目的地は、今も変わっていない。


ただ、この旅は、俺が最初に想像していたよりも、少しばかり賑やかになったらしい。


【次話予告・第170話】


「船内規則と皇女」


船内規則と皇女――セラフィナは、ASTRAEON VELORIAの乗客としての生活に少しずつ慣れ始める。普通とは異なる艦内施設、アクセス規則、そして六人の乗員の日常的な習慣は、ASTRAEAでの暮らしとは大きく異なる経験を彼女にもたらす。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。